団地ノスタルジー
『ニュータウン新世界』
約40年前から存在してるこの地域には、4階建ての集合住宅が10棟ある。いわゆる団地だ。
壁は薄茶色く汚れていて、ところどころに蔦がはっている。その蔦も枯れているから余計に年数を感じさせる。
今、どれくらいの人が住んでいるんだろう。たまに見かける住人は高齢者の比率が圧倒的に高い。
⋯『新世界』なんて、名前負けしてるよね。
生まれた時からこの団地に住んでいる。小学生の頃は何も思わず、中学生の頃はもしかして過疎ってる?とか思ってた。高校生になった今は⋯。毎日の光景だけど、学校に近づくにつれ人が多くなっていって、建物も新しくなっていくのがわかる。逆に帰ってくる時は人が少なくなって、建物も古くなっていく。⋯そして、ここをでていきたい気持ちが膨らんでいくんだ。
そんな団地で新しく知り合いが出来た。
「こんにちは、お姉ちゃん」
「こんにちは」
経緯はこう。
家の外を眺めてたら、幼稚園くらいの男の子がキョロキョロしながら歩いていた。初めて見かけたから、どこかの家の親戚の子が遊びにきたのかなって思ってた。しばらくたっても家に帰ったり、親が迎えにきたりする様子はなく、ずーっとうろうろしてた。
団地内で事件事故は聞いたことないけど、少し気になって声をかけにいった。
「こんにちは」
自分に話しかけられてるって自覚がないようで反応がない。もう一度、
「こんにちは」
「!!っっ、こんにちは!」
びっくりした顔でやっとこっちを見てくれた。
「ひとりなの?ここらへんの子?」
「うん、ひとり。でも、お家はすぐ近く!」
指をさす方向には建設中の建物が見える。家はその後ろの棟だろうか。
「迷子じゃないならいいんだ。あまり暗くならないうちに帰った方がいいよ」
「うん!わかった!お姉ちゃん!」
元気よく走っていってしまった。
大丈夫かな、多分⋯。
その後は見かければ声をかけあう程度だったけど、いつもひとりなのが気になった。虐待とかされてないよね。⋯元気そうに見えるし、大丈夫かな?
「お姉ちゃん!遊ぼうよ!」
「え、お友達は?」
「ここにはいないんだ」
「あ⋯。じゃあ次の日曜日ならいいよ」
友達いないってのは可哀想だ。でも、ここにいないのはわかる。私ですら、団地内には友達なんていない。⋯わかってた事だけど悲しくなってきた。
「あ、名前聞いてなかったね」
「ぼくあらた!お姉ちゃんは?」
「芽依だよ」
「めいねーちゃん!」
「じゃあ、あらた君。日曜日、お昼食べてからでいいかな?」
「うん!約束!お願いね!」
さてさて、遊ぶとこなんてあったかな。最近の子はなにして遊ぶんだろう。
「お姉ちゃん、あっち!」
どうやら探検したいらしい。手をひかれて歩いていくと、ニュータウン内にある神社だった。年末年始にお参りをするくらいでしか来たことがない。⋯いや、小さい頃、別の事で来たことがあった。
「お姉ちゃん、ここに来たことある?」
「あらた君と同じくらいの時に来たことがあるよ」
その時は夏祭りをやってた。確か、盆踊りしてる人がいた。周りには屋台がでていて、焼きそばとかアイス食べたり、金魚すくいをして、お父さんが射的してたかな。
その事を話してみると、今ここでやってるかのようにすごく鮮明に風景が見えた気がした。
「楽しそう!今はやってないの?」
「やってないみたい」
「えーー」
「できたらいいね」
次に連れてかれたのは広い空き地。
「雑草すごいよね」
「すごいね。ここでは何かしてたのかな?」
「私も知らないんだけど、運動会みたいことをやってたらしいよ」
「えー、ここで?」
「こんなだから想像しづらいよね。大人も子供も走ったり、綱引きしたり、玉入れしたりしてる写真を見たことあるよ」
「ふーん、そうなんだ。もうやらないのかな」
「雑草に勝てたらやるかもね」
その時、さっきみたいに風景が鮮明に見えた気がした。声も聞こえたような⋯。参加していない、知らない事なのに。
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめんごめん。次かな?」
「うん。こんどはあっち」
「大丈夫?疲れてない」
「大丈夫だよ!」
今度は、お店が並んでるところ。⋯今はもうシャッターばかりの、お店だったところというのが正しい。
「お店やってないんだね」
「そうだね。前にね、駄菓子屋さんがあったんだよ」
「駄菓子!お菓子!」
「あとはね、野菜とかお肉とか買えるお店もあったり、写真のお店とかいろいろあったみたいだねど、私も知らないんだ」
「もう、ないんだね」
「車でいけるとこにおっきなスーパーもあるしね」
もらった100円玉持って買いにきたっけな。駄菓子屋のおばあちゃんももういないんだっけ。もうお店は入らないんだろうなぁ。
一緒に遊んだつもりだったけど、寂れていってる事を改めて感じてしまった。やっぱり早くでていきたいな⋯。
「今日はたくさん探検したし、そろそろ帰ろうか?」
「⋯うん」
「また、遊ぼうよ」
「⋯うん」
少し元気がないように見えるけど疲れたのかな?
