覚醒者
「…」
メイコは街を眺めながら唖然としていた。
「大丈夫ですか?」
「あ!はい、」
キセノンが声をかけると、メイコはハッとしたようにキセノンを見た。
「いや…何もかもが新鮮…というか…圧倒されるんですよ…」
「まぁ、そりゃそうですよね。いきなり知らない世界の街を見たら、びっくりしますわ」
「ん〜というより、私が想像していた異世界とは違うんですよ…」
「つまりどういうことだ?」
「なんというか…私の世界での最も一般的な 異世界の想像図は、技術とかはこんなに進んでなくて、もっと雄大な大自然が広がってて、科学ではなく、魔法っていう特殊な力が普及しているイメージなんです」
「へ〜、面白そうなところですね」
「この世界、なんか元の世界とあんま変わらなくてあんま楽しくないです…なんか特殊な力でもあればよかったんだけどなぁ…」
「あるぞ、特殊な力」
「…え?そうなんですか!」
さらっと言った悠帆の言葉に、メイコは目を見開いて驚いていた。
「覚醒者のことですね」
「覚醒者…?」
「覚醒者ってのは、特定の条件を満たした人に現れる特殊な力のことだ。特殊な力は、人によって異なるし、同じの能力の者は存在しないとされてる」
「特定の条件…?」
「まぁ…これは色々ありますけど、過去にあった例だと『背骨が折れる』とか、『両耳の鼓膜破る』とか『雷に撃たれる』とかの、結構痛々しいものばかりだよ…」
話していたキセノンは顔をしかめながらそう語った。
「覚醒するのって、大変そうですね…」
「メイコさん、それは違うよ、覚醒者が大変なのは覚醒したあとなんですよ…」
「…?どういうことですか…?」
メイコはよくわからずに、二人に聞き返した。
「それはな…」
「あ!!しまった!今日木曜日だからお店2時までしかやってないんでした!今は…1時半!二人とも!走りますよ!」
悠帆がそう言いかけたとき、キセノンがそう叫んだ。キセノンの声で悠帆の話は遮られてしまった。3人は走ってお店へ向かった。
「いや~、お店の人が買い物終わるまで開けといてあげるから、ゆっくり買い物してね。って言ってくれたので助かりましたね。お言葉に甘えてゆっくり買い物しましょう〜」
着いたのは街のドラッグストア。個人経営のお店みたいで、店員さんも1人しかいなかった。店内は外とは違って静かで、買い物しやすそうだった。
「いろんな商品がありますねぇ」
「そうですよ〜、たぶん、元いた世界と売ってるものはだいたい一緒だと思いますよ。スラムがスラムなんで、衛生状態が悪いかもしれないですけど、まぁ気にしないでください」
「へ…へぇー…」
メイコは走ってきて疲れたからか、さっきの会話で悠帆がいいかけていた事を訊くのを忘れていた。
「ええっと〜輪ゴムと〜ポリ袋と〜ゴキちゃんホイホイと〜文房具と〜エナドリの箱買い〜♪」
キセノンは楽しそうに鼻歌交じりに買い物を言っていた。すごく可愛い、やはり青髪の女の子は正義である。
「ちなみに金は足りるのか…?さっきからのやつ計算したらだいたい126ホルスト(126H)くらいありそうだけど…」
「あぁ、そこは大丈夫ですよ、トップがいくらでも使っていいカードをくれたんで☆」
「なんでそんなすごいカード持ってんだよ…」
「それはトップの権力ですよ」
キセノンは誇ったようにドヤ顔でそう言った。やっぱ可愛い。
「ホルスト…?」
「あぁ、ホルストってのは、世界政府が発行してる独龍大陸専用の紙幣だ」
「ほえぇ…世界政府がお金を発行してるんですね…」
「まぁ、世界政府ってくらいだから世界を管理してるのは当たり前だよな。大陸管理組織さんよ」
悠帆はキセノンを観ながらそういった。
「大陸管理組織なんてほぼ機能してないのと同義だよ。世界政府すら、あんまり組織構成を理解してないんですから。トップが潜入してもバレないのが何よりの証拠ですよ」
それを聞いてメイコは頭にハテナな浮かんだような顔をしていた。
「まぁ、メイコさんが理解に苦しんでるみたいなんで、この話はまた今度にしましょう。もっと分かりやすく説明しますので」
