最終話.『神子』は二度と現れない~エドガルド視線~
ジュリ様を覆った眩い光が収まると、静寂が部屋を包み込む。
「本当にこれでよかったの?」
呆然と立ち尽くす幼馴染の肩を叩くと彼は一瞬だけ目を閉じた後、頷いた。
私はふと何かを感じ祭壇を振り返った。
「どうした?エド」
双子のアルドが首を傾げながら近づいてくる。
「……いや、なんでもないよ」
気のせいだろうか、神殿内に神気がこもり始めている。
神官の資格を有した時に話には聞いたことがあるが一度も体験したことがないから確かな事は言えない。
だが、神々しい気配がこの神殿を覆い始めている。
祭壇に近づき、祭壇の上に置いた花を触ろうとした時、大きな音と共に大勢の人たちがなだれ込んできた。
「何事ですか。ここは聖なる場所です」
振り向きながら注意をすると、中央国の神官長と各国の神子と王(+彼女に縁のある護衛騎士、魔導士等)が揃っていた。
しかし、私の注意も聞かず、神子たちは口々に私たちに向かって騒ぎ出した。
その口調はまるで私たちが罪を犯した者であるかのように……
私は誰にでも聞こえる様に大きくため息を吐いたあと、無表情の仮面をつけた。
ヴィート達は私の表情を見て顔を青くした後、数歩後ずさりした。
「静かになさい!」
私の一喝に神子たちはびくりと震えた後、黙った。
「先ほどからギャーギャーと……それでもあなた方は『神子』と呼ばれている人達なのですか!!『神子』なら父なる神を祀るこの場所で騒ぐなど言語道断だとわかっているはず。…………それからジュリ様は神様の元へ行かれました……いえ、神様に召されました」
彼女達が騒いでいるのはジュリ様の存在。
だが、彼女達は『友人』だからジュリ様の居場所を問いただしているのではない。
自分に都合よく動く『駒』としてしかジュリ様の事を見ていない。
ヴィートはジュリ様が西国に滞在している時にそのことに気付き何かと彼女を手助けしていた(そのおかげで私たちもジュリ様と親交を深めることができた)がそれを知っているのは私たち幼馴染だけだ。
「中央の神官長殿」
神子と王の後ろでにこやかに微笑んでいる神官長に視線を向ける。
「はい」
「神様が降臨されます」
先ほどから感じる神々しい気配。
これは『神様』がこの地に降りようとしている前触れだ。
私も初めて経験するが……全身がビリビリと電撃が走るような気配がどんどん強くなっていく。
「え?」
笑みをひっこめ、驚愕の表情を浮かべる神官長。
神官長の位に就いているのにこの神殿に満ち始めている神気に気付かないようだ。
所詮その程度ということだということが窺える。
さすが、神に見捨てられた国の神官長といったところか。
逆に中央国の王は神妙な表情で祭壇を見つめていた。
『さすが、西国の次期神官長とまで言われたエドガルド。よく気づいたね』
突然響いた声に私は自然と祭壇に向かって膝をつき、頭を垂れた。
私の行動を見たヴィート、カルロ、アルドも同じ姿勢を取る。
他の国の人たちがどうしたかは知らないけど、声の主は特に咎める様子がない。
『西の王ヴィート、その家臣カルロ、アルド、エドガルド、そして中央の王ダミアンよ、顔を上げなさい』
落ち着いた青年らしい声が神殿内に響き渡っている。
この部屋だけではなく、神殿全体にである。
今頃神殿のあちらこちらで騒ぎが起こっているだろう。
本当に神に仕える気がある者たちは気づいているはずだ。
今、何かが起きようとしていることに。
私たちが顔を上げると、祭壇に白髪、黄金の瞳を持つ青年が腰を掛けていた。
その手にはジュリ様のイメージで集めた花一輪を愛おしげに持っていた。
「な、祭壇から降りなさい!ここは……」
『ここは神の部屋。祭壇に腰掛けるなど言語道断……とでも言いたいのかな?中央の神官長』
青年の声に中央の神官長は反論しようとしてできなかった。
中央国の王が一歩前に出て深々と頭を下げたからだ。
「我が国の神官長の無礼、平にお許しを」
『ふ~ん、中央の王は私の事がわかるのか』
にやりと笑う青年に中央国の王は小さく頷く。
