私のファンタジー!
「カップ麺、出来たよ」
「カップ麺??なんだそれ」
「え、カップ麺知らない?カップラーメン」
「知らないな」
「なんでよ。んなわけないでしょ」
仕事からの帰り道、おじさんを拾った。いや、拾わされたといった方が正しいのかな。
突然、道路の真ん中が光って、どこからか声が聞こえてきたんだ。声の主いわく「腹減ってるだろうから食わしてやってくれ」と。そして、おじさんがきょとんとした顔で現れたんだ。
普通そんな事がおきたら、こっちがきょとんとするところだと思う。だが!!だがしかし!!日頃からラノベをこよなく愛し!いつか!いつかそんな事が起きればいいのにと願っていた私にとってはチャンス到来!ありがたい!!
そんなわけで、さくっとおじさんを拾ってきた。危ないかもしんないけど仕方ないよねー。
おじさんの名前は「とよお」だって。っぽいわー。
「これがカップラーメンなのか。このラーメンはいつゆでたんだ?⋯なんだ、このどんぶり。すぐ壊れるんじゃないか?」
なんか一人で小声でぶつぶつ喋ってる。
「とよおさん。麺がのびちゃうから早く食べなよ」
「おぉ、そうだな。じゃあ、いただきます」
「どぞー」
ズッ、ズズッという麺をすする音が響く。そして、たまにむせているのか、ゲホゲホ聞こえる。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あれ?連れてきて、食べさせてあげたけどどうなるんだろ?帰るのかな?⋯⋯⋯あれ?
「とよおさん、家は近いの??」
「わかんねぇ」
「わかんねぇって。じゃあ住所は?」
「三丁目だ」
「三丁目って、どこのよ?」
「あれだ、あれ。ほれ、あそこよ」
「どこよ?」
「わかんね」
「はぁー?!」
おっと、なんかヤバい人なのかな。⋯どうしたもんかなー。え、もしかして泊めないといけない?それはまずいけど、今さらかー。
全くファンタジー感のない展開に、だんだんと正気を取り戻してきてしまった。
「そんなことよりよ」
「いや、大事なことだよ?」
「このカップ麺はよ、作るのは簡単なのか?」
「え、カップ麺?簡単だよ」
「どうやんのよ?」
とりあえずおじさんの相手をしてあげるか。
「蓋をあけると、具とスープの袋がラーメンの上にあるの。それを開けてラーメンの上にかけてー、お湯を注ぐだけ」
「お湯??何度だ??」
「えぇ?百度くらいじゃないかな」
「入れたらすぐ食えんのか?」
「三分くらい待ってると出来上がりだよ」
「自分で作ってみてぇ!もう一つ、食わしてくれ!」
本当にカップラーメン知らないの?え、なんで??そんな事ある??
疑問はあるけど、まだあけてないカップラーメンを渡してあげる。
「ん⋯、あれ⋯なんだ、あけられねぇぞ」
⋯フィルムはがせないの?なにしてんの。
「お、あいたあいた!⋯⋯ほー、こんな風になってんのか。んで、これをあけると。んで、お湯だな」
「はい、ポット」
「ポット?」
「え、お湯でしょ?」
「ポット?」
「⋯⋯お湯、いれるね」
「おぉ、お湯だ。あとは三分だな?」
「うん」
三分だって言ってんのに、一分も経たないうちにおじさんは食べ始めた。
⋯え??え?え?
「おぉ、バリカタだな」
「違うよ?え、違わない?それ、とんこつだっけ?」
なんだか、話が通じてるんだか、通じてないんだか、わけわかんなくなってきた。
ガリガリいわせたおじさんは、スープまでしっかりと飲み干した。
「ごっそさん!!うまかった!!」
そう言って、勢いよく外に出ていってしまった。
「まじでなんなのよ。とよおちゃん⋯」
少しの間、呆然としてしまったけど、我に帰って鍵をかけた。
「うん、今日の事は忘れよう⋯⋯」
あ、ニュースの時間だ。
テレビをつけると、なにか事件があったようだった。
『⋯主に女性を狙って犯行に及んでいた⋯⋯』
「⋯うん?」
女性を狙ったって?怖いわー。なになに??
『本日逮捕された『自称とよお容疑者』は職業、住まい等の情報、また、犯行の動機など何を聞いても黙秘しているという事です』
「⋯あれ?」
『警察は、余罪の⋯⋯』
「⋯⋯⋯な⋯⋯⋯⋯⋯ぜんっぜん!ファンタジーじゃなかったじゃん!!なんだったの、あの光と声!!」
おい!!とよお!!カップラーメン返せよ!!




