『魔女狩りおよび能力者に関する法律および罰則』
「この本です」
ウンブリエルは明らかに重たい本を本棚から抜き出した。古い本の匂いが漂い、本棚の奥から少量のほこりが舞ってきた。
「なんかほこりっぽくないですか…?」
悠帆がそう呟く。
「い、いやぁ…こ、この図書館は広いので掃除は行き届きにくいんですよぉ…」
ウンブリエルは、世界に汗を流しながら腰抜けのような感じでそういった。どうやら図星だったようだ。
「ではお二人さん、この本を見てみてください」
ウンブリエルから悠帆が本を受け取る。ずっしりとした本の重さが、一気に腕にかかる。2つの意味で、悠帆にとってとても重たい。
表紙には金の文字で、『魔女狩りおよび能力者に関する法律および罰則』と書いてある。
その下に同じような文字で、『ウンブリエル著』と書いている。
「これ…ウンブリエルさんが書いたんですか?」
「ええっと、合ってますけど違います。私のこの"ウンブリエル"という名はコードネームです。このコードネームは使い回されるんですよ。この本を書いたウンブリエルさんは私ではなく、2つ前のウンブリエルさんだと聞いています」
「なるほど…コードネームってそうなんですか…」
「パラスさんも、確か前に違う人のコードネームでしたよね?」
「ええそうですね。私の"パラス"というコードネームも、それなりに最近もらったんですけど、かつてのパラスさんは持病で仕事ができない状況になってしまったそうで仕事を私に引き継いで、隠居生活をしてるそうです」
〘パラジウムのパラスって、意外と最近もらったものなんやな、知らんかったわ〙
なんでトップ代理のあなたが知らないんだよとか思いながら、ヘリウムをスルーして本を凝視していた。本の表紙は革か何かで作られており、見た目からも重厚感や、堅苦しさが伝わってくる。
「で、話を戻しますね。その本には魔女狩りに付いてが書かれています。目次を開いて、さっき言っていたものを調べてみてください」
悠帆はゴクリとツバを飲み込み、恐る恐る厚い表紙を開く。
長々と書かれた目次を読むと、
〚P218 魔女狩りを行う目的〛
そのページまでパラパラとめくる。途中、行き過ぎて、ペラペラとページを戻る。そして、218ページを開く。そしてその内容を吟味する。
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【魔女狩りを行う目的】
①能力者による犯罪などの抑制
我々世界政府は、いかなる時でも世界の秩序を守らなくてはいけない。
覚醒能力者によって政府、および他の組織への能力の行使による暴動、反乱、および革命などを防ぐのを目的に行う。
②強力な能力者の軍事的な利用
我々世界政府は、いかなる時でも市民への威厳を保てなくてはいけない。
我々政府の軍である世界狼の優秀な戦力、軍人を選抜するのを目的に行う。
①で危惧している事柄がもし起きた場合、我々政府は世界狼による鎮圧を行う。その際、我々政府側は能力者の行使は厭わない。
③高度な技術への利用
我々世界政府は、いかなる時でも世界最高水準の技術を保有しなくてはならない。
能力者による高度な技術を保有するため、能力者を選出するのを目的に行う。
218
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本を見て、悠帆は真剣に考えるような眼差しで本を見つめ続ける。
「と、言うわけで、魔女狩りは、技術の徴収も目的の一つということが先ほどの答えです」
「なるほど…ありがとうございます」
パラジウムがそういう間にも、悠帆は本を見つめている。
「では、悠帆さん、本をしまうのでお返しください」
そう言われ、無言でウンブリエルへ本を手渡す。
「ではお二人さん、次の仕事の説明をします。ついてきてください」
そう言って歩き出す。
(能力の行使による鎮圧…か…)
悠帆が心の中でそう呟く。