第9話:王都の噂
◆ リーナの報告
ある日――
リーナが、商業都市から戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
おっさんが出迎える。
「どうだった?」
リーナは、金貨の袋を差し出した。
「相変わらず、飛ぶように売れてるわ」
「そうか」
でも――
リーナの表情が、少し硬い。
「……どうした?」
「あのね、コータロー」
リーナは、真剣な顔で言った。
「王都で、噂になってるわ」
「噂……?」
「ええ。『スラムが豊かになっている』って」
◆ 噂の内容
地下倉庫で、4人が集まった。
おっさん、セシリア、ゴードン、リーナ。
「詳しく教えてくれ」
おっさんが言った。
リーナは、説明を始めた。
「商業都市で、噂を聞いたの」
「『スラムに、超高性能な魔道具が出回っている』って」
「それに……」
「それに?」
「『スラムが清潔になって、住民が健康になっている』って」
ゴードンが、顔をしかめる。
「……王都が気づいたか」
「まだ、確証はないみたい」
「でも、時間の問題ね」
おっさんは、腕を組んだ。
「……来るか」
「来ると思うわ。王都の役人が」
◆ 対策会議
セシリアが、不安そうに言った。
「王都が来たら……どうしましょう」
おっさんは、落ち着いて答えた。
「魔石のことは、絶対に秘密にする」
「はい」
「魔道具は、ゴードンの技術だと言う」
ゴードンが頷く。
「分かった」
リーナも言った。
「私も、販売ルートは教えないわ」
「ああ。情報は、最小限にする」
おっさんは、3人を見た。
「でも、スラムを守る」
「王都が何を言おうと、俺たちのやり方は変えない」
3人は、頷いた。
「はい!」
◆ 王都の様子
一方、王都では――
王城。
謁見の間。
王が、側近たちと話していた。
「スラムの件、どうなっている?」
側近が報告する。
「はい。商業都市から、情報が入っております」
「『スラムが豊かになっている』と」
「それに、超高性能な魔道具が出回っているとか……」
王は、眉をひそめた。
「超高性能な魔道具……?」
「はい。水を大量に出す、火を強力に出す……」
「王都の魔道具よりも、性能が上だと」
王は、考え込んだ。
「……調査しろ」
「はい」
「役人を派遣する」
「スラムの実態を確認してこい」
側近、頭を下げる。
「承知いたしました」
◆ 勇者の異変
その頃――
勇者ケンジは、訓練場にいた。
剣を振る。
でも――
「はぁ、はぁ……」
息が切れる。
顔色が悪い。
手が震える。
「……くそ、また疲れた」
侍女が、心配そうに近づく。
「勇者様、もうお休みになられては……」
「うるせえ! お前に指図されたくねえ!」
侍女、びくっとする。
「も、申し訳ございません……」
ケンジは、剣を振り下ろそうとした。
でも――
手が震えて、剣を落とした。
ガランッ。
「……くそ」
ケンジは、膝をついた。
「勇者様!」
侍女が駆け寄る。
「触んな!」
ケンジは、侍女を突き飛ばした。
侍女が倒れる。
「きゃっ!」
「……邪魔すんな」
ケンジは、荒い息をしている。
(なんだ、この体……)
(全然、力が入らねえ……)
でも、本人は気づいていない。
魔力中毒の兆候だということに。
(最近、本当に疲れやすいな……)
(まあ、戦いすぎなんだろ)
(少し休めば、治るだろ)
◆ 王女の訪問
訓練場に、王女が現れた。
「……勇者、また休んでるの?」
ケンジは、王女を見て、にやりと笑った。
「おお、王女様。ちょうどいい」
王女、嫌な予感がする。
「……何?」
ケンジは、立ち上がって王女に近づく。
そして――
王女の腕を掴んだ。
「今から、俺の部屋に来いよ」
「!? 離しなさい!」
王女が抵抗する。
でも、ケンジは力ずくで引っ張る。
「いいじゃねえか。減るもんじゃねえし」
「離せ! 衛兵!」
侍女たちが駆けつける。
「勇者様! お止めください!」
でも、ケンジは聞かない。
「うるせえ! 俺は勇者だぞ!?」
「勇者だからって、何をしてもいいわけじゃない!」
王女が叫ぶ。
ケンジは、王女を睨んだ。
「……は? 何様のつもりだ?」
「王女よ!」
「王女? 笑わせんな」
ケンジは、王女を突き飛ばした。
王女が倒れる。
「きゃっ!」
侍女たちが、王女を支える。
「王女様!」
ケンジは、吐き捨てるように言った。
「俺がいなきゃ、この国は魔物に滅ぼされるんだぞ?」
「俺の言うこと聞けよ」
「じゃなきゃ、魔物退治、やめるぞ?」
王女は、怒りで震えていた。
「……最低ね」
「何だと!?」
ケンジが一歩踏み出す。
でも――
その瞬間、体がふらついた。
「うっ……」
顔色が悪くなる。
侍女「勇者様!?」
ケンジは、膝をついた。
「……くそ、また……」
息が荒い。
王女は、立ち上がった。
「……いつか、その傲慢さが身を滅ぼすわよ」
そう言って、去っていく。
ケンジは、悔しそうに歯ぎしりした。
「くそ……くそ……!」
「体が……動かねえ……!」
◆ 王女の訴え
その夜――
王女は、父である王の執務室を訪ねた。
「父上」
「……何だ」
王は、疲れた顔をしている。
王女は、真剣な顔で言った。
「あの勇者を、何とかしてください」
王は、ため息をついた。
「……また、何かあったのか」
「今日、訓練場で……」
王女は、少し震えた。
「無理やり、寝室に引きずり込もうとしました」
王、激怒。
「何!?」
「衛兵が止めてくれましたが……」
