Track3-Love or Lies
※前回までのあらすじ
再び『DANDANバーガー』で遭遇した芦川と茨乃
二人は狗飼や北条と共に、楽しい時間を過ごす
芦川はその後茨乃に音楽を聴いている間だけ使える武器『ウェポン』と彼らが住む『七石市』を襲った災害『七石ガス爆発災害』がウェポンを作るための実験の結果だということを知らされる
そんな中、夜の公園に信詩と名乗るウェポン使いが現れ「お前たちを葬る」と宣告してきた……
「にゃ-はっはっはっ! 『お前達を葬りに来た』だってさ! なにそれ、中二病?!」
得体の知れない相手を前に、急に茨乃は腹を抱えて笑い出す。芦川と信詩と名乗った少年はお互いに顔を見合わせる
「こいつ……ふざけてるのか?」
「悪い、この娘これが地なんだ」
いきなり敵と思しき、少年と和やかな雰囲気になってしまった。しかし、その緊張を破るかのように銃声が鳴り響き、信詩の頬を弾丸がかすめる
弾丸は茨乃の持つ二挺拳銃から撃たれたものだった
「あーあ、外しちゃった」
先ほどまで敵を馬鹿にしていた調子はどこかに消え、茨乃は拳銃を構えて敵を再び見据えていた
あわせずらいなぁ、と感じながらも芦川はポケットの中に入っている音楽プレーヤーに手を伸ばした。大剣を持った信詩とそれほど離れていないので、ここでイヤホンをつけ、音楽を流すという動作をしているうちに、あの巨大で不気味な剣に潰されるのは目に見えている。ただ茨乃の銃だけではあの剣を崩せそうにもなく、逆に近づかれたら受け止められずに切り伏せられるだろう
と、なると後は逃亡、これが一番生き延びる確立が高そうだ。少なくとも馬鹿正直に戦うよりは
「もしかして、考えてること同じかなぁ?」
茨乃は視線を信詩に向けたまま芦川に笑いかける。芦川も頷き一歩後ろに下がった、と思わせ、地面から土をすくい上げ信詩の顔に投げつける
「うひゃっ?!」
先ほどまでのクールな口調を崩し、目を覆った。流石に大きな剣を担いだ状態では、すぐに防御に移れなかったようだ
「グッジョブ! ボーイ!」
茨乃が叫ぶ。それを合図として芦川は信詩から離れるように駆け出す。一応、追いつかれたとき対抗できるよう、音楽プレーヤーを取り出しイヤホンを耳につける
「このまま人の多いところまで突っ走ろう!茨の……あれ?」
芦川が走りながら振り返ると、そこに茨乃の姿は見えなかった。まだ彼女は、一応後退しつつも二挺拳銃を信詩に向けて乱射していた
「ちょ! 戦うのか?!」
「もちろんボーイ! 相手、もろに目に砂入ったから、しばらくの間は的だよ!」
茨乃の言うとおり、信詩は大剣を手放し蛇行するように逃げ回っていた。考えてることはまるで違ったようだ
「なにやってんだよ! 今のうち逃げろって!」
茨乃の横まで戻り肩をつかむ。が、茨乃は冷たくそれをふるい落とし、拳銃を打ち続ける
「逃げたいなら良いよ、別に止めないさ。元々巻き込んじゃった感じだしね!」
「……っ!」
そんな風に言うなよ、自分の意気地無し加減が強調されるようで悔しかった
「貴様らぁ! なめた真似をぉ!!」
信詩は視界が復活したらしく、再び大剣を発現させて茨乃と芦川の方へ向かってきた。
茨乃が撃ち続けるが、巨大な剣を盾のように構えながら向かってくるため、銃弾が跳ね返され効果がなさそうだった
「うらぁぁぁぁっ!!」
「あー! もう! 分かったよ!戦うさ!ほっとけねぇもん!」
信詩が大剣を振りかざす。ええい、ままよ!と芦川は決心を固め、それに向かって走り出す
それにあわせて茨乃の銃撃がやんだ。畜生、あいつ狙ってたな、と毒づきながら芦川は音楽プレーヤーの再生ボタンを押して念じる
――来いっ! ウェポン!
