第3話:魔石採掘
◆ 朝
チュン、チュン。
鳥の鳴き声で、おっさんは目を覚ました。
「……ん」
なんか、重い。
温かい。
柔らかい。
(……え?)
おっさんは、恐る恐る下を見た。
セシリアが、おっさんに抱きついていた。
完全に。
顔を胸に埋めて、スースー寝息を立てている。
「!!!」
(い、いつの間に!?)
おっさん、昨夜のことを思い出す。
(確か、部屋の隅で寝たはずなのに……)
(夜中に、こっちに来たのか……?)
セシリアは、無防備な顔で眠っている。
スースー。
(……起きたら、どうしよう)
おっさん、冷や汗。
(というか、これ、起こさずに離れられるのか?)
そっと動こうとする。
セシリアの腕に力が入る。
ギュッ。
「んー……」
(うわ、抱きしめられた!?)
おっさん、完全に身動きが取れない。
(……諦めるしかないのか)
おっさんは、天井を見上げた。
(おっさん、52歳。こんな経験、初めてだぞ……)
その時――
セシリアの瞼が、ゆっくりと開いた。
「……ん……」
「!」
(起きた!?)
セシリアの目が、おっさんを捉えた。
一瞬の沈黙。
そして――
満面の笑み。
「おはようございます、コウタロウさん!!」
「お、おはよ――」
その瞬間!
セシリアが、嬉しそうにおっさんの顔を胸に抱き寄せた!!
ギュウウウウ!!
「んぐっ!?」
おっさんの顔が、完全に胸に埋まる。
柔らかい。
温かい。
息ができない。
(窒息する!!)
おっさん、バタバタともがく。
「!?」
セシリア、やっと気づいた。
「あ、あああ! コウタロウさん!?」
慌てて離す。
「ゴホッ、ゲホッ……!」
おっさん、必死で息を吸う。
「す、すみません! 嬉しくて……つい……!」
セシリア、真っ赤な顔で謝る。
おっさんは、ハァハァ息を整えながら、ボソッと呟いた。
「……ここは、天国ですか?」
「え!?」
「いや、何でもない」
おっさん、顔を背ける。
(危なかった……あと少しで昇天するところだった……)
(伊達に毎日納豆食ってないけど、さすがにこれは心臓に悪い)
セシリアは、心配そうにおっさんを見ている。
「本当に大丈夫ですか……?」
「ああ、大丈夫だ」
おっさんは、深呼吸した。
(……おっさんの心臓が持たない)
◆ 距離感の説明(再び)
おっさんは、セシリアに向き直った。
「なあ、セシリア」
「はい?」
「昨夜、俺は部屋の隅で寝たはずなんだが……」
「……あ」
セシリア、気づいた。
「夜中に、寂しくなって……つい……」
「つい、って……」
おっさん、頭を抱える。
「いいか、セシリア。男女が一緒に寝るのは……」
「ダメなんですか?」
「ダメだ」
「でも、コウタロウさんは……」
「俺もダメだ!」
セシリア、しょんぼり。
「……そうですか」
おっさん、ため息。
「まあ……お前が怖かったなら、しょうがないけど」
セシリア、顔を上げる。
「はい……暗くて、一人だと怖くて……」
「……分かった。でも、次からは声かけろよ」
「はい!」
セシリア、満面の笑み。
おっさん、諦めた。
(……この子、本当に距離感おかしいな)
◆ 朝食の準備
おっさんは、立ち上がった。
「さて、朝飯作るか」
「朝飯……ですか?」
セシリアが不思議そうに聞く。
「ああ。昨日の残りがあるだろ」
おっさんは、昨日捕まえた小動物の肉を取り出した。
火の魔道具に魔石をセット。
火が点く。
肉を焼く。
香草で味付け。
「……いい匂い……」
セシリアが、じっと見ている。
「朝から肉か? って思うかもしれないけど、お前には必要だ」
「必要……?」
「ああ。骨密度を戻すには、タンパク質とカルシウムが必要だ」
おっさんは、肉を焼きながら説明する。
「肉にはタンパク質が豊富に含まれてる」
「それを毎日食べれば、骨が少しずつ戻っていく」
セシリアは、真剣に聞いている。
「……コウタロウさんは、本当に何でも知ってるんですね」
「いや、これは日本の常識だ」
おっさんは、焼けた肉をセシリアに渡した。
「ほら、食え」
「はい」
セシリア、一口。
