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戸田列の授業

「きりーつ。礼。」

「おねあっしまーす。」

今日は学校の木々が雪化粧していてとてもきれいだ・・・。教室の中はバッチリ暖房が入っているから、窓が結露している。なんかいろいろと窓に書いてある。「ゆい&安藤」・・・。まったく馬鹿どもは。

「世話野ー。そんなに雪が好きなら外で遊んで来てもいいんだぞー?内申点が1になっても知らねぇぞー?」

「ああ、はい。申し訳ございません。」

神とおもちゃが私を見てニヤッとした。ムカつく・・・。

そうそう、今日の1時限目は国語である。担当は、担任の戸田列(へたれ)だ。

「んでは、授業を始める。まずは昨日の復習だ。『平家物語』の音読をしてくれるやつは挙手!」

「はい!」

「おお、後ろの3人、意欲があんなぁ。んじゃぁ、名誉挽回ってことで、世話野。」

「どこまで読めばよろしいでしょうか。」

「んああ、最初のまとまりまで読め。」

「かしこまりました。祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり・・・」

私は、きっちりと(・・・・・)音読してやった。

「はい、拍手!」

教室に乾い・・・いや、結構潤った拍手が巻き起こる。

「Aちゃんいいねー!」

「ま、私はもっとすごいがな。」

なんたる優越感!最高ではないか!

「はい、では、これは何について書かれた、何物だ?」

「はい!」

皆が「はい」を連呼して手を挙げる中、神はスッと手を挙げた。

「私が当たるに決まっているだろう・・・。これはゲームだ!」と神はブツブツ言っているが、当たったのは・・・

「はい、じゃぁ孫田。」

人間である。

「はいっ。平氏について書かれた、軍記物です。」

「その通り。」

と戸田列は言うが、「人間が立った直後に彼女の椅子が後ろに倒れ、おもちゃが『きゃぁっ?!』と奇声を上げたこと」は誰も気にしていないようだ。

「くっそ・・・なんで私に当たらないんだよ?私は()なのに!」

「おもちゃも手ぇ挙げていい?神ちゃん。」

「おもちゃ、勝負だ!」

「するする♪」

戸田列の目がこっちを向いている。

「神っ、おもちゃっ。」

2人はしぶしぶ前を向く。戸田列もチョークを持ち直す。

「じゃぁ、質問だ。この『理をあらはす』の『あらはす』のような仮名遣いをなんと言う?」

「はいっ!」

神もおもちゃも高く手を伸ばしている。私はこの勝負を見届けたいから手は挙げないが・・・さっきの優越感はもう一度味わいたい物である。

「んじゃぁ・・・王元が一番手が伸びてるから、王元!」

「やったー!!」

おもちゃがとてもはしゃいでいる。すごいものだ、おもちゃの感情メーターは。

「ゆいちゃん頑張ってください!」「ゆいちゃん!」「ゆいちゃん!」

バカどももはしゃいでいる。

おもちゃは何と答えるのだろう。それぐらいの能力は備わっているのか、いや、識字機能付いてなかったしなぁ。

「『歴史的仮名遣い』です!」

「その通り。」

おお!意外に分かる物なんだね。教室も湧いた。

「神ちゃんに勝ったよ〜!!」

「ちょっ、おもちゃっ。大きな声でそんな・・・。」

私はおもちゃを小さな声で制した。

「ふん。まだ勝負は終わってないからな。次こそ当たってやるぞ。」


それから、何回も何回も神は手を挙げた。だが、一回も当たらず、1時限目は終わったのである。その理由は、「神の制服があまりにもルーズだったから」。


「くっそー。なんで当たんなかったんだよ?!」

「神の制服はあまりにも雑なんですよ。いつも言ってるじゃないですか。」

「おもちゃ・・・だって・・・。」

「おもちゃはきれいだよ!」

その時はたまたまおもちゃのシャツの裾が出ていただけだった。というか、次の体育のために着替えているからなのだが・・・。

「おい、早く着替えろ!」

女子更衣室のドア越しに体育教諭の連代木(つよき)が怒鳴る。女子達は、「せんせー変態っ!」「せんせーはそんな趣味があったんですかぁー!」「この変態◯ロ親父っ!」と黄色い声を上げる。連代木もさすがに反論できないようだ。