芦川は右腕に片刃のブレードを発現させ、信詩の大剣をガードする
「なっ?! 俺の『デッドソード』を防ぐとはっ?!」
「ずいぶんとカッコいい名前じゃないっすか……っ!」
とはいえ、大剣自体にかなり重さがあり、防いでいる右腕を左手で押さえながら、体全体で支えなければ、すぐ押しつぶされそうだった
「茨乃! 決めてくれ!」
「ライト! マイバディ!」
その隙に茨乃は信詩の横に回り、二挺拳銃をピアノを演奏するようにリズム良く乱射する
「ちっ!」
信詩は芦川と交えていた大剣を振り払い、芦川を吹き飛ばすと同時にその動きを利用して茨乃の銃撃を回避する
「ゲッサム! クソギークの割にはちょこまかとっ!」
「茨乃、お前口悪いっての!」
仮にも女の子とは思えぬようなスラングを吐いた茨乃に文句を言いつつ、芦川は立ち上がって、再びブレードを構える
信詩は間髪要れずに、芦川に向かって一直線に走り、大剣を大きく横に薙ぐ
「ぐっ……がっ!」
芦川はとっさにブレードで体を庇うが、勢いに押され大きく吹っ飛ぶ
地面に激突し転がりながら芦川は咳き込み、何とか立ち上がろうとするが吹き飛ばされた時に体を痛めたか、うまく立ち上がることができない
「ちくしょう……普段から運動しないのが祟ったか……」
「安心しろ、すぐに楽にしてやるさ……」
いつの間にか信詩は芦川のすぐ近くまで迫っていた。その口元は笑っていたが、どちらかというと「歪んでいた」のほうが正しい気がする
芦川は這って逃げようとするが、足を信詩に踏みつけられて動けなくなってしまった
「っつ!! おい……人の事踏みつけちゃ駄目だって、学校で教わらなかったの?」
芦川は必死に強がって見せるが、その手は震えていて、目も泳いでいた。こんな状況に立たされてびびらないヤツの方がおかしい、と自分に言い聞かせるだけで精一杯だった
「さらばだ、力を持たぬものよ……また来世で――」
「させるかぁ!!」
信詩が剣を振り上げた直後、茨乃の雄たけびと共に何かが芦川の足を踏みつけていた信詩の足に突き刺さる
「がぁぁぁぁ?!」
信詩は芦川から離れ、自分の足を庇うようにうずくまる。芦川は茨乃の声をしたほうを見ながら起き上がる
茨乃が持っていたのは二挺拳銃ではなく、水中用と思われる小型の銛打ち機だった。そう、信詩に打ち込まれたのは「銛」だった
確か大男の時も茨乃のウェポンはライフルやショットガンのような違う形の銃に変化したのを芦川は見た
銛撃ち機も無理やりな考え方をすれば水中用銃、とも言えなくもない
「グッジョブ、茨乃助かった……」
「ううん! 助けるの遅くてごめん……でもボクたち初めてにしては連携が上手くいってるね!」
「同感だな……さて、この中二君をどうしましょう、茨乃先輩」
流石に刺さった銛を抜くことは信詩には出来ず、いまだその場でうめいていることしか出来ないようだった。しかし、信詩は顔を上げ、狂ったように笑い始める。実際、芦川達は信詩が狂ったのかと思った
「はーっはっはっはっは!! 馬鹿がっ! これからが恐怖のはじまりだよ……」
「はぁ? なに言ってんだ?」
芦川は先ほど足を踏まれたときの怒りもあいまって、険しい顔つきで右腕のアームブレードを信詩の首元に突きつけた
「こいっ! 屍共よっ!」
「だから何を言って――」
少し変に芦川は思ったが、ときすでに遅し。芦川の足を何かが「掴む」
「真……それ……」
「ひぃっ?!」
芦川は慌てながらその足にまとわりついた『何か』を振りほどいた
芦川の足を掴んでいたのは動く死体。ファンタジーや映画の中のものでしかないはずの
――ゾンビだった
信詩がゆっくりと立ち上がる。否、自力ではなく二人の『ゾンビ』が彼の体を支えていた
「おいおい……マジかよ……」
「自分の目が信じられないか? 力なきものよ」
信詩の言うとおり、信じられなかった。まさかゾンビなんてものを相手が使えるとは。だが、茨乃の銃がコロコロ変わったりする現象や、大男の宙を浮いてひとりでに攻撃する篭手なんかがあるのだ、ゾンビくらいいてもおかしくないと芦川は無理やり納得する
「真っ! 周り!」
「はっ! いまさら気づいても遅いぞ、銃使いの女!」
芦川と茨乃はあたりを見渡す。公園の茂みや、ちょっとした影からぞろぞろとゾンビが這い出てくる。その数ざっと50は居そうだ。ゾンビは芦川たちを確実に包囲していく
その包囲網の中にまぎれるように、信詩はゾンビに支えながら後退する
「はっはっは! これが俺のウェポンの能力『死肉の行進』だ。俺は自分のウェポンで殺した人間を生ける屍として行使できる能力だ」
「殺した……人間?」
芦川の中で恐怖とはまた別の感情が芽生え始める
