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艱難辛苦の人外生  作者: 寒天
人間 止めました
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プロローグ

 人目につかない森の中。青々とした緑が心地よさを与えてくれる――――そんな環境とは程遠い、根源的な恐怖を与えるような薄暗い森。

 空に輝く四つの光を従える太陽の恩恵を遮断する木々によって覆われた、自然の支配する世界。そんな場所にひとつ異物があった。


 一言で言ってしまえば、骨である。それも、ワンセット全てそろった人骨。血も肉も皮も残っていない、標本のような白骨死体であった。

 そんな森の中で何らかの理由で死亡し、時間経過によって白骨化したというには不自然なほどに欠けた部分はない。あえて言うのなら、髪の毛一本生えていないことくらいだろうか。

 その完璧な白骨死体はそんな違和感を出しながらも、物言わぬただの屍でしかなかった。


 カタカタカタカタ……という、何か硬い物が擦れる音が鳴り出した、その時までは。


 目玉を失った顔の、何もないはずの眼窩(がんか)に赤い光が灯る。筋肉を失い、決して動くはずのない体が動き出す。

 まるで一から立ち方を思い出そうとするような緩慢な動き。それでも骨は、二本の足で立ち上がった。

 その姿を見れば誰だってわかるだろう。コレは、この世のものではない化け物であると。

 赤い光を灯す目で、化け物は自分の体を見渡すような動作を行う。

 何を考えているのか。そもそも考えると言う能力は持っているのか。なぜ動いているのか。

 そんな疑問を抱かせる化け物の姿。もっとも、周囲には化け物ただ一人しかいないために誰が感想を抱くと言うこともない。

 しかし、化け物以外に動くもののいない場所で、それでも疑問を持っているものがいた。


(……ここ、どこだ? なんで……骨?)


 そう、他ならぬ化け物自身だ。見るからに危険な不吉の象徴のような化け物の考えていることは、ただひとつであった。ここはどこで、自分に何が起きたんだと。

 早い話が、化け物の中身は化け物では無い。だからこそ、化け物は自分の現状に唖然としていたのであった。一糸纏わない完全無欠の白骨死体となってしまった自分自身に、言葉では言い表せない未知の驚愕を味わっていたのだ。


(落ち着け落ち着け……骨になることなんてよくあること……なわけないか……)


 混乱の極み。完全にパニック状態である。わけがわからなくなっている状態ながら、それでも化け物は少しでも冷静になろうと自分考えをまとめようとする。


(えっと、確か……)


 化け物は、存在しない脳から自分の記憶を探り出す。今の自分がどれだけ不可解なことをしているのかを自覚しないままに。



 22XX年。科学の発達が一つの限界に達したと言われる、人類史における『停滞の時代』と呼ばれる年代だ。科学技術が一種の限界に達した世界。人の欲望に、科学がほぼ全て答えるようになった世界だ。

 そんな世界においても、受け継がれる文化に則り、日本のとある高校でその日修学旅行が行われていた。

 その日は、グループごとに指定された寺などの名所を回ると言う内容であった。はっきり言って、この日修学旅行に訪れた生徒の大半にとって、寺など興味の対象ではない。中にはそういった名所巡りを楽しむ者もいるだろうが、ほとんどは後に課される感想文のネタを探すためだけの寺巡りだ。

 結果的には写真だけとり、後は寺そっちのけで友達とのおしゃべりに興じると言うのが生徒達の基本行動である。

 そんな中で、一人陰鬱な表情をしながら歩いている少年がいた。


 彼の名前は千葉(ちば)大和(やまと)。少々高めな身長に標準的な体重。ブサイクではないが美形ではない十人並みな顔立ちという特徴に欠ける容姿である。あえて常人との差異を上げるのならば、目に生気がないくらいだろうか。

 彼もまた、四人一組のグループに配属されている。なおグループの内訳は、男子二人に女子二人と言う構成が基本である。

 そんな中で彼がつまらなそうな表情をしているのは、寺巡りに興味がないからでも歩き疲れたからでもない。とは言え、複雑で深い理由があるわけでもない。よくある理由であり、集団行動を強要されれば誰しもが思うことだ。

 はっきり言ってしまえば、単純にグループメンバーが気に食わないだけである。

 グループ分けは、学校側が勝手に決めると言う形で決定した。自分達の好きなように決めると収集つかなくなることが多いための処置である。

 そして、彼のグループは運の悪いことに大和以外のメンバーは全員問題児と言う構成であった。要するに、不良である。

 強制的に不良学生と寺めぐりツアーさせられるだけでもきついのだが、加えて大和は社交性にかけるタイプだ。いつも休み時間は寝た振りをしているというほど極端ではないが、友達は少ないほうである。とてもではないが、話も性格も価値観も全く会わない不良学生とコミュニケーションをとるなど不可能である。

