第8話:衛生革命
◆ トイレ問題
ある日――
おっさんは、スラムのトイレ事情を見て、顔をしかめた。
「……これは、ヤバいな」
汚物が、下水に流されている。
不衛生。
臭い。
病気の原因になる。
セシリアが、隣で言った。
「ずっと、こうなんです」
「王都も同じか?」
「はい……」
おっさんは、ため息をついた。
「このままじゃ、病気が広がる」
おっさんは、考え込んだ。
(日本なら、浄化槽だが……)
(バクテリアで分解する仕組み)
(この世界に、バクテリアの代わりになるものは……?)
◆ スライムの発見
数日後――
おっさんは、スラムの外を散歩していた。
草原。
湿地帯。
水が溜まっている。
「……ん?」
おっさんは、何かに気づいた。
ぷるぷる。
何かが動いている。
「あれは……」
近づいてみる。
スライムだった。
青い、ゼリー状の生物。
ぷるぷる動いている。
「……スライムか」
おっさんは、じっと観察した。
スライムが、枯れ草や落ち葉を食べている。
もぐもぐ。
そして――
スライムから、綺麗な水が出てくる。
「……!」
おっさんは、はっとした。
(スライムが、有機物を分解して、水にしてる!?)
(これを利用すれば……!)
◆ セシリアに相談
おっさんは、急いでスラムに戻った。
「セシリア!」
「はい?」
「スライムについて、教えてくれ」
「スライム……ですか?」
セシリアは、少し考えた。
「スライムは、弱い魔物です」
「草原や湿地帯に生息していて……」
「有機物を食べて生きています」
おっさんは、頷いた。
「そうか。じゃあ、汚物も食べるか?」
「汚物……?」
「ああ。有機物だろ?」
セシリアは、少し考えた。
「……おそらく、食べると思います」
「よし」
おっさんは、立ち上がった。
「スライムを捕まえに行こう」
◆ スライム狩り
おっさん、セシリア、ゴードン、住民たちで、スライム狩り。
草原の湿地帯へ。
スライムがいる。
ぷるぷる動いている。
「あれだ」
おっさんは、網を構えた。
「捕まえるぞ」
住民たち、慎重に近づく。
網でスライムを捕獲。
ぷるるるん。
スライムが暴れる。
でも、弱い。
簡単に捕まる。
「よし、これで10匹だ」
セシリアが聞く。
「十分ですか?」
「とりあえず、試してみよう」
◆ 下水の無生物性の説明
ゴードンが聞いた。
「そういえば、下水にはスライムがいなかったな」
おっさんも頷く。
「ああ。ネズミもいなかった」
セシリアが説明する。
「下水は、魔素が濃いんです」
「魔素が濃いと、魔物が来るんじゃないのか?」
「普通はそうです。でも……」
セシリアは、少し考えた。
「下水は、入り口から奥まで長いトンネルになっています」
「汚物だまりは、一番奥です」
おっさんは、頷いた。
「俺が浄化したのは、入り口付近だったな」
「はい。だから、魔物は気づかなかったんです」
ゴードンが聞く。
「気づかなかった……?」
セシリアは、説明を続けた。
「魔素が濃い場所には、魔物が来ます」
「でも、入り口が浄化されていたので……」
「魔物は、奥に汚物だまりがあることに気づかなかったんです」
おっさんは、はっとした。
(そういうことか)
(俺が偶然、入り口を浄化したから……)
(魔物の侵入を防いでいたのか)
ゴードン「なるほど。だから、下水には何もいなかったんだな」
「ああ」
◆ 浄化槽の建設
土の魔道具で、地面を深く掘る。
浄化槽の形を作る。
石を積む。
水の魔道具で、水を循環させる仕組み。
配管を設置。
トイレから浄化槽へ。
浄化槽から排水へ。
ゴードンが、配管を設計。
「こうすれば、汚物が流れていく」
おっさん、感心する。
「さすが、職人だな」
「当然だ」
「よし、これで器はできた」
次に――
スライムを浄化槽に入れる。
ぷるるるん。
10匹のスライムが、浴化槽の中で泳いでいる。
「これで、準備完了だ」
◆ テスト
住民が、新しいトイレを使う。
汚物が浄化槽に流れる。
スライムが、汚物に群がる。
