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無双女子高生VSくノ一

 ――サラの意識が過去の絶望から戻って来る。トラウマだけあって、長い一瞬だった。目の前にはまだ敵が嗤っている。


「公式では消されたんだけどさ、あの人殺しの瞬間を押さえた動画ってSNS上でまだ出回っているんだよね」


 美瑠は邪悪な微笑みをたたえながら言う。小悪魔の言う通り、羅刹院サラがボクシングの公式試合で暴走し、シバキングを殴り殺した動画は何度消されてもデジタルタトゥーとしてネットの世界で漂っている。この先にサラが何をするにしても、その動画はことあるごとに蒸し返されるに違いない。


 サラは美瑠を睨んだ。よっぽど強い力で噛み締めていたのか、歯ぎしりの音が漏れているのに気付いた。


 翔子の姿は見えない。美瑠の放った煙玉の向こうで二人の闘いを見守っているのだろうが、どんな表情をしているのかも想像出来なかった。翔子はサラに幻滅しただろうか。想像したら怖くなった。


 それよりも、今は目の前の敵に集中しないといけない。自称くノ一の男の娘は、武器を使う上に身体能力も高い暗殺者だ。武器も無く格闘術だけで闘うサラにとっては分が悪い。


「それじゃあ、サラサラの過去もバラしちゃったところで、そろそろ終わらせてあげようか。どうせはじめから終わってるんだからね」


 美瑠がまた高速で走りはじめる。153cmのギャルは、街を走り抜ける猫さながらだった。さすがのサラでも、攻撃を当てるタイミングを計りかねている。


 走りながら美瑠が棒付きキャンディを取り出す。棒をつまんで、走りながらサラに向かって投げつけてくる。


 嫌な予感――サラは走ってキャンディの弾道から外れる。本能が「それに触るな」と言っていた。


 直後に背後で破裂音がした。美瑠の投げたキャンディが小規模な爆発を起こしたようだった。


「面白いでしょ、それ。ハジける味なの」

「面白くないわよ」


 美瑠を睨みながらサラも走り回る。さっきのキャンディは手榴弾のようなものだったらしい。忍術もクソも無い気がするが、厄介な攻撃を仕掛けてくることだけは間違いない。同じ場所に立ち続けるのは危険だと判断した。


 美瑠はなおもドラえもんよろしく爆弾キャンディを投げつけてくる。それも投げ方が絶妙で、サラの行き先を予測して放ったり、タイミングをずらして投げつけてくる。お陰でサラはコンクリの固い床をなんどか転げ回って爆発を回避しないといけなくなった。


 ――このままでは埒が明かない。


 サラは走って爆発をかわしながら、あさっての方向に走り出した。


 落ちていたクナイを拾い上げる。さっき美瑠の投げつけて来た、先の尖った槍の先端に似た手裏剣だ。


 クナイを拾い上げると、振り向きざまにスナップを利かせて投げた。思ったよりも力の乗ったクナイは、美瑠の顔面めがけてまっすぐ飛んでいく。想定外の反撃に驚いた美瑠は、首を捻ったが少し遅かった。


 クナイは美瑠の顔をかすめ、ざっくりと一文字の傷を頬に残した。


「あ……」


 美瑠は呆然と切り傷を見つめ、手を当てて血が流れているのを確かめた。


 ようやくあのキャンディ爆弾が止まった。サラが本格的に反撃へと転じようとした瞬間、獣のような咆哮が上がった。


「あたしの……あたしの天使の顔が、傷付いた……! 許さない。お前は絶対に、許さないンゴ……!」

「なによ、そのキャラ」

「うああああああああああああ!」


 絶叫した美瑠は、血走った目で突っ込んでくる。素早い犬が人間に突っ込むようなタックルは、砲弾で撃たれたような威力だった。想定外の威力に、サラは思い切り吹っ飛ばされる。


「が、はぁ……!」


 ガードはしたはずなのに、それを突き破って尋常ではない威力の衝撃が腹部に突き刺さった。サラはボディーブローで一発KOされたみたいに、コンクリートの床を苦しみのたうち回る。


