第6話:腕利きの商人
◆ 朝(4日目)
チュン、チュン。
また、鳥の鳴き声で目が覚めた。
「……ん」
なんか、重い。
温かい。
柔らかい。
(……もう何も感じない)
おっさんは、セシリアが抱きついてるのを確認して、諦めた。
「……おはよう」
セシリアが目を覚ます。
「おはようございます、コウタロウさん♪」
満面の笑み。
おっさんは、もう何も言わなかった。
(……これが日常だ)
◆ ゴードンへの相談
朝食を終えて、おっさんはゴードンの工房を訪ねた。
「ゴードン、ちょっといいか?」
「ん? どうした」
おっさんは、単刀直入に言った。
「商人を仲間に入れたい」
ゴードンは、頷いた。
「販路が必要だからな。当然だ」
「ただ……利益の配分なんだが」
「ん?」
「お前には、3分の1って言ったけど……」
「4人になると、4分の1になる」
ゴードンは、少し考えた。
「……なるほど」
「すまない」
「いや、いい」
ゴードンは、笑った。
「販路がなければ、利益もゼロだ」
「4分の1でも、十分だ」
「それに……」
ゴードンは、魔道具の部品を見た。
「素材は、もともと捨てられた魔道具だ」
「タダで手に入る」
「だから、利益率が高い」
おっさんは、頷いた。
「……ありがとう」
「気にするな。4人で公平に分けるのが一番だ」
握手。
◆ 元商人の小屋へ
おっさんとセシリアは、元商人の小屋へ向かった。
スラムの奥。
セシリアが、おっさんの腕にくっついてくる。
(……もう慣れた)
「ここです」
セシリアが、小さな小屋を指差した。
おっさんは、扉をノックした。
コンコン。
「……誰?」
低い、女性の声。
「話がある。開けてくれ」
しばらく沈黙。
ガチャリ。
扉が開いた。
そこには――
30代くらいの女性。
鋭い目。
痩せているが、芯が強そう。
商人らしい服装。
でも、ボロボロ。
「あんた、誰?」
おっさんは、少し驚いた。
(……きつい言い方だな)
「康太郎だ。魔道具を――」
「聞いてない。用件は?」
おっさん、少しムッとする。
「……魔道具を売ってほしい」
女性は、腕を組んだ。
「私、商人辞めたから」
「でも、販売ルートは持ってるんだろ?」
「持ってるわよ。でも使わない」
おっさんは、カバンから魔道具を取り出した。
「これを見てくれ」
女性は、魔道具を見た。
その瞬間――
「……はぁ? なにこれ、超高性能じゃない」
「俺が作った」
女性は、おっさんの顔をじっと見た。
「嘘つけ。あんた、どう見ても素人顔じゃない」
「……素人だけど」
「……マジで?」
女性は、魔道具を手に取った。
じっと見る。
魔石の純度を確認。
構造をチェック。
「これ、王都の職人でも作れないわよ」
「だから、売ってほしい」
女性は、考え込んだ。
そして――
「……分かったわ。売ってあげる」
◆ 契約
「報酬は?」
おっさんが聞く。
女性は、にやりと笑った。
「利益の半分」
「高すぎる」
「じゃあ、自分で売れば?」
女性は、腕を組んだ。
「……あ、販売ルート持ってないんだっけ?」
おっさん、ムッとする。
「……」
女性は、笑った。
「冗談よ。4分の1でいいわ」
「……最初から言え」
「商人の基本、ふっかけるのよ」
おっさんは、ため息をついた。
「……分かった。4分の1だ」
「契約成立ね」
握手。
女性の握手は、力強かった。
「私はリーナ。よろしくね、コータロー」
「……コータロー?」
「あんたの名前でしょ?」
「康太郎だ」
「同じじゃない」
おっさんは、諦めた。
(……この女、やりづらいな)
◆ 距離感ゼロの聖女
セシリアが、おっさんに抱きつく。
「コウタロウさん、契約成立ですね!」
リーナが、セシリアを引き離す。
「あんた、いい加減にしなさいよ」
「え?」
セシリア、きょとん。
「男にべたべたくっついて、恥ずかしくないの?」
「でも、コウタロウさんは……」
「あんたね、もう少し距離感考えなさい」
セシリアは、少し考えた。
「あ、わかりました」
そして――
リーナに抱きつく。
「ちょっと!? 何してんの!?」
リーナ、驚く。
セシリアは、無邪気に微笑む。
「聖女のときは、こうして女性を治療していました」
「治療って……あんた、距離感……」
「ダメでしたか?」
セシリア、純粋な目。
リーナは、呆れた顔でセシリアを引き離した。
「……」
リーナ、おっさんを見る。
「あんた、毎日これされてんの?」
おっさん、ため息。
「……ああ」
リーナは、おっさんの肩に手を置いた。
「美人にこれされたら、たまったもんじゃないわね」
「相手、下心があるわけじゃなく、純粋な……」
「ああ、私にはまぶし過ぎる!」
おっさん、頷く。
「……同情するだろ」
リーナ、心から同情した顔。
「するわよ。心から」
◆ 販売ルート
リーナは、地図を広げた。
「販売ルートは、こうよ」
「商業都市に、私の古いコネクションがある」
「小さな店だけど、信頼できる」
おっさんは、地図を見た。
「大手商店には、知られてないのか?」
「知られてないわ。裏ルートみたいなもの」
リーナは、地図に印をつけた。
「ここ。『銀の蝶亭』っていう店」
「店主は、私の恩人」
「あの人なら、魔道具を高く買ってくれる」
おっさんは、頷いた。
「分かった。じゃあ、そこに売ろう」
◆ 4人体制
リーナは、おっさんに聞いた。
「ところで、あんた一人で作ってるの?」
「いや、職人がいる」
「職人?」
