銃の師
「……ん…んん…?…」
悠帆が目を覚ますと、さっきメイコ達がいた医務室のベットに横たわっていた。頬に絆創膏が貼ってあった。おそらく、地面に倒れ込んだときに擦りむいたのだろう。
「お!悠帆!起きたか!」
目を開けると、横にヘリウムが座っていた。悠帆が目を覚まして、安堵していた。
「えっと…気絶してたんですよね…?」
「そうやで、政府の奴らにやられてたんや」
「ごめんなさい…何もできなくて…」
「いやいや、お前は十分、いや十二分に役目を果たしてるやろ。俺が言った、女の子二人守るっ中役目を」
ヘリウムが優しく微笑みながらそういった。
「いいんですかね…敵を前にして、銃を構えても怖くて手が震えてましたし…こんな強くない…覚醒者でもない奴がこんなところにいていいんでしょうか?…」
「かまへんかまへん、あんなやつを目の前にして、銃を構えられてるんやから、それは他よりも十分強いそれに…」
「なんですか…?」
「持論やけど、俺が思うに人の強さとは、単に銃がよく当たるだの、刀を振るう速度が他よりも速いだの、そんなんやない。俺が思うに真の強い人間とは『どんだけ意思が強いか』や。自分が果たしたいと思ってる物事に全力で向かってるやつは、ただ自分の力や覚醒能力しか見てないやつより、何十倍、何百倍と強いんや」
ヘリウムは悠帆に助言するように優しく言った。
「なるほど…」
「つまるところ、銃のうまさなんて二の次、三の次や。悠帆、お前は十分、十二分に強い人なんや。だから自信を持って行け、お前が世界を変えるかもしれんのやから」
「…ありがとうございます…!」
ヘリウムの言葉に、悠帆は安心したような顔をした。
ーその夜ー
ダン!
「あー!今日は散々でした!」
キセノンがカウンターにグラスを強く置いてそういった。
「おい割れるぞ…」
悠帆はメイコとキセノンの3人で表のバーで夕食をとっていた。
「あの…今日のあれは何だったんですか…?」
メイコが昼の出来事について二人に聞いた。
「あれは魔女狩りって呼ばれる、政府が覚醒者を拘束するための政策です。私が能力者だったばかりにこんなことになってしまいました。すみませんでした」
「うん、キセノン、説明してくれたのはありがたいけど情報が渋滞してよくわからい…魔女狩りとは…?」
メイコはキセノンに対してそういった。
「魔女狩りってのは今言った通り、覚醒者を逮捕するために作られた政策です。昼に覚醒はした後が大変って言ったのはそういうことです」
「あ、すっかり忘れてた…そういうことだったんですね…あと、さっき、キセノンとオレンジ髪の…タイタンさんでしたっけ…?の片目が燃えてたのは何だったんですか…?」
「あれは覚醒能力を使ってる時に現れる見た目の変化だ。目の周りに炎的な何かが現れ、瞳の中に能力名の漢字二文字が浮かび上がる。これが能力を使っている目印だ」
「なるほど…ん?ならキセノンも覚醒者なんですか?」
メイコはキセノンに訊いた。
「そうですよ。私は『気乗者』。触れている物体に気をまとわせて、当たったときの衝撃を増幅させたり、ぶっ飛ばす速度を上げたりすることができる…まぁなんとも、抽象的な能力ですね」
「なるほど…そういえば、あの人達ってなんなんですか?あの…偶冥さんでしたっけ?」
「あぁ、あの人たちは世界政府の王位九星っていう奴らの一人…まぁ、いわゆる政府のお偉いさんですね」
「お偉いさん…」
「そして…世界政府『最強』ですね」
「最強…?」
「本人の能力もさながら、素の刀の実力もすごい。極めつけは持っている能力刀を完ぺきに扱いこなしている…最強の名にふさわしい奴です」
「能力刀…?」
メイコが不思議そうに訊いた。
「あ、そういえば説明してなかったな。能力は極稀に物体にも表れることがある。かなり珍しいことではあるが、あいつが持ってるのは…たぶん六異刀の1つか?」
「そうですね。あれは六異刀です。あ、六異刀ってのはこの世界に六本存在する能力持ちの刀です。基本的に二本づつペアになってて、対になるような名前がついてます。偶冥が持っている刀は『円環』って呼ばれている刀です」
「なるほど、そんな物があるんですね…」
キセノンはメイコに向かって説明した。キセノンはもう訊かれる前に答えるようになってしまっていた。
ーネオス大陸 ゼェロ地域
世界政府本部 オリンポスー
「偶冥さん、ほんとにあの子、連れてこなくてよかったんですか?また、ジュピターさんに怒られるじゃないですか?」
「大丈夫だろ、あいつも独龍大陸での魔女狩りの難しさは分かっているはずだ。それに、今回はあの最悪最強のペアが現れたのが運の尽きだった。あいつらが俺らと本気でぶつかったらそれこそ、あの辺りはなくなっていた。賢明な判断だ」