「まだだよ。ミルミルの顔に傷を付けた罪は、こんなものじゃ贖えないよ」


 サラを吹っ飛ばした美瑠が、殺意の波動を纏いながら歩いて来る。さっきまでのおちゃらけた雰囲気は無く、全身から殺気が溢れている。


 サラは激痛に苦しみながらも、何とか立ち上がった。ここで追撃を喰らうわけにはいかない。


「……これが隠していた本当の姿ってわけね」


 血の混じった痰を吐きながら、サラは腑に落ちた顔をしていた。


 美瑠と対峙していた時に感じていた、妙な気持ち悪さの正体がようやく分かった。かわいらしい見た目に隠されていたのは、目の前にいる悪魔のような正体だった。最悪な伏線回収。カタルシスの欠片も無い。


 大きくていかにもアイドル然としていた瞳はつり上がり、怒りで真っ赤に燃えている。全身ピンクなのも相まって、笑えない変質者が自分を殺しに来ているように見える。


 サラは構える。いつものサウスポースタイル。いかにもヤバそうな相手とはいえ、闘うしか道は無い。


 近くまで来た美瑠が消える。


 ――速い!


 信じられないスピードで移動して美瑠は、極度につり上がった目つきのまま左右の連打を叩き込んでくる。こんな小さな体のどこにそんな力が眠っていたのか、一発一発が鉄球で殴られているみたいだった。


 あまりの速さにカウンターのタイミングを逸して、サラは必死になってサイドへと回りこむ。まさかこの女(?)にこれほどの格闘センスがあるだなんて。想定外の事態に舌打ちしたくなる。


「逃がさないよ」


 美瑠はまた瞬間移動で一気に距離を詰めてくる。咄嗟にカウンターで左ストレートを放った。当たったのは額だったが、クリーンヒットだった。


 その刹那、恐ろしい殺気を感じて距離を取る。すぐに殺人レベルの威力を持ったフックが通り過ぎた。


「顔はやめろって言ってんだろうがあああ!」

「いや、言ってないでしょ」


 サラのツッコミはともかくとして、美瑠は顔を傷付けられることに想像を絶する嫌悪感があるようだった。


「お前の顔もおおおおおお、絶対にズタズタのグッチャグチャにしてやるからなああああああああ!」


 もはやチャッキーにしか見えない顔で、美瑠が襲いかかってくる。その姿は恐怖そのものだった。


 だが――


 乾いた音が響く。華麗なステップで右方向に回りながら、サラは速いジャブを当てていた。


 美瑠の動きが止まる。コンマ数秒だけフリーズして、再び怒りに我を忘れながら恐ろしいスピ―ドで突っ込んでいく。だが、その突進も止められる。またサラのジャブがその突進を止めていた。


 スナイパーのような目で敵を見据えるサラ。その姿は、カミソリパンチを武器に闘うリングの職人そのものだった。


 サラは踊るようにトリッキーなステップで美瑠を翻弄する。そのたびに伸ばすジャブが、面白いように美瑠の顔面をとらえ、顔面の皮膚を切り刻んでいく。


 前に出るたびにジャブで止められる美瑠は、鬼の形相が焦りの表情へと変わっていく。


「うそ、うそ、うそ……。こんなの、ウソだあ……」


 サラは表情を変えない。敵がどれだけ哀れな様相を呈していても、敬意を払って全力で潰しに行く。それが羅刹院サラの流儀だ。


 美瑠の脳裏に焦りが押し寄せてくる。どう考えても、このままでは勝てない。スカートにしまった小太刀に手を伸ばす。柄を掴む前に、殺人ジャブで止められる。煙玉を出す隙も与えてくれない。今度は美瑠の方が絶望する番だった。


「ちっくしょう……ちっきしょおおお!」


 半ば発狂して叫ぶ血まみれのツインテール。顔の皮膚はカミソリパンチでところどころが切り裂かれており、歯も折れている。鏡を見たくなかった。


「お前さえいなければ、お前さえいなければあああ!」


 ほとんど全壊に近いプライド。振り絞って、最後の反撃に出る。ワンチャン狙いの右フック――それは、カウンターで放たれた左ストレートで阻まれた。


 膝から崩れ落ちる。美瑠の意識は、完全に寸断された。


 まぎれもないノックアウト。ピンク色の小悪魔と繰り広げた死闘は、ここで幕を閉じた。


 サラは崩れ落ちた美瑠を眺めて、一瞬だけ悲しそうな顔をしてから無表情に戻った。

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