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最後の召喚  作者:
本編
10/24

~閑話~ 西国王視点

急遽、西国の王が語りたいと割り込んできました。

読まなくても話的には問題ありません。


我が国唯一の特級魔導士・ジュリ=ドウモトが中央国に現れた。

その報告がもたらされると神子がものすごい剣幕で帰還させるな留まらせろと俺の代理として中央国に出向いたトールに指示を出していた。

何をそこまで剣幕になるのかわからない。


ジュリは神子とは違って故郷を大切にしている子だ。

無理に引き留めるのは彼女を壊しかねないのがわからないのだろうか。


その後、神子の護衛騎士たちからジュリと対戦したいから許可が欲しいと通信魔術で連絡が入った。

別に鍛練ならジュリさえ許可すれば……と思っていたらジュリの帰還を掛けての勝負に護衛騎士たちも参加したいと言い出したらしい。


ああ、ジュリの苦虫をかみつぶしてさらにドマズイ薬草を飲まされたような表情がありありと目の前に浮かぶよ。


護衛騎士は大人しく神子の護衛だけをしていればいいものを……

きっと、神子が裏でけしかけたんだろうな。

はあ、仕事増やさないでくれよ。

ただでさえ、生きがいである魔術研究を止めて王様稼業に専念しているんだから。


うちの国の神子って神の代弁者というよりはトラブルメーカーなんだよな…………

うちの国だけだろうけど。


どうせ反対しても他の国が許可出せば『なぜうちだけ!』と文句言うんだろうな。

北と東と南は面白そうだと護衛騎士たちを焚き付けるに違いない。

だから俺は条件を付けて許可した。

『ジュリが快く承諾し、他の国の全ての王が許可したならば』と。


その日の内に、中央国の王からジュリ達の試合を他国との交流戦にしたから観覧に来ないかという招待状が『速達』で届いた。


文面を見る限り、ジュリの意見を無視しての開催である事が読み取れた。

4人の神子に言いくるめられたな。

中央国の王は……


宰相達に招待状の件を相談するとにこやかに承諾した。

「たまには休息も必要でしょう。それにジュリ様にお会いしたいのでしょ?」

「へ?」

「私たちが何も知らないとでも思ったのですか?陛下はお疲れになるとジュリ様が残されていった研究ノートを愛おしげに撫で、見つめているではないですか」

げっ、何で知っているんだ?

「それが、魔術に対してなのか、ジュリ様に対してなのかはわかりませんが……ジュリ様がまだこの国におられた頃、よく変装してジュリ様と魔術談議をして息抜きされていましたね」

宰相は小さくため息をついた。

「陛下が王位に就いてくださったのはジュリ様の後押しがあったことくらい私たちは存じております」

「え?」

「あれほど頑なに王位を継ぐことを避けていた陛下が、突然『条件付きで王位を継ぐ』と言った時は私ども臣下は驚きました。しかし、魔導士協会で陛下とジュリ様が親しくしている姿を見て確信しました。ジュリ様が陛下を説き伏せてくれたと」

