第13話:治療の条件
◆ 使者との対話
新しい街。
おっさんと使者が、向かい合っている。
住民たちも、集まってきた。
「元聖女、セシリア様に……」
使者が言った。
「勇者を、治療していただきたいのです」
おっさんは、顔をしかめた。
「……勇者を?」
セシリアが前に出る。
「待ってください」
使者が、セシリアを見る。
「あなたが、セシリア様……?」
「はい」
セシリアは、怒りを込めて言った。
「現在の聖女様がいるでしょう?」
「なぜ、私なんですか?」
使者は、言葉に詰まる。
「それは……」
「私は、追放されたんですよ?」
「捨てられたんですよ?」
「『新しい聖女を育てた方が早い』って言われて……」
「下水に、廃棄されたんですよ!?」
セシリアが叫ぶ。
使者は、頭を下げた。
「……申し訳ございません」
「申し訳ないで済むと思ってるんですか!?」
セシリアの目から、涙が流れる。
「私、死にかけたんですよ……」
「誰も、助けてくれなかった……」
「コウタロウさんが助けてくれなかったら……」
「私、死んでいました……」
住民たちも、怒っている。
「ひどい……」
「セシリアさんを、捨てたのに……」
「都合がいい時だけ、呼ぶなんて……」
セシリアは、使者を睨んだ。
「答えてください!」
「なぜ、現在の聖女様じゃないんですか!?」
◆ 現在の聖女の状況
使者は、苦しそうに言った。
「現在の聖女様では……治療できないのです」
「治療できない……?」
「はい。魔力中毒は……特殊な治療が必要で……」
「現在の聖女様は、まだ17歳です」
「経験が足りないと……」
セシリアは、さらに問い詰めた。
「それだけですか?」
使者は、しばらく沈黙した。
そして――
「……正直に言います」
「現在の聖女様も、疲弊しています」
「疲弊……?」
「はい。勇者様の治療を……何度も強制されて……」
セシリアは、顔を青ざめた。
「何度も……?」
「勇者様は、何度も体調を崩されていました」
「その度に、聖女様が治療を……」
使者は、さらに続けた。
「それに……」
「それに?」
「勇者様が、聖女様を……襲おうとしました」
セシリア、絶句。
「……!」
「聖女様は、勇者様を恐れています」
「だから、治療を拒否しています」
「勇者様も、『お前じゃない、他の女を呼べ』と……」
セシリアは、拳を握りしめた。
「そんな……」
「17歳の少女に……」
「そんなことを……!」
住民たちも、怒りで震えている。
「ひどい……」
「最低だ……」
◆ おっさんの怒り
おっさんが、前に出た。
「待て」
使者が、おっさんを見る。
「あなたは……?」
「康太郎だ。この街のリーダーだ」
おっさんは、使者を睨んだ。
「つまり、こういうことか」
「セシリアを捨てたけど、使い道があるから、また使おうってことか」
使者は、何も言えない。
「……」
おっさんは、怒りを込めて言った。
「ふざけんな」
「都合がいい時だけ、使うな」
「セシリアは、お前たちの道具じゃない」
「人間だ」
リーナも、前に出た。
「その通りよ」
「セシリアは、私たちの大切な仲間」
「勝手に使おうなんて、許さない」
ゴードンも言った。
「王都は、人を何だと思ってるんだ」
使者は、深く頭を下げた。
「本当に……本当に、申し訳ございません……」
◆ セシリアの決断
セシリアは、しばらく考えた。
おっさんが、セシリアの肩に手を置く。
「セシリア、行く必要はない」
「……」
「お前は、もう王都に恩義はない」
「断っていい」
セシリアは、おっさんを見た。
「でも……」
「でも?」
「人が、死ぬかもしれません」
おっさんは、ため息をついた。
「……お前はな」
セシリアは、微笑んだ。
「勇者がどんな人でも……」
「私は、聖女です」
「人を助けるのが、私の役目です」
「それに……」
