オーケン村民の総意
ニアが出て来ませんw
この村オーケンの村長パパゴは目つきの鋭い老人だった。
その昔、王都で治療師をしていたが年を取り引退して故郷であるオーケンに戻った。
その頃この村に治療師は居ず村人は帰郷したパパゴを喜んで迎えた。
王都で仕事をしていただけあってパパゴの知識は高く、村の揉め事や隣村との問題・交渉などの相談を受け早急に解決したことがきっかけとなり、滔々数年前には村長にと願われ今に至っている。
そんなパパゴはこの村で少しでも危険や問題が起こる事を未然に防ぐ為、村への訪問者を常に注意していた。
そうそれが例えどんなに小さな子どもであろうとも妥協しなかったのである。
勿論ダンもそしてここに集まっている村人もそのことを理解していた。
その為、パパゴのヒロを見る冷たい視線や態度を正当で当然だと認めていた。
「・・・・と言う訳で獣を倒す事が出来、3人とも生き残れたんだが。その後こいつと姉は記憶を無くしいるらしく家や親・国の事なんかを聞いても答えられんかった。それに凶暴な獣に襲われ追いかけられたショックもあったんだろうな取り乱してたよ。そんな2人をそのまま山に残す事なんぞ出来るわけがないからな。まぁそう言う訳で連れて来た。」
身振り手振りで語るダンの声だけが静かな部屋に響いている。
「とりあえず村へ帰ろうと思ったんだが倒した獣をほっとくわけにもいかんと思い直してな。ほら血の匂いにつられた獣が集まっても困るしな。なら解体して重要な部位を持てるだけ持って帰っり、もったいないが残りを埋めようとしたんだ。そしたら驚いた事にここに居るヒロが100kgを超える獣を持ち上げちまってな。驚いて尋ねたら本人もなんでそんなこと出来るかわからんって言うし。じゃあなんでそんな事したって聞いたら俺が獣を村まで運ぶ方法を考えてるみたいだから手伝おうとしたって言うんだよ。早い話、俺を助けたかったらしいんだよ。まぁ、そのおかげもあって殆ど持って帰ってこれたんだけどな。」
なんのよどみもない報告は疑う箇所を与えなかった。
そしてダンはヒロを振り返り顎をしゃくって促す。
「ヒロ。パパゴさんに持って帰って来た物を渡せ。それは村長の家になら釣り合うと思う。結構な値打ちがつくだろうからな。そうそう村の者には家に置いてある残りを均等に分けて後で届けるからな。」
ヒロはダンの言葉を受けて自分が担いできた袋を机の上に置き、中身を出した。
周りで覗き込んでいた村の男たちは出て来た物に戦いた。
そこに表れたのは見事な1匹の獣の毛皮だった。その毛皮には頭がついておりその表情は目を見開き口を開いた壮絶なもので今にも怒り狂った獣が動き出しそうだ。
「腹の毛皮はあまり綺麗なものじゃなくなっちまったが勘弁してくれ。そこは岩から落ちた時に傷ついちまったんだ。」
ダンは毛皮に近づくとひょいと持ち上げ傷の部分をさらす。
なるほど、そこは何かで突き破られたように裂け、血で赤黒く汚れていた。
「これはキングワイルドボアじゃないか。よくこれに追われて無事で帰ったものだ。」
先ほどまで無言でダンの報告を聞き真偽を確かめるように鋭い視線を向けていたパパゴは机の上に出された獣がキングワイルドボアだと気づくと身を乗り出した。
キングワイルドボアはノーラの森の奥深くに住み、その巨体は3mを超え重量も100kgを超えるものが多い。
性格も凶暴で自身の視線の先に止まった同種族以外にその重量級の体と鋭い牙で攻撃をしかけるのである。
大きな身体なのにスピードも速く逃げ切ることは難しいことから人々から恐れられていた。
ここに来て初めて獣の名前が解ったヒロはかすかに目を見張った。
その表情の変化に気づいたパパゴは、どうしたのかと声をかける。
「いえ、その獣の名前が初めて分かったので。こんな獣にも名前があり人々に認知されてるんだなぁと・・・。僕と姉はお互い以外は解りませんので。」
ヒロの自嘲を含む全てを諦めたような笑みの答えにパパゴは問う。
「お前は記憶を全て失ってるわけではないのだな。」
その確信めいた言葉にヒロは頷く。
事前の打ち合わせ以外のことを言い始めたヒロにダンは驚き絶句する。
「姉は僕と違い全てを忘れてしまいました。僕以外の全てを。僕はところどころですが覚えていることがあります。自分の出身や両親の事などは思い出せないのに姉と僕をあの森に捨てたのが叔父であることは覚えている。姉と僕が家出をしたように偽装したのも叔父であるということも。叔父が両親を妬んでおり両親に似た僕たち2人が目障りだったことも。ページが抜けた本のように覚えているんです。」
とつとつと語られるヒロの話に周りに集まっていた男たちからすすり泣きのようなものが聞こえる始める。
そんな村人の様子を見ていたパパゴが何か言おうとするのを見て、ヒロが慌てて言葉を続ける。
「待ってください。最後まで僕の話を聞いてください。こんな得体の知れない子どもを村に入れたくないことは解っています。だから僕は出て行きます。だけど何もかも忘れてしまった姉だけは置いてやってくれないでしょうか?もしそれが叶えられないのであればせめて姉の体力が戻る2・3日の滞在を許してください。」
そう懇願し頭を下げるヒロに村の男たちはパパゴへと視線を向ける。
その眼には「こんな子どもを放り出すのか」と非難が籠っていた。
パパゴは皆のその様子を見て、その意思を確認すると最後にヒロの近くに身を寄せ肩に手を置いていたダンへと視線を向ける。
そのパパゴの視線を真っ向から受けたダンが頷くとヒロへ言葉をかけた。
「この村に滞在することを許そう。そしてお前と姉、2人の後見人としてコランダムをつける。コランダムに村の決まりなど細かいことを聞いて守るように。」
そのパパゴの答えに周りにいた村の男たちから「我らオーケンの民はお前たちを歓迎する」と声が駆けられたのだった。
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