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最後の召喚  作者:
番外編
16/24

番外編その1 贈り物のゆくえ

番外編その1

ジュリ(翼)が異世界から戻ってきた直後のジュリ(翼)の世界でのお話です。



眼を開くと心配顔の兄が覗き込んでいた。

あたりを見回すと、どうやら私は保健室で寝ていたみたいだ。


「大地兄ちゃん?」

私の声が聞こえたからか、カーテンが開いて養護教諭の春江絵斗(はるええど)先生が顔をのぞかせた。

ちなみに春江絵斗先生は男だ。

先任の養護教諭だった人が産休に入るとかで6月の終わり頃に着任してきた。

変わった名前だからか直ぐに名前を覚えることが出来た。

うちの学校公立だけど、商業科と普通科があるから教師の数も多い。

担当じゃない先生の名前は覚えきれないんだよね。

春江先生は年若い男性教諭ということもあり恋人募集中の女性教諭や女生徒たちから黄色い声援を毎日受け流している。

まあ、私はあまり保健室には用がないので遠くで見かける程度だったけどね。

「目が覚めた?頭がフラフラするとか吐き気がするとかある?」

ゆっくりと起き上がる私の背に手を添えてくれる兄。

「いえ、特には……あの……」

状況が良くわからない私に春江先生が簡単に説明してくれた話によると、どうやら私は廊下で倒れていた所をたまたま通り掛かった生徒会の人に発見され保健室まで運ばれたという。

春江先生から家に連絡が入り、たまたま早く帰宅していた兄が慌てて駆け付けたという事らしい。

「だが転んだ拍子に頭を打っている可能性もあるから病院に寄ってから帰ってくださいね」

「そうだな、帰りに祖父さんの所寄っていくか」

「お祖父さん?」

「あ、俺らの母方の祖父が総合病院を経営しているんですよ。俺ら家族はその病院がかかりつけなので」

兄が事細かに春江先生に説明している傍らで私はベッド脇に置かれている鞄を持ち上げる。


カラーン


持ち上げた拍子に何かが落ちた。

3人の視線が落下物に集中した。

兄がしゃがんでそれを拾うと私の手の上に置いた。

「翼、これどうしたんだ?」

「記憶にない……」

手のひらに置かれた小さな花をあしらった髪留め。

私好みではあるが、私のモノではない。

所々キラキラと光る鉱物がついている。

これ……かなり高価な物なんじゃ……

春江先生が驚きの表情を一瞬浮かべたがいつものニコニコ笑顔に戻った。

「記憶にない?」

「うん。体育の時はヘアゴム使っているし……こんなきれいな髪留めは知らない。誰かのが紛れ込んだのかな?」

「いや、それは君のだと思うよ。堂元さん」

春江先生が髪留めを手に取りとある部分を指差した。

そこには何か彫られていた。

よーく目を凝らさないと読めないほどの小さな文字。

こんな小さな文字よく彫れたな……

それにしても、ちらっと見ただけでなぜわかったんだ?春江先生……

兄が私の手から髪留めを取り上げ、彫られた文字を読み上げた。


『わが友にして我らの光・ツバサへ』


「なんだこれ?」

「友達からのプレゼントじゃないかい?たしか、堂元さんの誕生日今月だったよね?」

首を傾げる兄と何かを知っているであろう春江先生。

「ああ、なるほど!そういえば明日は翼の誕生日だったな。じゃあ友達からのプレゼントか」

「いや、だから記憶に……」

「記憶混乱が起きているのかもしれないのでしっかり病院で検査してもらって下さいね」

全く記憶にない私に春江先生は有無を言わさぬ笑顔で告げると私と兄を保健室から追い出した。



兄は車で来ていたらしく、そのまま祖父の病院に連行されあちこち調べられた。


結果『特に異状なし』


明日は日曜日だし、念のために入院しろと祖父と伯父に無理やり病室に放り込まれた。

病室に放り込まれた後、伯母(伯父の奥さん)が苦笑しながら

「翼ちゃんがなかなか会いに来てくれないからって必要もないのに入院させて……せめて自宅の方に来させればいいものを……」

と入院理由の裏側を暴露して私の両親に祖父と伯父が怒られていた。


あ、そういえば私を保健室まで運んでくれたのって誰なんだろう。

春江先生に後で聞きに行かなきゃ!


