表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか短いやつ、まとめてます。  作者: うちの生活。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

サクラ健康法

 朝の5時。

 天気はいい。

 この時間はまだ少し寒いけど。

 新しいパン屋に並んでいる。


 歩いている人から見れば、


 パンが大好き!

 新しいもの大好き!

 並ぶの大好き!

 早起き!


 というふうに思われるのかな。いや、並ぶの大好き!はないか。・・・とまぁ、どう思われていたところで、私が並んでいる本当の理由なんておそらく誰にもわからないんじゃないかな。



 引きこもり。

 ニート。

 穀潰し。

 パラサイト。

 すねかじり。


 これが私に対する世間の印象っていうか、事実。それに少し拒食気味というオマケつき。⋯骨と皮です。


 それがどうしてこんな事をしているのか。


 ⋯少し前のことなんだけど。


『世界一周クルーズってのに行ってくるから』

『⋯その間どうしたらいい?』

『自分で考えなさい。お金もどうにかしなさいね』


 衣食住に恵まれていた以上、先にあげた数々の呼び方をされても仕方ない、と受け入れていたのにこの仕打ち。なんたることだ。


 衣と住はいいとして、食はどうするか。拒食気味とはいえ、絶食してるわけではない。それに買うにしろ、作るにしろ、お金もかかる。


 つまり、働かざる者食うべからずという状況。外に出たくない。働きたくない。その一心で過ごしてきたのに。ここまで脆い体制だったとは⋯。


 両親が帰宅した頃に衰弱死なんて笑えない。そうならない程度には稼がないといけない。週1日でもいいような、かつ可能な限り短時間で働ける仕事を探していたんだ。日課のネット閲覧の合間にね。


 どうやって辿り着いたか覚えてないけど、条件に合うものを見つけたんだ。


 週1日から勤務可能!仕事内容、給料応相談!


 本当かな?どうせここも、もっと働けないかって言うでしょ。


 いくつか似たようなのを見つけてはメールで問い合わせてみても、もっと働けば稼げるからと、もう何日かどうですか?というところばかりだった。1日2日増えたところで、平日びっしり働いている人に比べれば大したことではないんだろうけど。むしろ、それでも普通以下だって言われそう。でも、私にはとても大事な事だから、もう一度。外に出たくない。働きたくない。⋯そもそも、働ける自信が全くない。


 あまり期待せずに問い合わせたら、すぐに連絡があり、詳しい内容は対面で!来社されたら謝礼あり!と強く言われてしまい、外に出る練習とお金の為に仕方なく事務所まできてみたのが。


『株式会社チェリーブロッサム』


 会社名からはどんな会社なのかわからない。よくある派遣会社だろうか。


 とりあえず、インターフォンを押して自分の名前を告げた。その後は事務所に通されて、名前、電話番号、住所、職歴を書いて待つように指示されたので従った。書く職歴なんかないからすぐに書き終わった。少ししたら男性が来て「現在ご紹介できるお仕事ですが」と机に資料を広げた。


 ラーメン屋、スーパー、パチンコ、パン屋、本屋、コーヒーショップなどの情報が書かれている。給料は月5万〜20万前後だけど勤務日数が書いていない。他にわかるのは、これらの店がこれからオープンするか、最近したばかりの店だということ。


「どうですか?」

「⋯⋯⋯はい?え、えと、この中から働きたいとこを選べってことですか?」

「いいえ!違います!」

「え?え?違うの?じゃあ、なんなの⋯」

「気になる店がありますか?」

「え?え?気になる?えーと⋯これですかね」


 やりとりの意味がわからないまま、勢いに負けてパン屋を選んだ。選んだ理由は近そうってだけ。⋯やっぱりここで働けって事かな?パン屋って朝早くてキツそうなイメージなんだけど。


「では、このお店に並びませんか?」

「⋯え?並ぶ?働くんじゃないんですか?」

「え?違いますよ。並んでいただきます。それがお仕事です」



 という訳で、私が並んでいる理由は仕事でした。開店時間に合わせて店の前に並ぶという、少しわからない仕事。最近はよくあるのかな?


 開店までもう少し。他にはなんて言われたかな⋯。



「えと、並ぶってどういう事ですか?」

「私達の業務を簡単に言えば、ご依頼のあった店を繁盛させる事なんです!その業務の一環として、これから開店するこのパン屋に並んでいただきます!」

「いや、だから⋯」



 店に到着した時、既に何人か並んでいた。5番目に並んで少し待っていると、気づけば私の後ろに10人くらい並んでいた。普通なら「結構くるんだな。ここ有名なのかな?」なんて思うんだろうけど、そう思えなくなってきた。私の事を考えると、今ここにいる人は本当にお客さんなのかも疑わしい。かといって「私は仕事だけどあなたも?」なんて聞くわけにはいかない。もちろん周りにはバレないようにと言われている。



「お店が開店する前から並んでいただきます。開店したら普通に買い物してください。どのパンを買うかの指定はないので好きに買ってください。それを閉店時間まで何度かやってください」

