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竜神強志

 ――――――未来。


 竜神は思わず視線を流しそうになったが耐える。

 振り返る事はできない。振り返ったら、即座に父に押さえつけられるだろう。目は正面を見たまま、意識は必死に背後の気配を探る。早くこの建物から出ろ。冷泉の車に逃げ込むんだ。


「駄目だ、隔壁を下ろさせろ! すぐに連絡するんだ! くそ、何て失態だ、隔壁を使うなんて査定が……!」


(隔壁?)

 傍に居た男がトランシーバーのような連絡機を手にした。

 駄目だ。隔壁なんか下ろされたら逃げ場がなくなる。

 撃たないと。

 連絡しようとしているあいつを、殺さないと。


(殺す? 人をか?)


 竜神は躊躇ってしまった。所詮16歳の子供だ。

 拳銃は脅しだ。人を殺す覚悟はなかった。


(いや、殺す必要はねえ。撃つだけでもいいはずだ。怪我をさせれば怯ませることができるから――)


 銃口はトランシーバーを持った研究員を向いた。その瞬間、銃声がフロアに響いた。

(え?)


 竜神の腹に、胸に、衝撃が走る。

 撃たれた。


 父が、銃を構えていた。

(やっぱり、本職には適わないか)

 竜神の意識がそれると同時に拳銃を抜いたんだろう。全然気が付かなかった。


「竜神!!!」


 未来の声がした。ずっと我慢していたけど、とうとう後ろを振り返る。未来がこちらに走ってきていた。


 ばか、こっちくんな! そこの角を曲がれば、もう、出口なんだ!

 叫んだような気がしたが、声が出たかどうかは自分でもわからなかった。



 視界が狭くなる。真後ろに隔壁が降りてきていた。なんてついてない、すぐ後ろに降りてくるなんて。もう少し後ろにいればよかった。

 後悔した矢先、唐突に視野が開けた。一瞬、隔壁が上がったのかと錯覚したが違った。自分が床に倒れただけだった。

 立ちたい。立ち上がって少しだけでいい。後ろに移動したい。未来のいる区画に入りたい。


 腕を伸ばし、掌を広げる。結局使うことができなかった拳銃がごとりと落ちた。





「竜神――――!!!」






 竜神の名前を呼びながら、未来は必死に走った。


 見慣れた背中を見た途端、もやがかかって夢の中にいるようだった意識が一気に覚醒した。


 隔壁の向こうから手が差し伸べられる。

 未来は必死に駆けた。この細い腕で竜神を引っ張るには時間が掛かる。


 早く駆けつけて、竜神の腕を掴んで、あいつの体をこっちに引っ張らないと!

 なんで、お前、寝てるんだよ! なんでお前の体の周り、真っ赤なんだよ。血じゃねえかそれ、なんで!? 嘘だろ!? 幻覚だよな!?


 体が動かない。そうだ、この体、足が遅いんだ。それに随分長い間、ちゃんと使ってなかった。


 早く、早く、腕を!


 お互いに広げた掌と掌。

 指先がほんの少しだけ、触れた。


「りゅう――――」


 その瞬間、隔壁は容赦なく竜神の腕の肉を、骨を潰し、降りた。











 竜神は少しだけ、笑顔を浮かべていた。


 伸ばした手の先、指先に、ほんのちょっとだったけど未来のぬくもりを感じた。

 すぐに腕が潰されたので、本当に、ちょっとだったけど。


 最後に、触れた。

 ちっちゃくて柔らかくて、いつも無防備にくっついてくる未来の手。


 竜神の頭に、いつかの未来の言葉が浮かんでくる。



『なあ竜神、エロイことしよっか』


 あの時、やっときゃよかったかな。

 胸に入れたボイスレコーダーなんか止めて好きだって告白して。

 あれは反則だった。理性飛んで襲うかと思った。

 あぁでも、本気でやろうとしたら絶対嫌がっただろうな。

 怖がらせるのは嫌だった。怯えた目で見られたら立ち直れない自信があった。


 臆病者の癖に警戒心がなくて、次から次にトラブルに巻き込まれて、姿が見えないといつもハラハラさせられてた。





(未来)




 隔壁の向こう、未来の姿を探すように見ていた瞳の焦点が無くなり、やがて、瞳孔がゆっくりと開いていった。


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