転がる玉と男
「お、そこのお兄さん!バイトしませんか?稼げるよ!」
お兄さんっていう年齢ではないが、自分に話しかけられている気がする。違うよなって確認の意味で振り返ってみるとスーツ姿の男がこっちを見ていた。やはり自分にだったかと思いながらも断り文句を考える。
「いや、普通に仕事してるんで。副業は会社的にちょっとNGなんで⋯」
「いやいや!副業なんて、そこまで真剣にとらえなくても大丈夫!ポイ活みたいな小遣い稼ぎ感覚で!まず聞くだけでも聞いてって!っていうかお兄さん、本当に働いてるの?」
ぐいぐいくるなぁって思ってたら、むしろ体を引っ張っていかれてたわ。何この人?怖いんだけど。
「ちょ、ちょっと⋯困りますよ」
「いやいや!お兄さん!だってパチンコ好きでしょ?」
「はい?どうして?」
「いやね、わかるんです!だから話だけでも聞いてって!」
初対面なのにパチンコが好きな事を看破されたからなのか、強引すぎる誘いに対しての諦めなのか、仕方なく近くにあるという事務所についていく事にした。
本当にすぐ着いた事務所があるというビルは五階建てで、どこにでもありそうな雑居ビルだった。入っているテナントの看板は飲食店や法律事務所、整体にその他いろいろとたくさんあって統一感は全くといっていいほどなく、本当にわかりやすく雑居ビルだ。
「すいませんねぇ、ついつい強引に誘ってしまって」
「本当ですよ。つか、強引だって自覚はあったんですね⋯」
「いえね、パチンコは私も好きなんですけどね。貴方に同類の匂いを感じまして、我慢できなくなっちゃいました」
なに、匂いって⋯。こわ。
「はぁ。それで?パチンコとバイトは関係あるんですか?さっきも言いましたけど、副業は会社に見つかるとまずいんですよね」
「えぇ、関係あります!貴方さえ口外しなければ!仕事をしているなんて誰にもわかりませんよ!」
そんなこんなで次の休日。家から二駅ほど離れたところにあるパチンコ店に朝から並んでいる。
結局、あの怪しいパチンコ好きの男の口車に乗ってしまった。⋯言い訳にはなるが、ここが新しくオープンするという事は知っていたし、もともと行くつもりではいたんだ。
肝心の仕事内容は、
・開店前から並ぶ
・軍資金が尽きるまで続ける
・軍資金とは別に日当がでる
・店員含め、周りにバレちゃ駄目
という内容だ。
説明を聞いてから、今に至るまで意味が分からないままだ。
パッと見は普通にパチンコする人となんら変わりない。
確かに仕事とは思われなさそうなのは確かだけど。⋯⋯大事な事だからもう一度。もともと行こうと思っていた店だから引き受けたんだ。
誰に言うわけでもないそんな言い訳を思い浮かべながら、並んでいる人を眺める。今日は新店舗のオープン初日に来れた上、自分の懐が痛まないからだろうか、そんな余裕がある。まぁ一応「どんな人が来てるか教えてくれたら助かります」なんて言われてたし。仕事の一環である。
爺さん、婆さん、若い男女、婆さん、同年代くらい⋯と、とりあえず老若男女いろいろかな。あ、あれ外国の人か?⋯⋯皆は自分の軍資金だろうなぁ。
そんな中、自分は違うのが優越感を感じるような、後ろめたいような⋯。とグダグタしていたところで、やる事は一緒だ。
開店すると同時に、並んでいた列が前に進んでいく。店内に入って一通り眺めていく。
これにしようかな。
いつも行く店でも打っている台だ。勝ちまくってるわけでもないが、負けまくっているわけではない。特に気負わず気楽にやれるだろう。
あ、ダメかも⋯⋯。あ、どうかな⋯?