 ちなみに、大和がどの程度社交性にかけるかといえば、互いに認め合った親友など御伽噺の世界にしかないと本気で信じているほどと言ったところだ。

 基本的に根暗の性悪説者なので、大人も子供も親も教師も聖人も罪人も自分も他人も纏めて見下しているほどだ。そんな奴が、社交性に富んだ人付き合いなどできるわけも無い。

 とは言え、それでも表面上の付き合いはできる。親友だとか、自由時間にまで会おうとかまでは思わないが、顔を合わせれば笑顔で友好的に過ごすくらいのことはできる付き合いの者はそこそこいた。

 早い話が、他人に深く立ち入ることも立ち入られることもないが、人と話をあわせることはできる人間であると言うことだ。


 そんな彼が露骨に嫌がるメンバーの名前は、国崎(くにさき)(あきら)山本(やまもと)美鈴(みすず)川原(かわはら)(あい)。一応、大和が所属するクラスでも札付きとして知られる三人組だ。

 その性質を一言で言えば、迷惑な人たちだ。不良と一口に言ってもいろいろな人間がいるが、彼らの場合は不良漫画の主人公のような男気あふれるタイプではなく、正真正銘迷惑なだけの問題児と言うのが相応しい。

 犯罪の一線を越えるほどではないにしろ、校則破りの常習犯であり、同化しない限りは一緒に居たくないタイプだと言えた。

 外見から言っても、三人が三人とも金髪と言うほどではないが日本人的な黒髪でもない茶髪である。それぞれ色合いなどに違いがあるのだろうが、生まれたままの黒髪である大和には同じ茶色と言う表現が限界である。

 違いを上げるのならば、せいぜい美鈴がショートカットで藍はロングであるくらいだ。ちなみに明は、男性としてはやや長いと言うくらいである。ファッションなのか格好付けなのか女装願望があるのかは知らないが、大和は偶に国崎が髪留めを使っているところを見かけた事がある。

 そして、全員だらしなく制服を崩してきている。おまけに国崎はネックレス、美鈴は指輪、藍はブレスレットを身に着けている。どう見ても校則違反だ。

 教師が見ている前では身に着けていなかったはずなので、隠し持っていたのだろう。全員のアクセサリーに同じ意匠があしらってあるところを見ると、何かのグループのマークなのかもしれない。

 アイドルグループにせよ音楽グループにせよ、明たちが好きなグループなどは絶対に好きになれないと思う大和としては、至極どうでもいいことであると思考からはじき出すのだった。そこで一歩踏み込めば友好的な関係が築けるかもしれないが、彼が友人の大切さを学ばない限りは永劫訪れない未来である。


 そんな彼らを、大和は関わり合いになればつまらない面倒事を持ってくる迷惑な人たちとしか見ていない。少なくとも、大和は彼らの名前を覚えてはいない。いいところ苗字を覚えているくらいだ。向こうも、大和の名前なんて覚えていないだろうが。

 本心を語れば極力関わりあいになりたくはないと、何故こんなやつらと一緒にされなければいけないのかと思っていた。

 もし大和が芯の強い優等生であったならば、手綱を握る役割を期待されたとも考えられる。だが、間違いなく大和にそんなことは期待できない。そんな社交性が、この男にあるはずが無い。

 現に、国崎たちはいつもつるんでいる者同士が同じグループになったために、他の観光客の迷惑を考えずに楽しくおしゃべりしている。そのすぐそばで、大和は『グループメンバーで固まって行動すること』と言う規則にそむきたくはないが、関わり合いにもなりたくないと言う内心が見て取れるような微妙な距離で黙々と歩いているだけだ。

 間違っても「もっと静かにしろ。周りに迷惑だろ」だなんて台詞が出てくることはありえない。

 結局のところ、大和がこのグループに入れられた理由は『どのグループに入れても行動は変わらないだろう』と言う評価を教師から貰っているためだ。

 下手に不良集団の中に善良な生徒を入れれば、朱に交わって赤くなるなんてことになるか、あるいは口論からの喧嘩沙汰になりかねない。どちらにしても、不祥事確定だ。

 しかし、大和にその心配はない。何が起ころうとも大和は何もしないし、何も変わらないタイプの人間なのだ。なんとも『停滞の時代』に適した人格と言える。

 そう、停滞の時代と言うのは技術が到達点に至ったと言うだけの話ではない。もっと広義における停滞を指しているのだ。それは、技術的発展を止めてしまった理由そのものとも繋がる話だ。

 一言で言えば、世界は便利になりすぎた。安全になりすぎたのだ。

 人の欲には限界がない。そんな言葉もあり、それはある意味では真実だ。停滞の時代に生きる者だって、何らかの欲求は持っている。

 しかし、やはりどんなものにも限界はあるのだ。望むものが手に入り、安定してしまえばその欲も満たされてしまう。完全ではなくとも、満足してしまえるのだ。常人に、無限の欲望など存在しないのである。