今日からの授業は「とびばこ」であった。だが、天界に「とびばこ」というモノは無い。見たことはないが、名前からして「箱を跳ぶ」か「飛ぶ箱」である。

連代木が生徒に「とびばこ」を倉庫から出すように指示すると、倉庫から木製の台が出てきた。

「ねぇAちゃん、あの穴空いたやつって何なの?」

「『木材』だ。強いて言うなれば『枠』だ。」

「そうですね。『枠』ですよ、きっと。」

それにしても、女子達は(私たちも「女子」だが)良く動く。気がつくと、体育館の真ん中に大小様々な木の台が立ち並んでいた。これが「とびばこ」か。飛びそうには無い。

「じゃぁ今から5分やるから準備体操して、好きなとこで跳んでいけ。」

そうか。これは「箱を跳ぶ」ための「跳び箱」なのか。私たちは他がやっているように手を上げ下げして、深呼吸をしてから跳び箱の前に立った。

「よし、おもちゃ、世話役A、勝負だ!」

「望むところです!」

「おもちゃもやるー!」

跳び箱は天界には無いのだから、さすがに神もおもちゃもできないだろう。フフフ・・・きっと几帳面がモノを言う競技だ!

「私は一番高いやつだ!」

「おもちゃもー♪」

2人は一番高い8段の所に行った。ふん、私は最初から高いところで勝負しないぞ。まずは一番低い4段からにしよう。

おお、低い。これは・・・両足で跳ぶのか?他をを見た。・・・うわぁっ!?ジャンプ台で跳び、台に手をつき、両足を広げて華麗にジャンプ!脚を広げるのか。

私だって!台に手をつき・・・跳べない。跳び越せていない。

そうだ!台が低いんだ。次は2段上がって6段に行こう!

「はい、3分経ったから、誰か8段跳べるヤツは?」

名前のわりに神より小柄な連代木が声を張り上げる。

「はい!」

あーあ、神、跳べないくせに。

「はい、じゃぁ神宮。」

神は静かに8段のところへ。そして手を挙げ、「行く」

だだだだだ・・・

初対面だよ、跳べないに決まって

だんっ、ばふっ。

嘘・・・。何、あの華麗な跳び方!

周りから拍手された神、こっちを向いてドヤ顔。ムカつく・・・。

「次は誰が行くか?」

これは勝負・・・。負けてはいられんっ!

「はいっ!」

私とおもちゃは同時に手を挙げた。

「じゃぁ王元と世話野、続いて跳べ。」

「かしこまりました。」

「あーい。」

「おもちゃ、先に跳んで。」

「えー、いいよー。」

「がんばってね。」

ふっ、こんなことを言ってみるが、内心は「お願い、失敗して?」である。

「おも、ゆい行っきまーす!」

だだだだだ・・・ばんっ、ガンッ、どさっ。

「痛ぁ・・・。」

跳んだ!が、跳び終わった後に、台に背中のネジを打ち付けた。

「ゆいちゃん大丈夫ー?」

おもちゃを心配する声がちらほら。

「世話野行きます!」

体育館がシンとする。

だだだだだ・・・ばん。

・・・・・高い。

私の体は、手を台についたところで終わった。台が私を嘲笑(あざわら)っているような気がする。

「世話役Aー、大丈夫かー。」

「Aちゃーん!ファイトぉ!」

今ファイトと言われても。・・・どうしよう。跳べない!

「はい、世話野。もういいぞ。」

周りの視線が氷点下50℃で私を襲ってくる。

忘れていた・・・。私は大の運動オンチであった。


その後、何回もやってみた。だが、何段でも全く跳べなかった。

周りの冷たい視線、そして神とおもちゃのクスクス笑いで、私の体は凍って熱くなり、を繰り返していたのだった。

世話役Aは実際運動オンチだからな!!

しかし、私も8段なんぞ挑戦すらしてないがな!!

     by神

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