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白馬に乗った初恋の人  作者: こん


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2/2

中編

リラが公爵領地に向かう日。


学園は今日から長期休暇に入る。公爵領地への訪問は1泊2日、終われば寮に帰って、次の日にはリラの住み慣れた自宅へ帰る予定だ。自宅に帰る準備は済ませてある。と、言っても荷物は一つ。そのほとんどが弟や妹へのお土産なのだが。


アルベルトと待ち合わせをしている画廊に向かった。そこから一緒に公爵邸に行き、公爵家の馬車に乗せてもらう予定だった。

画廊に着いた時、目を真っ赤にしている画廊のオーナー、ナタリーが目に入った。アルベルトが話を聞いている。


アルベルト曰く、ナタリーの父親が危篤だそうだ。ナタリーは公爵領地からまだ先にある辺境地の出身と聞いた事がある。ナタリーは生家とはほぼ絶縁状態らしいが、最後になるかもしれないから会いたいと父親の伝言が今朝、届いた。


辺境地に行くには辻馬車を乗り継いで行く事はできるが、時間がかかる。公爵邸の馬車で行けばかなり短縮できる、アルベルトはそう判断し、一旦、公爵邸に向かう事にしたようだ。ナタリーはショックを受けて一人ではまっすぐ歩けそうにない。リラとアルベルトが両端から支えて、向かった。


公爵邸の応接室でナタリーを支えながらリラは待っていた。アルベルトはオスカーや執事と相談をしているらしい。


しばらくしてアルベルトが部屋に入ってきた。

「リラ、すまない。僕はナタリーと共に辺境地に向かいたい。」

アルベルトの判断に異論は無かった。ナタリーを一人で向かわせるのは難しい。ナタリーは今も泣き崩れて一人で椅子に座る事もできない。


「分かったわ。」

リラは、そう言った。

公爵地に行くのは延期になったのだと思って。しかし、アルベルトの口から出たのは思いもよらない提案だった。

「リラは兄さんと公爵地に向かってほしい。僕も辺境地にナタリーを送り届けたらすぐに向かうから。」

そう言うとアルベルトはナタリーを抱き抱えて玄関に向かう。リラもナタリーを支えながら後を追った。


ナタリーを馬車に乗せ、アルベルトもその隣に落ち着く。リラは二人を見送った。


すぐ後に、オスカーが、スワンを連れてリラの前に立った。


「スワン。」

思わず声を掛けるとスワンはリラの頬を舐めた。

その様子を見ていたオスカーに

「馬に乗った事はある?」

騎士様と全く同じ質問だった。でも、あの時と違って声が冷たい。悲しくて泣きそうになりながら

「一度だけ。」

正直に答えた。


オスカーはそれに返事をする事なく、リラをスワンの背に乗せた。そして、オスカーもリラの後ろからスワン跨り、公爵領地に向かって出発した。

スワンの背はあの日と同じだった。幸せなあの日を思い出していた。でも、後ろに乗っているのは騎士様とは全く違う雰囲気で緊張していた。しばらく二人は無言だった。


「無口だね。」

オスカーがふいに声を出した。

「あの日はあんなにお喋りだったのにね。」

そう話すオスカーに思わず後ろを振り返ってオスカーの顔を見た。


少し微笑んでリラを見るオスカーに騎士様の姿が被った。やっぱり、そうだ。

「白馬に乗った騎士様。」

リラがつい、口に出してしまうとオスカーはフッと笑った。

「やっと気付いてくれたんだ。スワンの事は覚えていたのに。」


騎士様はオスカーだったんだ。オスカーは覚えていてくれたんだ。嬉しいのか嬉しくないのか、分からないけれど、信じられないという気持ちで胸がいっぱいになる。


「今日は何も話さないの?」

そう、聞かれるも何を話して良いのか分からない。

すると、オスカーが話し出した。


「あの日、僕のお姫様に会ったあの日、騎士の訓練を投げ出したくなって、国境近くにある訓練所から逃げ出してたんだ。」

思いもよらない話をオスカーは始めた。

「学園では誰にも負けた事がなかった。卒業して、王都の騎士団に入って、気付いたんだ。自分より強いやつは山ほどいるって。井の中の蛙だったんだ。だから、スワンの背に乗って逃げ出した。」