「神様……でいらっしゃいますね」
中央国の王の言葉に神子様方から驚きの声が上がった。
「え?うそ……」
「なんで?」
「声が……」
「全然違う!」
神子様方が何を持って違うというのかわからない。
神々しい神気を放つ青年に対してなぜ違うと言えるのだろうか。
『違う?当たり前だよ。君たちに声を掛けていたのは私のキョウダイだからね。まったく、勝手に人が管理している世界に手を出さないでほしいよ。おかげで余分なものまで移動する羽目になったんだから』
神様の声に神子様方は静かになった。
彼女達の中で『余分なもの』がジュリ様の事だと認識されたのが手に取る様に分かる。
『ねえ、今、君たち余分なものを【彼女】の事だと思ったでしょ』
にっこりほほ笑む神様に神子様方は顔を見合わせてから頷いた。
『全然違うよ』
「「「「「え?」」」」」
『私は【彼女】の希望通り元の世界に返しただけ』
「どうして!?」
「なんで私たちに断りもなく!?」
ギャーギャー騒ぐ神子達に神様から笑顔が消えた。
『断り?なんで君たちの許可が必要なの?』
「だって……」
『君たちが【神子】と呼ばれている存在だから?』
神様の言葉に神子たちは頷いた。
『あははは!…………ばっかじゃないの?』
口元と瞳を吊り上げ、神子達を見下ろす神様。
『君たちは【神子】じゃないよ。いつ、私が君たちを【神子】だと言った?君たちを【神子】に祭り上げたのは私の姿を見ることも声を聴くことも出来なかった各国の神官長たちだ』
神様の衝撃的な言葉に全員の視線が神様に集まった。
『私の神子はただ一人。黒い髪と黒い瞳を持ち、唯一、複数の世界を行き来できる魂を持つ者のみ。それは君たちじゃない。だって、君たちの髪の色は茶色や、赤茶色じゃないか。瞳の色も琥珀色や茶色。【神子】の条件に当てはまっていないもの。君たちは一度異世界に渡ったら二度と元の世界には帰れないただの小娘でしかない』
神様はふわりと宙に浮くと全員を見回した微笑んだ。
『私の神子を危険な魔獣討伐に無理やり参加させたり、選民意識の強い貴族達の世話を一人でさせたり、荒くれ者たちの相手をさせたり……さぞかし、高みの見物は楽しかっただろうね。【彼女】の実績をそっくりそのまま自分のモノとして大勢に傅かれて気分がよかったんじゃない?』
神様の言葉の意味はその国の者達……特に『神子』に強く突き刺さったようだ。
『こっちの世界にいる間、あの子の心は壊れていっていた。目の前で大切な友人達を殺されたり、自分を人間として扱わない者達の世話をさせられたり、一対多数の戦いをしかけられたり……こちらの世界に来るたびにあの子の精神は殺されていった。唯一、西国にいる時……王子たちとの交流している時だけはあの子の精神は正常だった。ヴィート、カルロ、アルド、エドガルド……ありがとう』
私たちに頭を下げる神様。
私たちは慌てて首を横に振る。
「勿体ないお言葉です。私どもの方こそ【彼女】に救われました。今、わが国の民が平穏な暮らしが送れるのはすべて【彼女】のおかげです」
『【彼女】はそんなこと露程にも思っていないだろうけどね。ただ、ちょっと気になったから動いただけ。きっとそう言うだろう』
ふと表情を和らげた神様。
『もともと、面倒事には巻き込まれたくない、自然の流れに任せようと思っていた【彼女】だけど、【彼女】が行動したこと全てが【神子】が成すべきことだった。神殿や王宮で綺麗な服を着て美味しいものを食べて、見目麗しい人たちに囲まれ笑っているだけの人形は【神子】ではない』
きっぱりと言い切った神様に誰も口を開くことはできなかった。
『それから、神官長』
「は、はい」
神様に声を掛けられて神官長があたふたと神様の足元に跪く。
『あなたは【神子教本】を読んでいないみたいだね』
「そ、それは……」
視線を彷徨わせる神官長に小さくため息をついた神様は私の方を見た。
『エドガルド、君は読んだことは?』
「あります。神殿に入った時に【教本】の写しを頂きました」
