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最後の召喚  作者:
本編
11/24

10.これは真剣勝負。手なんか抜くわけないでしょ

このお話の前に閑話を差し込みました。

読まなくても大丈夫ですが、念のため。2015.4.10

交流試合決勝戦は予定通り正午から始まった。

審判の開始の合図のあと、微動だにしない5人。


誰もが固唾をのんで5人を見つめている。


誰か一人が動けば状況が変わる。


そんな緊張感が試合開始から会場内を漂っていた。


最初に動いたのは西国の魔導士であり騎士でもあるトール。

次いで動いたのが東国の幻影魔導士と呼ばれているトルディア。


未だ動かないのは北国の最年少上級魔導士ファルと南国の上級魔導士シルヴィ。


トールとトルディアは私目掛けてそれぞれ術を放つが、私に届く前にキレイに消えた。


トールの雷とトルディアの炎属性の【幻影】。


たった一振り、私が杖を振っただけで術を消滅させた。

私はその場を一歩も動かずにっこりと笑みを浮かべる。


次に私が杖を振るった時、先日の戦いで見せた【幻影】を出現させた。


観客からは盛大な歓声が上がる。


「なっ!?同時に同じ【幻影】を複数出現させた!?」

驚愕の表情を浮かべるトルディア。

「ジュリ姉様そっくりの【幻影】に攻撃しなきゃいけないの!?」

パニックを起こしかけているファル。

「……どれだけの魔力量を持っているんだ!?」

剣を構えつつ、【幻影】と間合いを取るトール。

「……確実にこちらの弱点を付いてくるのね。ジュリ」

困惑の笑みを浮かべながらもどこか楽しそうな声のシルヴィ。


「だってこれは私の帰還を掛けた真剣勝負ですもの。手を抜くわけないじゃない。全力で行くわよ!」

私が手を叩くと【幻影】達は一斉に彼らに攻撃を始めた。


彼等も必死に防御したり、攻撃を仕掛けるが【幻影】達はひらりひらりと攻撃を躱している。

私は浮遊術を使って上空から【幻影】に指示を出す。


上空から見下ろせば面白いくらいに予定通りの行動をする【幻影】達。


ファルと戦っている【幻影】は水属性に特化した子。

トルディアと戦っている【幻影】は雷属性と炎属性に特化した子。

トールと戦っている【幻影】はあえて魔術よりも剣術に特化させた子。

シルヴィと戦っている【幻影】は風属性に特化した子。


厳密に言えばまったく同じ【幻影】ではないが誰も気づいていない。

それぞれの相手の弱点に特化させた子たちなのだ。


どのくらい戦わせただろうか。

明らかに彼らの疲労が目に見えてわかり始めた。

魔力の枯渇までは行かないまでも、後程かなりの倦怠感が彼らを襲うだろう。


私は大きく手を叩き【幻影】達の動きを止めた。

急に止まった【幻影】達に彼等は戸惑いが隠せず、立ち止まった。


この一瞬の隙に攻撃さえすれば彼らの勝ちだったのにね。


地上に降り立ち、杖の先で地面をトンと叩く。


昨日と同じく、魔法陣が出現する。


「え?」

「ええ!?」

「なっ!?」

「……しまった!」


『大地に根を張り、風にその身を絡め取られる』


短い言葉で彼らをその場に束縛する。


「昨日と同じことが出来るとは思わなかったわ。一人くらい気づくと思ったのに」


呆れる私に拘束されている彼らからは鋭い視線が送られる。

昨日は蔦を使って拘束しようとしたけど、今日は違う。

大地と風を利用した束縛術。

足を大地に固定させ、風で体全体を束縛しているのだ。

簡単には解くことは不可能……たぶん。


「一対多数の戦いは戦場では当たり前。私も経験がない訳じゃない」

杖を軽く振るって【幻影】を消す。


杖の先で魔法陣を突くと軽い電撃が迸る。

彼等は必死に抵抗しようとしているが、目に見えない風に体を拘束されているため思うように動けないようだ。

しかし、彼等も上級魔導士。

軽い電撃くらいでは気を失うようなことはない様だ。

ちょっとピリッと痛みが走るくらいだろう。

なんせ、彼等が着用している上級者用ローブが万能だからな。

電撃、炎、氷、水などの魔術の衝撃を緩和してくれる優れものだからな。

いや、魔術の攻撃は緩和してくれるけど物理的な攻撃は防いでくれないから万能とは言えないか。


「ふむ、軽い電撃だけでは効果ないか。じゃあ、次は……」


続いて魔法陣を突くと彼らの周りに薄い膜を張る。


「え?ジ、ジュリ姉様……これって……」

いち早く私がやろうとしていることに気付いたファルの表情が恐怖に強張っている。

にっこりと笑い、杖を振るう。

「や…やめてぇぇぇぇぇ!お、お願い、ジュリ姉様ぁぁぁぁ!」

聞く者の心を抉る様な悲痛な叫び声を出すファル。

観客の中には耳を押さえている人もいる。(特に若い女性たち)

「なら降参しなさい。降参すればすぐに解放してあげるわよ」

無情とも思える声で告げるとファルは早々と降参宣言した。


「北国上級魔導士ファル=アルフェ、降参宣言により敗退」


審判の声に歓声と悲鳴と怒声が上がる。

「はぁはぁ、……ジュリ姉様……」

束縛の術を解くと膝から崩れ落ちたファルは体全体で息をしながら恨めしそうに私を睨みつけてきた。

「ファル、これは真剣勝負だと私は言ったはずよ。私が真剣勝負を行う時、非情になるのはあなたが一番よく知っているでしょ。一番長い時を一緒にいたのだから。恨み言を言うんじゃないわよ。ここが戦場ならあなたは死んでいたんですからね」