もぐもぐ。
食べている。
そして――
スライムから、綺麗な水が出てくる。
「……おお」
「本当に、綺麗になった!」
「スライムが、汚物を分解してる!」
住民たち、驚愕。
セシリアも、感心している。
「すごいです……スライムに、こんな能力があったなんて……」
おっさんは、満足そうに頷いた。
「生き物を利用するのが、一番エコなんだ」
◆ ゴミ処理
次に、ゴミの問題。
リーナが言った。
「ゴミも溜まってるわね」
「ああ。有機ゴミは、スライムに食べさせよう」
おっさんは、住民に説明した。
「有機ゴミは、スライムの餌にする」
「燃えるゴミは、火の魔道具で焼却」
「金属は、溶かして再利用」
住民たち、真剣に聞いている。
「分かりました!」
「やってみます!」
有機ゴミをスライムに与える。
スライムが食べる。
もぐもぐ。
綺麗な水になる。
「……いいな。これで有機ゴミも処理できる」
◆ スライムの排泄物
数日後――
おっさんは、浄化槽を点検していた。
「……ん?」
浄化槽の底に、何かが溜まっている。
茶色い、泥のようなもの。
「これは……」
セシリアが説明する。
「スライムの排泄物です」
「排泄物……」
おっさんは、固形物を手に取った。
触ってみる。
しっとりしている。
臭いは……ない。
むしろ、土のような匂い。
「……これ」
おっさんは、はっとした。
(この成分……もしかして)
「セシリア、この排泄物、どうしてる?」
「え? 捨ててます」
「捨ててる……?」
「はい。魔物の汚物ですから……」
おっさんは、首を振った。
「いや、これは汚物じゃない」
「え?」
「肥料だ」
セシリア、ゴードン、リーナ、驚く。
「肥料!?」
「ああ。スライムが有機物を分解した結果、栄養が凝縮されてる」
「これを畑に撒けば、野菜がよく育つはずだ」
◆ 肥料のテスト
おっさんは、スライムの排泄物を畑に撒いた。
野菜の根元に。
住民たちは、不安そうに見ている。
「本当に、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だ。試してみよう」
数日後――
野菜が、ぐんぐん育っていた。
「……すごい!」
葉が大きい。
実が立派。
住民たちも、驚いている。
「こんなに育つなんて……!」
「スライムの排泄物、本当に肥料だったんだ!」
セシリアも、目を輝かせている。
「コウタロウさん、すごいです!」
「よく気づきましたね!」
おっさんは、笑った。
「日本の知識だ。生ゴミから堆肥を作るのと同じ原理だ」
◆ 循環システムの完成
リーナが、まとめた。
「汚物とゴミ → スライムが食べる → 水と肥料に分解」
「水は、排水」
「肥料は、畑に」
「畑で野菜が育つ」
「野菜を食べる」
「また、汚物が出る」
「そして、スライムが食べる」
リーナは、笑った。
「完璧な循環ね」
おっさんも笑った。
「ああ。無駄が一切ない」
ゴードンが言った。
「日本の知識と、この世界の魔物を組み合わせた……」
「素晴らしいシステムだ」
セシリアも、嬉しそう。
「これで、スラムがもっと豊かになります!」
◆ スラムの変化
浄化槽とゴミ処理が始まってから、スラムの雰囲気が変わった。
臭いがなくなった。
清潔になった。
病気が減った。
野菜がよく育つようになった。
住民の顔が、さらに明るくなった。
セシリアが、嬉しそうに言った。
「コウタロウさん、すごいです!」
「いや、みんなの協力のおかげだ」
リーナが、笑った。
「あんた、謙虚ね」
◆ 王都の様子
一方、王都では――
王城。
勇者ケンジが、戦場から帰還した。
「ふう、終わったぜ」
血まみれの剣。
魔物の死骸。
城の兵士たち、頭を下げる。
「お疲れ様でございます、勇者様」
ケンジ「当然だろ。俺がいなきゃ、お前らみんな死んでたぜ」
傲慢な態度。
城に戻ると――
「酒だ! 肉だ! 女も連れてこい!」
侍女たち、困った顔。
「ゆ、勇者様……」
「何だ? 文句あんのか?」