『……で、その中に【神子】についてなんて書いてあった?』
「夜空の様な光輝く美しい黒い髪を持ち、黒曜石のようにきらめく黒い瞳を持ちながらもその容姿を滅多に晒さない。また神に匹敵する未知数の魔力を有する」
『そうだね。まさに【彼女】が持つ髪と瞳そのものだ。そして、【彼女】は常に前髪と眼鏡でその容姿を晒していなかった。そして魔力だね。そこの娘たちが【化け物】と称した力は神の力。すなわち私の力でもあったんだけど……【化け物】か……ということは私も【化け物】ということだね』
「そんなことありません!私たちはその力に……神様が【彼女】にお与えになった力に何度も助けられているのですから……」
神子様方(偽物)をちらりと見ると俯いていて表情が見えない。
『では、宝珠の事は?』
「はい、『額の宝珠と蔦の印は【神子補佐】の証。神子の手足となり神子を補佐する者』と書かれていたと思います」
神殿に入った時に渡される教本の一つだ。
神子召喚は滅多にないから読まない人も多いらしいが。
『そうそう!良く読み込んでいるね。本来【神子】は1人でこちらの世界に降りる。だが、ごくたまに【巻き込まれる人】がいてね。その者達を保護するために【補助の力】を込めた宝玉をわかりやすい額に埋め込むんだけど……まさか、その宝玉を【神子の証】だなんていうとは思わなかったよ。【神子教本】作った意味ないね。いかに【神子】に関して勉強していないかが分かったよ』
笑顔を浮かべているがお怒りの御様子の神様。
先ほどからビリビリと空気が震えている。
『【神子補佐】を【神子】に据えた時点で、君たちの国に加護を与えるに及ばないと判断した』
「そんな!」
「今更なぜ……」
神子と国王達が口々に文句を呟いている。
ヴィート達を見ると静かに彼らの様子を見ていた。
『別に私の加護がなくても国は正常に動いているじゃないか。【彼女】が問題を解決してくれたおかげで』
静かな声が神殿に響き渡った。
『今、自分たちがきれいな服を着て、おいしい食べ物を腹いっぱい食べれて、国民に頭を垂らさせているのはすべて【彼女】が君たちの国の問題を解決したからだろ?魔獣討伐、組織改革、王位継承問題etc……本当なら自分たちで処理しなければいけない事を【異世界】の【彼女】が道を示した。国に帰ってから確認するといい。【神子】よりも【彼女】の方が国民に……特に平民たちに愛されていることをね』
神様は、再び祭壇に腰掛けると私たちを見回した。
『【神子召喚】は封印する。どの国も二度と【神子】は現れない。どんな困難な事が起きても自国の人間だけで解決させること。それが【神子補佐】を【神子】に据えた罰』
神様が伝えた神罰に西国以外は異論を唱えたが神様は聞き流していた。
『ほんと、ギャンギャン煩いね。これでもかなり譲歩した方なんだよ。本当なら神殿と今の王家全部潰して新しい神殿と王家を……いや、神殿と王政を失くすことも考えたんだからね。……ほんと【彼女】の気持ちがよくわかるよ。君たちと離れたいっていう気持ちが』
「どういう事?」
「あの子が私たちと?」
ピクリと頬を引き攣らせている神子様方。
『なあに?気づいてなかったの?ああ、気づくわけないか。自分に都合が悪い事は全部【彼女】に押し付けていたもんね。君たちに逆らうのも面倒だからって黙っている【彼女】の周りでギャーギャー喚いていただけだもんね。【彼女】の言葉なんてほとんど聞いてなかった。【彼女】の周りの人たちも君たちにはウンザリしていたんだよ。都合のいい時だけ【親友】なんて言葉を使う君たちにね。【彼女】が周りを押えていなければ君たち周囲から孤立する状況だったのに本当に気付いてなかったんだね』
神様の言葉に神子様方は顔を真っ赤にさせている。
羞恥ではない、怒気によってだ。
『君たち、【彼女】が中央に現れてから何度会った?どれだけ会話した?』
「…………」
『最初の一回だけだよね?それ以外は一度も会いに行ってないし話もしていない。ああ、交流試合の時は【彼女】に会いに行くふりをして君たちの【狗達】に【彼女】を事故に見せかけて大怪我をさせるか、最悪殺すように指示を出したよね』
