Track6-Rebirthing
※今回は残酷表現があります
※文章長めです
・あらすじ
茨乃との休日を駅前の繁華街で楽しむ芦川。多少のトラブルがありつつも茨乃の様々な面を芦川は見る事になった。途中、北条も混ざり三人で遊ぶ事になったが、そんな中「陣川」と名乗るウェポン使いの女性が現れる。彼女は触れずに物を切り、ビルすらも『斬って』倒壊させる日本刀ウェポンの使い手だった
「ビルを……切った……?」
芦川は振り返った視線の先のものを見て、唖然とする
先ほどまで芦川達がいた12階建てのビルがゆっくりと崩れていく、周りで見ていた野次馬も事の異常さに気がついたのか、ポカンと崩れ落ちるビルを見た後に
「うわぁぁぁぁ!!!」
「ビルが!ビルが崩れたァァァァァ!」
「やばいってやばいて、流石に!」
各々パニックになってその場から離れるように駆け出す。休日という事もあって逃げる人々の多さは川のようで、流れは川のように大きかった
「うまいね。先にビルを壊してみんなをパニックにして退路を塞ぐ」
茨乃はかろうじてひきつった笑いを浮かべながら、二挺拳銃を陣川に向け直す。茨乃も今すぐ発砲に踏み切りたかったが、もし避けられたり外してしまった場合に関係のない人に当たってしまいそうなことを考えると、茨乃が得意な乱射は出来そうも無かった
「おいおい……マジ勘弁してくださいよ……」
となると、アームブレードという近接武器を扱う芦川が戦うことがベストな感じだが、芦川には目の前で刀を抜こうとしている陣川に勝つ算段が思いつかなかった
「では続けるとしようか」
陣川は表情を変えることなく、険しい顔で芦川達を見据える。全員は逃げられそうに無い
「蒼、北条を逃がしてやってくれ。ここは全力で死守する」
芦川は茨乃を横目で見てお願いする。本当なら北条一人で逃げて欲しいのだが、北条はパニックで動けなさそうだった
「わかったよまこ――「はぁ? ちょっと待って!なんかドッキリでもなさそうだし、意味わかんないんですけど……」
茨乃の返答を遮るように北条は説明を求める。まぁ当然と言えば当然だが、今回ばかりはどうも説明しようが無い
「いやぁ……わりぃ、ちょっと説明が難しい。また次の機会にって事で!」
誤魔化すように芦川は陣川に向かって走り出す
「ちょっと!芦川君!」
「ゴメン! ボクも後から説明するから!」
「ふぇ?! あ、あおちゃん?!」
茨乃は北条の手を掴み、引っ張りながら逃げていく
「いいだろう、少年。友人を逃がす度量、気に入った」
陣川が刀を鞘から抜き、高く掲げるように構える。芦川もアームブレードを構えて陣川に向かって突っ込む
「どうにでもなりやがれぇぇぇぇ!」
二人のウェポンがぶつかり合い、火花を散らした
茨乃と北条は倒壊したビルを通り過ぎるように、人のいないところへ、いないところへと逃げていた
「ねぇ、あおちゃん。これっ……わったった、ど、どういう事?」
北条は躓きそうになりながらも、自分の少し先を走る茨乃に問う
二人はいつの間にか雑居ビルが立ち並ぶ区画の、ビルとビルの隙間にいた
日の光が入りそうな場所ではなく、ビルの壁面は泥でどことなく汚れていた
「すごく色々省いて説明すると、ボクと真はあの変なコート着た人たちに狙われるんだ!」
「命を?」
「Yes! せめてAssにして欲しかったよ!」
茨乃は突然スラングを吐いたかと思えば、急に止まり回れ右をする。北条も危うく茨乃にぶつかりそうになるが、立ち止まることが出来た
「ど、ど、ど、どうなさいましたあおちゃん?」
「多分ここまでくればあの人も追ってこないだろうから、ここからはカナっちひとりだけで逃げて欲しいんだ」
「え? あ、じゃああおちゃんも一緒に逃げないの?」
北条が少し不安そうな表情で茨乃を見るが、茨乃は肩をすくめて力なく笑った
「ごめんね、これ以上巻き込んじゃうと……あはふみゅ」
北条が茨乃の左頬をつまんで引っ張っていた
「はなっ、はーなーひーてー」
茨乃は離して、と言おうと懸命に口を動かすが頬を引っ張られているため上手く発音できない
「もう、完璧巻き込まれてるからあんまし意味無いんだよーあおちゃーん。他人行儀は良くない!」
北条は面白くなったのか、もう片方の頬もつまんで引っ張る
「ふぇー!ひゃっははー!」
「ほへっ! ふぁふふひは!」
茨乃も負けじと北条の頬を両方ともつまんで引っ張り返す。人がいない路地で何故か少女二人はお互いの意地をかけた引っ張り合いがはじまってしまった
数分後、茨乃と北条は互いに離れ、自分達の引っ張られすぎた頬をさすっていた
「あおちゃん引張りすぎ……」
