猫
悠帆が独立大陸にきて、4ヶ月が過ぎた。この土地にも、人にも、ある程度慣れたようだった。
「ヘリウムさん…俺とメイコを呼び出すって、なんだろ?」
そう言いながら、本部のあるバーへ向かうために悠帆は、裏路地を歩いていた。
「ニャ〜…」
「ん?」
ふと、右へ続く道から猫の鳴き声がした。
「猫?」
進んでその道の方を見ると一匹のネズミ色をした猫が換気扇の上で丸まっていた。。
「お、かわいい…」
意外にも、動物が好きな悠帆は猫を撫でようと近づいていった。
「…!シャアアァァァァ!!!」
「!?」
悠帆が近づくと猫は換気扇から飛び降り、すごい威嚇を始めた。音で言ったらほぼ蛇と変わんなかった。
「え!?どうした!?」
悠帆が威嚇されると、出していた手を思いっきり引っかかれ、傷ができ、出血してしまった。
「痛ったぁぁ!!」
悠帆はすごく驚き、痛がりながらも、持っていた白いハンカチですぐさま止血した。三神さんに教えられた、些細なことでさえ、もうすでに日常に溶け込んでいるようだ。
「えぇ…俺ってそんな嫌われてる…?お~い、猫よ〜少し暗い撫でさしてくれよ…三神さんの部屋の料理以外な家事ほとんど俺がやってるんだからたまには癒しをくれよ…」
「シャアアアァァァァァ!!!!!」
そう言いながら、右に近づくが、威嚇はますます強くなった。
「だめだ…嫌われすぎてる…どうすれば…諦めるしかないかなぁ…」
「シャアア…にゃ?」
「うん?どうした…?」
猫威嚇をやめて、悠帆の右側の足元を見つめていた。
「ん?…うわ!びっくりした!」
「あっ!…ご…ごめんなさい…」
そこには猫じゃらしを持っていたしゃがんでいるネオンがいた。
「いつの間に…」
「いや…猫の声がしたと思ってね…外に出てきたらね…なんかすごい…シャーシャーって言ってたから…見に来たの…」
「あぁ…なるほど…」
「あのね…悠帆君…ねこにゃんはね…おんなじね…高さでお目目を合わせてあげるとね…優しく近づい来てくれるんだよ…」
そう言いながらネオンは猫じゃらしをフリフリした。する猫はさっきとは打って変わって猫じゃらしに気を取られゴロニャーしていた。
「よしよ〜し、いい子だねぇ」
「すごいな、今なら俺も…」
悠帆が猫を撫でようとしたが、猫は猫じゃらしに夢中で撫でさせてくれなかった。
「あぁ…」
「ねこにゃん、ちょっとごめんね。よっこいしょ…」
ネオンは猫を持ち上げて猫を悠帆の方に向けた。
「ほら…悠帆君…撫でていいよ…」
「あ、ありがとうね」
そう言ってついに悠帆は猫をもふもふすることができた。
「かわいい…」
「良かったね…」
「ネオンちゃん!ここにいたんかいな…心配したで…」
「あ!ヘリウムさん…ご、ごめんなさい…」
「ん…?猫やないの!可愛いなぁ〜」
やってきたヘリウムは猫を一目見ると急に猫の方に近づいて行った。
「ニャァ〜」
「ん?あれ…新しい子…ですね…」
建物の亀裂が入って穴が空いていた場所からもう一匹、猫が出てきた。しかも子猫だ。
「ゴロニヤァ〜」
その子猫はヘリウムの足にすがってズボンをひっかいた。
「おぉ、こらこら。ズボンがぼろぼろになるやろ。やめなさい」
ヘリウムは笑いながらそういい、猫を撫でた。
「ごめんなさい…呼ばれていたのにこんな事していて…」
「ええねんで。ほら、猫、かわいいやろ。俺は、こういう、仕事に縛られない平穏な日々も大事だと思うんや、癒しとか、心のよりどころがなければ、人間生きていけんのやで」
「なるほど…」
「ヘリウムさんは言うことは…相変わらずなんか深いですね…」
「さ、猫ちゃんども、早くお家にかけるやで〜」
「バイバーイ…」
ネオンが少し寂しそうにそう言った。
「さて、悠帆、大事な話や、メイコもキセノンと待っとるから、行くで」
「あ、はい、わかりました。大事な話って…?」
「それは着いてからのお楽しみや」
そう言われ、悠帆はドキドキしながら3人で本部の方へ向かった。
本部へ行くと、悠帆とメイコは客間に通された。
「さて…お二人さんや、集まってくれてありがとうな、お待ちかねの大事なお話や」
「これはどうもどうも…大事なお話ってなんですか…?」
「そうですよ…さっきまで素晴らしい日常を送っていたのに…改まって…」
「二人には、三神はんと山葵はんにいい感じに強くしてもらったら、鸞孕大陸に、俺とネオンちゃん、キセノンの5人で行く予定だったんだか…」
「だか…?」
「2人に、頼みたいことがあってな…いわゆる、初任務ってやつや」
『初任務…!?』
2人は驚いてそういった。
「そう、初任務。任務内容は潜入や」
「潜入…」
「とある場所に行って、そこにある資料庫から資料を取ってきてほしいんや」
「なるほど…しかし何でそこに…?」
「その場所には、1人、鬼凱子が潜入してる。そいつに取ってきてもらいたいところやけど、そいつも表では政府の人間になってる。政府に配属されてそこにいるから、ここに届けても事はできない。しかも、そこからの連絡手段は直筆の手紙のみ。しかも中身は政府に確認される。そいつとは暗号で連絡を取り合ってるんや。けれど、暗号だけで機密資料を伝えるのは困難や」
「なるほど…それってつまり…」
「そう、君たちには、情報を盗んできてほしいんや。うちの潜入部隊も人が枯渇していてな、すぐさま任務にでれるのが、まだ政府に認知されていない君たちにしかできない、重要任務だ。お願いだ、引き受けてくれないか?」
「俺が良いですよ、鍛錬の成果を確認できるかもしれないしな…」
「わ…私…も…不安ですけど、せっかくこの組織に引き取られ、山葵さんに修行をつけてもらって…恩返しがしたいので…私もやります!!」
「そうか!2人ともありがとうな!!」
「はい。よし、メイコ、頑張るぞ」
「うん、頑張ろう!」
メイコは、悠帆の問いかけに対して元気よく、そう頷いた。
「それで…肝心の、君たちに潜入してもらう場所やけど…」
「あ、そうだった」
「どこなんですか…?」
「それはな…」
ゴクリ…
2人に覚悟して初任務場所を聞いた。
「極寒の大陸、『クリプト大陸』にある巨大資料庫、『ヴァルハラ』や!!」
ヘリウムは堂々とそういった。