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暦の館には、鉄のような血の匂いが充満していた。
シオは真っ青な顔で、震える手を必死に動かしながら止血を試みる。
「どうしよう……アタシ、こんな重症の看病なんて……!
潮、早く……早くみんなを連れてきて……!」
客室のベッドには、小さな木っ葉妖怪が横たわっていた。
まだ幼子と変わらぬほどの体は赤に染まり、拭っても拭っても布はすぐに血を吸い黒ずんでいく。
「竜胆、早く……このままじゃ、この子……!」
その悲鳴のような声に応えるかのように、館の扉が勢いよく開いた。
「シオッ!!」
「どこです!?」
イヴェールの焦りを含んだ低い声と、竜胆の張り詰めた叫びが重なる。
シオははっと顔を上げ、一目散に駆け寄ってきた二人へ飛びついた。
「竜胆、イヴェール!どうしよう、血が止まんないんだ!
アタシじゃわかんなくてっ!」
涙声で訴えながら、二人の腕を掴んで客室へと引っ張っていく。
その小さな背中を見て、不謹慎ながら二人は胸をなで下ろした。
――混乱のあまり春星を追って飛び出していたらと思うと、ぞっとする。
だがシオは、潮の言葉を守り、この館で必死に踏みとどまっていた。
客室に入った竜胆は、ベッドの上の小さな体の妖をみてすぐに紅葉へ指示を飛ばした。
「紅葉、癒しを。
潮、大量の清潔な水を。」
すぐに潮は大量の水を準備し、紅葉も処置のために癒しの加護を発動させた。
イヴェールは、それを見届けるとまだ震えているシオをつれ、シオの自室へ向かった。
「イヴェール、あの子大丈夫かな・・・」
「竜胆がいるんだ。あいつは名医だぞ?
心配するな。」
シオをそっとソファに座らせ、抱きしめてやるイヴェール。
「春星が、飛び出して行ったってのは?」
「あの子が入ってきた時に、【遊郭が危険】って言ってたんだ。
それを聴いて、真っ青な顔で桜連れて出て行った・・・
ジョアンの姿も見えないし多分行ったんだと思う。」
青い顔で、その時の状況を話してくれるシオの背中を優しく撫でるイヴェール。
「わかった。遊郭か……おそらく、春が小さな頃育った場所だろう。
妖の遊郭。あそこは無季の中にある。無季を突っ切るやり方は春だけしかできん。
後を追うには、まずはあの妖が回復してからになる。」
難しい顔で心当たりがあるようなイヴェール。
「冬は、知ってるの? 春の育った場所のこと。」
「俺も詳しいわけじゃない。
混ざり者のあいつが、迫害から逃れた先で保護されたのが妖の遊郭だった。
詳しい話は、俺もわからん。俺と竜胆が知っているのは、守護者になってからのあいつだけだ。」
イヴェールの言葉に、シオは息を呑んだ。
――春星の過去。
四人の中で一番遅れて守護者となった自分は、あの頃の春星を知らない。
知っているのは、今ここにいる彼だけだ。
今代の守護者の最古参。最高硬度の結界を張れる冬の領域者。
そのイヴェールだけが、幼い頃の春星を知っている。
正確には、竜胆も全く知らないわけではなかった。
しかし、最もよく知るのは、やはりイヴェールだけなのだ。
春星に何が起きているのか、自分だけがまだ理解できないもどかしさがシオの胸を締め付けた。
春の章、第二話となります。
この妖、何者なのか、遊郭ってなんなのか
次回はそこに迫っていきます
竜胆の医術は、とても有名で貴族たちからも目をかけられるほどの名医だそうですよ。