「カナちゃんこそ……」
茨乃は自分たちが元来た道を見る。北条を巻き込まないようにしたかったが、ここまで意地を張られるとどうしようもない
「ねぇカナちゃん……本当に一人で逃げてくれないの?」
「やだ、だって友達だもん」
北条はキッパリと応える。頬が引っ張りすぎで赤くなっていてかっこよさは半減していたが、その態度は毅然としていた
「あおちゃんも、芦川君も私にとっては大事な友達なの。その友達が大変なのに私一人現実から逃げられないよ」
「……」
「で、でもよくわかんないけど、命を懸けて戦ってる芦川君やあおちゃんに言わせれば私は『甘い』のかも」
カナは少し笑って誤魔しながら自分の話を締めくくった
「甘くなんかないよ……」
「?」
茨乃の呟くような言葉に北条は首を傾げた。茨乃は俯きながら続ける
「カナちゃんの考えは、多分甘くないんだよ。それが普通だよ。ボク達がちょっとおかしいだけなふぁふぃふぃ!」
「あおちゃんはおかしくないってー」
先ほどのように北条は茨乃の頬を掴んで引っ張る
「それにどんなに変でも友達だから」
北条が優しい笑顔でそう語りかけると、茨乃はハッとしたような表情になり急いで目元を腕で覆う
おそらくうれし泣きだ
「あらら、泣かせちゃった?」
「な、ないっ泣いてないよっ! ボクそんなに弱虫じゃないし!」
強気になる茨乃だったが、そこが北条の母性本能をくすぐったらしく、ニコニコしながら茨乃が落ち着くまで頭を撫でるのであった
「そういえばさ、蒼ちゃん」
「にゅ。どうしたのカナっち」
「少し静か過ぎない?」
茨乃は顔をひそめる。確かに今自分達がいる場所が路地裏とはいえ、大きなビルがひとつ倒壊したのだ
普通、そんなことがあったなら一体は封鎖され、消防車やパトカーのサイレンで埋め尽くされる筈だ
「……もしかしてっ!」
茨乃は路地を走りぬけ大きな通りに出る
そこには休日を楽しむ人々の姿があった。ビルの大型ビジョンは人気ガールズロックバンド「アルタイル」のPVが流れていて、若者達の笑い声があちこちから聞こえる
「これって……」
北条もいつの間にか茨乃の横であっけに取られていた
「……まことが……真が危ないっ!」
茨乃は叫んだ後に、元来た道を走って戻り始めてた
一方、倒壊したビルの前では芦川と陣川が剣を交えていた
「くそっくそっ!」
「どうした少年! こんなものか!」
だが「交える」と言うよりは、芦川が一方的に陣川の攻撃を受けるような状態になっていた
芦川は大きく後ろに下がり、息を整える
(この女……ウェポンの力抜きでも強いぞ……)
陣川は先ほどビルを破壊するためにウェポンの能力のようなものを使ったと考えられるが、今まで芦川と戦っていた間は純粋に陣川の剣の実力のみで挑みかかられているようだった
(てか、なんか不公平だろっ!)
芦川は内心叫ぶ。芦川が今まで見てきたウェポン使い達のウェポンは、何かしら特徴というか特殊能力みたいなものがあった
茨乃のウェポンには銃を自在に変える能力。信詩は死人をゾンビにする能力。大男は装着しているガントレッドを自在に空中で操る能力
そして今対峙している陣川は原理は不明だが、ビルを切り伏せるほどの力がある
なのに芦川のウェポンだけ特に何がおきるわけでもなく、ただただ『アームブレード』として存在するだけだった
「少年、友人を逃がした度胸は認めよう」
「そいつはどーも」
内心滅茶苦茶後悔していたが、芦川は口に出さなかった
「だが、実力を伴わなければその勇気も水泡のように弾けるばかりだ。努力を怠ったな少年」
陣川は構えを解き、芦川の周りをゆっくりと回るように歩く
(怠るほどの時間は無かった、って言えば怒られるかね……)
芦川は額の汗を左手で拭い、陣川の背後にあるものに注意を向ける
街のいたるところに設置されている赤く長い物体
(消火栓……)
信詩との戦いを思い出す。芦川を含めたウェポン使いは音楽が使えなければウェポンを使うことが出来ない
ならば今回もなんとか不意を突いて、陣川に消火栓からの水流を浴びせかけ彼女の音楽の元を潰すことが出来れば芦川にも勝機が巡ってくるかもしれなかった
(チャンスは一度きり、焦るな……焦るな俺……)
「終わらせる、逃げた少女の方も追いかけなくてね!」
陣川は急に走りだし、芦川に近づくと刀を浅く振る
「うわぁっと!」
芦川は紙一重で避けて逃げるように消火栓めがけて走り出す
「ほほう……ならば」
陣川は芦川を追いかけずにゆっくりと刀を鞘に収める
「?!」
その不可解な行動に疑問を抱きつつも、芦川は走り続ける
(あと……もうちょい!)
