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葬儀



 竜神強志と日向未来は、病院から抜け出した後、駆け落ちして、心中。

 それが発表された二人の死因だった。




 未来の母親が錯乱状態だというので、強志の父、宗人の強い希望で未来と強志の葬儀は合同で行われた。

 未来の父である日向悟も、母、知香子も天涯孤独の身の上で、葬儀を開く親族が無かったからだ。


 そんな葬儀の中、少年が叫んでいた。


「竜神先輩の胸に銃創があったんだ! あの二人が心中なんかするわけねーんだ! 調べたら竜神先輩の胸に銃創があって手が千切れてた! 未来先輩だって頭を打ち抜かれてたんだ! あんな死に方普通じゃねえ!」


 明るい髪色をした少年だった。黒服の男達が慌てたように、だが、しめやかな葬式を邪魔する子供を嗜めるように押さえつける。


「見てくれよ! 本当に竜神先輩の体、銃創だらけなんだよ! 右手も無かった! なんで見ねーんだよ!! バイク……! バイクだって、先輩、駆け落ち前に売ってたんだ! おかしいだろ! どうして逃げるのに足売ってんだ! 絶対おかしいだろ! 心中なんかじゃないんだ! ちゃんと調べてくれよ! あんたら警察なんだろ!!? 竜神先輩は女死なせる男じゃねーんだ!! 未来先輩だって竜神先輩のこと死なせるはずなんかねえ!! 竜神先輩死なせるぐらいなら自分が死ぬってぐらいに根性ある人なんだ!! 心中なんかするわけねえんだよ!! 二人とも、殺されたんだ!!」


 押さえつけられながらも、必死に叫ぶのは、達樹だった。



 無理やり引っ張られ、学生の列に引き戻される。

 達樹は訴え続けたが、参列している大人達は気の毒そうな顔で達樹を見るばかりで、誰も何も答えなかった。







「浅見さん……」



 達樹は浅見の正面に立ち、浅見の右腕を左手で、左腕を右手で力いっぱい掴んで、顔を伏せ、大声で泣き声を上げた。

「ちくしょう、なんで、なんで聞いてくれないんだよぉお! あんな、おかしい、ぜったい、心中なんかじゃねーのに、なんでだよお!!」

 ぼたぼたと達樹の涙が足元で弾ける。


「絶対に、許さない、許さない、許さない」


 腕に達樹をしがみ付かせたまま、浅見もまた涙を流しながら呟き続けていた。席に座る大人達の顔を一人残らず頭に刻みつけながら。


 葬儀に参列し涙を流す一年二組の同級生達と一緒に立つ百合は、泣くこともせず、ただ虚ろに、二人の遺影を見ていた。

 しゃがみこんで号泣する美穂子に掛ける言葉すらも無く。




 その同時刻、日向家。



 テーブルの上に、冷めた味噌汁とトーストが並んでいた。

「猛、未来、早くご飯食べなさいよ。もうすぐ強志君が迎えにきてくれるんでしょ?」

 テーブルには母しかいない。もう、そのテーブルには誰も座らない。未来も猛も死んだ。迎えに来る竜神も、もう。

 それでも母は叱るように言って、テレビに目をやった。


 この二日後、日向宅から火が上がった。火事の原因はガスの不始末。火をつけたまま台所を離れたのが原因だ。


 狭い坂と、長い階段の先にある家の消火はとても困難で、類焼さえしなかったものの、当時自宅に居た日向知香子は死亡した。



 更に、数日後。



 世界で始めての脳移植者に対する虐待がいくつかの海外のメディアで話題となった。だが、日本では問題にもならず、報道も無く、話題に登ることすら無かった。







 当然ながら、加害者は誰一人として処罰されなかった。






 花沢家の地下室で、モザイクの掛けられた海外のニュース動画を見て、達樹が搾り出すような声を上げた。

 動画の中で悲痛な悲鳴を上げるのは、モザイクがかかっていても未来だと一目で判った。華奢な体を何人もの男が押さえつけている。


「こういうこと……だったのかよ……。だから未来先輩と竜神先輩は、あんな……!! あんた、知ってたんだろ!? なんで教えてくれなかったんだよ!! おれだって、何か力になれ――」


 達樹は絶叫して百合の胸倉を掴んだ。

 百合も同じぐらいの声量で叫ぶ。


「お前が何の役に立つんだ!! 葬式の時でさえ相手にもされなかったガキが!!!」


 達樹は息を呑んで、テーブルを蹴り畜生と悲鳴のように叫んだ。


「おれが何の力も無いガキだから、おれが、普通のガキだから……!! おれの言うこと、無視できないぐらい偉くなってやる、絶対絶対絶対絶対先輩殺した奴ら破滅させてやる!! 浅見さん! あんた、賢いんですよね。あんたも上、目指してください。一番、上!!」


 激昂して浅見の胸倉を掴んでくる達樹と違い、浅見は酷く静かだった。

「当然だよ。何があっても、引きずり出して後悔させてやる」


 百合はパソコンの電源を落としながら一人ごちた。

「私は執念深いんだ。陰湿だし」

 ――卑怯者。

 美穂子は何も言わなかった。何も言えずに、泣き声さえ抑えられずに涙をこぼし続けていた。


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