「あ…あリがとうございます…キセノンさん…」
「キセノンでいいですよ。年上に敬語使われるのはキライなので」
「そ…そうなんだ…」
「そもそも、新しいものを理解しようとするには時間がかかるものです。例えば、初めて読んだ小説、新しく始めたゲーム、初めて見た映画…創作物は、創造神である作者以外の人に内容を理解してもらうには時間がかかる。規模が膨大になればなるほど。そして、メイコさんが理解しようとしているのは、小説でも、ゲームでも、映画でもない。これから暮らす世界、そのものなんですから。だから、ゆっくり理解するのが、一番得策ですよ」
キセノンはメイコにそういった。それにメイコは、ウンウンと頷いた。
「メイコさんもなんか買います?」
「え!?いいの?」
「せっかくですしね、何がいいですか?」
「ん〜じゃあ、アイス買ってもらおうかな…?」
「わかりました。こっちがアイスコーナーです。どれがいいですか?」
「じ…じゃあこれで」
「わかりました。じゃあ会計士に行きましょう。」
そう言ってキセノンはレジへ向かった。
「おばちゃん今日もありがとうございま〜す〜」
「いいのよキセノンちゃん。また来てね〜。そっちの2人もまた来てね〜」
「はい、ありがとうー」
「あ…あリがとうございます!」
「さてと…帰ります…か…」
3人が店の外に出ると異様な状況だった。市民たちが1方向に走っていた。それもかなりの全力疾走な人もいた。お父さんは子供を抱えて、お母さんはベビーカーを捨てて、抱っこで走っていた。まるで、全員何かから逃げているようだった。
「何があったの!?」
「わかりません!こんな人が1方向に走ってることなんて、そうそうな…え…」
キセノンは人が走ってきた方向を見た。その時、キセノンは絶望したような顔をしていた。
「どうした!?」
悠帆もその方向を見た。その時とき、
「おい!」
その時、こちらにどすの利いた低い声叫び声が飛んできた。
「そこの青髪の娘!お前、覚醒者だな!」
見た方には2人の人が歩いていた。1人は薄い茶色髪の男。スーツ姿で腰には刀を携えていた。そして、片目を閉じており、目の周りがひび割れていた。今の叫び声の主でもあった。
もう1人はオレンジ髪のツインテールの女性だった。背が非常に高く、2メートルはありそうだった。巨人種みたいだ。背中には銃があった。ポンプアクション式のショットガンだ。そして、カップ麺を食べている。
そして、その2人の腕には腕章がついていた。そこにはこう書かれていた。『世界政府』
「なんでこのタイミングで来るですか…」
「このタイミングも何も、これは仕事の一環だから、仕方がないだろ…」
「お前は誰だ…?」
「キセノンちゃん、あの人たちは誰なの…?」
2人は、どうやら男達のことをしらないようだった。
「ん…どうやら俺達のことを知らない奴もいるみたいだな。しょうがないから自己紹介をしてやろう」
そう言って男は悠帆とメイコの方を見てそう言った。
「俺は世界政府の最高戦力『王位九星』の1人。"土星 偶冥"だ。よろしく。お前もやれ」
「え!?私もですか!?しょうがないですねぇ…」
女性は渋々自己紹介を始めた。
「始めまして。私のコードネームは"タイタン"。一様、この人のボディーガードやってまーす」
「王位…九星…!?」
「え…?なに…?どういうこと…?コードネーム…?」
「メイコさん、下がっていて」
「王位九星…聞いたことがある…半減軍で言うところの鬼凱子…世界政府の最強を集めた集団だ。世界政府の中枢にいる。まさに、世界を動かす奴らだ…」
「え…」
それを聞いたメイコは顔がこわばった。
「さて…じゃあそこの青髪の娘。済まないがついてこい」
「…断る!…」
キセノンは偶冥の要求を強く拒否した。
「…そうか…極力、刀は抜きたくなかったが…仕方ない…」
そう言って、偶冥は刀を抜きながら近づいてきた。
「来るな…!」
悠帆は偶冥に対してそう叫んだ。その手には、スズさんから受け取った拳銃が握られていた。