どんどん軍資金はなくなっていく。渡された金額は五万円。出たと思ったら続かずにのまれたり。結局、三時間程度で全てなくなってしまった。こうなると普段であれば、画面に出ているキャラクターが全て憎くなる。しかし、今日は人の金で楽しんだ。悔しさはあれど、そこまでではない。
自分の金で続けて打とうかと悩んだが、一応仕事なんだと自制して店をでた。その足で事務所へ向かう。
「どうでした?」
打った台の話をするとえらい食いついてきた。
「お、それをやりましたか!私も好きですよ!で、どうなりました?」
「いやー、出たりのまれたりを繰り返してって感じですね。続かなかったのでこの時間ですよ」
それから少しの間、仕事内容の報告というよりも、同じ趣味を持つ仲間として別の店や台の情報共有をしていた。
「また来週、別のお店行きませんか?今回と同じように⋯」
「行きます!」
恥ずかしながら、少々食い気味になってしまった。副業はダメだと思っていたのはどこへやら、だ。
そして、次の週は大勝してしまった。怖い人が出てくるんじゃないかと思うほどに勝った。仕事という事ではあるのだが、こういう事があるのは仕方ないだろう。
⋯⋯⋯今思えば、この大勝はマズかったと思う。
「おぉ!随分と勝ちましたねぇ!!勝った分は貴方の給料としてどうぞ!!」
「⋯へ??いいんですか?」
「もちろん!並んだのも貴方!打ってだしたのも貴方!それを回収するなんて野暮な事はしませんよ!!」
「じゃ、じゃあもらっておこうかな」
仕事として次の週も⋯と都合よくはいかず、今日はいつも行っている店に開店前からプライベートで並んでいる。仕事ではない。
⋯そういえば、こんなに毎週パチンコするなんて久しぶりだな。いくら好きな事とはいえ、金銭的に厳しいもんな。それなのに、二回もタダで打った上に日当をもらって、勝った分ももらっちゃったよ。あの人、怪しいなんて思って悪かったかなぁ。
怪しさは変わらず怪しいままなのに、好きな事と金に目が眩んでいた。
この日は出たりのまれたりを繰り返しつつ、食事休憩しつつ、閉店まで居座った。
「⋯⋯⋯疲れた。⋯⋯⋯でも、楽しかったな!!」
また次の週。また仕事ではなくプライベート。⋯大負けした。今までの稼ぎはなくなった。むしろ、それ以上に使ってしまった。完全にマイナスだ。
「すみませんねー。紹介できる店がないんですよー」
稼ぎたいのはもちろんだが、それ以上にパチンコがしたい。仕事としてないのなら仕方ない。それなら自分の金で打つまでだ。
店に行く途中、銀行口座の大半の金額を引き出した。
今日は勝つ。取り返す。大丈夫だ。
⋯結果、勝つことはなく負けた。全部のまれた。
ちくしょう!!どうなってんだよ!?あんなに勝てたのに!!⋯⋯残ってる金額もおろしてくるか?
あまりの悔しさに、口座から出金できるだけの金額を引き出して再チャレンジした。⋯⋯⋯が、大きく負ける事はしなかったが、プラスもなる事もなかった。
「すみませんねー。紹介できる店がないんですよー」
全く同じセリフを聞かされた。イライラするものの、ないのなら仕方ない。
⋯⋯⋯確か、キャッシング枠あったよな。
クレジットカードのキャッシングはなんて便利なんだろう。大勝した時と同じくらいの金額がすぐに出てきた。
よし、勝てばすぐ返せるんだ。大丈夫だ。副業だってそのうち出来るようになるだろ。
出たりのまれたり。⋯結果、ちょいプラスくらいだった。キャッシングしてる時点でマイナスなのだが、今日は負け越さなかっただけに気分がいい。
「いやー!今日は勝った!気分がいいねぇ!明日も行っちゃうか!」
明日は仕事があるけど⋯⋯⋯まぁ、勝てばいいだけだ。こないだの分、早く取り返さないといけないしな。
有給を使ってパチンコ。負けた。
別のカードでキャッシング。
有給を使ってパチンコ。プラマイゼロくらい。
有給を使ってパチンコ。ちょいプラス。
有給を使ってパチンコ。負けた。
別のカードでキャッシング。
有給を使ってパチンコ。負けた。
給料が入った。
有給を使ってパチンコ。負けた。
週末の休日だからパチンコ。負けた。
そろそろ副業はないだろうかと雑居ビルに向かってみると、空き地だった。
「な⋯んで⋯⋯?なくなってる?!」
雑草が生い茂っており、もともとビルがあったのかすら怪しいレベルだ。
⋯どうしたらいい?パチンコができなくなっちゃう。
ふと、「即日融資!」という広告が目に入り、即スマホで検索した。審査さえ通ればすぐに入金されるようだった。申し込まない手はない。
審査結果、一月の給料分の金額を借りる事ができた。
それを元手にパチンコ。負けた。
まともな生活ができてない気はするものの、パチンコが打ちたいが為に別の融資も申し込んだ。額は少ないけど、そこからも借りる事ができた。これで今度こそ勝たないとマズい。
⋯⋯⋯⋯⋯いや、勝たないと??⋯⋯⋯⋯そうじゃない、今いくら借りてる??⋯⋯返せるのか??⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「ま、次は勝てるから大丈夫だな」
そんな事はなく、パチンコ玉のようにどこまでも転がっていく⋯⋯⋯。