「…………」

俺が王位に就いた理由。

確かにジュリが原因だ。

正確にはジュリを追いかけて北国から来たアルヴィスタの話が俺を王位に付けさせた。


ジュリは頑なに自分の事は語らなかった。

だが、ただ一人。

アルヴィスタ相手だけには表情が変わって色々と話していた。

聞き耳を立てていたわけではないが、偶然聞こえてきた話に衝撃を受けた。


北・東・南国に現れた謎の魔導士。

魔獣討伐に参加し、多くの魔導士達の命を救ってきた女性。

主に雷系の魔術を使うことから『雷光の魔女』と言われている女性。

自出も年齢もすべて不明。

常に分厚いローブに身を包み、魔導士達が魔術を展開させ発動させるまでの間をたった一人で補っていた人。

魔獣討伐が終息するといつの間にか姿を消している幻の魔導士。

彼女と魔獣討伐に参加した魔導士は皆、彼女の虜になった。

だが、その素顔を見た者はいなかった。

ただ一人。

常に彼女の隣に陣取っていたアルヴィスタ以外は……


その女性がジュリだったとは……

そして、ジュリの過酷な過去に衝撃を受けた。


『神子の友人』とは名ばかりの待遇。

神殿と王家による酷使。

そして命がけの魔獣討伐。


せめて西国では……と魔獣討伐に参加させない様に手をまわしたが手遅れだった。

俺が気づいた時は魔獣討伐も終息間近。

ジュリが駆り出されていた後だった。


俺が王位に就いた理由。

ジュリを早く開放してあげたかった。

西国の神子召喚の理由は二つ。

一つ目は急激に増えた魔獣の原因追求。

二つ目は王位継承問題。

本来ならば自国の民だけで解決しなければいけない問題なのは重々承知している。

だが、神官長が神託を受けたとかで『神子召喚の儀』が行われた。

『神子召喚の儀』で現れたのは二人。

見目麗しいマリ=イシヅカという少女と、前髪で顔を隠していたジュリ=ドウモト。

神官長は見た目が美しいマリを『神子』と認め優遇した。

一緒にいたジュリがどのような扱いを受けたのかその時の俺は知ろうともしなかった。


まさか、牢に入れられていたとは……

ジュリが牢から出されたのは三日後。

ジュリの持つ魔導士の証に神官長が気づいたからだ。

ジュリの持ち物をチェックしていた神官が神官長に相談して発覚したことだった。

ジュリが持っていた魔導士の証は今では幻と言われている『特級魔導士』の証だった。


『特級魔導士』は全部の属性を全て取得し、さらに存在は知られているが扱い方がわからない幻の術を使いこなすことが出来る人物に与えられる魔導士の称号。

ランクは各国毎の魔導士協会に登録されると与えられる認定水晶が自動的に判断する。

例えば、北国の魔導士が北国以外の魔導士協会に登録すると、北国とは別に新たに認定水晶が与えられ、その国の魔導士協会の基準でランクが決まる。

北国では『上級』だったとしても、他国では『中級』と見なされる場合もあるのだ。

アルヴィスタのように…………

まあ、他国の魔導士協会に登録しようとする人は少ない。

移住をするとか、出稼ぎで他国にきて仕事のためにとか、よっぽどのことがない限りは……


ランク決めの詳しい仕組みはまだ解明されていないけどな。


その水晶にジュリは『特級』だと認められていた。

北・東・南国の3か国で……


なぜ異界の少女が……と誰もが首をひねった。

その答えをくれたのが北国の上級魔導士アルヴィスタだった。

アルヴィスタの話は到底信じられるものではなかった。

だが、ジュリと彼を会わせた途端、アルヴィスタが滝の様な涙を流しながらジュリに縋り付いた。

「ジュリ様!ジュリ様!なぜまた来られたのですか~!」

「知らないわよ!気づいたらこっちに来ていたんだから!」

「ならば、それは自分に秘術をおし……」

「それはない!たとえそうであったとしても絶対に教えない」

「そこをなんとか~」

「しつこい!」

と言い合いを始め、知己であることも分かった。

そして、なにやら特別な術を扱えるらしいことも……

そして、膨大な魔力を持ち、魔導士の証を証明するように魔術に長けている彼女は牢から出された。


『神子の友人』と言いながらも彼女は1人だった。

『動かない神子』の代わりに常に走り回っていた。

彼女の功績がすべて神子のモノになっていると知ったのは彼女が帰った後だったが……