「!?」
『まあ、【彼女】に瞬時に沈められちゃったから無意味だったけどね~』
ケラケラと笑う神様。
もうこれは……彼女達で遊んでいる様にしか見えないのだが……
『それから、ファル、トルディア、シルヴィ、トール』
名前を呼ばれた4人は恐る恐る神様を見上げた。
『君たちが【神子(偽物)】の【狗】だって【彼女】は知っていたよ』
「え?」
「なっ!?」
「何ですって!?」
「…………!?」
『君たちは隙あらば【彼女】の命を狙っていたよね。
ファルは無邪気に抱きつくふりをして、暗器で殺そうと思っていたみたいだけど。実際は【彼女】に隙がなくて苦戦していたみたいだね。
トルディアは【幻影】にワザと暴走する術式を組み込み、巻き込み事故に見せかけようとしていた。
シルヴィは【彼女】の髪に触るふりをして毒を仕込んでいた。ああ、【彼女】の飲み物と食べ物にだけ毒を仕込んでいたよね。もっとも彼女の持つ【浄化】の力で無効化されていたけど。
トールは剣を合わせた時に殺気を隠していなかった。
みんな、バレバレなんだよ』
神様から告げられた数々の事に、ヴィートを除く各国の国王達は表情を強張らせていた。
ヴィートはトールの行動に気づいてそれとなく彼女を守っていたからな。
「あの子をもう一度連れてきなさいよ!」
「あの子の口から聞かない限り信じないわ」
神子様方は神様相手に喧嘩腰だ。
国王たちが止めようとしているが効果がない。
西国の神子も喚いているが、ヴィートは苦笑いをしてただ見ているだけだった。
『無理だね。【彼女】の記憶から君たちとこの世界の記憶を消したから』
その言葉に私もヴィートも驚き、神様を凝視する。
『今までは私のキョウダイの加護が邪魔して記憶を消すことが出来なかったけど、キョウダイの加護が消えた今【彼女】の記憶を消す事なんて簡単だったよ』
くすくすと笑っている神様。
『【彼女】は二度とこちらの世界に来ない。それから、ヴィート・ウェス・クローチェ』
名指しされたヴィートはその場に膝をついた。
『君を生身で【彼女】の世界に連れていく事は出来ない』
「!?」
『だが、君がこの世界で使命と寿命を全うした時、まだ【彼女】への想いが残っていたら君を【彼女】の世界に送ろう』
「それは、【彼女】の世界との【道】を諦めろと?」
顔を上げ、神様を睨みつけるヴィートに神様はクスリと笑った。
『もともと【彼女】の世界とこちらの世界は平行世界。交わる事などなかったんだよ。今回は私のキョウダイの悪戯に巻込まれただけ。本来の状態に戻すんだ』
「…………」
『だからね、君がこの世界で使命と寿命を全うしたらご褒美に【彼女】の世界に転生させてあげる。運が良ければ【彼女】と出会える』
「…………」
『この条件ですでに4人。【彼女】の世界に転生した者がいる。記憶も消え、同じ時代に転生できるかも分からないのに【彼等】は転生したよ。【彼女】の世界に』
「…………わかりました。俺は……私はこの世界で出来る限り生きます。ですから……」
『約束は守るよ。私の名に誓って』
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるヴィートに神様は優しい笑みを浮かべた。
まるで愛しい子を見つめるような……
『さてと、私はもう戻るよ。ここに長居する意味はないからね』
私たちを見回した後、神様からまばゆい光が零れ落ちてくる。
『最後に……今迄のやり取りは北・東・南・西・中央……すべての国民に見せたから』
神様の言葉に全員が固まった。
『えーっと【彼女】の世界でいう【全世界同時生中継】というんだっけ?』
クスクスと笑う神様に対し、神子様方(今更だが、神子様と呼んでいいのか微妙だが)はプルプルと震えている。
『真の罰は国民が下してくれるよ。甘んじて受けることだね。【神子】も国王も神官長も……【神子】に関わった人すべてが!』
この神殿内だけではなく、すべての国のすべての国民に!?