 事の始まりは数十年前。当時発見された新技術により、世界は飛躍的に進歩した。その結果、多くの満たされないものが満たされ、大勢の人間が幸せになった。

 発見された技術とは、無から有を生み出す神の業。まさに夢の技術。限りない資源の誕生であった。石油だろうが木材だろうが食品だろうが、無節操に無限に作り出すことができるようになったのだ。

 厳密に言えば、本当に無限と言うわけではない。そして、どんなものでも好きなだけ手に入るような便利なものでもない。が、それでも世界に一定の供給と安定を与えることはできるのだ。正しく無限ではないと言うだけで、人類が知る必要がある領域内では無限と定義しても良いだけのモノが生み出せるようになったのだ。

 それによって多くの資産的問題で実行不可能とされていた技術が次々と現実のものとなり、多面的な意味でより世界は安定し、安全になった。

 このまま世界はどんどん発展していく。進化していく。誰しもがそれを疑わなかった。

 しかし、その流れはあるときを境に止まってしまった。それはまるで、誰かの陰謀なのではないかと思われるほどの変化だった。

 その理由は、技術的問題に当たったとかそう言う話ではない。人類が、自分の意思で前へと歩むことを止めてしまったのだ。より良いものを作ろうという、得ようという向上心を失ったのだ。

 その理由はいろいろ考えられた。おおよそ無気力感に苛まれながらの暇つぶしのようなものであったとは言え、一応考えられた。

 出た結論は単純明快。これ以上進化しなくとも、進歩しなくとも十分幸せに生きられるからだと言うものだ。現状さえ維持できれば、これ以上無理をする必要なんてない、苦労する必要などないというものだ。むしろ、下手に変化を与えて現状が壊れるリスクのほうが遥かに恐ろしいというものだ。

 それはある意味、常に人類の前に存在していたあらゆる問題が解決してしまったが為に発生した問題であった。

 もちろん、本当にどんなことでもできるように、全知全能になったわけではない。人類の夢などと言われる不老不死や死者の蘇生などは停滞の時代の力をもってしても夢のまた夢であるし、この先も実現はできないだろうと考えられている。

 もし本当にそれ等が欲しいのならば、人類は止まらなかっただろう。翼が無いのに空を飛びたいと望み、肺呼吸の分際で海の中を調べつくした欲深な種族だ。心から望むものがあるのならば、不可能だと思っていても挑戦し続けたに違いない。

 だが、時を経て賢くなってしまった人類にはそんなことを望む意思がなくなってしまった。いや、望む理由がなくなってしまったというほうが正しいか。

 医療の発展、安全技術の進歩による旧時代的な死亡事故や病死と言った問題の完全解決。豊かすぎる資源がある故の、争ってまで奪う理由を失ったが為の争いの鎮静。

 そんな理由から、殺人に理由を求めない快楽殺人鬼でも現れない限りは自然死以外の“死亡”と言う現象がほぼありえないと言うことになってしまったのだ。

 これだけ聞けばただの理想郷だが、しかしそこに生きる人間に希望はない。希望を持つ理由がない。なぜならば、すでに必要なものはあるのだから。

 誰もが夢見たはずの世界。そこにあったのは、誰もが無気力に、無意味にただ生きているだけの世界であった。夢や希望など持つ前に叶ってしまう世界において、向上心など何の価値も無いものに成り下がってしまったのだ。

 そんな、もうやりたい事はもうやりつくしたと言うような、明ける事の無い無限連休のような人生などやり直す気にも取り戻す気にもなれない。むしろ、生まれて十年もあれば人生に飽きてくるような世界で不老不死を得るなど、これ以上無い拷問だろう。

 

 とは言え、そこに生きている人間だってそんな停滞を良しとはしていない。無気力とは言っても、大概の人間は表面上は活動的に動いている。自制や我慢が意味を失った世界で、欲望を発散しない理由はないのだ。この停滞を打ち崩すほどではないにしろ、生きていれば何かしら取るに足らない欲は生まれるのだから。

 だが、やはり凡人の欲望で求める物は全てそろっている。未知を求めて今無い物を欲すると言う、本当の意味での欲望は失われているのだった。

 しかし、何かをしなければいけないと言う考えを持ちながらも、彼らには何もすべきことがなかった。何かしてしまえば、今満たされている現実が失われるかもしれないのだから。

 その結果、人々は“満たされていなかった”時代の踏襲を始めた。行動を起こしても問題がないことは“わかっている”過去にあった行動を。『進化した技術に頼る今だからこそ、過去から繋がる伝統的な文化を大切にしなければならない』と言う名目で。

