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白馬に乗った初恋の人  作者: こん


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3/3

後編

リラの生家の男爵領は王都からそう離れていない。リラの父は子爵家の次男だ。父の生まれ育った子爵家は王都から離れた場所にある。子爵領の飛び地、広くはないが比較的王都から近い土地を、父は分け与えられ、男爵として治めている。

ただ、資金繰りは厳しい。男爵家といえど、領民と一緒に汗を流して作物を育てている。


リラは男爵領地に帰ってから、学園に入る前と同じように領地の仕事を手伝った。夜は疲れて眠れるように、人一倍動いた。

そうしていると、考えたくない事を考えないで済む。


家族といると、少しは心は安らいだ。

ただ、一人になるとオスカーの事を思い出してどうしようもなくなる時があった。


一人で大きな木の下に立つと公爵領地への道中のピクニックを思い出した。


一人でピアノを弾くと、ミレイナの部屋でピアノを弾いた事を思い出した。


部屋の窓から弟がチャンバラごっこをする姿を見て、レオとテオの稽古の様子を思い出した。


そして、一人で紅茶を飲むと公爵家での朝食を思い出した。


全てオスカーがいた。

なるべく考えないようにしていても、オスカーの事が頭から離れない。

どうしようもなくなって泣きたくなるけれど、家族に泣き顔を見せたくなかった。泣き明かした顔を見せたくなかった。

だから、なるべく一人でいないようにした。そうしていると安心できたから。


公爵家の馬車でリラが送られて来た時、公爵家からの先触れがどのようなものだったのかはリラは知らない。公爵家での話はしたくないから聞いていない。両親も公爵家の話題には一切、触れなかった。


そんな時、公爵家から一通の手紙が届いた。


リラが帰ってきてから1ヶ月が経ち、学園の寮に戻る準備を始めた頃だった。


ちょうど、学園の学生がそろそろ寮に帰ってくる時期でもある。王城での年に一度、王の誕生日を祝っての夜会。卒業を間近に控えた学園の上級生たちが社交界にデビューする事が慣例となっているから。リラも参加する年で、両親がドレスを用意するつもりなのは分かっている。前回の長期休暇の時にその話が出ていた。次の長期休暇に入ったらすぐに寸法を測って注文しようと。ただ、リラが出席する気がない事を感じとって、何も言い出さない。



父から部屋に呼ばれた。

「リラ、王都にある公爵邸への招待が来ているんだ。ちょうど王の誕生日の日、夜会の日だ。」


リラがここ数日悩んでいた。すでにアルベルトから婚約が嘘だった事は伝わっているかもしれない。伝わっていなくても、これ以上嘘を突き通せない。嘘をついた事を謝りたい。

ただ、公爵家に招かれてもいないのに訪問する事は礼儀に適っていない。だから、長期休暇が終わってアルベルトに会えたら相談しようと思っていた。謝罪をするために公爵家を訪問させてもらう事を頼みたかった。


今回の招待はリラが考えていた時期よりは少し早くなるが、この機会を逃したくない。公爵家からの招待を男爵家如きが断る事はできない話でもあるし。後回しにせずに覚悟を決めて謝ろう。そう決意して

「分かりました。」

長い沈黙の後、そう返事したリラに

「無理はしなくてもよいから。万が一にも公爵家からの誘いを断る事で爵位を返上する事になっても構わない。今の暮らしは爵位があろうが無かろうが変わりない生活だからね。」

その父の言葉に思わず笑ってしまった。その通りかもしれないと思ったから。でも、少し気持ちが軽くなった。


「行きます。」


公爵家に対して、嘘をついて優しくしてもらった事を心から謝ろう。そして、オスカーへの想いを断ち切ろう。


「なんだか久しぶりにリラの心からの声を聞いた気がするよ。」

父がフッと笑いながら言った言葉にリラはさらに決意を強くした。





それかや1週間後、公爵家の馬車が再び、男爵家にやって来た。スワンが来るのでは、と不安に思っていたが、実際スワンが来ないとなるとがっかりしている事に気付きリラは自分の気持ちが分からなくなっていた。


王都の公爵邸までは窓から外の景色を楽しむ事ができた。さすが公爵家の馬車だ。乗り心地が素晴らしい。前に乗った時はそんな余裕もなかった。少しは傷が癒えている気がして、リラの心は軽かった。