優しい声だ。

オスカーは続ける。

「教会の側を通った時、オルガンの音が聞こえた。張り詰めていた気持ちが急に軽くなったんだ。スワンも急に止まって、静かに聞き惚れていたよ。」

オスカーの声はあの日の優しい騎士様の声だった。


「ふと、窓から教会の中を見ると僕のお姫様、そう、リラの事だよ。楽しそうにオルガンを弾いていたんだ。いつまでも聞いていたかったけど、空が暗くなって嵐が近付いてる事に気付いた。だから、急いでスワンを厩舎に繋ぎ、教会に、震えているリラの側に駆けつけたんだ。スワンも少し怖がっていたからすぐには行けなかったんだ。だけどリラの叫び声が聞こえたら、スワンもなぜか落ち着いてくれて。」

それを聞いてリラは

「スワン、ありがとう。あなたも私を助けようとしてくれたのね。」

スワンにお礼を言った。


スワンはリラの言った言葉が分かったみたいで走りながら小さく

「ヒヒーン。」

と、いなないた。


「スワンって人間の言葉が分かるのね。」

感心してリラが言うと

「好きな人の言葉は分かるんじゃないかな?俺の言葉は通じない時があるけど。もしかしたら分からないふりをしてるのかもしれないけど。」

オスカーがそう言った事に、スワンはちゃんと聞いているが分からないふりをしているようにに感じて、リラは思わず笑ってしまった。

オスカーって自分の事、「俺」って言ってるんだ、なんだか普段のオスカーを知れた気がして、それもあって心が晴れて、笑ってしまった。

オスカーは困ったような嬉しいような微妙な顔をしていた。


「リラが楽しそうにオルガンを弾く姿に自分も小さい頃に騎士になる訓練が何よりも楽しかった事を思い出したよ。オスカーの背の上でリラがピアノが好きだって聞いて、自分もやっぱり騎士が好きだって気付いて、だから訓練所に戻ろうって決意したんだ。あの日は訓練が休みの日だったから、戻った時、上官には勝手に外に出た事を怒られただけですんだけど、リラに出会ってなかったら騎士団には戻れてなかったと思う。本当にありがとう。」


オスカーの話にリラは嬉しくなった。

王都の騎士団は国中の騎士団から選りすぐりだけを集めた精鋭部隊と聞いている。その中で騎士団長を務めているのは国内では敵はいないという事だ。

騎士団長のオスカーに自分が少しでも力になっていたと思うと誇らしげな気持ちになった。


「よかった。」

リラは心からそう思って声に出して伝えた。


その後は学園の話、オスカーの担任だった先生が今、学園長になっている事、リラの家族の話、オスカーと出会った時に母のお腹にいた子が3歳になっていたずらばかりしている事、そしてオスカーの家族の話をしながら公爵領地に向かった。


お昼近くになって、

「少し、休もうか。」

オスカーがそう、リラとスワンに伝えるとスワンは大きな木の下、風が通る休憩するにはもってこいの場所で止まった。そして、スワンは生い茂った草を食べ始めた。


「さあ、こっちもお昼にしようか。」

そう言って、オスカーは持ってきたクッションを2つ並べ、その間にバスケットを置いた。リラは勧めらるままクッションの1つに座った。もう1つのクッションにオスカーが座って、バスケットを開けた。サンドイッチ、タルトやパイ、そしてクッキーが入っていた。


リラとアルベルトほ馬車で行く事になっていたので、お昼は途中の公爵家所有の別荘地で用意される予定だった。今回、そこはアルベルトとナタリーが辺境地に行く途中に使う事になったと聞いた。だから、このバスケットは急に用意してもらった物だ。短時間で用意されたとは思えない豪華さに、リラは目を見張った。