芦川が消火栓に手を伸ばせば触れられる距離まで来たところで
がくん!
突然芦川が膝から崩れ落ち、地面に倒れる
「な……ん……」
芦川はなんとか起き上がろうと上半身を起こす
その時芦川の目に映ったのは刀を抜いて、今にも何か切ったような後の姿勢の陣川がいた
「まさか……」
芦川の脳裏に陣川のウェポンで切られたビルが浮かぶ
「刀が……伸びた?」
ふと芦川の手に何か暖かい液体が触れる。手に触れた液体は赤黒く、鉄の臭いがする血だった
「だれの……血なんだ?」
陣川が一度構えをとき、怯えている芦川を見据える。距離的に3メートルは離れているはずなのに、芦川には陣川が近くにいるように感じた
「少年、キミの血だよ」
陣川は再び刀を数度、素振りをする
直後、ぷしゅ!という音と共に芦川の上半身から血が大量に噴出した
「おごえはぁっ!」
芦川は自分でも気持ちがなるような叫び声を上げながら地面に倒れる
(……なんか、やば……)
芦川の視野がどんどん狭まっていく。目が閉じつつあるようだ
(蒼と北条……逃げられたかな……)
……こと、まこと……かわ……あ…かわく……
(やべ、なんか幻聴聞こえてきた……んでもって……眠い)
芦川はついに耐えられなくなったのか、ゆっくり目を閉じ意識を手放した
「真!」
茨乃は血を盛大に傷口より噴出しながら倒れる芦川を見て叫んだ
それに陣川が気づき、刀を一度鞘にしまい茨乃の方を向く
「芦川君!」
北条はなりふり構わず芦川に近寄りゆさぶって、起こそうと試みる
陣川が制止しに来るのではないかと考えられたが、陣川は茨乃にしか興味が無さそうだ
「さて、サムライお姉さん。ボクぼ数少ない友達をこうしてくれた落とし前、キッチリとって貰うよ」
茨乃はヘッドホンを装着すると腕を大きく広げ、左右両方の手に拳銃を出現させる
「謹んでお断りさせてもらうよ、茨乃君」
陣川も刀の持ち手に手を掛け、いつでも抜刀できるよう身構える。その短い動作の中にも隙は感じられなかった
「OK!Let’s go!」
茨乃は拳銃をクロスさせ横に走りながら、陣川に拳銃を乱射する
「くっ!」
陣川もそれに合わせて走り刀を抜くが、弾丸の嵐を防ぐことが出来ずに数発当たってしまう
しかし、防弾仕様の黒いコートのおかげか、陣川は目立った怪我はせず健在だ
「はぁっ!」
陣川は一度立ち止まると先ほど芦川の前でやったように、刀を数回茨乃に向けて大きく振る
「よっとと……」
茨乃は一度銃撃をストップし、回避運動を取るように前転をする
すると、先ほどまで茨乃がいた辺りの路上に大きな傷が二本刻まれた
「なるほど、これは怖いっ」
肩を竦めながら再び間合いを取るように茨乃は走り出す。その顔は純粋に見える笑顔でとても楽しそうに戦っている
「なにものだ? こいつ」
陣川は顔をしかめる。対峙している敵の少女の不気味さに顔がゆがんだのだ
友人が殺されているのに、その仕草等は今の状況を最大限に楽しんでいるように見える
「ほらほら! のろのろしてると月まで吹っ飛ぶよ!」
陣川は茨乃の調子に乗せられまい、と挑発もまともには聞かなかったが、次の瞬間陣川は目を見開く
茨乃がヘッドホンの曲送りのボタンを数回押すと二挺拳銃が光に包まれ、もっと長く逞しい銃が一挺、茨乃の手の中に納まった
「スナイパーライフル?」
陣川に銃の知識が無いのか、その銃をそうとしか分析できなかった。
と、なると接近戦での戦闘は茨のにとって不利になるであろうとふむ
陣川は標準を合わせられないように、右へ左へ体を傾けながら、茨乃に接近する
「無知は罪だよ! お姉さん!」
それを見て茨乃はニッっと笑った
普通では茨乃のような少女では持てない様な重さの長い銃を軽々と両手で構えると陣川に向け発砲する
「ちっ!」
陣川が回避しようと体を動かすが、左腕を掠ったのかウェポンの鞘の部分を落としてしまう
陣川は鞘は拾わず、茨乃に接近する。だが突然視界が黒く塗り潰され躓いて転んでしまう
「なっ、どういうこと――」
陣川はそこまで言って息を呑んだ
先ほど弾が掠ったと思われるコートの左腕の部分が大きく破れ、血がとめどなく出ていた
血が急に足りなくなって、貧血に近い症状になったのだろう