「拒否したら、逆ギレして、私を突き飛ばしました」
王は、拳を握りしめた。
「……許せん」
「父上、もう限界です」
「侍女たちも、毎日怯えています」
「城内の雰囲気が、最悪です」
王は、頭を抱えた。
「……分かっている」
「でも、どうすることもできない……」
「なぜですか!?」
王女が叫ぶ。
「あの男がいなければ、魔物を倒せないからだ」
「……」
王は、娘を見た。
「すまない。父として、守ってやれなくて……」
王女は、唇を噛んだ。
「……いつか、あの男は報いを受けます」
「私が、そう願います」
王女は、そう言って去っていった。
王は、一人になった。
(……このままでは、本当に城が保たない)
(何か、手はないのか……)
◆ 役人の到着
数日後――
スラムに、王都の役人が到着した。
馬車。
護衛の兵士たち。
住民たちが、ざわつく。
「王都の人が……!」
「何の用だろう……」
「まさか、追い出されるのか……?」
不安が広がる。
おっさんは、役人を出迎えた。
「ようこそ」
役人は、おっさんを見た。
40代くらいの男。
眼鏡をかけている。
真面目そうな顔。
「あなたが、このスラムのリーダーですか?」
「ああ」
「私は、王都から派遣された調査官です」
「スラムの実態を確認しに来ました」
おっさんは、頷いた。
「分かった。案内しよう」
◆ スラムの視察
役人は、スラムを見て回った。
清潔な道。
共同浴場。
浄化槽。
畑。
住民の明るい顔。
「……これが、スラム?」
役人は、驚愕している。
「信じられない……」
「こんなに清潔で……」
「住民も、健康そうだ……」
役人は、おっさんに聞いた。
「どうやって、ここまで発展させたんですか?」
「魔道具だ」
「魔道具……?」
おっさんは、水を出す魔道具を見せた。
役人は、魔道具を見た。
その瞬間――
「……!」
「これは……超高性能じゃないか!」
「どこで手に入れたんですか!?」
おっさんは、ゴードンを指差した。
「あの職人が作った」
役人は、ゴードンを見た。
「あなたは……!」
「ゴードンだ」
役人、驚愕。
「ゴードン……! あの伝説の職人!?」
「首になったはずでは……!」
ゴードンは、笑った。
「魔石の品質が悪かっただけだ」
「いい魔石を使えば、最高の魔道具が作れる」
◆ 魔石の秘密
役人は、魔道具をじっと見た。
「この魔石……どこで手に入れたんですか?」
おっさんは、即答した。
「それは、企業秘密だ」
「企業秘密……?」
「ああ。教えられない」
役人は、少し考えた。
「……分かりました」
「でも、王都に報告しなければなりません」
「好きにしろ」
役人は、メモを取った。
「スラムが発展している」
「超高性能な魔道具が出回っている」
「製作者は、元王都の職人ゴードン」
「魔石の出所は不明」
役人は、おっさんを見た。
「……王都は、この件を放置しないと思います」
おっさんは、冷静に答えた。
「俺たちは、スラムの人々を守ってるだけだ」
「王都が何を言おうと、やめるつもりはない」
役人は、少し笑った。
「……あなたは、勇敢ですね」
「ただの、おっさんだ」
◆ 役人の帰還
役人は、スラムを後にした。
馬車に乗る。
護衛の兵士たち。
住民たちが、見送る。
「……行ったな」
おっさんが呟く。
セシリアが、隣に来た。
「これから、どうなるんでしょうか」
「分からない」
「でも……」
おっさんは、スラムを見渡した。
「俺たちは、守る」
「王都が何を言おうと、スラムは俺たちのものだ」
セシリアは、微笑んだ。
「はい!」
◆ 王都への報告
数日後――
役人は、王に報告した。
「スラムは、確かに発展しております」
「超高性能な魔道具が出回っており……」
「製作者は、元王都の職人ゴードンです」
王は、驚いた。
「ゴードン……! あの男が……!」
「はい」
「魔石の出所は?」
「不明です。企業秘密だと」
王は、考え込んだ。
「……厄介だな」
側近が言った。
「王都の魔道具より、性能が上だとか……」
「商業都市でも、評判になっております」
王は、頭を抱えた。
「……どうする」
「放置すれば、王都の権威が失墜します」
「しかし、スラムを潰すわけにもいかない……」
王は、しばらく考えた。
そして――
「……様子を見よう」
「はい」
「ただし、監視は続けろ」
「承知いたしました」
◆ 夜
スラム。
おっさんは、夜空を見上げた。
(……王都が動き始めたか)
(でも、まだ様子見の段階だな)
セシリアが、隣に来た。
「コウタロウさん、何を考えているんですか?」
「王都のことを」
「……大丈夫ですか?」
おっさんは、セシリアの頭に手を置いた。
「大丈夫だ。俺たちには、仲間がいる」
セシリアは、微笑んだ。
「はい!」
◆ 就寝
「じゃあ、寝るか」
「はい」
おっさんとセシリアは、一緒の部屋で寝ることになった。
別々の布団。
でも――
数時間後。
セシリアが、おっさんの布団に入って抱きついていた。
おっさんは、もう何も言わなかった。
(……もう、これが日常だ)
翌朝――
チュン、チュン。
おっさんが目を覚ますと、またセシリアが抱きついていた。
「……やっぱりな」
おっさんは、もう何も感じなかった。
(……完全に日常だ)
セシリアが目を覚ます。
「おはようございます、コウタロウさん♪」
「……おはよう」
おっさんは、諦めた顔で答えた。
(次回:第10話「勇者の限界」に続く)