「食べようか。」

オスカーに促されてサンドイッチを頬張る。

「美味しい。」

自然と声が出る。と、オスカーとスワンがリラを見ている事に気付いて真っ赤になる。

下を向いているリラにオスカーがカップに入った紅茶を渡してくれる。

恥ずかしさを振り払うように紅茶を一口、

「美味しい。」

また同じ言葉をリラは声に出してしまった。

自分でも可笑しくてリラは笑ってしまった。

その姿を見て、オスカーは

「よかった。」

そう言うと、自分もサンドイッチにかぶりつき、そして紅茶に口をつけた。


リラは思い出した。公爵邸では緊張して飲めなかった紅茶だ。本当に美味しい紅茶だ。そして、オスカーと一緒に飲めた事に幸せを感じる。

食事の最後はクッキー。これも、公爵提案では手を出せなかった。

でも、今日はオスカーと一緒に味わう事ができた。ずっとこのままいたい。そんな瞬間だった。


「アルベルトたちに別荘での食事を譲ってしまったからこんな軽食になって申し訳ない。」


オスカーのその言葉にリラは現実を思い出した。

オスカーにとって自分は弟の婚約者。

ただ、義理で優しくしてくれるだけ。

そうだ、オスカーには婚約者がいるんだ。


急にどん底に落とされた気分になった。

そして、気付いた。

昔も今も好きなのは白馬に乗った王子様、オスカーだと言う事を。


急に元気がなくなったリラに気付いたのか気付かなかったのか、オスカーは

「じゃあ、出発しようか。」

そう言って荷物を片付けた。


そこから公爵領地まではそう遠くはなかった。ただ、その後は会話もなく静かな移動になったので、移動の時間は午前よりも長く感じた。




公爵領地に着くと公爵夫妻が出迎えてくれた。

「リラ、遠いところまでありがとう。」

公爵が声をかける横から

「オスカーおじさん、剣術教えて。」

小さい男の子たちがオスカーの足に抱きついてきた。ミレイナの子どもで双子のレオとテオ。昼食の前にオスカーから聞いていた。まだ6歳なのに騎士としての素質があるらしい。左右の足をレオとテオ、それぞれに抱きつかれて動けなくなりながらオスカーは

「レオ、テオ、まずはお客様に挨拶をするんだ。騎士の基本の礼儀作法が出来ていないぞ。」

厳しい顔でオスカーが伝える。

二人は、そんなオスカーを怖がりもしないで、満面の笑顔。

「こんにちは。僕レオです。」

「こんにちは。僕テオです。」

言いつけを守って挨拶をした。


「はじめまして。リラです。」

リラも挨拶をかえした。すると、レオが

「リラはオスカーの恋人なの?」

大人びた事を聞いてくる。

「リラ、オスカーのどこが好きなの?」

テオも負けじと質問する。

オスカーは困った顔をしながら二人を止めようとするも、リラは二人を前にして

「残念ながら恋人じゃないの。でも、オスカー様は優しくて強くて、皆を守ってくれる騎士様、素敵よね。」

リラは思った事を答えた。


それを聞いたレオとテオは

「そうだよね。優しくて、強いのが騎士だもんね。僕たちもそうなるんだよね。」

「大きくなったら僕たち二人、皆を守る騎士になるからね。」

そう、宣言して、リラの手を握った。


その姿に公爵夫婦は大きく頷いて、オスカーは何を思っているか分からない難しい顔をしていた。


オスカーはこの後、公爵領地の騎士団に混じって訓練をすると言って着替えのために部屋に向かった。レオとテオに訓練が終わったら二人に剣術の稽古をつける事を約束をして。


公爵夫妻からの心遣いで、リラはこの後一人で休憩がてらお茶をいただく予定だった。旅の疲れを癒す時間として。しかし、レオとテオはリラの手を離さず、結局、3人でお茶を楽しむ事になった。