「……はい、ジュリ姉様」

悔しそうに俯きながらも素直にうなずくファル。


残り3人の方を見ると、それぞれ苦しげな表情を浮かべているが降参までは至っていない。

「ふ~ん、やっぱり【幻視】だけではだめか……」

今、私が彼らに掛けているのは彼らが一番苦手とするモノを目の前に映し出す【幻視】という術だ。

ファルの場合は大量の水。

赤ん坊の頃にお風呂で母親に落された事(事故)がありそれ以来、大量の水は恐怖でしかないらしい。

大量の水を目の前にするとファルは必ずパニックに陥る。

北国にいる頃、何度か克服させようとしたが私では無理だった。


杖を振るい、膜と呪縛を解除する。

突然拘束が解けたことでその場に跪く彼等。


魔力消耗に加えて精神的な攻撃。

人は非情だと私を罵るかもしれないが、これは真剣勝負だと言ってある。

お遊びではない。


「ジュリさん、容赦ねぇ~!」

肩で息をしながらも立ち上がるトルディア。

「ほんと、ジュリ殿は怖いですね」

剣を杖代わりにして立ち上がるトール。

「魔力消耗に加えて精神攻撃。さすがだわ」

両手を地面に付き息を整えているシルヴィ。


「言ったでしょ。これは真剣勝負。全力で行くと」

疲労困憊の彼等に対して私の方はぴんぴんしている。

観客の中から『化け物』という言葉もちらほら聞こえてきた。


「ふっ、化け物か……」

会場をぐるりと見回す。

貴賓席では神子様方は顔色を失くしている。


「さて、貴方達はまだ降参しないのね」

立ち上がった3人に声を掛けるとそれぞれ対戦の構えをした。



しかし、ここで主催者である中央国の王から終了の声が掛かった。


「そこまで!この勝負、ジュリ=ドウモトの勝利とする」


中央国の王の宣言に会場がざわめいた。

中央国の王の隣に西国の王が立ち、会場をぐるりと見渡し口を開いた。


「これ以上は上級魔導士達の魔力が枯渇する。命の危険があるための判定である」


西国の王が魔術に造詣が深い事は多くの人が知っている。

その西国の王がこれ以上は命に関わると判断を下したということだ。


「……我が国の特級魔導士ジュリ=ドウモト」

西国の王の低い声が会場内に木霊する。

私は貴賓席の方を向きその場に片膝を付いて頭を下げる。

一応、彼の国に所属していた魔導士としての礼儀だ。

「なぜ一気に片付けなかった」

西国の王の言葉に周りがざわめいた。

「わざわざ、力を4等分せずに一気に4人を沈めることなど簡単だろうに」

くすくすと笑いだす西国の王。

「発言をお許しください」

私の声に5人の王たちは頷いて私の発言を許可した。

「本日、私が対戦しました4人は周辺4カ国の上級魔導士であり、私が神子様の手伝いをしていた時の同胞。彼らの今の実力を見て見たかった……ではだめですか?」

「それならば昨日までの対戦で十分見ていただろうが」

「実践と見学は違います。見ただけでは彼らの利点も欠点も的確に知ることはできません。力を交えて初めてその人の実力を知ることが出来るのです」