「まさか……防弾仕様のコートを掠っただけで?」
「それがそうなんだよっ」
茨乃は先ほど陣川を撃った大きな銃を構えたまま、ゆっくりと陣川に近づいていく
「これは対戦車ライフル。出せるかなぁって思ったけど出せたね」
茨乃は近づきながら再びその対戦車ライフルを発砲した
「――っ!!」
放たれた弾丸は出血のショックで動けなくなっている陣川の右脚を掠める
その右腕も左腕同様にコートが破れ、血が噴出し始めた
「これはさ、戦闘機とかと同じ弾が撃てるんだよ。普通人に向けて撃ったらその人木っ端微塵だけど、チームのコートは防弾だからコレくらいで丁度いいねっ」
茨乃は対戦車ライフルを陣川に突きつけながら、楽しそうに笑う
新しいおもちゃを買ってもらった少年のような笑顔
「てゆーか、気づくまでこんなに時間が掛かっちゃうなんて、ボク本当に馬鹿だったよ」
陣川は苦痛に顔をゆがめながら茨乃を見上げる
なんとかして腕を振るい刀で切りつけようとするが、痛みで体がまるで言うことを聞かない
「普通ビルが壊れたらもっとすごい騒ぎになると思うんだ。でも救急車のサイレンどころか野次馬の声すら聞こえないんだよーなんで気づかなかったんだろ」
茨乃は対戦車ライフルの先を陣川の右脚の傷口に思いっきり押し当てる
「うあぁぁっ!」
「痛いよねーそう、今お姉さんが感じてるのはリアルな痛みだよ」
茨乃は蹲る陣川を蹴りつけた。陣川の頭に茨乃の足が当たり、陣川は額から血を流す
「でも、ボク達は今リアルじゃない。というかリアルな世界にはいない」
茨乃はここぞとばかりに陣川の頭を踏みつけ、地面に擦り付ける
陣川はなんとか逃げようとするが、茨乃の小さい体では考えられないような力で踏みつけられていて、身動きは取れなかった
「あはっ! 痛そうなお姉さんの顔最高! でもボクの友達を巻き込んだんだからもっと苦しまなくちゃ!」
北条が自分の後ろで芦川を介抱しながらこちらを見ているのに、それを気にせず茨乃はサドスティックに笑い、大きく踏みつけた
「――っ!――っ!」
陣川はもう声すら出ず、蹴りつけられるたびに体を震わせるだけだった
「ボクがこんなことやってても誰も怒らない、関心を示さない。逆にお姉さんが芦川を切ってもなにも言われない。すごいよこれ……だけど所詮マヤカシなんだよ」
茨乃は足をどかして陣川の耳から耳掛けイヤホンを外す
すると
崩れたビルが
大きく切込みが入れられた地面が何事も無かったかのように元に戻っていき
「はっ?!」
「ひゃっ?!」
芦川が介抱していた北条のそばで目覚め、勢いよく起きた
「?……あれ、てか俺怪我してねぇ?」
芦川は自分の腹部を触る。脂肪があるわけでもなくかといって腹筋も無い自分の体だった。傷ひとつ無い
「って、ビル! ビルが元に戻ってる?!」
芦川あたりを見渡す。町は変わりない様子だったが芦川達の周りには人がいなかった。おそらくさきほどのビル崩壊の際に多くの人が逃げたのだろう
「あれ? でもビルは普通になにもなくて……じゃあなんで人がいねぇんだ?」
「あ、芦川君一回落ち着いて」
北条は苦笑いしながらポンポンと芦川の肩を叩く
「真っ!」
「うぇ?!」
突如茨乃がウェポンを解除して芦川に抱きつく。その手には陣川から取り上げた音楽プレーヤーと耳掛けヘッドホンが握られていた
「まさか……あの人倒したのか?」
茨乃の肩越しに、蹲りながらこちらを鬼のような形相で睨み付けてくる陣川が見える
北条の視線が泳いでいるところを見ると相当酷い痛めつけかたをしたのだろう
「な、なぁちょっと一回離してくれ」
「うぇ? あ、ゴメンゴメン」
茨乃は立ち上がって芦川から離れ、倒れている陣川を指差す
「あの人のウェポンの能力は多分『フェイク』」
「「フェイク?」」
芦川と北条が同時に首をかしげた
「うん、さっきカナちゃんは見たと思うけど、この先を少し行ったところの通りは人もいっぱいいたんだ」
「ああ、そうだったんだよ。芦川君」
茨乃達が逃げている最中に、静か過ぎることに気づき普段どおりの街の様子を発見することが出来た
「多分自分から見える範囲の人間に幻を、それも感触がある幻を見せられるんだろうね。周りで見ていた野次馬にも幻を見せて、リアリティを増させたんだよ」