 そして、それが最後の止めとなった。一昨日も昨日も今日も、そして明日も明後日も予定調和の内であり、予想通りの同じことしか起こらない『停滞した日々』が始まったのだ。

 立ち止まることこそ止めたのかもしれないが、ただ横ばいに進むだけの無意味な時間である。ただ現状維持だけを考え、進歩も後退もない退屈極まりない生活だ。

 人生とは、そんな文字通り死ぬまで同じことを繰り返すだけのものに成り下がったのだった。では何故学校などあるのかと言えば、それもまた“現状維持”である。今ある技術を廃れさせてはいけないが、しかし発展する必要はないという後ろ向きでも前向きでもない、まさに停滞した理念によって教育は行われている。

 そんな退屈極まりない未来に反抗する、国崎たちのようなルールに逆らう無軌道な人間もいることはいるが、所詮ルールを定められれば反抗したくなると言う子供じみた欲求でしかない。

 その型から外れる行動も、結局は不良と言う型通りでしかない。既存の概念に影響を与えない範囲で、ただ不満を行動で示しているだけだ。不良がどれだけ髪を染めようが制服着崩そうがピアスつけようがメンチきろうが体躯教師の前だけでは大人しくなろうが、そんなもの不良と言う人種が生まれたときから敷かれているレールの上を規定どおりに走っているだけなのである。誰にも縛られないのが俺の流儀だなんて言いながら、思いっきり不良の枠組みに縛られているのである。


 では、大和はどうなのか。彼は、はっきり言えば全てに興味を失ってしまった生きる死人だ。

 はいと言おうがいいえと言おうが、何をしようがしまいが、結果はわかりきっていて何も変わらない。そんな人生に感動と言うものを失った存在だ。

 しかし、それを是とはしていない。退屈で無意味な人生を、世界を、社会を、人を、自分を等しく嫌悪している。嫌悪しようが尊敬しようが何も変わらないという絶対的な法則があるために、それが表に出ることはないが。もしかしたらそんな自分が変われば新しい世界の扉が開くかもしれないと思ったりもするが、そもそも世界自体が変わらぬ停滞の中にいる以上どうしようもないと諦めている人間だ。

 当然、自分の予想通りのことしかしない他人に期待などしていない。何ができるとも思わないし、何か自分に得になるとも思っていない。見る価値がないとすら思っている。

 そんな評価を自分すら含めた全てに適応してしまっている、本当に心から何かを求めたことなんて一度もない、生きながらにして死んでいる人間の一人なのだ。

 こう言うと停滞の時代に即した人間性であるといえるかもしれないが、実は大和は少数派の人間だ。

 何がかと言えば、欲望の有無だ。手に入れる前から下らない、意味が無いと見切りをつけてしまうその精神性は、欲望のままに生きる人間達とは確かに違っていた。根本的な欲望の欠如と言う、世界を色あせさせる病を抱えていたのであった。


(ったく、何でよりにもよってこいつ等と一緒なんだか。……まあ、他のやつでも嫌いに変わりはないんだけど、面倒事を持ってくる馬鹿よりはましだよな)


 現状維持しかしない、変化のない他人など誰だろうが平等に嫌いとは言え、その中でも特に気にいらない人間はいる。文句を言うだけで何も変えようとしない奴が言うべき事ではないが、ただでさえ常時曇り空の大和の心は今や土砂降りであった。

 では何故一緒にいるかと言えば、それが規則だからだ。変わらない人生を嫌っているのに規則を守ると言うのは矛盾した話ではあるが、これで大和は規律を守るタイプなのだ。

 まあ、その真面目さは良心から来るものではなく、かと言って常識の型を破りたくないからと言うわけでもない。学生ならば誰もが思っているように、教師に逆らったら面倒くさいことになるからというだけの理由だ。

 大和は面倒事というだけならば拒まないが、初めから嫌な思いをする事になるとわかりきっている面倒事に首を突っ込むほど酔狂でもない。繰り返されるだけの日常とは違うことが起こるというのなら喜んで飛び込むだろうが、初めから結果がわかっている面倒事ならば断固拒否である。

 大和が嫌う面倒事をわかりやすく言えば、なにが起こるか予想できてしまう類の、マニュアルを読んでいるだけなのではないかと邪推してしまうような、始まる前から内容がわかっている教師の説教などである。あるいは、新学期の挨拶などでもいい。

 事実、大和に教師の説教を解説させれば『中身のない無意味な定型文の怒鳴り声を聞き流す時間。それがあろうがなかろうが生徒の心に変化はない』とでも言うだろう。反抗期真っ盛りのような意見だが、まあテープレコーダーの方が人件費かからないぞなどと陰口叩かれる教師にしか知り合いがいないのだからしょうがないだろう。行動の一々に、停滞の時代の弊害は見え隠れしているのである。


 そして、自分のクラスの中で一番面倒くさいのが目の前を行く三人組だと大和は考えている。もし国崎たちが何か問題を起こせば、大和の嫌いな言葉ランキングで上位に入る“連帯責任”と言うものが適用されることになるだろうから。

