悲観的自己嫌悪からの立ち直り方
世界はきっと、私に不親切にできている
そう、ネガティブな気分になるのは仕方がないことだと思う。
家で唯一才能があった私は父母の期待を一身に背負い兄姉の嫉妬という名の攻撃を耐えぬいてやっとの思いで高等院に入れたと思ったらよりによって隣の席のヤツは超が付くほどの秀才。負けず嫌いの私は涙の代わりに血を流すくらい勉強も実技もしたにもかかわらず結局ヤツを抜くことなくヤツに遅れること半年前秦央に入って奮闘しながら官位にこぎつけて、でもヤツはすでに冠位を戴いていて。
一度下降スイッチの入った思考はどんどん沈むばかりで果てしなくくだらない昔々の話まで掘り返してはさらに落ち込んでゆく。わかっていても止められない止まらない無限スパイラルを聞き慣れた声が中断させた。
「おう!瑠威じゃねぇか。廊下に座り込んで何やってんだ?」
顔をのぞき込んで頭を撫でてくれる我らが上司に自分でもわかるくらいに情けない笑顔をむけると、しょうがねーなぁと笑って近くの木陰に連行される。
「まぁたろくでもないこと考えてんだろ?ちょっと休め。最近忙しかったからな、疲れてんだろ。」
どっこしょーと座って木に背中を預けたさんを親父臭いと茶化しながらも怜喃さんの言葉に従って脇に転がる。穏やかな日差しと心地よい風に落ち込む思考が下降を止めた。わしわしと頭を撫でられて胸のあたりがほかりとして。怜喃さんはちょっと乱暴だけどいちいち優しくていつだって落ち込む私を引き上げてくれるんだ。
身体を丸めて目を閉じて、ややあって口を開いた。
「自分の凡庸さが情けないんです。ヤツは私のことなんて"そんな奴もいたっけ"くらいにしか思ってないだろうしもしかしたら知りもしないかもしれない。私は勝手にヤツの背中を蹴り倒してやろうと躍起になったけど直接話したこともなければ同じ班になったことすらなくて。がんばってがんばってがむしゃらに追いかけてもあの背中には追いつくどころか射程範囲内にも入りはしないなんて、もう情けなくて涙も出ないですよ。」
今回だって私はなにもできないまま。
盾にすらなることができなくて、気がついたら情けなくも地に伏していて、私のことなんて爪の先ほども気にしてない"敵"に臍を噛む思いをしながらもどこか安心する自分がいてそれがさらに腹立たしくて情けなくて首をつってしまいたくなった。ただ、それだけの自己憐憫。
「…俺と同じだな。」
不意に呟いた怜喃さんの言葉に目を見開いた。
「怜喃さんは冠位も戴いていてで、強くて、人望もあって、私とは大違いです!」
「瑠威、お前なぁ俺も結構努力して今があるんだぜ?」
「そんなこと知ってます!!そんな怜喃さんだから尊敬してるんです!!」
「お、おう…、ありがとな…。」
ほんのり赤面して頬を掻くすがたに自分まで照れてしまう。
「まぁ、だから、だ、瑠威も大丈夫だよ。俺もお前を認めてんだ。今のまま頑張ればいいんだよ。」
こほんと咳払いした怜喃さんがあまりにも優しくそう言うものだから、わたしの涙腺は今までためていたものを全部吐き出してしまったのだ。
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遠く聞こえる鐘の音に覚醒する。
(か、ね…?…お昼…?)
ハッと息をのむ。
「れーりーんーさーんー!!仕事、遅刻ですよ!!昼休みがぁー!!」
すぴよすぴよ寝息をたてる上司を蹴り起こして揺さぶる。
「んんん、んー、大丈夫ぶ…」
ふにゃりと笑う怜喃さんは普段の厳めしい顔からは想像できないほど可愛らしくて起こすのは忍びない気がするけれども…!!
起きる気配の薄い上司を引きずりながら気持ちが浮上していることに気付く。
また、頑張れそうだ。
まだ、ヤツの背中を追いかけていける。
私はそれを望んでいる。
「がんばれ私!!!」
ただの妄想文
読んでくださった方々に抱えきれないほどの感謝を…