広大な庭園を望めるテラスに案内された。

「このサロン、素敵でしょ。花壇の植え替えは僕らも手伝ったんだよ。」

「僕たち、お茶を入れるのだって上手いんだよ。いつも母様に入れてるんだから。」

お茶を飲みながら二人が代わる交わるで話してくれる。


「リラ、お代わりどうぞ。」

お茶を飲み終えたレオが席を立ってリラにお代わりを入れようとした。

「テオ、ずるいよ。僕が入れようと思っていたのに。」

そう言ってレオの手からティーポットを奪おうとした。

「危ないわ、レオ、テオ。」

二人を止めようと思わず席を立った時、リラはテーブルの上に置いていた自分のカップをひっくり返してしまった。

それを見てレオとテオは一瞬、目を見合わせていた。その間にリラは二人からティーポットを取り上げた。


「ごめんなさい。溢してしまいました。」

様子を見ていたメイドにリラは申し訳なさそうにそう告げると

「レオ、テオ、大丈夫?」

熱い紅茶には触れていないとは思っても念のためにリラは聞いた。

「大丈夫。」

曇った表情で答える二人に

「よかった。火傷しなくて」

リラは笑顔を見せた。


少し残っていた紅茶がテーブルクロスとリラのスカートに少しかかったぐらいだったが、この後、旅の汗を流してミレイナに会う予定だったリラは片付けをしてくれる使用人に頭を下げながらティータイムを過ごしたサロンを後にした。



着替えを済ませたミレイナの部屋に二人が案内してくれた。

ミレイナはベッドに座って本を読んでいた。安静にするように言われているから1日の大半をこのベッドで過ごしていると聞いている。

「母様、リラが来たよ。」

「リラってピアノが弾くのが好きなんだって。」

「僕、後で教えてもらう。」

「僕も。」

次々と二人が話し出す。


そんな二人に優しい微笑みを見せるミレイナ。そして、リラに目を向けると

「ごめんなさい。二人の世話を任せてしまって。」

申し訳なさそうに頭をさげる。

「いえいえ、小さな騎士様に守られて、安心してお茶を楽しむ事ができました。」

リラの言葉に双子の小さな騎士たちは誇らしげに胸を張った。その様子が可愛すぎてリラとミレイナは顔を合わせて笑ってしまった。


ミレイナの部屋にはピアノがあった。レオとテオのリクエストによりリラが行進曲を演奏した。先月、オスカーが王都の騎士団長に就任した記念に凱旋パレードが実施されたが、その時に演奏された曲のようだ。1曲、弾き終わった時に開いたままのドアのそばに訓練を終えたばかりのオスカーが佇んでいる事にリラは気付いた。いつからそこにいたのだろう。レオとテオとミレイナはピアノの方を見ていて、3人のちょうど後ろにいるオスカーには気付いていなかったみたいだ。

「オスカー様。」

リラが名前を呼ぶと3人は振り向いてようやくオスカーに気付いた。

「オスカーおじさん。訓練は終わったの?」

「僕らの稽古、してくれるの?」

リラにピアノの演奏の礼を言うと、二人は嬉しそうにオスカーの手を引っぱって、部屋を後にした。


残されたリラとミレイナだったが、ミレイナはリラがここに着いてからレオとテオに振り回されて休んでいない事を気にしていた。リラを気遣って用意された個室で休む事を提案し、リラもそれに従った。


リラが案内された部屋は、使い込まれた家具が使用されていた。頑丈な作りの物ばかりで、王都の洗練された公爵邸と比べて格段に居心地がよかった。

と、出窓から外を見るとオスカーがレオとテオに剣術の手捌きを教えていた。近くにあった椅子に腰掛けて、出窓のカウンターに少し身を乗り出すと3人の姿がよく見えた。

何げなく見ていたリラだったが、しばらくしてオスカーにばかり目を向ける自分に気付いた。と、窓越しにリラとオスカーの目が合った。見つめ合ったまま、二人の時間が止まっている。レオとテオは急にオスカーが動きを止めた事に気付いて視線の先を見る。


「リラ。」

リラに気付いたレオとテオが手を振る。それに気付いたリラも手を振りかえす。

3人が手を振り合っていると、オスカーもようやく、自分がリラを見つめていた事に気付き、レオとテオに声をかけて稽古を再開させる。そして、その後の稽古様子をリラはじっと見ていた。