 そのため、内心で愚痴を垂れていましたというのが正直な感想になりそうな修学旅行。大和の心は暗かった。

 そもそも、一言で言ってしまえば彼は人間嫌いである。ぶっちゃけてしまえば、人と深く関わることが苦手なのだ。そんな性格を考えれば、団体行動を強制される修学旅行なんてイベントで明るい気持ちになることはありえないとも言えるが。

 話す相手もおらず、寺巡りにも特に興味のない大和は、昔読んだ適当な漫画でも脳内再生しながら時間を潰していた。余談だが、人生に意味を見出せないのが本心からの悩みである大和にとって、非現実の産物である漫画は本当に珍しく好きなものに分類される。もちろん漫画に限らず、非日常的な小説やアニメなども好きだ。特に好きなのは予想のつかないギャグだったりする。もっとも、読む前に予想がついてしまう、既存の枠組みをなぞるだけのテンプレは大嫌いだが。

 そんな風に、一度読んでしまった漫画でも無限に繰り返されている現実よりはマシだと脳内再生で現実逃避していたそんな時、事件は起こった。突然、世界が崩壊するのではないかと本気で思うほどの大地震が襲ってきたのだ。


「地震だ! でかいぞ!!」

「うお! 地割れ!?」


 阿鼻叫喚。その言葉がふさわしい災害である。

 今まで知識として蓄えてきた地震と言う自然現象。それが、甘い認識であったとわからされる絶対的な自然の猛威であった。

 同時に、これはありえないことであった。今の技術ならば、地震を初めとする自然災害などどうとでも対処できるのだ。それが、予想すらされていなかったなどありえない話なのだ。


(何事だよ、これ……!?)


 立っていることができない。そんな大地震を初めて経験する大和は恐怖する。完全無欠に予想外の展開に、大和の心は産まれて初めての恐怖を感じたのだ。

 同時に、経験したことのない何かが起こるかもしれないと言う期待を胸に抱く。そんな異常な精神状態のまま、強すぎる振動のせいで立っていることが困難になり、その場で(うずくま)ってしまった。

 もちろん大和だけではなく、同じグループとして近くにいた三人や、それ以外の彼らとは無関係な人々も同じように身動きが取れなくなっているようだ。


(あー。コレは下手したら死ぬんじゃないかな? 考えたこともなかったけど……地面がバキバキ言ってるのとかはじめて見るし)


 あまりにも凄すぎる光景のせいか、妙に冷静に周囲を観察している大和。

 退屈以外の何物でもないとしか思えない“幸せな人生”と言うものに意味を見出せない大和ではあるが、しかし自殺志願者ではない。死ぬかもしれないという恐怖は、普通に感じている。ここまで強い感情と言うものを抱くのが始めてだと動揺しているほどに。

 恐怖と興奮。二つの感情のあまり、逆になにもできなくなっているのだった。

 そして、大和に負けず劣らずパニック状態に陥った者たちも騒いでいた。


「おい! どうすんだよコレ!!」

「知らないわよ! 自分で考えてよ!!」

「ねえ! 避難とかしたほうがいいんじゃない!?」

「どうやってだ! 立ってらんねーんだぞ!!」

「あーもう! いつも偉そうにしてんだからこういうときにビシッと決めてよ!!」

「そうだよ! 守ってよ!!」


 大和のグループメンバーである三人は大騒ぎしていた。何がなんだかわからなくなっているのか、理不尽すぎる怒声が飛び交っているのだ。

 ある程度は近くを歩いていたために、大和にもその会話ははっきりと聞こえた。一応同じグループであるにも拘らず、大和に関する発言は一言も出てこないところが彼らの関係性を示しているようだ。

 そんなパニック状態になり、絶対に確保されていたはずの安全を突然失った為に何の益も生み出さない不毛な会話を繰り返す三人と、死の恐怖に脅えながらも心のどこかで待ち望んでいた非常事態を前に、頭ばかり動いて特に何もできずに座り込んだままボーっとしている大和。

 この四人のちょうど中心ともいえる場所で、硬いものが砕けるような高い音が鳴った。

 四人は、ほぼ同時にその場所を見る。そこは、まるでエネルギーを溜め込んでいるとでも言いたいように隆起していた。雄雄しくも堂々と、力強くコンクリートが縦になっていたのだ。

 そんな異常事態を前に、四人は示し合わせたかのように一斉に逃げ出そうとする。そこら中で地割れが起こっている状況で、自分の足元が不穏な状況なのに逃げない道理はないだろう。

 もはや立てないとか、まだ揺れているとか言っている場合ではない。とにかく這ってでもこの場を離れる。奇しくも四人の心が一致した瞬間だったが、それは遅かったようだ。

 隆起した地面を中心に、四人を狙ったかのように円形に地面が砕け散ったのだ。足元がなくなり、宙に投げ出される感覚。一瞬空を飛んだような感覚を味わってから、彼らは地の底へと落ちていった。


(あ。死んだ)


 大和は自分の最後を悟る。このまま生き埋めになって死ぬのだと。せっかく面白くなりそうだったのに、もうお終いなのかと。人生初の命への執着心と言うものを覚えながらも走馬灯を見るためか、全ての動きがゆっくりになっていく。

 そんな悔しさと諦めの境地とも言える状態の中で、大和は一つの違和感を覚える。


(足元が明るい……?)