怒りだ。信詩の能力が彼自身の言うとおりであれば、信詩は芦川達と戦うために、おそらく前もってゾンビ用にと大量に人を殺していたのだろう
それも多分無関係の人たちを
「この……てめぇ!!」
「真っ! 怒るのは後にしよっ!まずはこいつらをなんとかしなくちゃ!」
茨乃がヘッドホンの曲を二曲分曲送りし、水中用銛撃ち機からライフルへウェポンを変化させ迫り来るゾンビ達をフルオート連射で遠ざけようとしていた
芦川も自分のイヤホンから流れている音楽に集中し、アームブレードをしっかりと発現させると近づこうとするゾンビを切り伏せる
ブレードは想像以上の切れ味で、のそのそと動くゾンビの首を切り落とした
「な、なんかすげぇぞ、俺のウェポン……いけるっ!」
芦川は戦意をあげたようで、力強くブレードを振るう
しかし芦川には剣術の経験などまったくなく、ただブレードのついた腕を振り回すような恰好となり、すぐに体力の限界がきはじめた
茨乃の射撃もあたりはするものの、死体に銃弾を撃ち込んでいるようなものなので、ゾンビ達は一瞬止まっただけですぐに動き出してしまう
「力無きものどもよ、そろそろ諦めて死を受け入れたらどうだ?」
「お断りだよっ、ファッキンギーク!」
茨乃は近づいてきたゾンビを蹴り飛ばして、ほかのゾンビと衝突させ、時間を稼ぐ
芦川も必死にアームブレードを振るうが、包囲網は狭まるばかり。さらにゾンビは切り伏せても切り伏せても湧き出てくる。どれほどの人がこのために殺されたのか見当もつかない
「茨乃……ちょっと俺限界かも……」
「いっそ、蒼でも良いよ……ボクもさっきから真の事呼び捨てにしちゃってるし……」
「りょーかい……で、蒼。どうするよ?」
茨乃の服はゾンビにつかみやぶられ、ところどころ破れていた。芦川も、ゾンビ達の体に残っていた血の返り血をあび、体中血だらけだった
「さて……そろそろ、フィナーレだ……」
ゾンビ達の向こうのほうから、信詩の声が聞こえる
芦川は音楽プレーヤーを停止させ、アームブレードを『収納』した
(もう駄目だ……)
芦川はうなだれながら圧倒的な戦力差に絶望する
「終わりだな……やれ」
信詩が合図をすると、ゾンビ達が芦川達めがけて一斉に飛び掛ってくる
芦川はすべてを諦め、目を瞑った
「まだ終わってたまるかぁぁ!!」
ゾンビ達が一斉に芦川と茨乃に飛び掛ったとき時、可愛らしくも迫力のあるという矛盾していると言われてもおかしくなさそうな声が響き渡る
それは茨乃のソプラノのような声だった
茨乃は、素早くヘッドホンの曲送りボタンを何回も押す。すると、大きな筒のようなものが茨乃の肩に乗せられ、茨乃はそれをそのまま担いだ
「え?」
「え?」
疑問の「え?」は芦川と信詩から発せられた言葉だった
茨乃が構えたのは、戦場で戦車や建造物などを破壊する際に兵士が使う武器、ロケットランチャーっだった
「吹き飛べファッキーン!!」
茨乃は叫んだ後に、迫り来るゾンビ達に対してロケットランチャーの引き金を引く
が、もちろんそれは離れた目標に撃つ用のものであり、近距離で迫るゾンビにあたれば茨乃ごと吹き飛びかねない
「蒼っ!」
芦川がそう叫んだときには、発射されたロケット弾がゾンビにあたり、爆発した
ロケット弾の爆発のせいであたりを煙が覆う、信詩は煙を吸わないようにコートで口元を押さえながら煙が晴れるのを待った
近距離でロケットランチャーを撃てば、撃った本人も吹き飛ぶのは信詩にも分かりきったことだった。これでゾンビの数もだいぶ減ってしまったが、自滅してくれたのならばそれで良い
信詩は携帯電話を取り出し、ある人物に電話をかけようとアドレス帳を開き、電話をかけようとする、が、直前で思いとどまった
「ちょ、蒼押すなっ!転んじまう!」
「早く行ってよ! うわぁ?!なんか踏んだぁ?!」
自滅したと思っていた芦川と茨乃の声が煙の中から聞こえたのだ
「くっ! 屍共、やつらを捕らえろ!」
「うわっ?! 見つかっちゃった?!」
それを最後に、彼らは喋らなくなり変わりに走って遠のく音が聞こえた
ゾンビは先ほどの爆発で大半がもう使い物にならなくなっていたようで、芦川たちを捕縛できなかった
煙が晴れた時にはもうすでに芦川たちはそこには居なかった
「ふっ、だが良い……もうお前たちはこの公園からは逃げられないさ……」
信詩は怪しく笑った後、生き残ったゾンビに支えられつつ、芦川達を追い始めた
「……やっぱどこも囲まれてるか」
芦川は茂みから顔をのぞかせて、公園の周りの様子を伺った
公園の入り口や、その周りはゾンビが周回しており見つからずに逃げ出すのは難しそうだった。また、暗いところで見ればゾンビはただゆっくり歩く不気味な人、と言ったところなので通行人を公園から遠ざけるのにも一役買っていた
