悪口は本人が居る前でw
「♪~犬のおまわりさん困ってしまってわんわんわわ~ん~♪」
静かな森の中にニアの歌声だけが響いていく。
指で音程を取りながら楽しそうに歌うのをダンさんは意味も分からない歌詞になんの突っ込みもせずニコニコと聴いている。
「ニア姉ちゃん、その歌やめない?」
「え~。しょうがないなぁ。んじゃ♪~パトラッシュ僕の友達~♪『それもやめようよ』つまんない。」
ニアが歌を変えてもヒロは全て情けない声で止めに入った。
それもそのはず、ニアが歌うのは全て犬が出てくる曲なのである。
勿論、ヒロをからかって遊んでいるだけなのだがw
そうこうしてるうちに村が近くなりニアはダンにお願いをする。
「ダンさん。村の人に対しての説明は辛い事があって記憶無くなってる迷子だってことにしてほしいんです。」
「そうだな、確かにそのままを話すと引かれるだろうしな。」
「でしょ。記憶が無くなってるから親や住んでた所が解らなくても問題ないし。後、ダンさんに私たちは助けてもらった設定でお願いします。」
最初のお願いはすんなり通ったのに2つ目のお願いを言った途端、ダンは怪訝な顔をする。
きっと事実と正反対なのが気になるのであろう。
でもこれだけは譲れないノアは理由を話す。
「だってね。ダンさんより遥かにヒョロくて子どもな私たちが大物の獣倒したって言ったら警戒されて村に入れなかったり、見張りがついちゃう。だから私たちが助けられたことにしてね。ネコ被っとくから。」
確かにこの細くて子どもな2人に助けられたと言われたら、相手は魔人の子どもか?と大騒ぎになるだろう。
しかも拾って来た先がノーラの森だ。
危険な険しいノーラの森を子ども2人で大型の獣と対峙し倒しているとなると胡散草すぎる。
そう考えるとノアの提案は真っ当だと言える。
だがニアの言い分でわからない所があるからなぁ・・・。
ノアのお願いに考え込むダン。
それを見てニアは自分の考えがおかしいのか?と心配になった。
ヒロはダンの表情から何か引っかかりがあるんだろうと思いダンに問う。
「ダンのおっさんはこの話のどこに引っかかってる訳?」
「ネコだ。」
「「ネコぉ~?」」
素っ頓狂な声を出し2人はダンをマジマジと見つめる。
どうやらダンが冗談を言ってるわけではないらしい。
しかしネコって・・・。そう考えて気づく。ここが異世界だったことを。
そう言えば、さっきも「犬ってなんだ?」って言ってた。
どうやらこっちに犬も猫もいないのか、または別の名前なんだろうか?
兎に角、話を進めたい2人は犬や猫が自分たちが居た所の愛玩動物であることを話す。
「ってことはそんな愛玩動物を被るのか?どうやって?」
そこで2人は気づいた。
どうやら慣用句がわかってなかったらしい。
なるほど全ての言葉が通じる訳ではなく、こちらの世界では無いものや無い表現は伝わらないようだ。
村に着く前にこのことが分かって良かった。
もし分からないままだと辻褄が合わなかったり不信がられたりすることになっただろう。
いやぁ、良かった良かったと2人で喜んでるといつまでも説明がされないダンは「だから猫被るって?」と何度も何度も聞くのだった。
猫騒動が一件落着した途端ダンさんが大きな声をあげる。
「しまった。死んだ獣を置いてきてしまった。」
死んだ獣とはダンさんと知り合うきっかけとなり不幸にもヒロのとび蹴りを食らって昇天した獣である。
「置いてきちゃまずいの?」
「あんな大物の死骸が村人が入ることが出来る山の中腹にあるとその匂いに引き寄せられた他の大型の獣に出来わし襲われたりする可能性がある。だから・・あ~重いから運ぶのは無理か。仕方ないから埋めるか。」
そう諦めたように言いながらも凄い大物だったのにもったいないと肩を落とすダンさん。
「じゃあさ必要な部分を持って行けそうな量だけ持って後は埋めるってどう?」
「なるほどそれはいい考えだ。村への土産にもなるしな。」
「で、ニア姉ちゃんにダンのおっさん。その獣はどうやって仕留めたって言い訳するわけ?」
ヒロの一言にそれまでお土産お土産とはしゃいでた2人は停止する。
ヒロはひとつため息を吐く。そして2人について来いと言うと先を歩きながらもう一つの口裏を合わせる考え話す。
「俺とニア姉ちゃんを見つけたダンのおっさんは、俺たちが獣に追いかけられてるのに気づき自分が囮になった。運が良いことに獣は追いかけるのに必死で岩にぶつかって自滅ってのでどう?そうすれば、ダンのおっさんが俺たちを助けたってのも辻褄が合うし、土産も持って帰れる。」
2人はその話に飛びついた。
凄く良い考えだと褒めていたのだがその褒め言葉が段々横道にそれだす。
「さすがヒロだな。いつも嘘ばっかついてるからすぐにそんな考えが次々と出てくるんだな。」
「あのね。ヒロは嘘吐きじゃなくて腹黒いんだよ。」
「なるほどそうだったのか。腹が真っ黒なんだな。」
ヒロはこのまま2人を今向かっている場所に横たわっているであろう獣と一緒に埋めてしまおうかと思った。
だがニア姉ちゃんだけはやっぱり止めようと相変わらずニアだけは甘いのだった。
先を行くヒロがそんな物騒な事を考えているとは露知らず、ニアとダンは楽しそうに本人が居るのにも関わらずヒロの酷評をするのだった。
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