検査疲れか、その日の夜はあっという間に睡魔に襲われた。

そして、私は夢を見た。


魔法が使える世界に何度も呼ばれ、『ジュリ』という名を名乗っていた。

『ジュリ』が命を懸けて自分を見下している逆ハーレム女の為に走り回っていた夢。

それなのに逆ハーレム女はくだらない理由で『ジュリ』の命を狙っていた。

逆ハーレム女の本命が『ジュリ』に好意を寄せていた。

たったそれだけの理由で『ジュリ』は逆ハーレム女の『(てした)』に命を狙われていた。

逆ハーレムの本命がそのことを知ったら『ジュリ』を殺そうとした相手を好きなることなんてありえないのに……

『ジュリ』はなぜそこまでして走り回ったのだろうか。

命を狙われてまでして……

ただ『元の世界に戻りたい』という気持ちだけだったのだろうか。


でも所詮夢は夢だ。

現実ではない。

ちょっと不思議な夢を見ているだけだ。

きっと、兄の彼女の七海ちゃんの影響だな。

『異世界スリップ』なんて、現実は起こらない。

日常の世界に疲れた脳が現実逃避したいだけなんだ。



休み明け、朝一で春江先生の所にお礼と病院での結果を報告するために向かった。

あと、私を保健室まで運んでくれた人の事を聞くために。

特に異状がないことを知ると春江先生は安堵した表情を浮かべた。

「それで、私を保健室まで運んでくれたのは誰ですか?お礼を言いたいのですが」

「ああ、春江有人(はるえあると)君ですよ」

「春江有人?」

「聞いたことありませんか?彼の名前を」

春江有人……たしか3年の先輩にいたような……

「おやおや、彼は人気者だと思っていましたが、知らない人もいるんですね」

クスリと笑う春江先生。

「生徒会の書記といえば分りますか?」

「ああ!会長や副会長よりも目立っている人!」

「まあ確かに目立っていますよね」

クスクスと笑いだす春江先生に首を傾げる。

生徒会の書記といえば、会長と副会長に負けず劣らずのイケメンで、剣道部の主将だ。

万年初戦敗退だった我が校の剣道部を1年の時に個人戦でインターハイに出場し準優勝したという偉業をなした人である。

確か昨年は個人で優勝、団体戦で3位だったはずだ。

会長と副会長もイケメンだがそれだけの人なので私の記憶には学校行事の時に舞台に上がる人という印象しかない。

一応彼らの名誉のために言うが、彼らもそれなりに優秀だ。

学年1、2位を入学当時から誰にも譲らない程度には……

「いえ、何でもありません。彼ならもうすぐここに来ますよ?」

「え?」

ポンポンと頭を撫でられたその時、ノックもなく保健室の扉が開いた。

絵斗兄(えどにい)!メシくれ!朝メシ!」

豪快に扉を開けて入ってきたのは先ほど名前が出た春江有人先輩だった。

「有人、朝一とはいえもう少し静かに入って来れないのですか」

ため息を継ぎながらも保健室に設置されている冷蔵庫から何かを取り出す春江先生。

「悪い……って他に人がいたのか」

私に気付いた春江先輩。

私は座っていた椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。

「あの、先日は保健室まで運んでくださったとか……ありがとうございます」

頭を上げると春江先輩は首を傾げている。

「ん?ここまで運んだ……あー!生徒会室の近くで倒れていた。ここにいるってことは具合でも悪いのか?」

心配そうに顔を覗き込んでくる春江先輩に私は慌てて両手を顔の前で振る。

「いえ、病院で検査をしてもらった結果、どこも異常はありませんでした」

「そっか、ならよかったな」

春江先輩の大きな手が私の頭をガシガシと撫でた。

うう、せっかく整えた髪の毛がぐしゃぐしゃだ。

「こら有人。堂元さんの髪型が崩れてしまったではないか」

やんわりと春江先輩の手をどかす春江先生。

「ああ、悪い」

「いえ、すぐに直せますから」

「おや、そういえばこの間の髪飾りを付けているのですね。それに前髪も上げているし、眼鏡もやめたんですね」

さっきまで話していたのに気付いていなかったのかな?

春江先生は髪飾りを見て嬉しそうに微笑んでいる。

ん?先生からの贈り物ってことはないよね?

だって先生と話すのは土曜日が初めてだったし……

「あ、はい。伯父に『廊下で倒れたのは前髪が邪魔で前が良く見えていないから転んだんじゃないか?昔から何もない所でよく転んだり、壁によくぶつかっていたかな。前髪を短くするか横か後ろに流すようにしなさい』と言われたので。眼鏡はレンズが割れちゃったし、伊達眼鏡だったからもう要らないなって思ったので。あと、この髪飾りは誰に貰ったのかまだ思い出せませんが、こうして付けていればくれた人が気づいてくれるかな?と思いまして……」

日曜日にイトコ(10歳年上の♂)にこの髪飾りが見つかって散々問い詰められたけど兄が髪飾りの内側に彫られたメッセージを見せて『翼への誕生日プレゼントだ。兄さんも、もちろん用意してあるよな?可愛い可愛い従妹への誕生日プ・レ・ゼ・ン・ト』といつもの5割増しの笑顔でイトコに詰め寄っていた。