「に、してもだ。ロケットランチャーはないだろ、ロケットランチャーは」
「えへへ~」
茨乃は頬を書きながら照れた。いや、褒めてないっての
本来であれば茨乃のロケットランチャーの爆風で二人とも粉みじんになっていたはずだったが、芦川がすんでのところで茨乃を押し倒して体勢を低くし、ロケットランチャーの砲口が少しずれ、二人はどうにか生き延びることが出来た
芦川は音楽プレーヤーをいったん止めて、地面に腰を下ろしここまでの状況を整理する
場所はこの七石市の中心にあり、市で一番大きい緑化公園。木や二人が隠れているような茂みも数はあるが、隠れるのにも限界はある
ゾンビが公園の周り巡回しているため無理に脱出しようとすればおそらく気づかれる。朝まで隠れてやり過ごすのも、この公園の敷地内だけでやり過ごすのは不可能、よって却下
残った選択肢は信詩を倒し、彼のウェポンを無力化することぐらいだ。だが、またあのゾンビ軍団に迫られたら今度こそ芦川たちが死にかねない
「うわー……パーカーボロボロ……気に入ってたのにー」
真剣に考える芦川とは対照的に茨乃は、ゾンビとの戦闘でボロボロになった自分のパーカーを気にしていた
「しょうがないなぁ、脱ぐかな」
「ぶっ?!」
急に何を言い出すんだこの子は。芦川の思考が一気にピンク色に染まる
「こっ、こんなところでぬいじゃ駄目だろっ!」
「えーだって邪魔じゃん、ボロボロになったパーカーなんか」
「あ、そうですよねー……」
芦川は頭を抱える。やりなれていない喧嘩――というよりは殺し合いだが――の後だ。頭が混乱してテンパっているようだった。ぶんぶんと頭をふるって雑念を振り払う
「あ、真! パーカーにスニッカーズ入ってたよ! はんぶんこして食べようよ!」
茨乃が脱いだパーカーに入れていたスニッカーズを発見したようで、ニコニコ笑いながら
「……蒼って天然って言われたことない?」
芦川は先ほどからのあまりのマイペースさ加減に、少しうんざりしたのが半分、やつあたり半分で皮肉を吐いてみる
すると茨乃は一瞬驚いたような顔になったあとに、少し困ったように笑った
「あははーわかんないなぁ。記憶がないから、元々の自分の性格もわかんないんだよー」
芦川の表情が固まった。信詩に追い詰められたときに救ってくれたのは彼女だった。自分だけ逃げようとしてた時も、彼女は芦川を責めなかった。
もしかしたら今までの能天気な振る舞いも、芦川がパニックにならないためだったのかもしれない
「……」
「ほえっ? ああ、そんなブルーな顔にならないでよっ! かっこいいお顔が台無しだ
よー」
「いや……そのごめん」
「ほえっ? あ、そうだなんでボクがあいつらに追われてるかまだ説明してなかったね」
芦川の嫌味はあまり気にしていないようで、茨乃はすぐにいつもの調子を取り戻す
「実は一ヶ月前くらいからかなぁ、それまでずっとあの大男や、中二病ゾンビ君達に捕まってたんだー」
「捕まってた?!」
「うん、ただ捕まるまでの記憶がなくてね? 起きたときにはあいつらのアジトにいましたっ!みたいな」
茨乃はニカッっと笑ってスニッカーズを半分に折り、どっちが大きいかを見定めながら続ける
「んで、大男とかに気づかれないように、こっそりこっそり逃げてきたの! その時にあいつらのアジトにあったお金と、自分の記憶の手がかりになるかなー?と思ってウェポンの資料とか持ち出したんだ!おかげで追われる身になっちゃったけど!」
茨乃はスニッカーズから目を離し、まるで「凄いでしょ、褒めて褒めて」と言わんばかりの視線を芦川にぶつけてきた
「あ、スニッカーズは小さいほうで良いぞ。じゃあいつどこであいつらに捕まったかも忘れちゃったんだ」
「うん、恥ずかしながら」
茨乃は少し頬を赤らめつつ、正直に少し小さく割れたスニッカーズを芦川に差し出し、芦川もそれを受け取った
「ホント最初は不安だったよー。本当に全部忘れちゃってるんだもん。ボクが一体どこの誰で、どういうところに住んでいてどういうものが好きか。そういうの全部分からないんだもん」
「そりゃ、不安にならない人のほうが少ないだろ」
茨乃のこの元気なところは、そういうことを不安に感じている自分を隠すためなんじゃないか、と芦川はスニッカーズを齧りながら思案する
「それからはあの大男や中二病、あとなんか蜘蛛みたいな女の人とかがボクを追ってきたんだ。ボクはあいつらのことを『チーム』って呼んでる。あいつら同じ服着てるし、なにより連携しているみたいなんだ。北に逃げたらそこに敵が居て、逃げるように南に向かったら挟み撃ち、なんてこともあったんだよ」
茨乃は忌々しそうに話す。芦川も大男と信詩の他にもまだ茨乃や自分を狙う敵が居ることを知り、顔が険しくなる