待ち合わせた場所まで戻ると「お姉ちゃん、ありがと!バイバイ!」って走って行っちゃった。
「芽依、一人で散歩でもしてたの?」
「違うよ。近所の小さい子と一緒だったよ」
「そうなの?見かけた時は見えなかったから」
「一人で走って行ったときかな」
「小さい子なんて見るようなとこでもあった?」
「神社行って、空き地行って、駄菓子屋かな。あ、私ここの運動会みたいの参加してないよね?」
「してないよ。引っ越して来た時にはあったけど、芽依が生まれたあたりで最後だったかな」
「そうだよね」
「なんで?」
「いや、なんとなく」
⋯今日、見えた気がしたのは私の想像だったのかな。
「こんにちは、今日も探検?」
「うん!行きたいとこがあるんだ!」
連れてこられたのは、団地内の一番高いとこにある棟。壁には10って書いてあるけど、見た目は変わんない。
「ここの上に行きたいの」
「エレベーターないけど大丈夫かな」
「がんばる!」
あらた君は上の階に住んでいるのか、わりとスムーズに階段をあがっていく。4階まであがっていくとまだ少し階段が続いてた。私が住んでるところにはない。最後まであがってみるとドアがあった。どうやら屋上に行けるらしい。でも鍵がかかっていて開かない。
「お姉ちゃん、これ」
「え、鍵?なんでそんなのもってるの?」
「あずかったの」
「えぇ⋯」
「開けてくれる?」
「はいはい」
この団地に屋上なんてあったんだ。見渡すとニュータウン全体が一望できる。屋上があるのはここだけみたい。学校はあっちの方かな。⋯こうしてみると眺めはいいんだね。まぁ、山の上って感じだけど。
「遠くまで見えるね」
「そうだね」
景色を眺めていたら、強めの風が吹いたから目を閉じた。風が収まって目を開けてみたら、景色が変わっていた。
いつも人がいない団地内には人がたくさんいて、もう閉まっている店のあたりにも人がいて、雑草だらけの空き地には人が集まって何かやってるように見える。団地の薄茶色の壁は白く見える。
「あらた君、今日お祭りかなんかあったかな?」
「⋯わかんない」
「そっか⋯」
「いつもとちがう?」
「こんなに人がいっぱいなのは初めて見た」
「今は人がいなくなってるけど、ここはまたこうなれる可能性があるんだよ」
「え?どういうこと?」
「⋯⋯お姉ちゃん、高いとこ怖くなってきたからおりよう」
屋上の鍵を閉めて下までおりてみると、もう夕方になっていた。
⋯あれ??
「お姉ちゃん。今日もありがと!またね!」
待ち合わせた場所まで送ろうと思ってたけど、もう行っちゃったし、方向は合ってるから大丈夫かな。
「お母さん、この団地に屋上なんてあったんだね。今日初めて行ったよ」
「屋上?そんなのあったの?」
「10番て一番高いとこだからかな。そこにあった」
「誰でも入れるの?危ないんじゃない?」
「鍵かかってたから、誰でもってわけじゃないかも。ちゃんと柵とかあったし大丈夫かな」
「鍵ってあんた、壊して入ったの?」
「いやいや最近知り合った子が鍵もってて一緒にね」
「ふーん、管理組合のとこの子なのかねぇ」
「⋯でさ、やっぱりこのあたり寂しいよね」
「そりゃぁねぇ」
「でも、なんかイベントでもあったのかな。上から見た時、人が結構いっぱいに見えたんだよね。駄菓子あったとことかにも人いたし」
「ええ?知らないよ。そんなこと回覧板に書いてあったかなぁ」
なんだったんだろ。帰りによってみればよかったな。
次の日、学校に行く前に空き地前を通ってみたら雑草のままだった。
あれ?綺麗になってたように見えたのに?皆で草刈りしてた?いや、雑草減ってないし。え?どゆこと?
しばらく経って団地の中心部に作られていた建物が完成した。と、同時にあらた君を見かけなくなった。どうしたんだろう。
『新世界 コミュニティセンター あらた』
新しくできた建物は、あちこちにあった集会所を集約する目的があったり、災害に備えて物資を備蓄しておいたり、過去の写真の展示だったりといろいろだ。とりあえず、団地に関わるいろんな業務がここでできるように作られたとか。
『あらた』の開所と同時に、空いてるお店を格安で借りれるようにしたり、部屋も好きにリフォームできたりするようにもするらしい。
珍しいお店ができたり、リフォーム目当ての人がたくさん入居したり、リモートワークなどの職場としての入居が増えたりと、少し前からは想像ができない変わりようだ。あ、前にあった駄菓子屋が家族が引き継いで再オープンさせてたり、空き地はどっかの会社がクラウドファンディングで何か作るとかで綺麗にしてるみたい。
「お姉ちゃん、これならどうかな?」
そんな声が聞こえる気がする。
⋯そうだね。
出ていきたい気持ちが少しは変わったかも。
『ニュータウン新世界』
その時代にあわせて、常に進化していく。