神様を見ると実にすがすがしい笑顔を浮かべていた。
『自分たちが撒いた種、どう処理するか、言葉通り高みの見物とさせてもらうよ。ああ、それから神子補佐たちの自動翻訳機能はそのままにしておいてあげる。本当なら神子補佐たちに付けた加護は全部取っ払いたいけど神殿で毎日喚かれでもしたら最悪だからね』
その言葉と共に神様は消え、光も徐々に納まっていった。
だれも、なにも言葉に出さない。
いや、何を言えばいいのかわからないのだろう。
私は祭壇に近づき、あることに気付いた。
「陛下、カルロ、アルド……ちょっといいか?」
ヴィート達を呼ぶと彼等は祭壇の前まで来た。
「これ……」
祭壇の上に置かれているモノにヴィート達の表情が次第に緩んでいった。
「……最後の置き土産か」
祭壇の上に一冊のノートが置かれていた。
ヴィートがノートに触れた瞬間、ノートは砂のように端の方から崩れていった。
だが、その内容は私たちの脳内に直接流れ込んできた。
それは彼女からの最後のメッセージ。
私たちに対する感謝の気持ちと、私たちの事を忘れてしまうことに対しての謝罪だった。
すべてのメッセージを受け取った後、私たちは自然と涙を流していた。
涙を人前で流したのはいつ以来だろうか。
私たちの涙は床に落ちる前に、小さな光となって消えていった。
『君たちの想いは、ちゃんと【彼女】に届けてあげるよ』
神様の声が聞こえたような気がした。
***
中央国で行われた最後の召喚の儀の結末(ジュリ様の帰還の儀)から早一年が過ぎようとしている。
私はなぜか帰国後、国王の護衛官はそのままで、神官としての仕事が舞い込むようになった。
確かに以前から小さな仕事はあったが、最近のは神殿の内部に関わる重要な仕事が増えた気がする。
どうやら、神様のいう『全世界同時生中継』を見た人々が神殿に詰めかけ、真偽を問いだした結果、上層部が総入れ替えになり、現在人手が足りないらしい。
あくまでも国王の護衛優先でという条件で引き受けているのだが……この状態はいつまで続くのだろうか。
現在の神殿の上層部は【神子教本】をはじめとする神殿に伝わっている【教本】すべてを熟読していた者達で固められているが、片手で足りる程しかいない。
神官見習いの教育を一から見直しているが、現在の神官見習いが使えるようになるまで何年かかるか分からないのが現状だ。
中央国と西国は比較的平和な一年を過ごしてきた。
西国は元から【神子】の業績がすべてジュリ様が行っていたことだとなぜか知れ渡っていたので大きな混乱はなかった。
何も知らなかった【神子】周辺以外では……
中央国に関しては【神子】の正式なお披露目が行われていなかったことが幸いしたのだろう。
特に大きな混乱は生じていない。
神殿以外では……
中央国の王から西国の王に届く手紙で知った。
今でも中央の王とは文通を通じて交流を深めている。(他の国とは必要最低限の交流に留めている)
ただ、中央の王……いや、王妃から時々魔術研究の事で分厚い手紙が届くのは勘弁してい欲しい。
その手紙が届くと国王……ヴィートの執務の手が止まってしまうのだ。
最近では、分厚い手紙が届くとヴィートの執務が終わるタイミングで渡すようになったが……読み出すと寝食を忘れてしまうのが難点だ。
北国は神殿の上層部総入れ替えに加え、王家の交代か又は王制廃止の話が上がっているという。
東国はジュリ様……本物の神子様に酷い行いをしていた事に気付いた者達の懺悔が後を絶たず、連日神殿に行列ができているとか。
南国はシルヴィ上級魔導士の行った毒殺行為にジュリ様と親しかった平民(+一部の貴族)が反乱を起こし2~3か月前まで国内が混乱していた。
北・東・南国の上級魔導士……ジュリ様の命を狙っていた者達の処遇は聞いていない。