「おはようございます。」

公爵家のメイドの声でリラは目を開けた。リラはベッドの中にいた。

剣術の稽古を出窓から見ていた記憶はある。その後は

・・・、何も思い出せない。

「昨日は旅の疲れが出られたんですね。ディナーを食べておられませんので、朝食はしっかり食べてほしいと奥様から申しつかっておりますので、準備を手伝わせてください。」

そう、言うとリラの返事も聞かずに、テキパキと準備を始める。入浴を勧められたリラは、全身を洗い、バスローブをまとえば、されるがまま、新しい服を身につけていた。

乾かされた髪は一つにまとめ上げられ、公爵邸のダイニングへと案内された。

そこには公爵夫人が一人、席に座っていた。ちょうど、朝食が終わったタイミングのようだ。


「遅くなって申し訳ありません。」

リラが言うと、

「違うのよ。私が食べ終わるタイミングでこちらに呼んだのよ。」

公爵夫人は優雅に微笑んで話を続ける。



「昨日はあなたの部屋に勝手に入ってごめんなさい。レオとテオがあなたが窓のところで動かなくなってるって心配して。疲れているのに、レオとテオの相手をしてくれていたのね。」

リラはレオとテオに心配された事を申し訳なく思った。

「でも、一番焦っていたのはオスカーよ。」

公爵夫人は笑いながら話し出した。

「あの子、あなたをベッドに運んだ後、ミレイナの主治医を呼びに行こうとするのよ。」


「オスカー様にも迷惑をおかけしたんですね。」

リラはそこで、朝、ベッドで寝ていた経緯を知った。


公爵夫人は続ける。

「元はと言えば、乗馬に慣れないあなたをスワンに乗せたオスカーが悪いのよ。日頃、乗馬をしない者が馬に乗って移動する事がどんなに疲れるか、考えもしないで。馬車を用意している間にオスカーがあなたをスワンに乗せて出て行ったって執事から連絡を受けたのよ。本当にごめんなさい。」

そう、話すといきなり席を立って、

「言ってたら来たわね。」

公爵夫人が視線を向けた方を見るとオスカーがダイニングに入ってきていた。

「あなたに直接、謝罪したいそうよ。私は先に食事を済ませたから、これで失礼するわ。」

そう、リラに話した後、

「オスカー、しっかり謝罪するのよ。それから、リラさんが心配で昨日は全然、食べていないって聞いたわよ。しっかり食べなさい。」

そう、言って部屋から出ていった。


オスカーと二人きり、向かい合わせに座る。

「リラ、昨日はすまなかった。申し訳ない。」

オスカーが話し出した。

それを、聞いて

「そんな、謝らないでください。昨日はベッドまで運んで貰ったって聞きました。オスカー様こそ、疲れておられるのに、ご迷惑をおかけしてすみません。」

顔を赤くしながらリラが話す。

「迷惑だなんて全然、思ってないよ。僕のお姫様を抱っこできるなんて幸せだよ。」

綺麗な微笑みを浮かべながら話す、オスカーに更に顔が赤くなる。

「それより、まずは朝食を食べよう。リラは昨日、ディナーを食べ損なってるんだから、お腹が空いてるだろ。」

そう言われると、お腹が空いている事に気付く。

二人はお祈りをして、朝食をいただく事にした。


二人分の朝食が運ばれてきた。

公爵家の朝食は香り高い紅茶から始まった。

トーストやオムレツ、新鮮なサラダやフルーツが並んでいる。

「リラの元気な顔を見たらお腹空いたよ。」

オスカーもお腹が空いているらしい。口いっぱいに頬張るオスカーを見て、リラも自然と食欲が湧き、負けじとドンドン、口に入れていた。


食欲が少し落ち着いた時、リラは話し出した。

「昨日はレオとテオ、楽しそうに稽古していましたね。」

昨日の様子を思い出して頬が緩む。

「二人はリラを守る騎士になるそうだよ。」

そう、言われるとますます顔がにやける。

「俺もリラと出会ったあの日から訓練が苦じゃなくなった。姫様を守る騎士になろうって思ったから。真面目に訓練する事が楽しくなった。小さい頃みたいに。だから史上最短で騎士団長に任命された。」