彼女を開放する方法は一つだけ。

我が国の問題を素早く解決する事。

魔獣の件はジュリのおかげで半年で終息。

王位継承に関しては……兄達の殺し合いによって急速に片付き始めた。

俺は王位を継ぐ気は全くなかった。

長兄の子を王としそれを支えるくらいにしか考えていなかった。

だが、その考えを変えさせたのがジュリだった。

「まだ未成年の子を王位に就けるのはやめた方がいい。きっと国が荒れる」

理由を聞いたら納得だった。

確かに長兄の子を傀儡にして自分の思うように操ろうとする者は現れるだろう。

兄嫁の実家とか…

それに、幼い子に王稼業は過酷だ。

子供には子供の時にしかできない事をさせてやりたい。

イタズラとかイタズラとかイタズラとか……

ならば成人している自分が一時的に王位を預かり、兄の子が成人した時に譲渡した方がいいだろう。

俺は乳兄弟や大臣たちにその事を訴えた。

最初は怪訝な顔をされたが、毎日しつこく訴えたら納得してくれた。

まあ、長兄の嫁の実家には最後まで反対されたけど、長兄の嫁(俺にとっての義姉)が最終的に俺の味方になってくれたのが功をなして俺は王位に就いた。


ジュリは俺の即位式の日に俺達に黙って帰還した。

彼女を見送ったのは魔導士協会の会長に就任したばかりの上級魔導士の一人とアルヴィスタだけ。

彼女の帰還を知った神子が一時期荒れていた時期もあったがそれは神子の取り巻き達が宥めたようだ。


彼女の帰還から数か月後。

中央国の『神子召喚の儀』が行われることを知った魔導士協会の会長がジュリの魔力を感知した。

本当は俺自身が乗り込みたいがいろいろと面倒な手続きがあるので仕方なく、ジュリに懐いていたトールを派遣した。

『神子召喚の儀』が執り行われた直後、トールからジュリの事が報告された。

中央国の神子の事ではなくジュリの事のみの報告だったが誰もその事には突っ込まなかった。

まあ、俺もジュリが現れたと聞いた時は持っていた書類をばらまいてしまうほどに動揺してしまったからな。



中央国の王の招待により中央国を訪れた俺は他国の王と初めて顔を合わせた。

即位式の時はどの国も代理が来ていたからだ。


中央国の王以外はジュリの存在を知っていた。

だが、ジュリが魔獣討伐など過酷な生活を送っていたことは知らなかった。

彼等は『神子』にのみ敬意を払っていたのだ。

『神子』が『神子』として認められているのがジュリのおかげである事を彼等は知らない。

むしろ、邪魔な存在だと認識していた。


俺は彼等とは話が合わず、中央国の王に詫びを入れ早々に会合の席を離脱した。

彼等は知ろうとしていない。

自分たちに都合が悪い事は隠す。

王家の悪い習慣が染みついていた。

俺の国では『神子』以外は知っている。

誰のおかげで魔獣の脅威から解放されたのか。

誰のおかげで今の生活が出来ているのかを……



交流試合にこっそりエントリーしたら幼馴染兼外交官であるカルロにばれて取り消された。

「陛下、試合時に貴賓席に貴方が居なかったらあらぬ憶測を呼びます。大人しく貴賓席で座っていてください」

「だが、ジュリと……」

「交流会の後で場を設けます。中央国の王にも承諾を得ています」

「承諾を得るなら出場の方の承諾を取れよ!」

「僕を怒らせたいの?ヴィート」

あ、やばい。

カルロが俺の名前を呼ぶ時は逆らってはいけないということは幼い頃からの習慣で体に染みついている。

「わ、わかった。じゃあ、その代りカルロが参加しろ!」

「はぁ!?何を言っているんです?」

「俺は我慢する。だが、今の(・・)ジュリの力を見てみたい」

「それなら試合を観戦すればいいだけでしょう」

「…………」

「なんですか、その目は」

「お前、ジュリに勝つ自信ないんだろ」

「なっ!?そんなわけないでしょ!?これでも上級魔導士の資格を有しているんですよ?互角に戦えますよ」

「じゃあ、試合に出てジュリと対戦な♪」

「え!?」

俺はそそくさと交流試合責任者にカルロの出場を認めさせた。

北国の王の護衛として付いてきた近衛騎士隊長たちも出場するのにうちの国だけ出さないわけにもいかないと神子が喚いて最終的にカルロが折れた。



ジュリの予選の試合はあっけなかった。

全ての試合が『瞬殺』だった。