芦川は自分の腹部を押さえる。確かに激痛や血が噴出すリアルな感触を感じていた
あの痛みが幻だったとは考えにくいかったが事実そうだったようだ
「ビルを壊す幻でボク達を混乱させ、その隙に自慢の剣技でグサリ。多分これが作戦だったんだけど、ボク達が予想以上に冷静に対処してたからかなり焦ったと思うよ」
芦川は話を聞き終えると、立ち上がって陣川のほうに歩み寄る
「え、真なにしてるの?!」
「いや、大丈夫。ちょっと話を聞くだけだ」
芦川は陣川のそばでしゃがむと、彼女の顔を覗き込む
彼女の顔は靴の跡と血で汚れていた。右脚と左腕からは血が止め処なく流れている
「さーせん、とりあえずこれで我慢してください」
芦川はパーカーを脱ぐと、それを一番出血が酷そうな陣川の右脚にきつく巻きつける
陣川はうめき声をもらしたが、出血は多少良くなる
「……な、なにしてるの? 真?」
茨乃が呆然とした顔で芦川を見ていた
「なにって手当て……」
「真はこの人に殺されかけたんだよっ?! ダメだよ!こっちも止めを刺さないと!」
「あ、蒼ちゃん落ち着いてってば」
北条が茨乃を制止させようと肩を掴むが、茨乃はそれを振りほどいて芦川に詰め寄る
「信詩の時も真はそうだったよ! そんな風に優しくしてたら、いつか殺されちゃうよ!?」
「人ってのはひょいひょい、殺せるようなもんじゃないだろ! それにこの人からチームの事を聞き出せるかもしれないだろ!」
芦川も立ち上がり、茨乃のとの距離を詰める
極限まで追い詰められた二人だ。その緊張が途切れて、言い合いになってしまった
「二人とも、喧嘩はやめてほしいなぁ」
突然発せられた無邪気な声にその場にいた全員が振り向いた
そこには黒いコートにフードを被った『チーム』のリーダーがいた。フードで顔は良く見えないが、口元が笑っている事には気づいた
横にはもう一人いる。歳は陣川と同じくらいの女性だ
ゴスなドレスを着て日傘とピクニック用のバスケット持っている
黒く長い髪、というのは陣川と同じだったが、その髪はゴキブリの表面のように油が乗っているように見えた
「あぁら? 陣川さん、今日はボロボロじゃなぁい?」
ゴスドレスの彼女――黒栖は倒れている陣川を嘲笑う
「黒……栖っ!!」
陣川はゆっくりと立ち上がる。まだ左腕からは血が流れ出ていて、それを右腕で押さえる
「蒼……こいつら……」
「うん、『チーム』のメンバー。その一人、黒栖と『リーダー』」
芦川と茨乃も一度喧嘩をやめて、新たに現れた二人に向かい合う
「おや、知っていてくれて光栄だよ、茨乃君」
フードを被った少年と思しき人物が諸手を広げて、茨乃達に近づこうとする
「くるなっ! 動いたら撃つ!」
茨乃がヘッドホンをかけ、二挺拳銃のウェポンをいち早く出現させフードの少年に狙いを定める
この一連の動作はとても速く、芦川も目では追えなかった
「さすがだなぁ、オレ達から逃げながらそんな技術を習得するなんて。やっぱりウェポン使いはそうでなくちゃ」
「キミ達に煮え湯を散々飲まされたからねっ」
黒栖が日傘をクルクル回しながら、横目でフードの少年を見る
「ねぇ、リーダーぁ?私、まどろっこしいのは苦手なの。早く終わらせなぁい?」
フードの少年――リーダーは『しょうがない』とばかりに肩を竦める
「ほら、お姉ちゃんに会えるよ。出ておいで」
リーダーがどこかへ呼びかけると、彼の後ろから小学生くらいの男の子が出てくる
以前黒栖の暴力を受けていた男の子だった。顔には大きな傷やあざが出来ているその時のものだろう
「ワタル!!」
突然陣川が叫ぶ
それを見た芦川はすべてを悟った
「ききねぇちゃん……」
男の子はリーダーと陣川を交互に見ながら、何か迷う
「大丈夫、お姉ちゃんに会っておいで」
リーダーは屈んで男の子と同じくらいの目線になると、笑顔の口元だけ見せて安心させるように語り掛ける
「う、うん……」
ワタルと呼ばれた男の子はゆっくりと陣川のほうへ歩き出す
「わ、ワタル……」
陣川の目の端から何か流れ落ちた。おそらく涙だ
(もしかして……あの子を人質に取られていた?)