「ふーん、なるほど…あの二人ってそんな強い人たちなんですか?」
「そうだぞ。ちょうどいい、今から『世界情報神』に行くから、そこであの2人について教えてやる」
「えぇ~あそこ行くんですか〜あの局がある場所、遠いから行きたくないんですけど…」
「戯言を言うな…今から言いに行くことは世界の根幹にかかわる可能性があるんだぞ。お前も、あの娘の姿は見たな?」
「当たり前じゃないですか。最初見た時、驚きましたよ。あれってそういうことなんですかね…?」
「多分な。それを伝えに行く必要がある。だから行くぞ」
「へ〜い…」
タイタンは気のない返事をしながら偶冥について行った。
「そういえば悠帆、あの後、どうなったのですか?偶冥に吹き飛ばされたあと、意識失ってしまって…悠帆は意識保ってましたか?」 「あぁ…なんか…二人の女性が来て、キセノンを連れてこうとした偶冥を止めて…」
「マフタァ〜!!」
悠帆の話は、カウンターの少し離れたところに座っていた酩酊している女性の大声によって遮られた。
「オイスキーもう一杯!」
「ウイスキーですよ。しかも、もうかなりお酒が回っておられるようなのでそろそろ控えたほうが良いのでは?」
「え〜!?マスタァのケチ!」
その女性は酔っており、舌が回ってしなかった。
その女性を見て、悠帆に衝撃が走った。なんてったって、その女性はさっき偶冥たちを止めた、拳銃を持っていたショートの女性だったからだ。しかし昼の時の姿とは懸け離れており、悠帆が驚くのも無理はなかった。
「あぁ…なんだいつものことか…」
キセノンが女性を見て、そういった。
「あの人は…?」
「あの人は三神クミさん。ここのバーの常連さん。そして…」
パァン!
キセノンがそういかけた時、店内に一発の銃声が響いた。
「全員手を挙げろ!金を出せ!」
強盗だ。さすが治安最悪の大陸、一般人でもしっかり銃を携帯している。大柄の男がマスターに向かって銃を構えている。日本生まれのメイコは怯えて机の下に隠れた。悠帆も男の言うことに従って手を挙げていた。しかしキセノンは余裕の表情でジンジャーエールを飲んでいた。
「ちょ!キセノン、撃たれるぞ!…」
「まぁ今に見ててくださいよ」
悠帆が小声でキセノンへ言った。しかしキセノンはジンジャーエールを飲みながらそう言った。
「わぁ!〜おにぃ〜さんの銃かぁっこいい~」
三神さんが、後ろに立っていたその男の銃をおもむろに触りそう言った。
「なんだお前は!」
男は三神さんに銃を向けた。しかしもうそこには三神さんはいなかった。
「…!」
「気をつけて!」
三神さんが後ろから男に向けて言った。
「なんなんだよお前は!」
男が振り返り、三神さんへ銃を向け、トリガーを引いた。
カチィッ
しかしトリガーを引いても、弾は発射されなかった。マガジンが抜かれていた。
「!?」
「銃を不用意に触られると!安全装置をかけられたり!マガジンを抜かれたりするから!…」
三神さんは振り返った男の鳩尾に3、4発ほど、強烈なパンチを繰り出した。
「かは!…」
「気をつけること!」
三神さんの強烈なパンチにより、男は気絶した。三神さんは気絶した男を引きずりながら店外へ追い出した。
「キセノン…あの人は…」
「あの人はただの常連客じゃありません。この大陸ではその名を知らない人はいない。伝説で最強の殺し屋。戦闘力は、偶冥とも対等に戦えるほどの実力者。そして、半減軍契約者の中で最強」
「…?、もしかして君、昼の少年かい!?」
三神さんは悠帆の存在に気づいて、そう言った。
「え、あ、はい…」
悠帆は三神さんを見て、改めて少し驚いた。さっきまで酒に溺れて、呂律も回っていなかったのに、今は酒に溺れているような感じは微塵も感じない、呂律もしっかり回っていた。昼の時の三神さん、そのままだった。
「キセノン、この子は誰だい?」
「壁ノ実悠帆。今日めでたく協力者の一人となった人です」
「おお!そうなのか!君!あの状況で偶冥に向かって銃を、向けれるなんてすごい度胸じゃないか!」
「あ…ありがとうございます…でも…銃は今日初めて触って…構えた時、手も震えてましたし…」
「ほう…今日初めて触ったのか…これは…期待でき人材だ…私の直感がそう言っている」
三神さんはニアリと笑った。
「君、いや、壁ノ実悠帆くん!私の下で銃を習わないか?」
「え!?」
「悪いようにはしない!銃の上達も保証する!どうだ?」
「…わかりました。お願いします」
悠帆は少し悩んだが、、三神さんを信じ、了承した。
「よろしく、壁ノ実悠帆くん」