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冬の領域者・イヴェール

真っ白な雪が降り積もる、極寒の氷に包まれた冬の領域。

吐息は全て白くなり、凍てつく雪が体温を奪う。


その雪原の広がる中、巨大な氷山の頂に浅葱色の長い髪を靡かせ、顔に傷を持つ男が立っていた。


「鬱陶しい奴らだな。氷像になりに集まるとは。」


露草色の鋭い瞳を細め、眼下に群がる瘴気を一振りで瞬く間に凍りつかせていく。

その手には、真っ白な刀身を持つ細剣――神器・白皙の剣が握られていた。


「俺の領域を荒らしに来て、無事に帰れると思うなよ。」


剣を振るう度に群れは氷像と化し、脆い氷のように砕け消えていく。

だが崩れた氷像を埋めるように、更なる瘴気が湧き上がっていた。


「イヴェール、あれは瘴気の末端に過ぎないわ。本体はうまく隠されている。一体どうするの?」


隣に現れたのは、真っ白な髪と衣を纏う美女――白樺の精霊・ティトラ。


「わかっている。」イヴェールは低く吐く。

「春星の槍の火力も、竜胆やシオのような眼も、俺にはない。だが――」


白皙の剣を突き立て、氷山に力を流し込む。


バキンバキンと大きな音を立て、氷山が砕け散る。

一瞬の静寂の後――地鳴りと共に、白銀の津波が視界を覆った。

退魔の力を宿した雪崩は、触れた瘴気を瞬時に凍りつかせ、砕き、押し潰していく。

群れをなしていた影は逃げ場もなく、次々と飲み込まれ、消えていった。


やがて、白銀の奔流の中から這い出すように、ひときわ濃い影が姿を現した。

退魔の力に焼かれ、爛れただれた瘴気の本体。

粘度の高い黒い塊がジュウジュウと音を立て、腐臭を撒き散らしながら蠢いている。


「あれが、本体ね。」


退魔の力で爛れ、なおも動く醜悪さにティトラの美しい顔も嫌悪感を露わにした。


「流石に、小細工程度ではだめか。」


イヴェールは白皙の剣を握り直し、氷山の崖から迷いなく飛んだ。

凍てつく風を裂き、白銀の外套のような髪が舞う。


「ちょっとイヴェール!?危ないんだから!」

ティトラが慌てて力を解き放ち、空中に次々と氷の足場を生み出す。


イヴェールはその足場を踏み砕くように飛び移りながら、白皙の剣に冷気を収束させていく。

刀身は青白い光を帯び、やがて氷の結晶のように透き通っていった。

吐息すら凍りつかせる冷気が広がり、瘴気の塊が本能的に怯んで後ずさる。


「俺の結界をすり抜けてきたクソ度胸は褒めてやろう。

……だがな。」


踏み込む一瞬、冷気が爆ぜ、剣身は完全な透明へと変わる。

イヴェールの怒声が轟いた。


「春の飯を邪魔した――その罪は重いぞ。

くたばれ、クソが。」


透明な一閃が夜空を裂き、瘴気の本体を真っ二つに断ち切った。

斬られた断面は瞬時に凍り、ヒビが走ると同時に砕け散り、黒い残滓は風雪に呑まれて消えていった。


「危ないじゃない!あとで春星たちに言いつけますからね!」

慌てるティトラをよそに、イヴェールはめんどくさそうに肩を竦めた。


「わかったわかった。……一人で苛ついてたんだ。発散くらいさせろ。」


呆れつつも安堵したティトラは、ため息をひとつつき、白樺の枝先に積もった雪を払った。

「ほんとに……みんなの前では良き父親や兄貴分なのに、この不器用さはどうにかならないのかしら。」

「ガキどもに情けない姿見せられるか。」

そっけなく吐き捨て、イヴェールは剣を消すと雪原を踏みしめ歩き出した。




「ただいま。」


暖かな木の温もりに包まれたセカンドハウスの扉を開けると、二つの影が飛び込んできた。


「冬!おかえり!」

「おかえりなさい、寒かったよね。すぐスープ温め直すね!」


春星とシオを片腕で抱き上げるイヴェール。

がっしりとした体に抱き上げられる特別な時間に、二人は頬を赤らめながらも嬉しそうに笑った。


「リンは逃れ者の里に行ってる!竜胆は急患だって!」

「そうか……なら、腹も減ったし食うとしよう。」


三人でリビングに入ると、布を広げて唸っているマナツの姿があった。


「もうすぐ新作発表なのよ!でも全然いい案が浮かばなくって……そうだ、冬!あんたモデルになりなさいよ!」


「断る。腹が減ったし――」


「お願い!スランプで煮詰まってんのよぉ!」

必死に食い下がるマナツ。


そこへクスクス笑うティトラが加わった。

「あら、いいじゃない。春のご飯が温まるまで少しかかるし、マナツに協力してあげなさいな。」


「……春の飯ができるまでだからな。」


観念したイヴェールに、シオは髪を編み始め、マナツは布を当ててイメージを膨らませていく。

本当に嫌なら振り払うことも、威圧することもできるのに、決してしない冬の不器用な優しさ。

それこそが、皆が慕ってやまない理由だった。


「ほんと、歳下には甘いわね。」ティトラが笑い、春星は台所へ走っていった。


――極寒の雪と氷に閉ざされた冬の領域。

その厳しさを忘れてしまうほどの暖かな日常を、今日も冬の守護者は享受するのだった。


冬の領域の守護者・イヴェールでした。


彼は元軍人で、とある事件により退役しています。

元は少将まで上り詰めた天才でした。

沢山の兄弟を抱えているため、年下にはとても優しいと評判です。



彼の黒歴史も、竜胆は知っているとか・・・


みなさん投稿できてると思いできておらず申し訳ございません。

次回より本編が始まります

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