「……美味しい……」
「毎日、ちゃんと食べるんだぞ」
「はい!」
◆ 魔石回収へ
朝食を終えて、おっさんは立ち上がった。
「さて、行くか」
「どこに……?」
「魔石の回収だ。昨日言っただろ?」
セシリアは、目を輝かせた。
「はい!」
二人は、カバンを持って外に出た。
スラムの住民たちが、また見ている。
「聖女様、今日も元気そうだ……」
「あの男と一緒だな……」
「でも、聖女様が幸せそうで良かった……」
セシリアは、おっさんの腕にくっついてくる。
おっさん、もう慣れた。
(……まあ、いいか)
◆ 下水へ
スラムを抜けて、下水の出口を通過。
下水のトンネルに入る。
昨日、おっさんが浄化した場所。
まだ綺麗なままだ。
「……すごい。まだこんなに綺麗なんですね」
セシリアが驚く。
「ああ。浄化の効果は持続するみたいだな」
おっさんは、周りを見渡した。
石造りのトンネル。
床は乾いた砂。
汚水は清水のように流れてる。
「さて、魔石はどこにあるんだ?」
「おそらく……汚物が溜まっていた場所です」
セシリアが、奥を指差した。
「あの光が見えた場所……」
「あの汚物の山か」
おっさんは頷いた。
「行こう」
◆ 魔石の発見
奥に進むと、広い空間に出た。
昨日、おっさんが転んで浄化を起こした場所。
今は、乾いた砂が広がってるだけ。
でも――
「……あ、あった」
おっさんは、足元に光る石を見つけた。
魔石だ。
手に取ってみる。
キラキラと光ってる。
「これが、魔石か」
「はい……でも、こんなに綺麗な魔石は見たことがありません」
セシリアが驚いている。
「長年、魔素を吸い続けた結果、超高純度になったんだろ?」
「そうですね……」
おっさんは、周りを見渡した。
砂の中に、たくさんの魔石が埋まってる。
「……これ、全部回収できるか?」
「はい。二人でやれば……」
「よし、やろう」
◆ 根こそぎ回収
二人は、魔石を拾い始めた。
おっさんは、設備屋の目で効率的に回収する。
「ここにもある」
「あそこにもある」
「この辺りに集中してるな」
セシリアも手伝う。
「こんなに……こんなに魔石が眠っていたなんて……」
「地上の連中は、汚物を捨ててるだけで、魔石になることを知らない」
おっさんは、カバンに魔石を詰め込む。
「知られる頃には、もう全部回収済みだ」
セシリア、微笑む。
「コウタロウさんは、賢いですね」
「いや、これは設備屋の知識だ」
(配管や下水道の構造を見れば、どこに溜まるか分かる)
カバンが、魔石でいっぱいになる。
「よし、これで十分だろ」
「はい」
おっさんは、重いカバンを背負った。
「……重いな」
「大丈夫ですか?」
「設備屋だからね。このくらいは平気だ」
(とは言え、結構重い)
(でも、この重さが金になるなら……)
◆ スラムへ帰還
二人は、スラムへと戻った。
セシリアの拠点に到着。
おっさんは、カバンを下ろした。
「ふう……」
「お疲れ様です」
セシリアが、水を出す魔道具で水を出してくれた。
おっさんは、水を飲んだ。
「……うまい」
そして、カバンから魔石を取り出す。
大量の魔石が、床に広がる。
キラキラと光ってる。
「……すごい」
セシリアが、目を輝かせている。
「これだけあれば……」
「ああ。魔道具がたくさん使える」
おっさんは、魔石を見つめた。
(これをどう活用するか……)
◆ 魔石の価値
「なあ、セシリア」
「はい?」
「この魔石、王都で売ったらいくらになる?」
セシリアは、少し考えた。
「……普通の魔石なら、1個で銀貨1枚くらいです」
「銀貨1枚……」
「でも、コウタロウさんの魔石は超高純度なので……金貨1枚以上になるかもしれません」
おっさんは、魔石の数を数えた。
約100個。
(金貨100枚……?)
(それって、いくらなんだ?)
「金貨1枚で、どれくらいのものが買えるんだ?」
「そうですね……家が一軒買えるくらいです」
「!!!」
おっさん、驚愕。
「家が一軒!?」
「はい」
(じゃあ、この魔石全部で……家が100軒!?)
