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忘れられないもの・リン

闇夜の街道の中、戦闘音が響いていた。

炎や雷が走り、夜の闇を切り裂くように照らし出す。


闇の中で激しく交錯するのは、四つの影。

三人と対峙しているのは、青い髪に血の気のないほど白い肌を持つ存在――青の蛮族の下っ端だった。

ぎらつく目だけが、不気味に光っている。


「ティッキー!下がれ!」


鋭い声に、ティッキーと呼ばれた少年は雷を纏いながら後退する。

金の瞳が稲光を反射して煌めいた。


「しつこいんだよね!」


短い髪の幼い少女――ローラが、ハスキーな声を響かせる。

その周囲には無数の氷が幻術で生み出され、次の瞬間、一斉に刃となって降り注いだ。


だが青族はそれを乱暴に振り払い、強烈な冷気を撒き散らした。


「きゃあっ!」

「うわっ!」


氷刃を操っていたローラも、後退していたティッキーも、容赦なく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


「ティッキー!ローラ!」


仲間の悲鳴に、銀髪の少女――リンが即座に反応する。

駆け抜けざまに三叉槍を振るい、雷を帯びた炎を奔らせた。


バチバチと迸る雷光、その後を追うように炎が広がり、夜を白々と照らし出す。

燃え盛る炎と雷の奔流は、青族の前に壁のように立ちはだかり、接近を許さない。


追撃のために氷を生み出した青族だったが、その氷は触れるそばからジュウジュウと音を立てて溶け落ち、力を失っていった。


「……ッ!」


焼かれ、融け落ちる光景に、青族の表情が歪む。

このままでは勝ち目がない――本能がそう告げていた。


恐怖に駆られた青族は闇に身を溶かし、あっさりと姿を消す。


「……逃げたか。」


仕留め損ねたことに苛立ちを覚えつつも、リンは燻る炎と雷を振り払い散らすと、吹き飛ばされた二人に駆け寄った。



吹き飛ばされたティッキーとローラに駆け寄ったリンは、槍を背に回してしゃがみ込む。


「大丈夫?」


「リン、オレは……っ、平気だ。けど……腕が……」

ティッキーは顔を歪め、利き腕を押さえた。地面に叩きつけられた衝撃で強く痛めたらしい。


「私は……ティッキーが庇ってくれたから。ちょっと足、捻っちゃっただけ……」

ローラも無理に笑ってみせるが、その脚は明らかに力が入っていなかった。


リンはすぐに腰のポーチを探り、緊急用の治療道具を取り出す。

布や薬草、簡易固定具――冒険者らしい手際で応急処置を始めた。


「ローラ、足出して。ティッキーはこの棒で腕を固定して。……いい?絶対に無理はしないで。」


淡々としながらも温かみのある声に、二人は素直に従った。

リンの指は迷いなく動き、ローラの足を包帯で固定し、ティッキーの腕を即席の副木で固めていく。


「さすがリン。こんな時でも落ち着いてる……」

ローラが感心したように呟けば、ティッキーも苦笑いを浮かべた。

「やっぱりS級は違うな……」


「これでも一応、S級冒険者だからね。治療くらいはできるよ。」

軽く笑い返すリンの額には、それでも僅かに汗が滲んでいた。


処置を終えると、リンはローラの背に回り、軽々と背負い上げる。

「とりあえず、トトが言ってた隠れ家まで行こう。ここに長居は危険だから。」


「……オレは歩ける。行こう。」

痛みに顔を歪めながらも、ティッキーは雷を纏わせたまま立ち上がる。


リンはすぐに街道脇の森へと進みながら、念入りに痕跡消しの魔術を重ねていった。

足跡も気配も消し去り、森の奥へ奥へ――。


やがて現れたのは、人気のない古びた小屋だった。

一見すればただの打ち捨てられた家に見えるが、リンは迷わず腰の直刀を抜き放ち、床へ突き立てる。

刃が僅かに動いた瞬間、木の床に隠し扉が開き、地下への入口が現れた。


「急ごう。」


三人は中へと降り、長い階段を下りていく。

やがて地下の広間が広がり、複数の影が振り返った。


「リン! 無事に帰ってきたのね!」


声を上げて駆け寄ったのは、梟の鳥獣人の女性――トトだった。

柔らかな羽毛に包まれた姿は、母のような優しさを滲ませている。


「トト、ただいま。ティッキーもローラも、ちょっと怪我したけど無事だよ。」


リンの言葉に、トトは二人を抱き寄せて安堵の声を漏らした。

「……よかった。本当に、よかったわ!」