 砕けた地面の底から眩い光が漏れている。大和たち四人は、そのまま光の中へと落ちていった。





(そうそう、地震で地面が崩れて落ちたんだ)


 ここまでを思い出して、動く白骨死体――――大和はため息をつこうとした。そして、現在自分が呼吸していないことに気がついてさらに落ち込んだ。いくら停滞する日常を嫌い、変化を望んでいたとは言っても、白骨死体になるのは嫌だったようだ。

 ここまで思い出せたことを踏まえれば、自分は地震で死んだのだろうかと言う結論にいたる。

 しかし、それでは森の中で白骨死体になっていると言う状況の説明はできない。まあ、白骨死体が動いていると言う説明の方が先かもしれないが。いくら発達した世界に生きていたとは言え、白骨死体が動くことはありえない話だ。

 もしかしたら此処は死後の世界なのかもしれないななどと、現代科学をもってしても証明することは不可能だった世界について思いつつも何かまだ忘れていると言う思いが抜けないのだった。


(ええっと……? まだなんかあったろ? こう、学校の怪談よろしく動く白骨死体製造の過程がどっかにあるはずだろ?)


 大和は、何とか自分に起こった何かを思い出そうとする。だが、うまく行かない。モヤモヤとした感情が、記憶に蓋をしているようだった。

 その正体は、恐怖。地震の後のことを思い出そうとすると、頭を恐怖が支配してしまうのだった。まるで、思い出すことを自分自身が拒絶しているとでも言うように。


(なんでだ。思い出したくないって気持ちがあるな。頭痛い……)


 何気なく大和は自分の額に手をやった。そして、何も感じることはできないことに気が付く。自分の額に触れたと言う感触を、大和は感じることができなかったのだ。


(ああ、そうか。肉も皮もないんだから触覚もないよな)


 厳密に言えば、まったく感触が無いわけではない。酷く曖昧ではあるが、なんとか触れていると言う感覚を得ることはできる。しかし、生前のそれとは比較にならないほど鈍いのだ。

 そんな自分の変化になんとなく納得してしまい、自分が本当に骨になっていることを改めて自覚する。今の姿に相応しい暗いオーラを出しそうになるが、ふと気にかかることもある。


(じゃあ何で頭痛いんだ? 痛みを感じる能力があるとは思えないんだが……)


 そう思い始めたら、途端に痛くなくなった気がする大和。恐怖なんて感情、感じる必要もないと言う気にすらなってくる。


(ただの思い込み? 痛みとか恐怖とか? まあ白骨死体にはない感情ではあるが……)


 われながら単純だなと思いながらも、心がスッキリとする。痛みや恐怖と言う、記憶を封じていたものが失われる。

 文字通り、人外の常識によって一つ人間的な感覚が失われたのだ。そのことに気が付くこともなく、大和は再び記憶を辿りだした。



「イッテーッッ!!」

「なんなのよ……」

「ねえ、ここどこ? なに、あれ?」


 地割れに飲まれ、地の底に落ちてしまった学生四人。本来ならそのまま生き埋めになるはずであったのだが、彼らはなぜか木に囲まれた森の中にいた。

 ある程度は光が届いているために視界が悪い程度で済んでいるとはいえ、森の中に入るなんて経験がない彼らが冷静でいるのは難しい状況だ。

 いや、それ以上に空から放り出されたと言う現実の方が彼らを混乱させる要因であった。

 そう、彼らは空も見えない森の中に空から落とされた。それも、木の上から落ちたわけではない。文字通り、空中に突然表れ、落ちたのだ。藍が唖然とした様子で指差している、地面から五メートルほどにある空間にあいている穴から。


「……空に穴開いてるぞ……」


 大和もまた、唖然としてつぶやいた。予想外の事態は望む所だが、やはり予想外だからこそ強く驚いている。

 そんな驚愕の中で気がつく。その穴から漏れ出ている光は、落ちる寸前に見たものと同じものだと。

 街中で地割れに飲み込まれたのが妄想でないのならば、あの光る穴はワープのような現象を起こしたのだろうか、などと大和は考えていた。やはり現代科学でも原理の説明など不可能な、漫画の中にしかない話でしかないただの思い付きではあるが。

 それなりの高さから落とされたことによって受けた痛みに苦しんでいた国崎や美鈴も、空を見て唖然としている。


(あ、消えてく)


