気を引き締め
2週今後ー
9月下旬、時刻はAM7:32。外気温度−13℃、南緯60度付近のここでは、気温はマイナスを下回り、雪が吹雪いていた。
年中通して平均30℃の独龍大陸との気温差で風邪をひいてもおかしくない。
「…寒…」
寝起きのメイコが掛け布団をたたみながら呟く。潜水艦のスクリュー音が骨を伝って聞こえてくる。とても静かな朝とは言えないが、同室のネオンの寝息は、はっきりと聞こえる。
ピィーー
さっき沸かした薬缶の音が新たに響く。ストーブの電源を入れてから、ティーバックをマグカップにセットし、静かに注ぎ込む。蓋をし、スマホのタイマーをセットする。
ピピピピ、ピピピッ…
タイマーを切り、冷蔵庫から牛乳を取り出す。蓋を開き、一気に広がる茶葉の匂いを遮るように注ぎこむ。たちまち牛乳は混ざり、ほんの一瞬だけ、カップの中に入る美しさが広がる。
「おいしい…」
紅茶を飲みながらスマホをいじる。まるで優等生JKだ。寝間着を脱ぎ、寒帯地域用の世界政府の制服を着る。
着替え終えると、ネオンが起き上がる。しかし起き上がるだけで、頭は回っていないようだ。
「ネオンちゃんおはよ、」
「うん…メイコちゃんおはよ…」
「ネオンちゃんの分も紅茶入れてあげるね。顔洗っておいで」
「はーい…」
寝起きでフラフラしながら洗面台に向かうネオンを横目に、再びコンロに火をつけ、残っていたお湯を再び温める。
「今日見た夢でね…キセノンちゃんが実験に失敗して…頭が…ボンッて…w」
「フフフwアフロになってるキセノンちゃん想像すると面白いねw」
「だねw…」
いつしかこの二人は普通に話せるようになっていた。朝食を取りながら、温かい会話をしながらも、二人は気を引き締めていた。
時刻、PM2:53
ガチャ…キィンー…
「よし…三上さんがくれた銃は大丈夫だな…次は…スズさんがくれたのを…」
潜水艦内の武器管理室、火薬、潤滑剤、オイル、真鍮、船の中特有のよくわからないあの匂い、いろいろな匂いが混じり合い、あまり好ましい匂いではなかった。
その部屋にて、悠帆は銃の整備をしていた。ブラシを銃身に突っ込み、中にあるススを掻き出す。
ガンオイルを銃身に十分に吹き付け、、再度ブラシを突っ込む。
何度かそれを繰り返したのち、、棒の先端に布を巻き付けたもので銃身内の汚れを取る。
実に大変な作業だ、とてもまねしたくない。
「悠帆さん、お疲れ様です」
「ん?あぁ、パラジウムさんですか。お疲れ様です」
「最終点検と言ったところですか、」
「はいそうです。自分の武器はしっかりせいびしておかないとですしね」
「まぁそうですね、私も銃を扱いますけど、毎回、潜入の前には気を引き締めるのも兼ねて、やっています」
「パラジウムさんも銃を?」
「ええ、まぁ、私の場合は拳銃ではなく小型のマシンガンですけどね」
「いいですよね、もう整備はしたんですか?」
「ええ、先ほど、終えました」
パラジウムは三神
さんからもらった銃を持ち、構える。もちろんまだ弾薬は入っていない。
「この銃相当いい銃ですね、これはどこで?」
「銃の師匠にもらいました」
「師匠?」
「三神クミさんっていう人です」
「…あの伝説の殺し屋の?」
「…そんな有名なんですか?」
「ええ、あの人は、すごい人だと聞いたことがあります。だとすると、あなたへの期待も高まりますね」
「こりゃぁ…困りましたね…」
そんな愉快な銃トークをしながらも、2人は、気を引き締めていた。
PM7:11
外温度−17℃。外の寒さはより強くなっていた。南緯:63度 53分 39.2974秒。そこで潜水艦のスクリューは止まった。到着だ。
「みなさん、到着です」
外に出る、寒帯地域用の制服を着ているが、やはり寒い。けれど、寒さよりも3人は、別のことに圧倒されていた。
「…」
「大き…すぎない…?」
「す…すごい…」
そこにはとてつもないものがあった。船着き場から見えるそれは、縦には100メートルはあるだろうか?横には、吹雪と夜の暗さのせいか分からないが、永遠と続いているように見える。たぶん、横には軽く数キロほどはあると思う。奥の方には、200メートルを超えるほどの円柱状のビルのようになっているところがある。
「これが…」
「これが、世界政府巨大情報庫こと、ヴァルハラです。」