相手が騎士だろうと、魔導士だろうと、兵士だろうと手を抜いて(・・・・・)瞬殺だった。

そうとうジュリが怒っていることが窺えた。


ジュリの試合を見たカルロの顔色が悪かったが大丈夫だろうか。

ああ、そういえばカルロはジュリが『特級魔導士』だということ知らなかったっけ。

俺がこっそりジュリの服に証を忍ばせただけだからな。

ジュリの『特級魔導士』の証はジュリに持たせていたが神子の命令で今はトールが預かっているという。

あの証はジュリの『帰還』に必要なものだからな。

あの証がない限りジュリは『帰還』できない。

神殿以外で『帰還の術』を行うならば……

神殿でなら必要ないのだが、ジュリはそのことに気付いていないみたいだな。

そもそも『召喚』も『帰還』も神殿で行なうモノだがジュリはそのことを知らない。

魔法陣があれば出来ると思っているのだろう。

ただ『帰還』に関しては通常の魔力以上の力が必要なため、魔導士の証である水晶に込められた魔力が必要だと思っているのだろう。


決勝戦初日。

各国の上級魔導士達の戦いは素晴らしかった。

それぞれジュリと何かしら関係があるらしく、必死に勝ち残っていた。

カルロもかろうじて決勝に進出したが、南国の上級魔導士シルヴィとの技の見せ合いでレパートリーが底をついたとかで敗北宣言しやがった。

おい、ちゃんと戦えよ!


ジュリは予選とは違い、5割ほどの力で北国の近衛騎士隊長と戦っていた。

座席の高い貴賓席から見ていた俺は彼女の行動が魔方陣を描いているとすぐに分かった。

面白い事をするとみていたが、最後の最後で見事にだまされた。


ああ、まさか【幻影】で戦っていたとは……


【幻影】を操りながら自らに不可視の魔術を纏わせる。

ジュリは誰も思い浮かばない術を展開する。

わが国でもジュリが帰還した後、魔法陣の不可視や詠唱短縮・詠唱破棄の研究を進めている。

まだ成功した者はいないが、研究者たちは日夜楽しく研究を進めていると報告が上がっている。

俺もその研究に参加したいが宰相を筆頭に大臣たちがいい顔をしないので諦めている。


ジュリの研究ノートには術が掛けられていて中身が見れないのが悔しい!

絶対に後でジュリに解除の方法を聞いて研究に役立てたい!


ジュリと北国の近衛騎士隊長との決着はジュリの勝利で終わった。


翌日、最終決戦の前にジュリに激励を贈ろうと控室に向かうと出場者が全員そろっていた。

トールは私が一人で来たことに眉間に皺をよせ、どこかに連絡を入れていた。

多分、相手はカルロだろう。

カルロが怒鳴り込んでくる前に戻らないとな。


よーく、ジュリを見ると魔力の乱れが見られた。

ジュリは知り合いが亡くなったからだと言っていたが……アルヴィスタの事だとすぐに分かったが敢えてそのことは口にしなかった。

元気なふりをするジュリに気付かないふりをして、言葉を少し交わしてすぐに控室を出た。

控室の外ではカルロが仁王立ちしていたが俺の雰囲気が違うと気づくと黙って俺の後に付いてきた。


俺に与えられた部屋に入るとカルロが口を開いた。

「陛下、ジュリ様は……」

「今は言うな。他の国にバレたらまずい」

「しかし……」

「大丈夫だ。彼女は帰れる(・・・)よ。彼女の大切な場所に」

そうだ、彼女は帰る。

彼女が大切にしている場所に。


彼女はこの地に根付かない。


彼女は     なのだから。

だから、彼女は絶対に帰れる。


そして、二度と……





今度は、見送らせてくれよ。


ジュリ……いや、ツバサ。




本来なら10話の前に投稿した方がよかったのですが、後からできた話なので差し込み投稿。

ディーターといい、西国の王といい、暴走してくれました(笑)


各国の王の名を急遽公開。

今回は西国の王のみ登場しているけど一応考えました。

北:チェルソ・ノズ・バッリスタ

東:カディオ・イス・カラーチェ

南:セスト・サス・ブラッティ

西:ヴィート・ウェス・クローチェ


人物の名前考えるの面倒……

王達の名前は基本的にドイツ仕様。

意味はないんだけどね。

王達のみ、名前と家名の間に国名が入ります。

王妃には国名は入らないという設定です。

名前・国名・家名という感じですね。


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