 そして、彼らの目の前で消えるように穴は閉じてしまった。それを見た四人は、唖然とした思考停止状態ながらも焦る。


「お、おい……消えちまったぞ」

「消えちゃったね……」


 唖然としたまま国崎と藍がつぶやいた。


「ちょっと待ってよ! あれ消えてもいいものなの!?」

(いや、消えちゃ不味かったと思う)


 美鈴の叫びに内心で答える大和。個人的な考えではワープポイント的なものだったのではと思っているために、消えられると帰れなくなるのではと思ったのだ。

 もっとも、まずいとは確かに思っているが、同時に“いつものように『消えても消えなくてもどうせ変わらない』と言うことは絶対にない”と言うのが大和には嬉しく感じられるのだが。


「ま、まあしょうがねぇ。なくなったもんはなくなったんだろ。それよりも、ここどこだかわかるか?」

「さ、さあ? 森としかいえないわね」

「うん。知らないよ、こんなところ。……えっと、君知ってる?」

「ん? ああ、俺? いや、知らない……ッ!?」


 いままで空気のように黙っていただけの自分に話が振られて一瞬言葉が詰まったが、大和はすぐに知らないと適当に答えた。今大和の頭の中は現状理解のための予想と、それを何とかするために試行錯誤する喜びで忙しいのだ。

 しかし、答えたところで大和は体も頭も石像のように硬直してしまった。その顔に、恐ろしいものを見たと言わんばかりの驚愕を浮かべて。


「どうしたんだよ……って、ガイコツ!? しかも立ってる! 動いてる!?」

「なにあの化け物!! なんか持ってるけど!?」

「しかも腕四本あるよ!? アレなんなの!?」


 一方を見たまま硬直した大和を見て何事かと思った三人は、大和の視線を追った。

 すると、そこにいたのは四本の腕に剣や槍を持った二足歩行する人骨。禍々しい鎧兜を身に着け、目に相当する部分には強い赤い光を宿している。

 誰がどう見てもありえない化け物。それも、百人中百人が危険だと言うような存在だ。

 そんな殺意の塊を前にして四人が四人とも硬直する中で、四本腕の化け物は彼らに向かって一歩進んだ。

 それを受けて、四人は慌てて立ち上がった。腰が抜けて動けないなんてことになりかねない状況で立ち上がることができたのは、幸運であったと言えるだろう。

 そして、意味不明の化け物から目を離すのが怖いために、後ろを見せて逃げることもできずジリジリと少しずつ下がろうとする。そんな獲物の心理を見透かしたのか、化け物は表情を作ることができないはずの骨の顔に残虐な感情の乗せてさらに一歩踏み出してきた。

 それを見た瞬間、狩られるものである四人も理解した。この化け物は敵である、と。それも、決して勝つことも逃げることもできないような強者であると。

 恐怖のあまり、四人は体をガチガチと震わせ、恥も外聞もなく泣き出す。今まで絶対の安全が保障されていたのに、いきなり生命の危機へ直面させられれば当然だ。こればかりは大和も変わらない。死の恐怖と言うものを感じれば脅えるのは、生物として当然のことなのだから。

 恐怖に震える頭で四人全員が理解していることは唯一つ。このままではわけもわからずに殺されると言うことだった。

 ――――そう、誰かを犠牲にでもしない限りは。

 それが、人生で一番頭を使ったともいえるほどに考えた末の――――国崎の決断だった。


「――――え?」


 ドサっと言う、何かが倒れる音がした。同時に大和は、緊張の極みとでも言うべき精神状態のまま、衝撃と共に自分が倒れたような気がした。自分の身に何が起こったのかわからず、ただ疑問の声を上げた。

 そして、行動を起こした本人である国崎は残りの二人に向かって声を張り上げた。


「今だ! 逃げるぞ!」

「ちょっ! 待ってよ明!!」

「いいの!? あの人は!」

「いいんだよ!! 殺されてーのか!! あいつがやられている間に逃げんだよ!!」


 国崎は、大和を後ろから化け物に向かって突き飛ばしたのだ。ただただ、自分が逃げる時間を稼ぐために。

 なぜ大和だったのかと言えば、それはただの偶然だったのかもしれない。元より、こんな恐慌状態でありながら論理的な決断など下すことなどできないのだ。ただ単に近くにいたからか、あるいは無意識に一番自分との関わりの薄い人間を選んだというだけの話かもしれない。

 もし国崎が冷静であったのならば、地面に転がった獲物と逃げようとしている獲物の内、化け物は逃げる者から優先して仕留めるかもしれないなどと考えたかもしれない。しかし、今の国崎にはそこまで考える余裕はなかった。

 そんな焦りは国崎に味方する。化け物は背を向けて走り去る三人を無視して、ゆっくりと地面に倒れた大和に歩み寄ってきたのだ。国崎にとっては運よく、大和にとっては運悪く、この化け物は逃げるものよりも仕留められる者から仕留めようという決断を下したのだ。


「やめ――――ガァ!?」


 化け物は手に持った槍をゆっくりと振りかぶる。それを見た大和は、言葉が通じるとも思えないとは言え、せめて命乞いをしようと口を開こうとし、失敗した。絶望に染まった大和の顔を見て満足したのか、恐怖のあまり指一本動かせずに這いつくばっている大和の心臓に槍を突き立てたのだ。


(死ぬ? 死ぬのか、俺は?)