それは公爵家の門を潜るまで。


公爵家の前では公爵夫人が待っていた。


「リラさん、ようこそ。」

笑顔で迎えてくれる公爵夫人。

そして、あの日と同じ応接室に通された。


前回以上に緊張して。


ミレイナは予定日が近づいて、ようやくベッドから離れた生活ができているらしい。いつ生まれても大丈夫なように主治医も待機していて、準備もすでに万端。公爵夫人は

「やる事が無いの。」

と、笑いながら報告してくれた。


アルベルトもナタリーの元から一度、話し合いに公爵領地に戻ってきたらしいが、またすぐに辺境伯領に向かったらしい。

ナタリーは親が勝手に決めた婚約に反発して家を飛び出していた。それを知ったアルベルトは自分がいない間にナタリーが婚約したらたまらないからと、辺境伯領に留まっているらしい。

今度こそナタリーにアルベルトの気持ちを伝えられたらいいな、リラは心から思った。そう思ってフッと笑顔を見せた。


そんなリラの様子を見て

「あなたもアルベルトの気持ちには気付いていたのね。」

公爵夫人の言葉に

「応援してました。」

リラは素直に答えた。


「そうなのね。それなのにアルベルトの嘘につき合わせて、本当にごめんなさい。」

公爵夫人はリラに頭を下げた。


やっぱりアルベルトから真実が伝わっていた。

嘘をついたのは自分なのに公爵夫人が頭を下げている事を、リラは申し訳なく思った。


「謝らないといけないのは私の方です。」

公爵夫人に頭を下げる。ようやく、言わなければいけない言葉を口にできた。

「婚約者のふりをして本当に申し訳ありませんでした。」

リラが続けると

「アルベルトが言い出したんでしょ。」

公爵夫人のその言葉にリラは下げていた頭を上げて

「でも、私も断らなかったんです。」

公爵夫人の目を見ながら正直に話そうと思ったリラに

「スワンの絵でしょ。」

公爵夫人はそう、言い切った。


何もかも公爵夫人は知っていた。


リラが言葉を探していると公爵夫人は話し出した。

「あなたがスワンの絵と引き換えに婚約者のふりを引き受けたのよね。」

リラはその言葉に頷いていた。

「オスカーはそれを知って微妙な顔をしていたわ。スワンに負けたって。」

公爵夫人はフッと笑って続ける。


「結局、我が家に打診されていた婚約者の話は断ったわ。相手はオスカーでもアルベルトでもどちらでもよかったの。そもそも、向こうはミレイナの義妹になりたかっただけなの。オスカーには心に決めた相手がいるみたいだから、アルベルトに話をしたの。アルベルトもナタリーの事を言ってくれたらよかったんだけど、ナタリーの気持ちを確認する勇気も無く、あなたに偽装婚約を持ち掛けたみたい。」


そして、

「リラさん、本当にごめんなさい。我が家の息子たちがあなたに迷惑をかけて。」

もう一度、公爵夫人は深く頭を下げた。


それを見たリラは

「頭を上げてください。アルベルトに偽装婚約を持ち掛けられ時にはっきり断ればよかったんです。私が承諾してしまったからおかしな事になったんです。」

そして、一呼吸置いてから

「それにオスカー様には迷惑をかけられてはいません。」

オスカーには公爵領地に連れて行ってもらっただけ。なんなら、自分が勝手に好きになって、勝手に失恋した、それだけの話。


「アルベルトの事はあなたが断ってくれても、ナタリーに告白する勇気、あの子にはなかったと思うの。他に婚約者のふりをしてくれる子を探したかもしれないし、もしかしたら婚約の話を受けていたかもしれないわ。そんな事になったら今頃、婚約破棄の問題が出ていたかもしれないわ。」

リラの気持ちを楽にするために言ってくれているとは思っても、アルベルトならそんな状況に陥る可能性は否定できないとリラは考えてしまう。


「そして、オスカーについては、あの子こそ。」

そう、言って公爵夫人は言葉を止めた。


「これ以上、私が言うべきでは無いわね。」


リラには聞こえないくらいの小さな声で言うと、


「まぁ大変、こんな時間なのね。」

急に慌てだした公爵夫人は執事を呼んで何か耳打ちをした。


執事が下がった事を見届けてた公爵夫人は

「公爵領地ではあなたに不快な思いをさせてしまったわ。今日はその埋め合わせをさせて欲しいの。」


そして、リラの手を握って続ける。

「あなたに似合いそうなドレスを用意したの。ちょっと着てみてくれないかしら。勝手なお願いだとは思うの。でも、レオとテオがあなたのスカートを汚してしまったと聞いたから。」