髪飾りについていた鉱物は全部本物であることも伯母の調べで分かった。

伯母は若い頃宝石鑑定士をしていたらしい。

髪飾りに使われている鉱物は、クズ石とよばれている物で鉱物自体には全く価値がないらしい。

学生が気軽に身に付けても違和感がないものだと言ってくれたのでこうして付けてくることを決めたのだ。

「うーん。それに似た物をどこかで見たような……」

「これは『B.R.』というブランドのモノですよ。今、10代~20代の女の子に人気のブランドです」

首を捻っている春江先輩に先生がどこから取り出したのか、タブレットを私たちに見せながら説明してくれた。

タブレットの画面の中には私の髪飾りと似たような髪飾りの写真が数点アップされていた。

「堂元さんのその髪飾りもこの『B.R.』で購入した物でしょう」

「へえ~かなりデザインは凝っているのに安いんだな」

「だから、10代20代に人気なんだと思いますよ……って有人。のんびりしているけど朝練はいいのか?」

「げっ、やばい!じゃあ、俺は行くわ。えーっと」

春江先輩が私の方を見て戸惑っている。

「あ、2-Aの堂元翼です」

「翼……堂元翼ね。怪我とかなくてよかったよ。じゃあな」

春江先輩はポンポンと私の頭を叩いた後、勢いよく保健室を出て行った。

「やれやれ、落ち着きのない」

机の上の書類を整理しながら春江先生は苦笑している。

「あの、先輩と先生って……」

「ああ、親戚なんですよ。しかも家も近所なので兄弟のように育ったので有人は私の事『絵斗兄』と呼ぶんです。学校では『先生』と呼ぶように注意しているんですけどね」

ため息をつきながらもどこか嬉しそうな先生。

「あ、私もそろそろ教室に戻ります。本当にありがとうございました」

「いえいえ、大したことがなくて本当によかったですね。…………教室に戻る前に髪を整えていってくださいね」

あ、そういえばまだ整えてなかった。

「鏡ならそこにあるので自由に使っていいですよ」

「ありがとうございます」

お礼を言って洗面台に備えられている鏡を見ながら髪を整える。

ふと視線を感じて鏡越しに後ろの方を見ると春江先生が満面の笑みを浮かべて私を見ていた。

「春江先生?」

「ああ、ごめんなさい。その髪飾り、君に良く似合っているなと思ってね」

「そうですか?」

「ええ、君のその黒い髪にシルバーの髪飾りがとても映えて見えます」

「……ありがとうございます」

先生の言葉に思わず頬が熱くなった。




***

(春江絵斗視点)


神様によって記憶が封印されているらしいけど……

思い出さない方が彼女の為にはいいのかもしれないな。


それにしても、ヴィートが最後に贈ったあの髪飾り。

本当に彼女の黒髪に映えていましたね。

偶然にも似たような商品が出回っていて助かりました。

まさか『異世界』から持って帰ってきたものとは誰も信じないでしょうけど。


私が『エドガルド・エアハルト』としての記憶を鮮明に思い出したのがこの学校に赴任する前日だった。

小さい頃からファンタジー世界の夢はよく見ていた。

幼い頃は憧れたモノです。

魔法を使ったり、剣で悪者を退治したりというファンタジーの世界に。

あと生まれ変わりとか。


よく見ていた夢が『前世』の記憶だと気づいたのは偶然、彼女を見かけた時。

初めて会ったはずなのになぜか懐かしい。

遠くから見かけただけなのに、彼女の笑顔、声、仕草など事細かに思い浮かべることができる。

そして彼女の名前を知った時。

確信した。

私は彼女に会うためにここに来たことを。


小説や漫画などのようだと思う。

誰も信じないだろうけど。


きっとヴィート達もこちらの世界にたどり着いているはず。

双子の弟だったアルドが年下(まさか10歳も下)になっていたのには驚きましたけどね。

え?なぜアルドだってわかったかって?

うーん、元双子の神秘ということで……

生まれ変わってもアルドと血の繋がりがあるのは不思議な気分です。


ヴィートは……たぶん彼女の近くにいるんじゃないかな?

カルロもそう遠くない場所にいる気がする。

まあ、そんな気がするってだけだけどね。

それに、彼等は私のように『前世』の記憶は持っていないだろう。


この先、どんな物語(ストーリー)が待っているのか楽しみで仕方がない。

せっかく同じ世界に生まれたんだ。

今度こそ、幸せな彼女の笑顔を堪能させてほしいな。




今回登場の転生組

エドガルド・エアハルト → 春江絵斗(はるえ えど)

アルド・エアハルト → 春江有人(はるえ あると)


エドガルドの名前は本当に悩んだ。

エドガルドは最初『遥人』という名前だったんだよね~

だが、どうしても有人に『えどにぃ』と呼ばせたかった!

たったそれだけで絵斗となった(笑)

アルドはそのまま濁点を取り除いて『あると』


翼の兄の名前は大地(だいち)大学4年生

公私共に認めるシスコン・ブラコン。

活動報告(2015.3.7)に作者メモとして大まかな設定をアップしてあります。

場合によっては変わる可能性はありますが…σ(^_^;)

すでに翼の設定が変わっている(苦笑)


次は『北国』の現在のお話予定。

過去話を含めて書く予定。

番外編は基本、ジュリが中央国から元の世界に帰還した後のお話になります。

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