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兄の絶望

 小さな体に男が跨って、押さえつける。

「――ひ――――いやああああ! た、たすけて――――やああ……!」

「未来君、答えて欲しいな。こういう風に乗られたのかな?」


「やああああ! いやああ! やだあああ!」





 見学に訪れていた日向猛は愕然と言葉もなく、男の下で泣く未来を凝視していた。



「――な――なぜあんな真似を!! 今すぐ未来を開放してください! あの子はオモチャじゃない! 心が壊れてしまう!! この部屋も――なぜ、こんな場所に未来が」


「オモチャだなんて思って居ません。あの行為は、上田早苗の記憶を引き出すための医療行為です。あなたも報告書を読んだのでしょう? 未来の中に早苗の人格目覚めている可能性があるという報告書を。脳と体の研究のためです。許可は取った筈ですよ日向先生」


「あんな方法に許可を出したつもりはない!!」 

「ですから、あれは医療行為です。携わっているのは心療に長けた医者ですから、ご心配なく」


「に、兄ちゃん……!?」


 室内の未来がこちらを向いた。

 視線が合わないのは室内からは外が見れないからだろうか。全面的にマジックミラーになっているのかもしれない。


「兄ちゃん!! 兄ちゃん、兄ちゃん、ここから出して! 家に帰りたいよ! こんなの治療じゃないよ、怖い、助けて! トイレも風呂も丸見えなんてひどいよ! こんなの病院じゃない、お願い、出して!! か、体に触ってくるんだ――こ――怖いんだよぉ! 助けて、出して、帰りたい、帰りたいよおお!」


 男に押さえつけられたまま未来が叫ぶ。悲壮な声で。


「未来を出せ!!」

「無理ですよ。先生、貴方が次の手術を成功させれば、未来君は施設を出る事ができます」


 さぁ、手術を始めましょう。


「やだ――あああ! 離せ、離せぇええ! 兄ちゃん助けて、助けて、ここから出してえぇぇ!!」




 猛はそのまま同施設内の最上階にある手術室に入って、二人の患者を前にした。

 二十時間にも及ぶ手術であったが完了する前に手術は終わった。

 患者の死亡――――。

 脳の移植が完了する前に生命活動を停止させた体を前に、猛は呆然と立ち尽くしていた。

「また、明日、新しい患者が来ます。今日はゆっくりお休みください」

 ねぎらいのようではあるが、呆れの混じった言葉を背に受け、手術室を出る。

 シャワーを浴びてもまだ、血の臭いの残る体で猛は警察署を訪れていた。


 研究所に監禁されている未来を救出してほしいと、一般人の多い警察署の窓口で叫ぶ。自分が何をしているかもよくわからなかった。

 猛は三箇所ほど場所を移動させられ、最終的に署長室に居た。

 そこに居た男は、判りましたと力強く頷いて、猛は安堵した。

 これで未来が自由になる。

 とにかく未来さえ開放されれば、脳移植の成功に向けて手術に専念できる。


 安堵は束の間だった。


 研究所に戻るなり、所長に呼び出されて告げられたのだ。


「先生、警察に行っても無駄ですよ。この施設を警備しているのは誰だと思っているんです? そんなことより、早くお休みになってください。寝不足では集中力が下がります」


「――――――」

 猛は虚ろに瞳をさ迷わせた。この研究所を警備しているのは警察だった。



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