異世界ドリーム
そろそろ起きるか⋯。
⋯ん?自分の家だよな?見覚えがあるような、ないような⋯?
寝起きで頭がはっきりしない。時間を確認しようと枕元のスマホに手を伸ばすも何もない。
⋯ん、スマホ??
とりあえず起きて顔を洗おうと洗面台までいったら眠気がふっとんだ。
「誰だよ!このおじさん!⋯⋯って俺か!?俺なのか!?」
俺は高校生のはず。なんでこんなおじさんに??どうなってる??
⋯⋯いや、違う。俺は高校生なんかじゃない。俺は『バク』35歳。鏡に映っているのは自分で間違いない。⋯そうか、異世界転生ってやつか。これが前世の記憶ってやつか。
ここは日本とは異なる世界で魔法が使える。各分野のギルドが職安みたいに存在していて、自分は冒険者ギルドに登録しているCランクの賢者だ。普段は魔物を討伐して生活している。
⋯⋯転生していたとして、だ。だとしたら、前世思い出すの遅すぎないか?よく読んでたラノベだと、生まれた時からとか、幼少期にってのが多かったと思うんだけど。もう35歳のおじさんなんだけど。⋯ラノベはラノベ、現実は現実って事なのか?
「⋯⋯⋯よし!ステータスオープン!」
特に何も起こらない。
この世界には、ゲームのレベルのようなシステムは存在しない。魔法を使う為の魔力はあっても数値化されているわけではない。体力も同じだ。自分の感覚でしかわからない。だから、討伐の仕事をする上で、魔力と体力の管理は重要だ。
そんな事は常識として知っている。知っているんだけど、ラノベ好きの記憶を思い出したからには試さずにはいられなかった。それに、もし数値化できれば、今後の討伐を効率よくできるだろう。⋯結果、何も起こらなかったけど。
「おーい!バク、起きているか?」
ドンドンと扉を叩く音がして我に返った。
「起きてるよ。すぐ準備するから待っててくれ」
幼馴染でもあり、パーティーメンバーでもある『ネム』を家の中にいれ、急いで準備をする。今日は魔物討伐に行く予定だった。
ネムは俺に比べて体格が良い。それを活かし、剣と盾で前衛を務めている。俺は後衛で攻撃、回復、支援、回復の魔法をかける。このスタイルで二人でやってきた。仕事内容によっては他の人を追加することもあるが、基本的には二人だけ。男二人でできてるのか?とからかわれることもあるが、そんな事はありえない。ちゃんと二人とも女の子が好きだ。
「すまん、待たせた」
「少し早くきたから大丈夫だ。今から向かっても昼前には着くはずだ」
今日は街の近くにある湖でを討伐する予定だ。車で行けば20分も有ればつく。でも、ここにはそんなものはない。いつもはなんとも思わない距離なのに、前世を思い出したがゆえに歩いていくのがキツく感じる。
「せめて馬車で行ければ⋯」
「そんなので金使うわけにはいかねぇだろ」
つい、でてしまった言葉にマジレスをされてしまった。
「わかってるって」
車じゃなくてもいい。せめて自転車欲しいわー。⋯ないものねだりをしてもしょうがないな。今度、作れないか街の職人に相談してみよう。
目的地までの道中、天気も良く、盗賊や手に負えない魔物に遭遇することもなく、トラブルといえることは起きなかった。強いて言えば、ネムに雰囲気がいつもと違うような気がすると言われたくらいだ。
湖が近づくにつれ、周囲が静かになっていった。いつもは危険のない小動物や鳥の気配が感じられ、レジャースポットとなっている。でも今は不気味なくらい何も感じない。ここまで静かなのはおそらく魔物の影響だろう。
ギルドからの事前情報では、魔物の数は結構いるようだ。それでも経験もそれなりにあり、魔法も使えるという事で、俺達でも問題なく対処できるだろうということだった。
だったらとっとと討伐して帰って、知識チートができないか確認したい。なにならこの世界で再現できるのか。今後の自分の為に生活水準をあげたい。
「いた、魔物だ」
ネムの声に前方に目をやると、複数のスライムが見えた。その奥には、他の魔物がいるのがわかる。
さて、どうしようか?いつも通り、ネムに最初は任せるつもりだったが、スライムだと少し厄介だ。剣での攻撃だと核以外に当たっても倒せず、何度も攻撃をしないといけない。時間がかかり、奥の魔物に気づかれるかもしれない。かといって、魔法で攻撃してしまっても気づかれる可能性は高い。うーむ。
「先に魔法を撃つ。奥の魔物が来たら頼む」
「わかった」
「ヤバかったら撤退だ」
結局、やらないといけないことに変わりはない。少しでも体力を残せてリスクを抑えられそうなほうでいくことにした。
「よし、いくぞ。⋯⋯雷よ!」
自分の周りから、電子音がピピッとなる。
⋯⋯え?こんな音だった?
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ⋯。
電子音が連続で鳴っている。攻撃は始まらない。
⋯⋯あ、これ、アラーム音だわ。
どんどん音量があがっていく。しかし、ネムには聞こえていないようだ。魔法がでていないけど何も言ってこない。電子音の音量が上がるのにつれ、視界は歪んでいく。
な、なんだ?何が起きている?魔物の攻撃なのか?
「あー、うるさい⋯」
枕元のスマホのアラームを止める。画面には6時45分と表示されている。
あれ?俺、異世界転生したんじゃないの?⋯⋯⋯⋯まさか、夢?⋯⋯え、あんなリアルな夢ある?バクとしての過去の記憶とかあったのに?⋯⋯あー、寝れば異世界行けるとかそんなやつじゃない?
何日間は絶対そうだ、また行けると思ってた。あとはこっちでも魔法が使えるんじゃないかって試してみた。なんにも起こらなかった。恥ずかしくなった。そして、何日経っても、何年経ってもあの世界へ行ける事はなかった。
そう、そんな事は起こるはずがないんだ。何故なら、ラノベに影響されたただの夢だったのだから。