芦川は彼女が戦いを仕掛けてくる前に言っていた言葉を思い出す
『不本意だが、君達と戦う』
『不本意だが』
『不本意』
「なんか嫌な予感がする」
今までの出来事に呆気に取られていた北条が口を開く
芦川はその意味が分からなかった、だがすぐ思い知る事になる
「ねぇリーダー?」
黒栖が何か催促するようにリーダーを見る
「いいんじゃないかな」
そうリーダーが口にすると、黒栖が手に持っているバスケットを地面に落とした
「動いちゃダメって――」
茨乃が黒栖に銃を向けた瞬間、バスケットからクラシック音楽が流れ始める
陣川がそれを聞いたとたん、ハッとなり叫ぶ
「ワタル、逃げろ! 私のそばに来ちゃダメだ!」
「へ?」
ワタルと呼ばれた男の子が陣川まで1メートルというところで立ち止まる
その時、幾つもの洋剣――レイピアが現れワタルの小さい体に刺さった
突然の出来事に芦川や茨乃、北条は時間が止まったように動かなくなった
それは陣川も同じで、まるで銅像のように、剣が幾つも刺さったワタルを見ていた
「あっはー! あんた達の顔最高っ! そろいもそろって馬鹿みたい!」
黒栖が笑いながらパチンと指を鳴らすとワタルから幾つもの剣が抜かれ、ワタルの体からは夥しい血が噴出し陣川の顔にかかる
剣という支えをなくしたワタルの体はその場に崩れ落ちた
「弟君を殺してしまうのはあまり好ましくはなかった」
フードを被ったリーダーが銃を向けている茨乃をチラリと見るような素振りを見せると無抵抗です、とばかりに両手を上げる
「でも、陣川さんのウェポンは一度見破られるともう効果はない。もう芦川君達の暗殺には使えないんだ」
リーダーはコミカルに手を下ろし肩を竦める
悪い事は何もしていません、というその態度は黒栖よりも狂気染みているように芦川は感じた
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
陣川が頭をかきむしりながら叫び、死体になったワタルに近づき雄たけびのような泣き声を上げる
「さて、じゃあオレ達は帰ろうか、黒栖」
「ホント、退屈なお仕事だったわ。リーダーぁ?帰りにご飯くらい奢って?」
一方チームの二人はまるで何もなかったのかのように帰り始めようと、後ろを向く
ドン!
茨乃の拳銃が吼える。その発砲音はいつもより逞しく聞こえた
だが茨乃が放った弾丸チームのリーダー達に対して放たれたものだったが、弾丸は先ほどワタルを刺し殺した剣が集まって盾のようになり、リーダーに当たりそうだった弾丸を直前で弾く
「どうする? リーダーぁ?」
黒栖が忌々しそうに振り返り、茨乃を睨み付ける
「貴様らぁぁぁぁ!!」
ワタルの亡骸の前で泣いていた陣川が立ち上がり、日本刀のウェポンを出現させる
音楽の元は黒栖がバスケットから流しているクラシック音楽だろう
「そうだなぁ、少し遊んでいっても良いよ? オレは帰っても良いかな?」
リーダーは振り返らずに歩き続ける
「待て! 腐れ外道ォ!」
陣川が負傷していない右腕で刀を持ち、走る
茨乃に撃たれ脚も負傷しているはずなのに、考えられないような速さで黒栖に迫る
「それって遊びって言うんじゃなくて仕事、よ」
陣川が黒栖に切りかかろうとしたところ、洋剣が出現し黒栖を守るように陣川の刀を受け止める
それを振り払うものの三本新しい洋剣が出てきて、陣川を刺し殺そうと空中を舞う
「そうだ芦川君、茨乃さん。変だと思わないかい?」
思い出したようにリーダーが口を開いた
「陣川さんのフェイクが切れたんだ。その割にはこの辺りに人がいないね」
その言葉に芦川と茨乃がハッと気づく。思い出されるのは信詩がゾンビを作るために行った大量虐殺
「このぉ!」
茨乃が二挺拳銃をリーダーに向け乱射する
だがリーダーは動かないのに弾丸が当たらない
「それじゃ、また今度」
リーダーはそう言うと走って逃げ始める
茨乃がそれを追い始めた
「真っ! こっちはボクが追うから、そのゴス女を始末して!」
「わ、分かった!」
芦川はリーダーを追う茨乃の背中をチラリと見た後、音楽プレーヤーの再生ボタンを押してアームブレードを出現させる