「違います。私が紅茶を溢してしまっただけで。」

そう言いかけるリラに

「レオとテオが喧嘩するのを止めてくれたんでしょ。二人は熱い紅茶が入ったティーポットを取り合いしていたのよね。あなたが動いてくれてなかったら火傷をしていたかもしれないわ。本当にありがとう。今日、用意したドレスはレオとテオの見立てなのよ。二人の気持ちに答えてあげて欲しいの。」


そう言われるとリラには断れない。

「ありがとうございます。」

その言葉き聞いた公爵夫人は嬉しそうに頷き、リラの手を引っ張ってドレスが用意された部屋へ案内した。


部屋に入ってドレスを見てリラは息を呑んだ。公爵領地のサロンから見えた花壇を思い起こさせる色とりどりのドレス。レオとテオの笑顔を思い出してリラの緊張が少し解ける。


そこからのリラはされるがままだった。お風呂ではメイドが数人がかりで全身を磨かれ、髪は丁寧に洗われ。そして、休む暇なく髪を乾かされ結いあげられる。ドレスを着せられた後は、化粧を施された。


「準備ができました。」

メイドの声に公爵夫人が部屋に入ってきた。

「本当にかわいいわ。オスカーがお姫様って言うのが分かるわ。」

そう言うとリラを鏡の方に向かせた。


自分の姿を見たリラは自分の姿に嬉しくなった。いつもの自分より洗練されて見える。時間をかけたメイクのおかげでドレスも似合っているように思える。隣に立つ公爵夫人の気品には見劣りするが、今日の自分には自信が持てる。


「馬車を表に回します。」

ドアの外から執事が声を聞こえた。


公爵夫人はお出掛けされる予定があるのだろうか、そう思ったリラに

「リラさん、馬車に乗って王城に向かってほしいの。」

公爵夫人が申し訳なさそうに伝える。


「ごめんなさい。今日はあなたを夜会に送り出すためにこちらに来てもらったの。公爵家にあなたの社交界デビューをお手伝いさせてほしいの。」


思いもよらない発言にリラはびっくりした。


「••・。」


聞きたい事はたくさんあるのに言葉が出ない。公爵夫人は鏡越しにリラの目を見て話し始めた。

「騙すような事をしてごめんなさい。」

申し訳なさそうに、でもすこしイタズラっ子のような表情見せた公爵夫人は言葉を続ける。


「オスカーが騎士団に入ってしばらくした時、オスカーの上官から連絡があったの。オスカーが訓練所から逃げ出したって。でも、すぐに帰って来たってまた連絡がきて。それからのオスカーは人が変わったみたいに訓練に打ち込んでいたそうよ。上官が理由を聞いたら『守りたい人ができた』って言ったらしいわ。それってあなたの事じゃないかなって、思うのだけど。あの子が挫折しそうになった時、あなたがいてくれたんじゃないかしら?もしかしたらって思ってたけどそれが確信に変わったのはあなたが公爵領地に来てくれた時よ。」


リラは黙って話を聞いた。


「アルベルトってお喋りでしょ。昔っからあの子は自分の友だちの話をよくするの。学園に入ってからはあなたの話もしていたわ。あなたの話になると、一番興味深そうに聞いていたのはオスカーだったわ。オスカーって、あんまり他人の話に興味はないのに。だから、あなたとオスカーには何かあるのかなとは思っていたの。アルベルトだけは何も気付いてないみたいだったけど。アルベルトはあなたの事もナタリーの事も、色々な人の事を話題にするんだけど、オスカーが興味を持ったのはあなたの話題だけ。アルベルトの話に質問するのはあなたの事だけ。だから一度、主人が聞いたのよ。あなたの事、知ってるかって。そうしたら、オスカーったら急に慌てだしたの。だから、執事にも確認したのよ。そうしたらオスカーからリラさんの事を調べてるように頼まれているって。だから、間違いないなって。」


「オスカー様が私の事を?」

自信がないリラがそう言うと


「そうよ。アルベルト婚約するって聞いて、あなたの名前を言ったから皆、びっくりしたわ。アルベルトの好きな子はナタリーだとばかり思っていたから。あの子は分かりやすいから。その時、一番困惑していたのはオスカーね。この世の終わりみたいな顔をしてたもの。我が家の息子たちは二人揃って、本当に分かりやすい子だったわ。」