「閉店まで⋯。何度も買いにいけってことですか」

「そうですね。さすがに買ってすぐは避けてほしいので、一度ご自宅に戻られてからで結構です」

「でも、パンを買うってお金かかりますよね?あと、お給料はどうなんですか?」

「まず経費として、当日の朝1万円お渡しします。それでパンを好きに買ってください。仕事が終わったらお給料として3万円。余った経費は返していただきますが、買ったものはもちろん食べていただいて結構です。それもお給料という事で」

「え、実質4万円?そんなに?」

「うまく買い物なさればそうなります。その代わり、周りにバレずに閉店までやり遂げる事が大事です」



 ⋯こんな仕事あるんだねぇ。閉店までってのはキツいけど、パン買ったら帰れるし、給料いいし、それなりに頑張らないとね。


 開店したお店に入ってみると、焼き立てのパンの香りが私の食欲を刺激してきた。仕事だというのを少しだけ忘れ、普通に食べたいパンを選んでいく。まずはクロワッサン、あとはサンドイッチも美味しそう。あとはー⋯いや、後でまた来るんだから一旦やめておこう。


 あまり買いすぎず、かといって少なすぎずに何個か買って店をでた。食べながら歩くのはどうかと思い、素直に家に帰った。


「あ、これうまっ!」


 美味しかったのは助かる。買う量によってはおそらく何日か食べないといけないだろうし。不味かったら食べないって選択肢もあるけどもったいない。


 食べて休んでたらそれなりに時間が経っていた。仕事しないとなって、店に行ってみるとまた何人か並んでいた。


 パン屋ってそんなに混むもの?でも、テレビで見た事あるような⋯。あ、開店初日だからかな。⋯⋯って私と同じ?うーん。


 そんなことを考えているとまた私の順番になっていた。明日以降の事も考えて、今度は無難に食パンを選んでみる。スーパーで見かけるような6枚や8枚に切られたものではなく、切る前の状態のもの。こんな事でもなければ買わないタイプだ。


 あ。パンを切る包丁なんてあったかな。なかったら普通の包丁で切るしかないね。うまく切れなかったらそのまま手でちぎって食べよう。


 さっき食べたから、お腹はまだ空いていない。かといって、もう一度行くにはまだ早いような気がする。そろそろ昼寝もしたいし。⋯むむむ、めんどくさくなってきたぞ。いや、そこは仕事。食費のためにやらないと。んー⋯、寝るのは我慢。も少ししたら出ようかな。



「お疲れ様でした」


 なんとか時間を調節をしながら、家とパン屋を4往復をして仕事を終えた。4回目に行った時の私を見た店員のなんともいえない、何かを察したような店員の顔。ちょっと忘れられそうにない。⋯まぁ依頼主なんだから察するよね、多分。単におかしい人認定されてない事を祈る。


 ちなみにパン屋は、ずっと何人か並んでた。まぁ、美味しかったから並ぶのもわかる気はするけど。


「どうでした?パン、食べましたよね?」

「ええ、食べましたよ。結構美味しかったです」

「そうですよね!!私もそう思います!!あれはいい!!毎日でも食べたい!」

「え、あ、はぁ」


 いきなり上がったテンションにはちょっとついていけない。何なのこの人。こわっ。


「あ、失礼しました。⋯⋯いくら美味しいお店でも、場所や規模によっては続かずに潰れてしまうんです。そういうのがもったいなくて。そういう店からのご依頼をいただいて、もしくはこちらから提案させていただいて、人気が出るようにサポートするのがうちの仕事なんです」

「⋯そ、そうですか」


 ⋯それ、できれば最初に聞いておきたかったなー。


「それはそうと、はい、こちら本日のお給料です」


 ありがたく受け取りながらも、この会社にパン屋はいくら払ってるの?むしろ潰れんじゃないかと思ったけど、もらえるものさえもらえればいい。今回はパンもついてきた。


「またあそこに並ぶ仕事はあるんですか?」

「来月に予定しています。その間なんですが、別のお店が来週開店するんですけど行きますか?」

「パンですか?」

「パンですっ!」

「あー、行きます」

「では、また連絡しますね」



 2日後、あのパン屋が気になっていってみるあと行列ができていた。今日は仕事じゃないけど、つい並んでしまった。そして買ってしまった。買った後に思い出した。まだ、食べきれずに冷凍したパンが残っている事に⋯。



 次の別のパンは来週。働きたくないから助かるんだけど、も少し働かないとパンが買えない。⋯⋯あれ??違う、食費が足りない。もっと働いたほうがいいかな?でも、食べるのに困らない程度でいいよね。そのうち、帰ってくるんだし。⋯⋯⋯あー、パン食べたい⋯⋯???




※※※※※※※※※※




「おかえりー」

「あ、あんた、どうしたの?」

「何が?」

「え⋯⋯体型⋯変わったよ、ね?」

「あー、変わったかなー」




 体重48キロ増えました。

 健康的かな?

 引きこもりたいけど、パン食べたい。

 行かないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