「陣川さん!」
陣川は三本の剣に攻撃され続け苦戦していた
芦川は援護するようにその内一本をアームブレードで受け止め、吹き飛ばすように払う
「少年! 助かる!」
陣川も残った洋剣二本を刀の峰で折り、無効化させる
「北条! 逃げて――」
芦川が思い出したように叫ぶが、すでに北条の姿は見えなかった
その代わり、ポケットの中の携帯が小さく振動する
芦川がそれを取り出し、開くと
『ごめん!怖いから逃げたm(_ _)m警察も呼んだから!芦川君たちも逃げて!』
と、北条からメールが来ていた
(多分来ないよ、警察の人)
芦川は携帯電話を再びポケットにしまう
理由は分からないが、警察はこのウェポン使いの戦闘を隠蔽しているところがある。こんかいも当てに出来そうにない
だが気づかないうちに逃げてくれていて良かった。彼女を守りながら戦うのは流石に無理だ
「あらぁ?二人掛かりとは卑怯なんじゃない?」
クスクスと笑いながら黒栖が言う
だが、笑っていた黒栖の顔に液体のようなものが掛かった
唾だ。芦川が唾を黒栖に吐きかけたのだ
「そっくりそのまま返してやる、ファッキンビッチ」
茨乃を真似て中指を立てて、汚いスラングを言ってみる
黒栖の表情はみるみる歪んでいった
「いいわぁ! ほえ面かかせて上げるからぁ!」
黒栖は日傘を投げ捨てると両手を広げる
それが合図のように、陣川と芦川の周りを50本以上はありそうな洋剣が空中に現れる
右を見ても剣、左を見ても剣、上も剣。逃げ場はない
「少年――芦川、やるぞ」
陣川が芦川と背中を合わせ、刀を構える
「そこのクソに一泡はかせてやりましょう」
芦川もそれに応え、アームブレードを体の前に掲げる
「それじゃぁ、死になさぁい!」
黒栖が指をパチンと鳴らすと、浮いていた剣が一斉に芦川達に向かって飛んできた
「なんでっ! なんで当たらないんだよっ!」
茨乃は前方にいるリーダーに対し走りながら発砲するが、どれ一つとしてリーダーにダメージを与えられず、リーダーは止まらない
「オレに茨乃さんの弾は当たらないよ、当たったとしてもオレは倒れない」
リーダーは駅前のガラス張りのビルに逃げ込む
ビルの中は人おらず、静寂さが不気味だった
「もう逃げられないよっ、リーダーさんっ!」
茨乃が二挺拳銃をリーダーに向けて笑う
茨乃の経験では、茨乃以外のウェポン使いのウェポンはすべて近距離武器だ。近づかれなければ勝機は圧倒的に茨乃にある
また、茨乃はしっかりとヘッドホンを付け音楽を聴いているが、リーダーは特に何かを聞いているような素振りはない
ビルの中も音楽どころか人の気配すらしない
(こいつはウェポンを出せないっ!)
いままでチームの人間と何度も戦ってきてこの『リーダー』と戦うのは初めてだったが、何時も通りにやれば撃退できる。茨乃はそう確信した
「ラジオ体操の歌」
「は?」
リーダーが突然ニッコリ笑い右手を高く上げる
「ラジオ体操の歌が終わるまでに君を倒せたらオレの勝ち、逆に終わってもオレが勝てなかったら君の勝ち」
リーダーはそういうと高く上げていた右手で指を鳴らす
するとビルの中で夏の朝定番のあの歌の伴奏が大音量で流れ始める
(えっ……これって……)
その演奏はヘッドホンをつけた茨乃にでされ聞こえるほど大音量だった。茨乃のヘッドホンから流れるcapsuleの『Player』がかき消されるほどの音量だ
『あたーらしい、あっさがきた』
茨乃が呆気に取られているうちにリーダーが走って近づいてくる
茨乃はハッと二挺拳銃を構え、まっすぐに走ってくるリーダー向けて乱射
『きぼーうのあっさーだ』
リーダーは両手をかざす。すると、二挺拳銃から放たれた銃弾がまるで透明の壁に当たったのかのようにひしゃげて、その場に落ちる
『よっろこーびにむねをひーらけ、おおぞーらあーおげー』
(っ! それなら!)
茨乃はさきほど使用した対戦車ライフルを出そうと曲を送りをしようと、ヘッドホンの曲送りボタンを押す
だが、彼女が持つ拳銃は対戦車ライフルにはならず二挺拳銃のままだ
(なっ! なんで変わらないのっ?!――まさかっ!)