後ろから現れたのは青髪の女性、魔術師のアオ。

手には杖を携え、鋭い視線でリンを見つめる。

「周辺は異常なし。けど……青族は?」


「逃げられた。」

リンが答えると、アオは眉を顰め、悔しげに息を吐いた。

「やっぱり下っ端は足が速いわね。」


奥では、人魚のラナやシルバたちが「おかえり!」と声を上げ、駆け寄ってくる。

リンはみんなの頭をぽんぽんと叩いてから、仲間へと告げた。


「ティッキーとローラはしばらく休ませて。大きな戦闘は、私とアオが引き受けるから大丈夫。」


「ありがとう。……男たちには周囲の警戒を任せるわ。次の動きは私が決める。」

トトはそう答えつつ、名残惜しげにリンを抱きしめ直した。


「安心して。来る途中でも痕跡消しはかけてきたから。」

リンは柔らかく笑って、アオへ振り向く。

「アオ、行こう。今回は任務が詰まってるでしょ?」


「ええ。……転移陣で一気に戻るわ。」


アオが魔術書を開き、詠唱を唱えると、床に魔法陣が広がった。

「じゃあね、トト。また来るよ。何かあったらこれを使って。」


リンはポーチから通信の魔具を取り出し、トトへ放る。

トトがそれを受け取った瞬間、光に包まれ、リンとアオの姿は掻き消えた。





少しの浮遊感の後、リンとアオはギルドの前に帰還した。

まだ夜の名残が濃い街並みの中、灯りのついたギルドの窓からは人の気配が漏れていた。


「報告書はアオ、よろしく。」

「は!?ちょっと、リン!アンタたまにはやんなさいよって、もう居ない!!!!」


アオが振り返った時には、もうリンの姿はなかった。

「……あんの自由人め!!!」

青髪の魔術師は深くため息を吐き、仕方なくギルドの中へ足を向けた。




「ただいま。」

リンは、ギルドと同じ区画にあるセカンドハウスへ帰ってきた。

暖かな木造の扉を開けると、すぐに駆け寄ってくる足音が響いた。


「リン!おかえり!」

「今回はちょっと長めの任務だったね!」


赤髪のシオと桜色の春星が、ほぼ同時に飛び込んできた。

リンは「疲れたー」と三叉槍を投げ出し、慌てて春星がそれを受け止める。


「ちょ、リン!これ武器庫にしまっとくの?」

「あー、いや。部屋まで持ってってー。お腹すいた!!」


シオが笑って肩をすくめ、「今日の料理当番は冬だよ!」と声を弾ませた。

「冬の手料理?珍しいじゃん。絶対美味しいやつじゃん!」

嬉しそうに目を輝かせながら、リンはリビングへ駆け込んでいく。




「帰ってきたか。おかえり、リン。」

浅葱色の長い髪を後ろで束ねた大柄な男――冬の守護者イヴェールが、鍋をテーブルへ置いたところだった。

漂うスープの香りに、リンの表情がぱっと明るくなる。


「ただいま!あれ?竜胆は?」

「いる。……当直明けでまだ寝てるから、これから呼びに行くところだ。」


リンは即座に「私が行く!」と駆け出し、階段を登って竜胆の部屋へ向かった。



竜胆の部屋。暗い室内のベッドに忍び寄り――


「りーんd……あああああっ!!」


布団をめくった瞬間、不気味な人形が鎮座していた。

心臓が止まりそうになるリンの背に、聞き慣れた声がかかる。


「ふふふ、お帰りなさいリン。ずいぶん情熱的な起こし方ですねぇ?」


竜胆はすでに起きていて、クスクス笑いながら立っていた。


「……竜胆!起きてたの!?」

「えぇ。部屋に来る足音でわかりましたよ。残念でしたねぇ?」


にやりと意地悪く笑い、リンの頭をわしゃわしゃ撫でる竜胆。

返り討ちに遭ったリンは「あーもう!ダメかー!」と肩を落とした。


――こうしてまた一人、「竜胆いたずらチャレンジ」に失敗したのであった。




その夜も、セカンドハウスの食卓は笑い声に包まれていた。

戦いの疲れを忘れるほどの、暖かな日常。

今日もリンは、仲間たちと共にその時間を享受するのだった。




リンの紹介話でした。

リンは、以前はちゃんと報告書を書いていましたが、とんでもなく自由なためまともな形をしておらず

結局職員が聞き取りをして書き直していました。


アオと組んで以降は、アオに報告書は丸投げされていますが

ギルド的には仕事が少なくなったのでニコニコです。



裏話ですが、未成年組の竜胆への悪戯チャレンジ

いまだに誰も成功していないとか・・・。



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