おっさんは、冷や汗を流した。
(……これ、ヤバいんじゃないか)
「でも、問題があります」
セシリアが言った。
「問題?」
「はい。この魔石を王都で売ろうとすると……」
「……どこで手に入れたか聞かれる、と」
「その通りです」
おっさんは、頷いた。
「なるほど。下水で拾ったって言ったら……」
「王都の連中が、下水に殺到します」
「そうなると、俺たちの独占が崩れる」
「はい」
おっさんは、考え込んだ。
(……じゃあ、どうする?)
◆ ビジネスの構想
おっさんは、ふと思いついた。
「……そうだ」
「何か、思いつきましたか?」
「ああ。魔石を売るんじゃなくて、魔道具を売る」
セシリア、目を輝かせる。
「魔道具を……!」
「そうだ。捨てられた魔道具に、この魔石をセットして、高性能な魔道具として売る」
「それなら……」
「魔石の出所を隠せる」
おっさんは、立ち上がった。
「それに、魔道具なら、スラムの人々にも役立つ」
「水を出す魔道具、火を出す魔道具……生活が楽になる」
セシリアは、感動した表情で言った。
「……素晴らしいです、コウタロウさん」
「いや、まだ構想の段階だ」
おっさんは、魔道具を見た。
(まず、捨てられた魔道具を修理する)
(次に、魔石をセットして性能を上げる)
(そして、売る)
(利益が出たら……)
「セシリア、お前は何がしたい?」
「え?」
「この魔石で、お前が何かしたいことがあるなら、言ってくれ」
セシリアは、少し考えた。
「……スラムの人々を、助けたいです」
「助ける……か」
「はい。彼らは、王都から捨てられた人々です」
「でも、皆、優しくて……私を支えてくれました」
「だから、私も……彼らの役に立ちたいです」
おっさんは、微笑んだ。
「そうか。じゃあ、スラムの人々のために、魔道具を作ろう」
セシリアは、涙を浮かべた。
「……ありがとうございます、コウタロウさん」
◆ 魔道具の修理開始
おっさんは、さっそく魔道具の修理を始めた。
下水で拾ってきた魔道具を並べる。
水を出す魔道具(杖型)。
風を出す魔道具(指輪型)。
火を出す魔道具(炉型)。
その他、色々。
「まず、壊れてる部分を確認する」
おっさんは、設備屋の目で魔道具を見る。
(……なるほど。構造は単純だ)
(魔力を通す管が詰まってるだけだな)
おっさんは、ナイフで詰まった部分を削り取る。
(配管の掃除と同じだ)
魔石をセット。
カチリ。
魔道具が光る。
「おお、使えた」
セシリアが、驚く。
「……すごい。本当に直せるんですね」
「ああ。大したことない」
おっさんは、次々と魔道具を修理していく。
◆ スラムの住民への配布
修理が終わった魔道具を、セシリアがスラムの住民に配る。
「これは、水を出す魔道具です」
「え、これを……私たちに?」
「はい。コウタロウさんが修理してくれました」
住民たち、驚く。
「本当に……?」
「ありがとうございます!」
おっさんは、遠くから見ている。
(……喜んでくれてるな)
セシリアが戻ってきた。
「皆、とても喜んでいます」
「そうか」
「コウタロウさんのおかげです」
「いや、俺は修理しただけだ」
セシリアは、おっさんの腕に抱きつく。
「でも、コウタロウさんがいなければ、できませんでした」
おっさん、照れる。
「……まあ、役に立てたなら良かった」
◆ 夜
夜になった。
おっさんとセシリアは、拠点で休んでいる。
「今日は、色々あったな」
「はい」
セシリアは、幸せそうに微笑む。
「コウタロウさんと出会えて……本当に良かったです」
「……俺も、セシリアと出会えて良かったよ」
おっさんは、窓の外を見た。
(……これから、どうなるんだろう)
(でも、とりあえず……)
(目の前のことを、一つずつやっていこう)
◆ 就寝
「じゃあ、寝るか」
「はい」
おっさんは、部屋の隅で横になった。
セシリアは、布団の中で幸せそうに眠っている。
(今日は大丈夫だろ……)
そう思いながら、おっさんは眠りについた。
でも――
深夜。
「……コウタロウさん……」
セシリアの声。
「……ん?」
おっさん、寝ぼけながら返事をする。
「寒いです……」
「……ああ……」
「落ち着きます……」
「……そうか……」
おっさん、また寝る。
翌朝――
チュン、チュン。
おっさんが目を覚ますと、またセシリアが抱きついていた。
「……やっぱりか」
おっさんは、諦めた。
(……もう慣れるしかないな)
(次回:第4話「魔道具ビジネス」に続く)