「なるほど……で、わが国の上級魔導士であり騎士でもあるトール=ゲルスターはどうであった?」

「今ここで述べていいのですか?彼の弱点となるかもしれませんが……」

ちらりとトールを見るとどこかワクワクとした表情を浮かべている。

「構わん。ジュリの率直な感想を教えてくれ」

「……トール殿は剣に重きを置いております。確かにトール殿の剣は一振りが重いので相手に衝撃を与えることがありますので剣だけでも十分戦力にはなります。しかし、せっかく編み出した剣に魔術を纏わせる事が出来るのなら威嚇させるだけでは勿体ない。剣に纏わせた術を自在に発動させることができれば……。たとえば私なら……」

私は断りを入れて立ち上がり杖を一振りし、形を長剣に変え炎の魔術を剣先に纏わせた。

「このように剣に魔術を纏わせ……」

周りにもわかりやすく呪文を口にすると剣先の炎が自分の意思があるかのように動き出した。

剣を軽く振ると剣先から炎が四方八方に飛び出す。

さらに剣を振るうと炎はターゲットに向かって方向転換する。

ちなみに今のターゲットは杖を剣に変えた時に出した兎の姿をした【幻影】だ。

本物を見ながら術式を書いたから私にしては本物に近い兎の【幻影】。

【幻影】がその場にいることに誰も気づいていなかったらしく息をのむ音があちこちから聞こえてきた。

炎は【幻影】を包み込み、全てを消し去った。

「このように、剣を払う一瞬、相手の一瞬の隙を狙いますね。せっかく魔術と剣術に長けているのです。両方を伸ばせればトール殿は向かうところ敵なしになるのではないでしょうか」

剣を杖に戻し、再び跪く私に西国の王は「やはりそうか……」とだけ答えた。

西国の王に次いで南国や東国の王がなにやら聞きたそうだったが、中央国の王が遮った。


「夕刻より、交流試合の優勝者を交えた宴を行う。決勝戦出場者10名は必ず参加するように」


中央国の王の言葉に会場は歓声に包まれた。

私個人としては宴に参加したくないんだけど……



***


与えられた自室に戻ると部屋付の侍女がそれはそれは輝かしい笑顔で迎えてくれた。

彼女達の笑顔を見た瞬間、回れ右をして部屋から出ようとしたが、年配の侍女に両脇をがっちりと掴まれバスルームに放り込まれた。


バスルームでは別の侍女が手を拱いていました。

暴れるのは賢明ではないと判断した私は大人しく彼女達の玩具になった。

うう、頭の先から足のつま先まで余すところなく揉まれた……


バスルームから出ると、洗濯された制服が用意されていた。

あ、今日の試合は男物の服を着て参加しました。

侍女さんたちにごり押しされたので……


うん、男物の服を着たらなぜか黄色い声が上がったんだよね。

うっとりと見つめられもしたけど……


てっきりヒラヒラドレスが所狭しと並んでいるかと思った。

首を傾げているとこの部屋付の最年長の侍女が苦笑している。

「ジュリ様の事です。ドレスよりもこちらの『正装』をお選びになることは火を見るより明らかです。陛下たちには事前に申告してありますのでジュリ様のお好きなようになさってください」