「で、あいつらから奪ったお金もなくなり始めて、困ったなーって時にあのハンバーガー屋さんで真と会った」
「大男も、だけどな」
茨乃は「ほんとあいついらない子ー」と苦笑いしてスニッカーズを齧って、あまり噛まずに飲み込んだ
「これは多分推測だけど、チームはウェポン使いの力を狙っているんだよ」
「そりゃ、こんな武器があれば世界とまでは行かないけど、国一つは相手に出来そうだもんなぁ。このウェポン」
茨乃は頷いて続ける
「だけど分からないんだよ、ウェポンは万能だけどそれなら説得とか洗脳で仲間にすればいいのにボク達を殺そうとしている」
「あの大剣野郎から聞けると思うか?」
茨乃は苦笑いしながら、首を横に振る。「無理」ということだろう。多分彼女は試したことがあるのだろう
「てゆーかごめんね、本当に巻き込んじゃって」
茨乃は芦川の方を見ずに続ける
「別に俺は……」
「さっきも、戦わずに逃げてたら良かったのかもしれないのにさ。ボク真が仲間になってなんでも出来る気がしたんだよ。でも、結局これだもん。本当にごめん」
茨乃の声はいつにもましてションボリしているように聞こえた。芦川も茨乃のかおをみないようにそっぽを向く。こういう時気の利いたセリフでも言えればいいのだが、芦川には無理そうだった
少し沈黙が続く。芦川は沈黙が一時間にも二時間にも感じられた。実際は数分というところなのに
ふと茨乃がなにかに気づく
「あわっ! ヤバイヤバイ! バッテリーなくなったら大変だぁ!」
どうやら彼女は音楽プレーヤーの電源を入れっぱなしだったようで、すぐにヘッドホンについた停止ボタンを押す
その一連の行動を見て、芦川の頭の中であるアイデアが思い浮かんだ。今、芦川たちが信詩に打ち勝つためのアイデアだ。ただ成功する確証はないかなり博打なアイデアだが、今隠れているこの状況よりはマシだ
早速芦川は茨乃に提案する
「なぁ、蒼。信詩もウェポン使いなら音楽を聴いてなきゃあの大剣やゾンビは使えないよな?」
「ふぇ? あ、うん。暗くてよく見えなかったけど、多分あいつも耳にイヤホンつけて音楽プレーヤーとかケータイで音楽聴きながら戦ってると思うよ」
芦川は頷く、それならばこちらにも勝機が見えてくる。迫り来るゾンビですっかり失念していた
物量では信詩のほうが圧倒的なのは間違いないが、それ以外はあまり芦川達と条件は変わらなかったのだ
「なぁ蒼、そういえばさっきお金ないって言ったよな」
「う、うん言ったよ?」
芦川は立ち上がって、音楽プレーヤーを取り出した
「作戦がある、もし上手くいったらいいバイト先、紹介するよ」
芦川は耳にイヤホンをつけ公園の中央へ向かうように、ゆうゆうと歩く
そばに茨乃はいない。傍から見れば自殺行為に見え、二人を捜索していた信詩にもそう見えた
「おい、力なきもの。銃使いはどうした?」
芦川は振り返る。そこには信詩がゾンビに支えられつつ立っていた。応急手当でもしたのだろうか、血は出ているが足に刺さっていた銛はなくなっている
「お前なんか一人で十分そうだからな、逃がした」
少し声を震わせながら芦川は答える。ちらりと信詩の耳元を気づかれないよう見る。茨乃の言った通り、カナル式のイヤホンを装着しており、イヤホンのコードは信詩のコートのポケットまで続いていた
「ふっ、彼女は公園の外を巡回している屍に見つかり、喰われているところだろう……」
「んなわけねぇよ」
芦川は信詩のほうににじり寄る
「誰かを傷つけて、その傷つけたものを利用するようなやつなんかに、蒼は負ないよ。会ったばっかだけど、それは分かる」
芦川は先ほどの震えた声とは違い、しっかりとした声調で信詩に語りかける。目には炎すら宿っていそうだった
「戯言を……世の中力だ! 概念で勝てるほど、この世は弱者に甘くない」
信詩の後方からゾンビ達が這って迫ってくる。夜の公園の薄暗さで不気味さが倍増している
「あーいや、その数は卑怯だと思う……」
「数も力のうちのひとつだ、弱者」
信詩の声を合図にするように、ゾンビ達が芦川のほうへ向かって「駆け出す」
「えっ? ちょ走れるのかよぉ!」
芦川は戦わずに、一目散に逃げ出す
流石に大量のゾンビ相手に、消耗した状態で一人で戦うのは自殺行為だった
「あいつ……なにを考えているんだ?」
その芦川の行動の異様さには信詩も気づき始めていた。あまりにも脈絡がなさ過ぎる
先ほどまであんなに連携していた二人が、離れて行動しているのも不可解だ
「罠かもな……ん?」
イヤホンに繋がっている信詩の携帯がバイブレーションで震える。信詩の携帯電話は普段鳴らない。友人が居ないからだ。だが今電話をかけてきた人は別、強いて言うなら上司と言ったところだ