セシリアは、真剣な顔で言った。
「現在の聖女様が、心配です」
「17歳の少女が、あんな目に遭ってるなんて……」
「私、放っておけません」
おっさんは、セシリアの頭に手を置いた。
「……お前は、優しすぎる」
「ダメですか?」
「いや」
おっさんは、笑った。
「それが、お前の良いところだ」
セシリアは、使者に言った。
「……行きます」
「本当ですか!?」
使者が、顔を輝かせる。
「でも、条件があります」
◆ 条件
おっさんが、前に出た。
「俺から、条件を言う」
使者「……はい」
「まず、この街を、正式に認めろ」
「正式に……?」
「ああ。王都の支配下に置くんじゃなく、独立した街として認めろ」
「それは……王に報告しないと……」
「次に、税金は免除しろ」
「税金……!?」
「ああ。この街は、自給自足だ」
「王都に頼らない」
「だから、税金は払わない」
使者は、困った顔。
「それは……難しいかと……」
おっさんは、冷たく言った。
「じゃあ、断る」
「ま、待ってください!」
「税金免除が無理なら、セシリアは行かない」
使者は、必死に言った。
「分かりました! 王に伝えます!」
「それに……」
おっさんは、真剣な顔で言った。
「現在の聖女も、保護しろ」
「現在の聖女を……?」
「ああ。勇者から、守れ」
「それは……」
「勇者が、また聖女を襲わないように、ちゃんと監視しろ」
「17歳の少女を、守るのは大人の義務だ」
使者は、頷いた。
「……分かりました」
「それと、もう一つ」
「まだあるんですか……?」
「聖女を、酷使するな」
「魔力を使いすぎると、魔力中毒になる」
「セシリアみたいに、捨てられたくなければ、ちゃんと休ませろ」
使者は、深く頭を下げた。
「……承知いたしました」
「全て、王に伝えます」
◆ 出発の準備
使者が去った後――
セシリアは、荷物をまとめ始めた。
「コウタロウさん、一緒に来てください」
「ああ。当然だ」
おっさんは、頷いた。
「お前を、一人で行かせるわけにはいかない」
リーナが言った。
「私も行くわ」
ゴードン「俺も行こう」
おっさんは、首を振った。
「いや、お前たちは街を守ってくれ」
「でも……」
「この街は、まだできたばかりだ」
「誰かが、守らないといけない」
リーナは、少し考えた。
「……分かったわ」
「街のことは、任せて」
ゴードンも頷いた。
「気をつけてな」
おっさんは、笑った。
「心配するな。すぐ戻る」
◆ 住民たちの言葉
住民たちが、セシリアを囲んだ。
「セシリアさん、気をつけてください」
「ありがとうございます」
「王都の人たち、ひどいです」
「でも、セシリアさんは優しいから……」
「利用されないでください」
セシリアは、微笑んだ。
「大丈夫です」
「コウタロウさんが、一緒です」
住民たちは、おっさんを見た。
「リーダー、セシリアさんを守ってください」
「ああ。任せろ」
おっさんは、頷いた。
「絶対に、守る」
◆ 出発
翌朝――
おっさんとセシリアは、王都へ向けて出発した。
自走式カート。
治療の魔道具。
魔石。
全てを積んで。
セシリアが、おっさんの腕に抱きつく。
「コウタロウさん、不安です……」
「大丈夫だ。俺がいる」
「はい……」
セシリアは、顔をすりすりする。
おっさん、苦笑い。
(……まあ、これで落ち着くなら……)
二人は、王都へ向かった。
◆ 王都
数日後――
おっさんとセシリアは、王都に到着した。
立派な城壁。
大きな城。
賑やかな街。
でも――
おっさんは、違和感を覚えた。
(……空気が、重い)
(なんだ、この雰囲気……)
城に案内される。
謁見の間。
王が、待っていた。
「よく来てくれた、セシリア」
セシリアは、頭を下げた。
「お久しぶりです、陛下」
王は、複雑な顔をしている。
「……すまなかった」
「お前を、捨ててしまって……」