オスカーは真剣な顔になった。

リラはなんと返事してよいか迷っていた。


「リラの昨日のピアノ、聴き惚れてしまったよ。」

オスカーの言葉に息が止まる。

「そんな。私の腕はまだまだ。ピアニストの道は諦めたから。」

オスカーは夢を叶えているのに自分は諦めた、そう思うとリラはが恥ずかしくなった。

「ピアニストは諦めたけど、ピアノの練習は怠ってないんだろ。」

オスカーの言葉に思わず

「だって好きだから。」

リラは即答する。

オスカーは笑いながら

「リラはスワンの背の上でもそんな話してたよな。ピアノの練習をするのが一番楽しいって。」

あの日を思い出す。

そして、オスカーもあの日をちゃんと覚えてくれている事を嬉しく思った。


オスカーは続ける。

「それに、今は子どもたちに教えるために色々な事を学んでるんだろ。」

「どうして、それを?」

リラは聞いたが、答えを聞く前に理解していた。

「アルベルトに聞いた。」

リラの顔が曇る。

そう、自分はアルベルトの婚約者だ。


急に、何を話してよいか分からず黙ってしまった。


急に雰囲気を変えたリラにオスカーも気付いたらしい。しばらく沈黙が続いたがふいに、オスカーは小さな声で

「アルベルトが好きなら俺のこと、素敵って言わないでくれよ。」

思わず口に出してしまった、という感じで口に手をするオリバー。


昨日、レオとテオに聞かれて、自分のオスカーへの思いをつい口にしてしまった。その事を非難されている。自分を擁護しようと

「オスカー様こそ、婚約者がいるのに私を姫って呼ばないで。」

つい、オスカーを責めてしまう。

「婚約者?」

オスカーが不思議そうな顔をして、

「誰から聞いた。」

そう、質問するも

「アルベルトか。」

オスカー自身が答えていた。


リラは悲しくなった、オスカーは否定をしなかった。オスカーには婚約者がいるんだ。


静かになった朝食は、その後すぐに終わった。


朝食の後、ミレイナに呼ばれていた。


リラはアルベルトの到着まで公爵領地に留まる事になっていた。1泊分の用意ではアルベルトの帰宅には足りない。そんなリラのためにミレイナが若い頃に来ていた服を貸してくれる事になっていた。リラがノックしてミレイナな部屋に入るなり


「リラ、顔色が悪いわよ。」

ミレイナが心配そうに声をかけた。

「大丈夫です。」

リラが答えるも

「オスカーに何か言われた?」

口を開こうとしたリラを遮って

「図星ね。」


そう、言って少し考えていたミレイナだったが

「リラ、わざわざここまで来てくれて、ありがとう。それから、私のわがままで呼び寄せて本当にごめんなさい。」

そう言って頭を下げた。

リラは申し訳ない気持ちになって

「顔を上げてください。」

思わず声をかけるも、ミレイナはアリアナの両手を取って

「リラ、私も、私の家族もあなたの事が大好きなの。」

リラの目を真剣に見つめる。


「今、オスカーとは話したくないのね。」

そう聞かれて、首を縦に振ってしまった。

「リラ、家に帰りたい?」

ミレイナに聞かれて、また首を縦に振る。


「後は私に任せて。アルベルトが帰ってきたら私から二人にはしっかり言い聞かせるから。」

そして、最後に

「リラ、あなたは何も悪くない。」

その言葉に涙が溢れた。


違う、悪いのは私。アルベルトの婚約者のふりを承諾した私。そして、オスカーを好きになったのも私。


そう、言いたいのに言えない。

謝らないといけないのは私だ、そう思うのにミレイナは

「あなたは悪くないから。」

何度も口にしてくれた。


リラはミレイナの胸の中でしばらく泣き続けた。


リラの涙が落ち着いた頃、ミレイナは執事を呼んで馬車を手配してくれた。


帰りの馬車は泣き顔を見られないようにとのミレイナの配慮で一人で乗せてもらい、見送りも断ってもらった。オスカーからは抗議の声があったそうだが、全てミレイナが対処してくれた。


公爵家の馬車で一旦、寮に帰り、そのまま荷物を積んでリラの生家の男爵邸まで運んでもらった。


公爵家の馬車を見た両親や弟、妹はびっくりしていたがミレイナが先触れを出してくれていたようだ。両親は何も言わず出迎えてくれた。

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