信詩はイヤホンをつけたまま、会話に入る
「も、もしもしリーダーか?」
『やぁ、信詩。今日も月は君を照らしていてくれているかい?』
電話からは優しくもあり、神秘的な声が聞こえてくる。信詩の言動は少なからず、この電話の向こう側の人物の影響がある
「ええ、リーダー。今日も力と希望ある私に月は輝いてくれます」
『そうか、それは良かった……でもその割にはまだ仕事が終わっていないようだね』
信詩は絶句する。確かに茨乃や芦川と戦い始めてから一時間以上たっている。その前にも戦うためのゾンビ『作り』でかなり時間を使っている。そろそろ終わらせなければ、電話の向こう側の相手はさらに苛立つはずだ
「ま、待ってくれリーダー、今一人追い詰めている。そいつだけでも今すぐ片付ける」
『……そうか、じゃあ頑張ってくれ。君を応援するよ』
それだけ言うと、電話は切れた。信詩はほっと息をついた
口調こそ優しいものの、この電話は『早く終わらせろ』という脅しでもある。例え罠でももう宣言してしまった以上は行くしかない
そろそろ足も痛みが引いてきた。信詩はゾンビの支えから離れ、芦川が逃げたほうへ足を引きずりながら向かった
「ちっ……やっぱ無謀だったか」
芦川は公園の隅の水のみ場までゾンビ集団に追い詰められていた。近くには公衆トイレがあり、そこに立てこもるという選択肢もあったが、あえてそれはしなかった
ゾンビ達が包囲網を狭めてくる。その目に生気はなかったが、迫力はあった
「うへぇ、これトラウマになりそうだ」
せめて、パニックにならないようにと茨乃のようにコミカルな態度を取ってみるが、恐怖心は消えずに、膝はお笑い番組でも見たかのように笑っている。いっそ寒いギャグでも言えば止まるだろうか
「よくあがいたな、力なきものよ!」
ゾンビ達が道を開け、そこを大剣を持った信詩が足を引きずりながら近づいてくる
「足、ボロボロなのによく頑張るな」
「当たり前だ、力あるものは傷ついても立ち上がる」
信詩は歩みを止める。大剣で芦川を斬り殺せる範囲に入ったからだ
「よく頑張ったのはお前のほうだ、力無きもの。この俺を相手にしてここまで生き残ったのはお前が初めてだ」
「そりゃどーも」
「最後に何か言いたいことはあるか?」
信詩は大剣を両手で持って振りかざす。振り下ろされれば芦川は頭からバックリ割れて死ぬことになる
芦川は俯き、小さく口を開く
「……お前こそ頑張ったんじゃね?」
「は?」
芦川はここぞとばかりに良い笑顔で顔を上げ、指を銃の形にして信詩に向ける
「蒼、BANG!!」
「All right! my buddy!!」
それを合図に茨乃が公衆トイレの中から出てきて、先ほど使ったロケットランチャーのウェポンを構え『地面』に向けて発射した
ロケット弾は公園のやわらかい地面をめくり上げ、その下にあるコンクリートにあたって炸裂し、さらに下にある『水道管』を破壊した
破壊した水道管が飲み水か下水かは分からないが、そこから勢いよく噴出す『水』は芦川や彼を囲むゾンビ達、そしてう信詩を飲み込んだ
「故障させる?」
「うん、俺たちはある意味イーブンだったのを忘れてた」
数分前、ゾンビや信詩達から隠れていたときに芦川は提案した
「あのゾンビも、細い腕でも扱える大剣型ウェポンも脅威だってのはわかる。でもその大元は『音楽』なんだ。だったらそれを止めればいい」
芦川は一時停止になっていた音楽プレーヤーの電源を止めた。茨乃が落ち着いた芦川の様子とは対照的におろおろしながら芦川に尋ねる
「そんな簡単に言うけど結構それ難しいって……相手にとっても音楽プレーヤーは命綱なんだよ、そうそう簡単に壊しにはいけないって」
「じゃあ、俺も巻き添えにしたら? と考えるんだ」
芦川は地面に公園の簡単な見取り図を書く、その中でひとつ大きく丸を書く
「公園のはしっこに公衆トイレと水飲み場があるんだ。まぁ、どんな公園にも水飲み場はあるだろ? ここまであいつらをおびき寄せる。隅っこに追い詰めさせたと見せかけるんだ」
「お、おびき寄せてもゾンビだけで中二病はこないかもよ?」
「いいや、絶対に来る。あいつはそういうやつだ。自分が強い主人公でありたい、そういう願望があるんだ、あいつには」
芦川は断言する。少なくとも死体の確認にはくるはずだし、なにより独りよがりで顕示欲の強い信詩なら来るだろう、というのが芦川の考えだった
「続けるよ、で俺が信詩の前に出て時間を稼ぐから、その間に蒼は気づかれないように公衆トイレで待ち伏せしててくれ」
「う、うんそれから?」
芦川は先ほど書いた見取り図に、公衆トイレと水飲み場とを一本の線で結ぶ
