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無題詩1~42(2011年)

無題詩42

大鎌を振り回して虚空を斬り裂く。都会のど真ん中で。

陰る空が億劫に感じさせる。身体が鈍る。

醜い肉体を持ちながら僕は叶わぬ夢を切り捨てた。

就職活動という名のテロ活動。心が鑢で削られる。

特に特技はない。あるとしたら詩を奏でることだけ。

胸に祈りをささげ天を見る。曇天だ。ひたすら黒い。

闇の中で終わりを感じながら鎌を振り続ける。

神域を目指し、悲しき音楽を幻想に投げ捨てた。

ぽちゃん、とむなしい声だけが反響した。

罪に濡れた屍だけがずっとこちらを見ている。

汚い口をにやぁっと開けて、深淵の言葉を紡ぐ。

「永遠に飴玉を舐めることが幸せとは限らない」

ポータブルゲームとインフルエンザだけが流行って、

義理と人情は時代遅れ、幸福論や性善説は怪物に食べられた。

蔓延るチェーンメールとスパムとウイルス。無数の罪。

許しを求めながら僕は大鎌を振り続ける、地獄へ向けて。

時計の針が昔より早い気がする。チクタクとうるさい。

幻影が過去としてアイデンティティを乗っ取る。幻が。

虚飾のまま人々は螺旋を描き、コンビニのおにぎりを食べる。

プラスチックのコカ・コーラを飲みながらちっぽけな健康に気をかける。

僕が大鎌を振ることによって、ざわざわと退屈がおもちゃ箱に変えた。

街は騒然となって煩いサイレンが脳に伝わる。ノイズとノイズ。

働きアリの人々はただ集まる。何も知らないのに。何も知らないから。

「武器を離して投降しなさい。そして精神病院に入りなさい」

それでも僕は大鎌を振り続ける。見えない星々に向けて。

時空を破る衝撃波は落葉に似た刻印を残す。残滓は光る。

「パン」「キャー」突然、お遊びのような音が炸裂する。

ピストルの音が鼓膜を劈いたことを認識した。空砲はあたかも歪んだ政治のようだ。

「常識があなたを許さない。法律があなたを罰する」

超自我を屠るけたたましい警官の声と無関係の振りをする野次馬。

「そうだ、そうだ! 早く死ね。早く死ね」と粘土人形が叫ぶ。

僕はただ解放の時を信じて、大鎌を振り続ける。慈悲深く。

絶望ではない。この感情は絶望なんかではない。単なる慈悲と喧伝。

ラブソングを歌うのように大鎌を振り続ける僕に都会の欲望がぶつかった。

それは空き缶だった。誰かが投げたのだろう。悪意ある誰かが。

平然とけらけら嗤う聴衆に殺意を覚えたけれど、僕は何もしない。何も考えない。

幼少期に記憶を遡るように、すべてを終わらせるように、僕はただ、

――僕はただ、大鎌を振り続ける。空へ、穢れない空へ、目指しながら。

刹那、鮮血が僕の胸から噴き出した。贖罪の如く、ドクドクと流れている。

狂気の銃弾。抑止力。ご都合主義。メトロポリスの多数決。

仰向けで倒れた僕の網膜に映るは、悲しき蒼穹。空は晴れていた。

それでも、それでも!僕は大鎌の柄を持つ。……でも、もうお終い。

なんというバッドエンドだ。唾棄すべきバッドエンドだ。汚い。

まるで意志のないロボットの反乱のように、人々は認知するだろう。

メディアは僕を取り上げ、連日、僕の話題で盛り上がる。

消費品の如く無意識のまま過去の遺物となる。食い物と同じで。

景色に赤と青が解放されている。色彩の花飾り。なんと綺麗だ!

僕はもう大鎌を振れなくなったけれど、この儀式は誰かに承継するのだろう。

終結に導く若者はこの時代ではいないかもしれない。でも、でも!

終わりの始まりがここ大東京の都で咲き始めた。霊魂が。聖霊が。

……嗚呼! 気がつけばもう残照。血潮と融合。夥しい紅。夕暮れ。

もう、意識が持たないことを自覚しながら、水平線の向こうを眺めた。

そこにある厳かに聳える東京スカイツリーを見つめ、視界が涙で滲んだ。


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