各国とも上層部が混乱していることもあり先延ばしにされているのかもしれない。
我が国のトールは魔導士と騎士の資格を剥奪。
今は北国との国境で兵士としてやり直している。
処分が甘いという意見もあるが、『死』か『【彼女】が生きやすくしてくれた国を守る』かの選択を国王はトールに与えた。
そしてトールは後者を選んだ。
『貴族重視だった時から親身になってくれていたあの方を裏切っていたのは事実。俺は生きてその罪を償いたい』と国王に告げたという。
各国の【神子】達は表舞台から退いた。
もうだれも彼女達の事を【神子】とは呼ばない。
彼女達は贅沢三昧だった生活から常に冷たい視線を受ける生活に変わってしまった環境に文句を言いつつ、少しずつ現状を受け止めている…………とは言えない。
未だに『私が本当の神子だ』と騒いでいるのである。
もう、相手にするのも疲れたのでそれぞれの伴侶に調教……もとい矯正(教育)をさせることにしたのだった。
決して私たちが放棄したわけではない。
伴侶となった者達の義務だ。
うん、彼女たちを伴侶に選んだ彼等の義務なんだよ。
妻の教育は!
ただし、中央国はまだ未婚の為、国王夫妻が教育をしている。
中央国では国王夫妻の養女として第二の人生を歩み始めたらしい。
国王を尻に敷いているという『雷光の魔女』のファンであった王妃がそれはそれは美しく優しい笑みを浮かべながらスパルタ教育を施しているとか……
養女は毎日泣きながらもその教育をしっかり受けているらしい……
=追記=
ヴィートは神様との約束通り己に課せられた使命を全うするがごとく、王太子(甥)を徹底的に教育し始めた。
王太子の成人と共に譲位することも正式に発表した。
(今までは一部の者しか知らなかった)
そして生涯一人の妃も迎えなかった。
表向きは継承争いを起こさない為と言われているが、国民の誰もが知っていた。
ジュリ様が滞在されていた時から彼のジュリ様への熱い視線は周囲にバレバレであった。
どんなに美姫だと言われる令嬢も、彼にかかればジュリ様以下。
多くの令嬢がヴィートに振り向いて貰えないことに涙を流す一方、ただ一人を愛し続けている事に感動している令嬢たちもいた。
そんなヴィートの一途な想いに共感(?)した令嬢たちが『一途に自分だけを想ってくれる方以外には嫁ぎたくない』と小さな反乱を起し次々と修道院に入る事件が勃発。
年頃の令嬢の半数以上が修道院に入る事態に陥り、西国において政略結婚が法律的に禁止となったのはヴィートの死の翌年の事である。
国政は立派に務めるのに、恋愛面ではヘタレ。
だが、その愛情は常にただ一人に捧げていたロマンチスト。
これが西国の王ヴィート・ウェス・クローチェの後世の歴史家たちの評価である。
ヴィート・ウェス・クローチェの恋のお相手に付いては資料が残されていない。
唯一ヴィート・ウェス・クローチェが死の間際まで抱きしめていたというノートに書かれていた『堂元翼』という文字だけが伝わっているが、なんという名前なのか、どんな人物なのか知る者はいない。
とりあえず本編はここまでです。
次からは番外編を書いていきます。
ただ、番外編をアップするのは当分先になりそうなので一度『完結』とさせていただきます。
コメント欄も期間限定で解放しますが返信は致しません。
(初期の頃はしていましたが、返信を書けば書くほど墓穴を掘っていることに気付いたので……当初の予定と設定が違う変わってしまったとか…)
いろいろと悶々とする部分もあるかと思いますが、本来の視点とは違うがこれが書きたかった最終話なので作者本人は満足しています。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>
※4/30 コメント欄を閉じました。
番外編終了後、再び開く予定です。