「トイレと水飲み場があるって事はそこには少なからず『水道』があるわけだ。これをさっきのロケットランチャーで地面ごとふっ飛ばせば、すごい量の水が出ると思う、それこそ『機械が壊せる』ぐらいの量のを。その水に俺ごとあいつを巻き込んであいつのケータイかプレーヤーかは分からないけど、音楽の大本を破壊する」
「で、でもそれじゃあ真の音楽プレーヤーも壊しちゃうよ?」
「ああ、だから攻撃役は任せた」
女の子に攻撃役を任せるのは気が引けるが、囮にさせるよりは良いはずだ
芦川は電源を切った自分の音楽プレーヤーを茨乃に握らせた
「え? あ、これ……」
「これ、父さんの形見なんだわ。だから出来れば壊したくないわけ、古い機種だから修理も出来ないわけだし」
「駄目だよ! ウェポンなしであいつの前にいくのは! 壊れるの嫌だったらボクのヘッドホンで
も――」
芦川は口元だけ笑って首を横に降り、小さく「頼む」と言った
「ウェポンが無くても走ることはできる。親からもらったこの足が今俺の使える最強の『ウェポン』だよ」
芦川は準備体操をするように伸びる。内心めちゃくちゃ怖い。今にも逃げ出したい気分だ。
だけど、記憶もなしに得体のしれない相手と戦う少女が居るくらいだ。彼女が今まで一人でつらい思いや怖い思いをしてきたのなら、誰かがその半分でも背負ってあげても良いんじゃないか。今はそれをやるのは自分なんだ、と芦川は自分を奮い立たせる
お人好しっていうんだろうなぁ、と芦川は心の中で呟いた
「バイト先!」
「え?」
茨乃が涙目になりながら芦川に指を突きつける
「絶対紹介してねっ! 死んで教えられませんっ!てのは無しだよっ!」
「そっちこそ、プレーヤー無くさないでくれよ?」
いつもと調子が逆転したように、芦川はニッと笑ったあと茂みから飛び出した
「くそっくそっ! 動け! 動けよ!」
犬のように体を震わせて、水を少しでも乾かそうとした芦川が最初に見たのは、必死に携帯電話のボタンを押す信詩の姿だった
どうやら芦川の読み通りに、彼の音楽の元は潰すことが出来たようだ
周りを囲んでいたゾンビたちも信詩のウェポンが使えなくなったからか、ただの死体になって周りに倒れるばかりだった
「終わりだ、もう」
芦川は呟くように信詩に語りかけたが、信詩の方は聞く耳持たずでうわ言を言いながら動かない携帯電話をずっと操作している
「嫌だ……死にたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない」
「お、おい落ち着け。まだお前には聞きたいことが」
芦川がパニックになっている信詩に近づこうと歩みを進めると、信詩はコートのポケットから何か鈍く光るものを取り出した
ナイフだ。小ぶりだが人を刺し殺すには十分なナイフを信詩は持っていた
「俺は死にたくない!! お前が! お前が代わりにしねよぉぉぉ!!」
信詩はその場でナイフをめちゃくちゃに振り回す。とても近づけそうになく、芦川は足を止めた
「信詩お前……」
発狂する信詩に芦川は哀れみすら感じ始めた。このまま優しい言葉でもかければもしかしたら仲間になってくれるのではないか
「な、なにも命まではとらないって、話を――」
「お前の、お前のせいだぁぁぁぁ!!」
芦川は信詩に言葉をかけたが、先ほどと同じで聞く耳を持たない。それどころかナイフを構えて芦川の方に走り出してきた
「ちょ、とまれ! やめろ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
芦川は避けようとするが足がなぜか動かない
理由は分かっている、リアリティがあるからだ
今まではゲームや小説にしか出てこないような大剣やゾンビが相手だったから、ある程度心の中で割り切れていたのだろう。だがナイフは、ただなんでも無いナイフをもった人間が叫びながらこちらに走ってくる
日常生活では有り得ないが、今までの出来事に比べれば日常により近く、恐怖をより一層感じさせて、体の動きを鈍らせていた
(あ、やべぇ……こわ、足動かないぞ)
せめて、体を守るように腕を前に掲げるのが精一杯だった
信詩とナイフが芦川の体に迫る。
あと15センチ
10センチ
9センチ
5センチ
2センパン
ナイフがあとほんの数センチまで迫ったところで、乾いた音が鳴り響きナイフの接近が止まる
芦川が盾にするようにしていた腕から目を開くと、ナイフを持ったまま硬直している信詩がいた。鬼のような形相で、まるで一時停止しているかのように硬直していた。
「なんだ……?」
信詩は口元から血を流しながら、ポロリとナイフを地面に落とす
「なんで……こんな……」
そう言うと信詩はその場に崩れ落ち、立っている芦川のほうを見る
「殺さないって言ったじゃないか……お前も、嘘吐きなのか……?」