「え?本当にいいの?」

「ええ、短い期間ですが、ジュリ様の嗜好等は把握しているつもりですのよ」

おちゃめにウィンクする侍女に思いっきり抱きついた。

「ありがとう~!ドレスだけは絶対に嫌だったから最悪男装でもしようかな~と思っていたんだよ」

「あら、それはそれで面白うございますわね。ジュリ様は背が高いのできっとお似合いになりますわ」

クスクス笑う侍女に年若い侍女たちもクスクスと笑っている。

「さあ、湯冷めしてしまいます。服をお召しになってください。その後、髪を整えさせていただきます」

「えー、いつも通りでいいよ」

「それでは勿体ないのです。これほど滑らかな絹のような御髪を無造作に括って団子状にするだけなんて……今夜くらいは私達にその素敵な御髪を整えさせてください」

うっ、髪を褒められると反論できない。

私の唯一の自慢はこの長い黒髪くらいだから……

瑠佳ちゃん達のような色白美人さんじゃないから……

「わかった。でもあまりいじらないでね」

「大丈夫ですよ。ジュリ様の可愛らしさを引き出すだけです。お化粧は……軽くでいいですね。ジュリ様の肌はとてもさわり心地がよろしいですし、シミも皺もまだないですからね」


その後、一時間ほど私は侍女たちの人形と化した。

うん、ドレスをとっかえひっかえよりかはましだ。



ジュリと部屋付の侍女たちの仲は良好です。

むしろ神子様方より仲がいいかもしれない…←え?


当初ジュリの扱いに困っていた侍女たちだったがジュリの方から話しかけていろいろと世間話(ジュリにとっては情報収集)をして仲良くなっていった。

ジュリのドレス嫌いはすぐに知れ渡り、なぜか男物の服を用意する侍女たちに他の部屋付の侍女たちは首を傾げていたが、ジュリの男装(訓練所に行く時の服装)を見て(゜∇^d) グッ!!となったのはジュリの知らないお話。


~小話~

侍女A「あのね昨日、ジュリ様に今はやりの歌劇の主人公(男)の衣装着せてみたの~(^ー^* )フフ♪」

侍女B「……は?( ゜д゜ )」

侍女A「そしたらね!ジュリ様、その物語を知っていたらしくて少し真似をしてくれたの~(〃∇〃)」

侍女C「え~でも、あの男優には負けるんじゃない?劇団一の美男子だって話題じゃない(¬_¬)」

侍女A「そ・れ・が・ね!あの男優よりすっごくかっこよかったの!もう、ジュリ様が男だったら私恋人に立候補するのに~!ヾ(≧∇≦)〃」

侍女C「え?そんなにかっこよかったの?(イケメンハンターのAがこれほど興奮するなんて珍しい)」

侍女A「魔写(※1)があるけど見る?( ̄∇+ ̄)v」

侍女B・C「見る!((o(^-^)o))」

侍女A「ジャーン(^^)/□」

侍女B・C「エェッ!?(* □ )~~~~~~~~ ゜ ゜これ、本当にジュリ様!?(別人じゃないの?)」

侍女A「うん、普段は前髪で顔を隠されているけど……少し化粧しているけどイケメンでしょ!?」

侍女C「うん!疑ってゴメン!これなら納得だわ!(普段からこういう格好すればいいのに!!)」

侍女B「ねえねえ、私もジュリ様のファンクラブ入りたい!!」

侍女A「オッケー!会長(侍女長)に話とく。Cはどうする?今なら入会特典で他の魔写も格安で購入できるわよ」

侍女C「他にもあるの?」

侍女A「うん、ジュリ様にお願いしたら10種類くらい着て魔写撮らしてくれたから。男装だけじゃなくてお姫様Verもあるわよ~こっちはすっごく妖艶よ~♪」

侍女C「え?見てみたい!」

侍女A「会員特典だからそれは見せられない」

侍女C「じゃあ!入会する(≧∇≦)ノ妖艶なジュリ様拝みたい~!」

侍女A[ふふ、了解!(これで活動資金確保確実(*^▽^*)v)」


という会話がなされているとか?


※1写真のようなモノ

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