 強烈な痛み。命そのものが失われていく感覚。いくら大和が死を拒絶しても、力なきただの人間に死から逃れる術などない。心臓に大穴あけられて、それでも生きていける生物などいるわけがない。


(……ハハッ。死? これが死? さすがにこれは始めての経験だ……。いったいなんで俺が死ぬんだっけ……? なんで? どうして? ダレノセイデ?)


 死の間際、恐慌状態だからこその心の暴走。停止していた心が、暴走気味に加速する。死の恐怖、そして憎しみで加速する。

 そんな心に合わせて、四本腕の化け物から何かが流し込まれた。その何かが破壊された心臓から全身へと巡るような感覚の中、もう言葉を話すことすらできないほどに弱りきった中で、大和の心に宿った憎しみは更に強大なものへと膨れ上がっていく。


(ククク……ッ! にくいニクイ憎い! 俺を殺した、使い潰した奴らがニクイィィィィィ!!)


 人生で一番と断言できるほどに、大和の心は強い憎しみの感情に支配される。その憎しみの心が命ずるまま、大和は最後の誓いを立てる。


(死にたくないなぁ……。ああ、そうか。初めて感じるな。……これが、欲か。欲しいって感情か……。手を伸ばしても手に入らないモノへの渇望ってやつか……)


 望まなくても手に入る。急がなくても余ってる。それが当たり前である停滞の時代に生まれた人間の、初めて感じる欲望。自らの命、ただそれだけを望む原初の欲望。そんな強烈な燃料を得た心はさらに暴走し、燃え上がる。欲望は、肥大していく。


(俺から命を奪ったんだ……。あいつ等からはもっと凄いものを奪ってやろう。喰らってやろう。何がいいかなぁ? 絶対に補充ができなくて、代わりが効かなくて、命よりも価値のあるものがいい)


 今度あったら殺すよりも悲惨な目にあわせてやる。持ちうる全てを蹂躙し、喰らい尽くしてやる。

 何を奪ってやりたいのかもわからず、ただ奪いたいという感情(きょうき)が大和を支配する。もう不可能な復讐を誓いながら、人体の急所を破壊された大和は僅かな抵抗すら許されずに意識を、そして命を失った。





(ってとこまで思い出したな……ふぅ)


 回想を終え、納得した大和はひざから崩れ落ちた。思い出してみれば、思いっきり殺されていた。

 自然災害でもなんでもなく、正体不明の化け物に殺されたのだ。信頼関係も友好も存在しないとは言え、クラスメートに囮に使われて。


(しかも、復讐の誓いとか立てていたよ。死の間際なんてありえない状況での異常なテンションだたとは言え、まさか化けて出てやるなんて古風なこと考えるとは……。しかも、ほんとに化けて出ちゃったよ、おい)


 とは言え、そんなことを考えたからって化けて出るなんてありえない。結局自分が骨になってまで何故動いているのかと言う疑問も解決はできなかったが、はっきりわかったことがある。それは、間違いなく自分が殺されていると言うことだ。

 幻覚や夢を見ているだけと言う、常識的な仮説に対する完全な反論が自分の記憶から出されたのだ。

 それを認識すると同時に、骨となった体が、ひざをついた状態のまま震え始める。しかし、それは自分の命が失われたと言う悲しみに震えているわけでも、自分を殺した化け物への恐怖を思い出したからでもない。

 むしろ、そんな細事に対して大和は特に思うところはなかった。それどころではなかったのだ。


(そんなことはどうでもいいか……)


 無数の疑問を抱える心中の中で、それらを全てどうでもいいと破棄する。今、大和の冷えきった心の中にあるのはたった一つの思いだけなのだから。


(ああ……楽しみだ。産まれて……死んでまでして初めてのことだぞ……心の底からやりたいことができるなんてのは……。アイツラに早く会いたいねぇ……。今度は……俺が喰らいつくしてやる……!!)


 自らのものとなった骨の体を動かし、大和は再び立ち上がる。そして、天に向かって憎しみの咆哮を上げた。骨の体では出すことのできない咆哮。しかし、それでも恨みをこめた魂の咆哮を発した。

 まるで怒りに呼応するかのごとく、微弱ながら力を感じさせる赤い光が体中から放たれる。大和は、大和であった化け物は、偽りの命を持って生者を憎むアンデットとして正しく、ここに誕生したのだった。

 自分を犠牲にした者たちへの、人ならざる憎しみの結晶をその身に宿して。

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