その時、ノックの音が聞こえた。

「馬車のご準備ができました。」

執事の声だ。


「あらやだ。また話し始めてしまったわ。これじゃあ、準備が間に合わないわ。後は、オスカーから聞いてね。」


公爵夫人はそう言うとまた、リラの手を取って玄関に向かう。

「オスカーが王城で待っているわ。騎士団の仕事があるから迎えに来れないらしいの。だから、あなたに少しでもオスカーを思う気持ちがあればこの馬車に乗ってくれないかしら。」

リラはまだ信じられない。オスカーには婚約者がいるのでは無かったのか。その事にオスカーは否定しなかった。


でも、ちゃんと確かめたい、そう思ったリラは

「ありがとうございます。」

公爵夫人に固い笑顔を見せた。

そして、王城に向かう公爵家の馬車に乗った。





綺羅びやかなシャンデリアから光が降り注ぐ大広間。オーケストラの美しい音楽が奏でられるのを今か今かと待ちながらパートナーや友人と談笑を楽しむ人。学園の同級生、見知った人から声をかけられても、固い笑ってやり過ごした。リラは壁際から離れられなかった。あまりにも緊張して動けなかった。


と、一瞬会場が静まった。王家の入場の様だ。


ファンファーレの後、王家が入場する。

会場全体がそちらに集中している。リラも周りに合わせて視線わ向けると王太子の側に控えるオスカーが見えた。正装の白い騎士服を着ていていつも以上に近寄りがたい雰囲気だ。


一瞬、目が合った気がした。でも、オスカーは騎士団長として王家の席に王族が着席するまで警戒心を緩めていない。周りにしっかり目を配っている。気のせいだと言いきかせて、オスカーから目を離そうと思うも、一度たりとも離せなかった。そんなリラの姿に気付いていないのか、淡々と業務をこなすオスカーに、リラは不安が募る。本当に自分がここにいてよいのか。


逃げ出したくなるけれど、公爵領地から一度、逃げ出してしまっているリラはもう、同じ事はしたくない。


国王の挨拶が終わり、王家が席に着く。オスカーの任務はここまでと聞いている。


オーケストラが音楽を奏で始めると誰彼となくダンスが始まる。


オーケストラの演奏、ダンスの輪をそれとなく目にしながら、一度後ろに下がったオスカーを探していると

「リラ、次は僕と踊ってくれないかな?」

アルベルトといつも一緒にいる級友が声をかけてくれる。多分、一人でいるリラに気を使ってくれたのだろう。

お礼を言って断ろうとした時、

「失礼。彼女は私と約束をしているんだ。」

そう、声を掛けたのはオスカーだった。


いつの間にこんな近くに来ていたのだろう。

「申し訳ありません。先約があると知らずに声をかけてしまいました。」

そう、言いながら後退りする級友に申し訳なく思いながら、リラはオスカーの存在に驚いて固まってしまった。


「改めて、リラ。ダンスを踊ってもらえないだろうか。」

オスカーが優しい笑顔で聞いた。

リラは固まったまま、言葉が出ない。その様子を見ていたオスカーが少し不安そうな顔になるように見えた。思わず

「はい。」

思いの外、大きい声が出て自分でもびっくりしてしまう。それを聞いたオスカーが満面の笑みを向ける。それに驚いたのはリラ以上にダンスフロアから二人の様子を伺っていた人たち。今まで公の場でオスカーが笑顔を見せる事など無かったからだ。