「い、いえ……」
侍女たち、仕方なく酒と料理を運ぶ。
ケンジ、酒を飲みながら侍女たちに絡む。
「お前、可愛いな。今夜、俺の部屋に来いよ」
侍女、顔を赤くして逃げる。
ケンジ「チッ、逃げやがった」
そこに――
王女が通りかかった。
20代前半。
美人だが、性格が悪い。
プライドが高い。
「……勇者、また騒いでるの?」
ケンジは、王女を見て、にやりと笑った。
「おお、王女様。今日も綺麗だな」
王女、顔をしかめる。
「……気持ち悪い」
「冷たいなあ。俺、勇者だぜ?」
「勇者だろうと、下品な男は嫌いよ」
王女は、そう言って去ろうとした。
でも――
ケンジが、王女の腕を掴む。
「待てよ」
「……離しなさい」
「今夜、俺の部屋に来いよ」
王女、怒りの表情。
「……ふざけないで」
王女は、ケンジの手を振り払った。
そして、去っていく。
ケンジ、笑う。
「いい女だな。いつか、落としてやる」
◆ 城内の険悪状態
王の執務室。
「……勇者は、また暴れているのか」
側近「はい……侍女たちが困っております」
「それに……」
「それに?」
「王女様にも、手を出そうとしているとか……」
王、頭を抱える。
「……あの娘も、怒っているだろうな」
「はい……城内の雰囲気が、険悪になっております」
王、ため息。
「しかし、勇者の力がなければ、魔物を倒せない」
「我慢するしかないのか……」
側近「勇者様も、最近体調が悪そうですが……」
「体調?」
「はい。息が切れやすく、顔色も悪いと……」
王「……魔力を使いすぎているのでは?」
「おそらく……」
「休ませろ」
「しかし、勇者様は聞かないかと……」
王、ため息。
「……困った男だ」
◆ 勇者の異変
夜。
勇者ケンジは、部屋で酒を飲んでいた。
侍女が、料理を運んでくる。
「勇者様、お食事です」
「おう、ありがとな」
ケンジは、肉をがっつく。
酒を飲む。
でも――
「……はぁ、はぁ……」
息が切れる。
顔色が悪い。
「……なんだ、この疲れ……」
侍女「勇者様、大丈夫ですか?」
「ああ……大丈夫だ」
ケンジは、また酒を飲んだ。
(最近、疲れやすいな……)
(まあ、戦いすぎなんだろ)
(少し休めば、治るだろ)
ケンジは、そう思った。
でも――
体の異変は、徐々に進行していた。
◆ スラムへ戻る
スラム。
おっさんは、夜空を見上げた。
(……王都は、どうなってるんだろうな)
セシリアが、隣に来た。
「コウタロウさん、何を考えているんですか?」
「いや、王都のことを」
「王都……」
セシリアは、少し寂しそうな顔をした。
「私、追放されましたから……」
おっさんは、セシリアの頭に手を置いた。
「大丈夫だ。もう、お前は俺たちの仲間だ」
セシリアは、微笑んだ。
「はい!」
◆ 夜の会話
リーナが、おっさんに聞いた。
「ねえ、コータロー」
「ん?」
「王都と、どう付き合うつもり?」
おっさんは、少し考えた。
「……まだ分からない」
「でも、いつか接触はある」
「そうね」
リーナは、腕を組んだ。
「王都は、スラムが豊かになってるのを知ったら、黙ってないわ」
「分かってる」
「でも……」
おっさんは、スラムを見渡した。
「俺たちは、俺たちのペースで進む」
「王都がどう出ても、守るものは守る」
リーナは、笑った。
「……あんた、本当に頼もしいわね」
◆ 就寝
「じゃあ、寝るか」
「はい」
おっさんとセシリアは、別々の布団で横になった。
でも――
数時間後。
セシリアが、おっさんの布団に入って抱きついていた。
おっさんは、もう何も言わなかった。
(……もう、これが日常だ)
翌朝――
チュン、チュン。
おっさんが目を覚ますと、またセシリアが抱きついていた。
「……やっぱりな」
おっさんは、もう何も感じなかった。
(……完全に日常だ)
セシリアが目を覚ます。
「おはようございます、コウタロウさん♪」
「……おはよう」
おっさんは、諦めた顔で答えた。
(次回:第9話「王都の噂」に続く)