よく見ると信詩の着ているコートの胸のところから血が染み出している
「ボクも出来ればこうはしたくなかったな」
茨乃が拳銃を持って倒れている信詩に近づく。ヘッドホンを頭にしっかり装着して、相手に音楽が聞かれないようにしている。銃口から煙が出ているところを見ると、芦川が刺されそうになったとき、信詩を撃って静止させたというのは容易に想像がついた
「嫌だ……死にたくない……」
信詩は首だけゆっくり動かし、茨乃の方を見る。目は涙で溢れ命乞いをしているようにも見える
が、そんな信詩を見る茨乃の目は冷たいものだった。茨乃は倒れている信詩の脇に立つと拳銃の銃口をまっすぐ信詩の頭に向ける
「多分、君が殺して作ったゾンビも同じ事を考えたと思うよ」
そう冷たく言い放つと茨乃は拳銃の引き金を引いた
「これ、返すね」
しばらく静寂が続いた後、茨乃は自分のウェポンを消して芦川から預かった音楽プレーヤーを差し出した
「あ、ありがとな」
芦川はそれを受け取ると、それを少し強引にポケットにねじ込んだ
「あはは……ボク、人殺しになっちゃった」
力なく茨乃は笑う。自分の行ったことの嫌悪感か、しゃがみこんで顔を隠す
「前回は店の中の人、今回は俺を助けるためだった」
芦川は必死にフォローしようとする。が、どうやってもフォロー仕切れない。悪人とはいえ、人を殺した罪悪感は拭いきれるものじゃない
「真を巻き込んじゃったし、ボクが居なければハンバーガー屋さんでも人は死ななかったはずなんだ……ボクさえ」
「そんな事言わないでくれよ」
芦川は言葉を搾り出す。アニメの主人公なら一言「甘えた事言うな!」と叫んで、ヒロインを励ますのだろうが、芦川は自分にそんな資格はないような気がした
だから、せめて出来ることを
「まだ、バイト先も紹介してないし、そもそも蒼が居なかったら俺はウェポンも使えなくて、あいつらに殺されていたかもしれない」
蒼がゆっくりと顔を上げる。その目は必死に涙をこらえていて、指で突けば今にも決壊しそうなほどだった
「なんか言うの恥ずかしいけど割と大事なんだよ、蒼がさ。まだ会って二日しかたってないけど、狗飼達とも一緒にだべったりしたし、そのなんだ? もう友達だと思うんだ。だから、その居なければとか言われるとなんか寂しい」
すごく独りよがりな持論だが、今の芦川にはこれが精一杯だった
もうどうにでもなぁれ、心の中で呟き芦川が目を閉じると、何か胸に衝撃があった
茨乃が立ち上がって芦川に抱きついたのだ。茨乃は芦川の胸に顔をうずめて必死に声を押し殺しながら泣いていた
覚悟はしていた、だがいざ直面すると胃が重くなるような感覚に襲われる。
芦川は自分が非日常に足を踏み入れ、もう戻れないことを知った。だけど、その中でも救えるなにかがあるのなら
抱きつく茨乃の頭を撫でながら、芦川は自分に気合を入れ直した
「彼は死んじゃったか……」
フードを被った少年が暗い路地に差し込む月を見上げながら呟く。彼の顔はフードで隠れ、完全には見えない
その脇には小学生ぐらいの男の子が携帯ゲーム機で遊んでいた
「の、割にはむごいことをよねぇ、貴方も」
路地のさらに暗いところから、髪が恐ろしく長い女が出てくる。歳にして20歳直前といったところか。彼女は茨乃が言うところの『チーム』の人間が来ている黒いコートを着ていた
フードの少年の脇に居た男の子がその女に気づくと、怯えた表情になりフードの少年の陰に大急ぎで隠れた。その様子を見た女は大きく舌打ちをする
「黒栖、そんな風に言うことないじゃないか。信詩はどちらにしても死んでもらう予定だったじゃないか」
フードの少年は怯えた男の子の頭を安心させるように、頭をなでる
「ウェポンを集約して、ひとつの武器にする……それは分かるの、だけどねぇ」
黒栖と呼ばれた髪の長い女は忌々しそうにフードの少年を見る
「信詩は黒栖、おぬしのお気に入りだったからのぉ」
路地に窮屈そうにしながら大男が入ってくる。『DANDANバーガー』で茨乃を襲撃した大男だった
「神崎、お疲れ。彼女には会えたかい?」
「おう、嫌な顔しておったが、弟の名前をちらつかせたら喜んでやるといっておったぞ」
大男の名前は神崎というらしい。彼は不器用に笑いながらフードの少年に自分の仕事を報告する
「で、リーダーこれからどうすんの?」
黒栖はイライラしつつ、フードの少年――リーダーに支持を催促する
リーダーはフードから口元だけ覗かせ、優しく微笑む
「急がなくてもいいよ、事は思い通りに進んでいる」
フードの少年はフードをゆっっくり外す。しかし月が雲に隠れ、その顔は暗闇に隠された
「君たちにまた会いたいな、蒼に真君」
To be next Track!!