静かにダンスが始まった。


ステップを間違えないか、オスカーの足を踏んでしまわないか、恐る恐る踊るリラに

「大丈夫。肩の力を抜いて。」

そう言って優しくオスカーがリードしてくれる。


そう言われても、リラはまだ気が抜けない。固い表情でダンスを続けていると


「俺をスワンだと思ったら緊張しない?」

ちょっと拗ねた様な口調のオスカー。その言葉にクスッと笑ってしまったリラ。

そこで、緊張の糸が切れたのか、オスカのリードが上手いからなのか、ダンスをするのが心地よく少しずつ落ち着いて、リラはだんだん楽しくなってきた。


オスカーと目が合ってフッと笑顔を見せたリラに

「リラのファーストダンスだね。」

オスカーも笑顔だ。あの日の笑顔だ。

リラはその笑顔に言葉に詰まりコクっと首だけ動かした。


「やっと願いが叶った。」

そう話すオスカーに

「それは私のせりふ。」

そう言って目を合わせた二人は思わずプッと笑ってしまった。


リラはダンスをしながら会話を楽しめる事を嬉しく思うと共に流れている曲が終わりに向かっている事に気付き悲しくなった。


悲しそうな顔に気付いたオスカーは、少し嬉しそうな顔で

「リラ、まだ終わりじゃないよ。」

その言葉と共に演奏が止んだ。でも、オスカーは手を離さない。

そして、次の演奏が始まった。


同じパートナーと続けて踊るのは特別な関係の意味合いがあるのは周知のルール。今まで特定の相手がいなかったオスカーがリラと二度目のダンスを踊っている。今まで浮いた話一つなかった騎士団長の特別な相手、リラの存在を夜会の参加者たちは固唾を飲んで見守っている。


そんな周りの緊張にオスカーとリラは気付く様子も無く二人の世界を作っている。ダンスをしながら二人は笑顔で見つめ合っている。明日になれば王都では二人の話で持ちきりになるはずだ。



リラは少しずつダンスに余裕ができてくると、どうしてもオスカーに聞きたい事が頭から離れなくなった。だんだんと笑顔がかげってくる。


そんなリラに気付いたオスカーは曲が終わると共に人気のないテラスへとエスコートする。


「リラ、何か聞きたい事がある?」

テラスに着くとすぐに心配そうにオスカーが聞いた。


リラは覚悟を決めた。


「オスカー様、婚約者がおられるのでは無いですか?」


その問いにオスカーは思いもよらないという顔をした。でも、すぐに真剣な表情になって


「リラ、俺には今は婚約破棄はいない。でも、婚約者になって欲しい人はいる。」


そして、大きく息を吸ったオスカーは続けて


「リラ、俺と結婚してほしい。」


リラの目を真っ直ぐ見て告げた。


「リラに出会って、リラを守りたい、強くなりたいって思った。次にリラになった時は好きだって伝えようと思ってた。でも、次に会った時、リラはアルベルトの婚約者だった。」


「ごめんなさい。」

リラは、自分がオスカーを騙していた事に謝っていない事に気付いて、思わず口にした。


オスカーは優しい顔で

「皆、分かっていたよ。リラはアルベルトの絵は褒めるくせにアルベルト自身については何も言わないから。リラがアルベルトを友だちとしか見ていないって。でも俺は疑っていた。リラはアルベルトの名前を出す度に、顔色が変わったよね。だから俺は、本当はリラはアルベルトが好きなんじゃないかって勘繰って。でも、まだ確信は持てていないんだ。リラ、君の気持ちを聞かせて欲しい。」


不安そうなオスカーの顔を見て、リラは自分の気持ちを正直に話したいと思った。


「アルベルトの婚約者のふりをしないといけないのに、あなたに惹かれてしまう自分が止められなかった。あなたから目が離せなくなる、あなたの声が聞きたくなる。あなたと一緒に過ごせる事が幸せだった。そんな時にアルベルトの名前を聞くと、罪悪感が湧いてきて。どうしたらよいか分からなくなった。」


そして、小さく深呼吸をしたリラは続けた。


「オスカー様、スワンの背に乗せてもらったあの頃からずっと今まで、ううん、あの頃よりもっとあなたかま好きです。白馬に乗った騎士様、だから。」


そこまで言って先を続けられなくなった。オスカーがリラを思い切り抱きしめたから。


「リラ。」

オスカーの声に顔を上げると、オスカーが聞いてくる。


「白馬に乗った騎士とお姫様のお話の最後は?」


「いつまでも幸せに暮らしました。」

そう、リラが答えるとオスカーはより力を入れてリラを抱きしめた。


「苦しい。」

あまりの力にリラが声を上げると

「ごめん。」

オスカーは力を緩める。でも、抱きしめた手を離そうとはしない。

「リラ、もう離さない。いつまでも一緒にいよう。」


その言葉にリラは頷き、

「オスカー様、あなたに会えて、そしてスワンに会えて私は本当に幸せです。また、スワンの背に乗せてもらえますか?」

幸せに浸りながらそう答えると、オスカーの身体が固まった。


オスカーはリラの顔をじっと見ながら


「アルベルトがライバルだと思ってたけど、本当のライバルはスワンだったんだ。」


少し悔しそうな顔をするオスカーをリラは幸せいっぱいで見つめ続けた。



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