大音量で流れるラジオ体操の歌で、茨乃のヘッドホンから流れる音楽を『認識』出来ないためか、銃の変化という茨乃のウェポンの能力が使えなくなっている
『らーじおーの、こえにー』
「はぁっ!」
リーダーが戸惑う茨乃の腹部にパンチを入れる
「ぐはっ」
茨乃の体から酸素が無くなり、腹部を押さえてその場にしゃがみこむ
『すっこやーかな、ゆめをー』
「よっと!」
それに止めを刺すように、リーダーが茨乃を蹴り上げる
先ほどの陣川との戦いの再現のようだった
「――ったぁ!」
茨乃は、完全に倒れ込む
『このかおーるかぜーに』
「このっ!」
茨乃は拳銃を構えたまま起き上がろうとするが、リーダーに両腕を押さえられ仰向けに倒される
「っ! 離せ!このっ!」
リーダーは覆いかぶさるように体を茨乃に密着させる
『ひらーけよ それ』
茨乃は必死に振りほどこうともがくが、体重を乗せられているため小柄な茨乃では脱出は難しかった
リーダーが歌にあわせてカウントダウンを始める
「いーち」
茨乃はフードから覗くリーダーの目が見えた
その目は笑っている口元とは大きく違い、憤怒しているように見えた
「ひっ」
その目の恐怖に茨乃の体がこわばる
「にーぃ」
なにをされるのか、どんな攻撃がくるのか茨乃には想像できなかった
「たすけっ、たすけてよっ……まこっ」
恐怖で助けを呼ぶことさえ、今の茨乃にはろくに出来ない
「さん」
リーダーが最後のカウントを終えたとき、伴奏のかわりに茨乃の悲鳴がビルの中を木霊した
「最後!」
芦川が飛んできた洋剣を叩き落すように切り伏せ、踏みつける
先ほど出現した洋剣はすべて陣川と芦川の連携によりすべて跳ね除けられた
「ま、まさかここまでやるなんて……」
黒栖もこの連携には困惑気味で、後ろに後ずさる
「まさかここでトンヅラはさせねえよ」
芦川がアームブレードを突き出す
「ワタルの仇、取らせてもらう」
陣川も日本刀を構え、ゆっくりと黒栖に近づいていく
「悪いけど、あたし負けるのが嫌いなの」
黒栖は地面に置いたバスケットを持つと『空に浮いた』
否、洋剣のウェポンを次々呼び出して、階段のように使って空中を移動しているのだ
「っ! 逃げるなぁぁぁ!」
陣川は日本刀を投げつけて黒栖に当てようとするが黒栖が持つバスケットからの音楽をウェポンの源にしていたため、それが離れていって『認識』できなくなり、陣川のウェポンは霞のように消えた
「すまん……ワタル、仇を……とれなかった」
陣川は開いていたワタルのめを閉じ、その顔の上に飾り気のないハンカチを乗せた
「私の弟だ……やつらに人質に取られて、私が言う事を聞きさえすれば命は取らない、と言う約束だった」
「俺達を殺しにかかったのもそういう理由ですか」
陣川は芦川のほうは見ずに頷く
「許してもらおうとは考えていない。私は唯一の肉親の方が見ず知らずの君達より大切だった。この場で君に斬り殺されても文句は言えない」
不謹慎ではあるがこの人は生まれてくる時代を間違えている、と芦川は思う。ここまで誠実で戦国時代にでも生まれていたら、歴史に名を残しているだろう
「でも、その弟さんの分まで貴女は生きなきゃダメなんじゃないですか?」
芦川の口からは一般的で、使い古された道徳の言葉しか出てこなかった
だが、復讐に走るあまり命を危険にさらしすぎたり、芦川に殺されても抵抗しない、というのはヤケになりすぎだ
「……君の言うとおりだな。私は――――」
陣川が倒れそうになり、芦川がそれを受け止め支える
「っと、怪我してるんですから……」
陣川の体はスリムな外見とは対照的に、運動音痴の芦川では支えるには少し重かった
「すまない……だが私の事より君の相棒……茨乃君が心配だ」
あれだけ痛めつけられたと言うのに、陣川には茨乃を心配する余裕がある辺り、大人の度量を感じる
「茨乃君が追ったリーダーは最強のウェポン使い、少なくとも曲者ぞろいの信詩や黒栖をまとめられるだけの、実力があるはずだ」
確かに強敵ぞろいの『チーム』をまとめる彼が、そう簡単に負けるはずも無いだろう
芦川はゆっくりと陣川を座らせる
「じゃあ、あいつの様子見てきます。また後で」
芦川は茨乃を探しに駆け出していった
「……君のようなものに、涙も見せたくないしね」
芦川が離れていって見えなると陣川は呟き、ワタルの亡骸の横で静かに泣いた
茨乃とリーダーが居そうな所の見当はすぐについた
茨乃の放つ発砲音が芦川と陣川が戦っているときも微かに聞こえた。そしてなにより…
(あのクソでかいラジオ体操の歌……)
芦川達の戦闘中、しっかりと聞き取れるラジオ体操の歌が聞こえていた
もし、この緊張状態の町であんな事をやらかす奴がいたとしたら、間違いなくチームのリーダーだ
(通りすがりの狗飼か……)
芦川は苦笑しながら、目当ての場所に着く
中に図書館と美術館がある、ガラス張りの9階建てのビルだ。茨乃が銃弾を外したのかガラスの一部に穴とひびが入っている
「蒼! 大丈夫か?!」
芦川が自動ドアから中に入ると、鉄の臭いが鼻を突いた
(血か……? もしかして茨乃がリーダーを倒した?)
だが、それは考えにくかった。陣川は『リーダーは強敵』と言っていたし、なにより茨乃なら戦いが終わったらすぐにぴょこっと出てきそうなものだ
「まこ……いる……?」
「蒼?!」
微かにだが茨乃の声が芦川の耳には届いた
芦川は辺りを見渡し茨乃を探す、そして茨乃はすぐに見つかった
床に仰向けに倒れ、全身を刃物のようなもので切り刻まれた状態の茨乃 蒼が
to be next Track!!