セシリアは、何も言わなかった。
王は、続けた。
「条件は、全て受け入れる」
「この街を、正式に認める」
「税金も、免除する」
「聖女も、保護する」
おっさんは、頷いた。
「分かった」
「では、勇者を治療してくれ」
「……分かりました」
セシリアは、覚悟を決めた。
「案内してください」
◆ 勇者の元へ
医務室。
勇者ケンジが、ベッドで横たわっている。
ボロボロ。
顔色が最悪。
意識が朦朧。
「……はぁ……はぁ……」
荒い息。
セシリアが、部屋に入る。
おっさんも、一緒に入る。
ケンジが、目を開けた。
「……誰だ……?」
「セシリアです。治療に来ました」
ケンジは、セシリアを見た。
「……おお……可愛いじゃねえか……」
そして、おっさんを見た。
その瞬間――
ケンジの目が、大きく見開いた。
「……あれ?」
「お前……」
おっさんは、冷たく言った。
「久しぶりだな」
ケンジは、起き上がろうとした。
「お、お前……電車の……!」
「ああ。俺を殴ったよな?」
ケンジは、驚愕している。
「な、なんで……ここに……!?」
「俺も、召喚されたんだよ」
「お前と同じでな」
ケンジは、混乱している。
「で、でも……お前、どうやって……」
「生きてたのか? って聞きたいのか?」
おっさんは、冷たく笑った。
「悪いけど、簡単には死なないんでな」
ケンジは、顔を歪めた。
「……チッ」
「何だ、その態度は」
「謝罪の言葉くらい、ないのか?」
ケンジは、舌打ちした。
「は? なんで俺が謝るんだ?」
「お前が邪魔だったから、殴っただけだろ」
おっさんは、呆れた。
「……本当に、屑だな」
「何だと!?」
おっさんが、ケンジに近づく。
ケンジが、少し怯える。
「い、いきなり何だよ……」
おっさんは、ケンジの襟首を掴んだ。
「いいか、よく聞け」
「うっ……」
「セシリアに、変なことしたら……」
おっさんは、ケンジを睨んだ。
目が、本気だ。
「お前を、ぶっ飛ばす」
ケンジは、明らかに怯えていた。
「わ、分かったよ……」
おっさんは、ケンジを放した。
「治療してやれ、セシリア」
「はい」
セシリアは、ケンジに近づいた。
治療の魔道具を使う。
光が走る。
ケンジの体が、少しずつ回復していく。
「……おお……楽になる……」
セシリアは、真剣な顔で治療を続けた。
(……この人が、勇者……)
(この人が、コウタロウさんを殴った人……)
(この人が、あんなひどいことを……)
でも、セシリアは治療をやめなかった。
(……私は、聖女)
(人を助けるのが、私の役目)
おっさんは、治療を見守っている。
ケンジを睨みながら。
ケンジは、おっさんの視線を感じて、黙っている。
(……くそ)
(なんで、あのおっさんがここにいるんだ……)
(しかも、偉そうに……)
(俺は勇者なのに……)
数時間後――
治療が終わった。
ケンジの顔色が、良くなっている。
「……ああ、楽になった……」
「治療は、終わりました」
セシリアが言った。
ケンジは、少し体を動かした。
「おお、本当に治ってる……」
ケンジは、セシリアを見た。
「ありがとな」
そして、にやりと笑った。
「なあ、お礼に今夜、俺の部屋に――」
おっさんが、ケンジの頭を叩いた。
バシッ!
「痛ってぇ!!」
「言っただろ。変なことしたら、ぶっ飛ばすって」
「ま、まだ何もしてねえだろ!」
「今、しようとしただろ」
おっさんは、ケンジを睨んだ。
「二度と、セシリアに近づくな」
「……チッ、分かったよ……」
おっさんは、セシリアに言った。
「行くぞ、セシリア」
「はい」
二人は、部屋を出た。
ケンジは、一人になった。
「……くそ」
「あのおっさん……」
「偉そうに……」
ケンジは、拳を握りしめた。
(……いつか、仕返ししてやる……)
(次回:第14話「聖女の救出」に続く)




