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竜神の父

 地下研究室から上階へ上がるルートはいくつかある。

 今回、井上が使うルートは非常口だ。

 普段は使われておらず、一直線に外まで出れる。

 未来が監禁されていた部屋から非常口までの道が煩雑ではあったが、この時間、地下は無人だ。あっけないほど何も無く非常口まで辿りつけた。

 後は階段を登って、一階の廊下を抜けるだけだ。



――――――



(早く……、早く来い、未来)

 竜神は出口近くで待機していた。

 井上が手間取っているのか、未来の足が遅いのか、なかなか二人が上がってこない。

 非常口にはLの字に接する通路があった。一階の避難用経路だ。妨害されるとしたらこの道だけとなる。だからこそ竜神はここで待機していた。

 


 竜神の祈りも虚しく、角の向こうから声がした。

「未来が逃げたって本当か!」

「あぁ!! 早く出口に!」

 怒鳴るような声と、革靴の足音が近づいてくる。

 

(くそ、もう見つかったのか)


 竜神はできるだけ曲がり角近くまで接近して、銃を構えた。


「止まれ。動くんじゃねえ」

 男達が角を曲がると同時に低く宣言する。


「な……なんだ!」

「動くな!」


 膠着時間が始まった。

 飛び出して来たのは警察官だった。

 少しでも油断すれば反撃されるだろう。


「お前、まさか、強志なのか」

 訊きなれた声に竜神は驚きに目を見張ったがすぐに平静を取り戻した。

「親父。ここに居たのか」

 角から姿を見せたのは、父、宗人(むねひと)だった





「なぜ、なぜこんな真似を。その銃はどこから」



 父は努力していた。

 未来と強志が会えるように取り計らうために。

 所長にさえ会えずに、今日は三人もいる副局長の一人に門前払いされたばかりだ。それでも、努力はしていたのだ。

 なのになぜこんな真似を。

 強志は目の前にいるのに、まるで悪い夢でも見ているかのようだ。


 宗人にとって、強志は、良くできた息子だった。

 強く、賢く、礼儀正しく、弱いものを守って。

 まだ高校一年生だというのに、護衛の任も完璧にやり通した自慢の息子だった。

 将来、専属にしたいと言う要人が何人も居た。自分の厳しい躾にも耐えてきた強く逞しい息子だった。

 それがなぜ、こんな馬鹿な真似を。


「未来を泣かすからだ。オレはあいつの護衛だろ」


 宗人に後悔が押し寄せてくる。監視役などやらせるべきではなかった。強志の正義感と、名の通り志に強くある精神が仇になった。


「どうやってここに侵入した」

「いえねえ」


「……強志!! このまま意地を張り続けていたら、どうなるかわかるだろう!」

「それでも引けねえよ」

「そうか、残念だ。残念だ、残念だ、とても」


「未来だ!!」


 警察の後ろに続いていた研究者が叫ぶ。



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