「ああ。ゴードンっていう、元王都の魔道具職人だ」
リーナは、驚いた。
「ゴードン……! あの伝説の職人!?」
「伝説?」
「王都で一番腕がいいって言われてた人よ」
「でも、性能が出ないって理由で首になったって……」
おっさんは、笑った。
「性能が出なかったのは、魔石の品質が悪かっただけだ」
「あの人の腕は、本物だ」
リーナは、感心した。
「……なるほどね」
「あんた、いい人材を集めてるわ」
セシリアが言った。
「これで、4人ですね!」
「4人?」
リーナが聞く。
おっさん:「俺がリーダー」
セシリア:「私が魔法知識とサポート」
おっさん:「ゴードンが職人」
おっさん:「そして、リーナが商人」
リーナは、笑った。
「……面白いチームね」
「バカと天然と職人と私」
おっさん、ムッとする。
「バカって誰だ」
「あんたよ」
「……」
リーナは、笑った。
「冗談よ。でも、このチーム、悪くないわ」
◆ 最初の出荷
翌日――
リーナは、魔法の袋に魔道具を詰め込んだ。
水を出す魔道具。
火を出す魔道具。
風を出す魔道具。
土の魔道具。
その他、色々。
「これだけあれば、十分ね」
おっさんは、心配そうに聞いた。
「本当に売れるのか?」
リーナは、自信満々に笑った。
「売れるわよ。この性能なら、飛ぶように」
「でも、高すぎると……」
「高くしないわよ。適正価格」
「王都の魔道具より少し安く」
「でも、性能は圧倒的に上」
リーナは、魔法の袋を背負った。
「じゃあ、行ってくるわ」
「気をつけてな」
「心配しないで。商人は、交渉のプロよ」
リーナは、自走式カートに荷物を積んで、商業都市へ向かった。
おっさんとセシリアは、見送った。
「……売れるかな」
おっさんが呟く。
セシリアは、微笑んだ。
「大丈夫です。リーナさんなら」
◆ 結果を待つ
数日後――
リーナが戻ってきた。
自走式カートには、金貨の袋。
「ただいま」
「おかえり」
おっさんが駆け寄る。
「どうだった?」
リーナは、にやりと笑った。
「売れたわよ。飛ぶように」
リーナは、金貨の袋を差し出した。
「これが、利益」
おっさんは、袋を開けた。
中には、大量の金貨。
「……これ、全部!?」
「ええ。全部売れたわ」
「店主も驚いてた」
「『こんな高性能な魔道具、初めて見た』って」
セシリアも、目を輝かせている。
「すごいです……!」
リーナは、腕を組んだ。
「当然よ。私の腕を舐めないで」
◆ 利益の分配
地下倉庫で、4人が集まった。
おっさん、セシリア、ゴードン、リーナ。
「じゃあ、利益を分配するか」
おっさんが言った。
リーナが金貨を数える。
「全部で、金貨100枚」
「4分の1ずつだから……」
「一人、25枚ね」
金貨を4つに分ける。
おっさん、セシリア、ゴードン、リーナ。
それぞれに25枚ずつ。
ゴードンは、金貨を見つめた。
「……こんなに稼いだの、何年ぶりだろう」
リーナは、笑った。
「これからよ。もっと稼げるわ」
◆ スラムの発展
おっさんは、スラムの住民に魔道具を配り続けた。
狩り用の魔道具。
農業用の魔道具。
建築用の魔道具。
住民たちは、目を輝かせている。
「本当に……!?」
「これで、狩りが楽になる!」
「畑も耕せる!」
「家も補強できる!」
スラムは、日に日に豊かになっていった。
◆ リーナの提案
ある夜。
リーナが、おっさんに聞いた。
「ねえ、コータロー」
「ん?」
「これから、どうするの?」
おっさんは、少し考えた。
「魔道具を売って、利益を出す」
「スラムを豊かにする」
リーナは、少し考えた。
「……甘いわね」
「甘い?」
「スラムを豊かにしたって、王都は認めないわよ」
「むしろ、潰しにくる」
おっさんは、頷いた。
「分かってる。でも……」
「でも?」
「やらないよりマシだ」
リーナは、笑った。
「……あんた、バカね」
「でも、嫌いじゃないわ」
◆ セシリアの抱きつき(夜)
夜。
セシリアが、おっさんに抱きつく。
「コウタロウさん、今日もお疲れ様です」
リーナが、ため息をついた。
「あんた、本当に懲りないわね」
セシリア、きょとん。
「え?」
「距離感、考えなさいって言ったでしょ」
「でも……」
セシリアは、おっさんの腕にくっついたまま言った。
「コウタロウさんと一緒だと、落ち着くんです」
リーナは、呆れた。
「……あんたたち、もう好きにしなさい」
おっさん、ため息。
「……助けてくれよ」
リーナは、笑った。
「無理よ。あんたの問題」
◆ 就寝
「じゃあ、寝るか」
「はい」
おっさんは、部屋の隅で横になった。
セシリアは、布団の中で幸せそうに眠っている。
(……今日も来るんだろうな)
そう思いながら、おっさんは眠りについた。
案の定――
深夜。
「……コウタロウさん……」
「……ん?」
「寒いです……」
「……ああ……」
「落ち着きます……」
「……そうか……」
翌朝――
チュン、チュン。
おっさんが目を覚ますと、またセシリアが抱きついていた。
「……やっぱりな」
おっさんは、もう何も感じなかった。
(……完全に日常だ)
セシリアが目を覚ます。
「おはようございます、コウタロウさん♪」
「……おはよう」
おっさんは、諦めた顔で答えた。
(次回:第7話「魔力中毒の予防」に続く)
● 作者からのお知らせ ●
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