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胡桃割革命  作者: 庵地 紋
志の始まり、
1/23

世界と革命家

『バカらしいと思うかもしれないが、真の革命家は偉大なる愛によって導かれる。愛のない真の革命家を創造することは、不可能だ』

            ーチェ・ゲバラー


鸞暦(らんれき1543年 5月5日

 ハホ大陸・ファイブ地域の街 ヘリアムー


「スズ姉、おはよう」


 "壁ノ実悠帆(かべのみゆうほ"17歳。

 昔は母と妹との3人で暮らしていたが、4歳の頃に起きたとある事件をきっかけに、食堂を営む女性、"スズー・ラン"に保護され、2人で生活している。

「おはよう、悠帆。朝ごはん食べちゃいな、さっさとお店開けるわよ」

「はいはい、朝は…今日も相変わらずのトーストか。そろそろ飽きてきたフシもあるんだが…」

「まぁまぁ、いいじゃないの。いつも通りの日常ってのが、一番いいのよ」

「いつも通りがいつも通りすぎるだろ…」

「ま、さっさとお店開けたいから、食べちゃいなさい」

「りょーかーい」

悠帆は薄っぺらい返事をした。


ー食堂ー

「いらっしゃいませ〜」

「悠帆くん、カレーライス。あとアイスコーヒーお願い」

「あ、燐さん。いらっしゃいませ。相変わらず変な組み合わせですね」

「いやぁ…この組み合わせが一番美味しいんだからね、きみも一回試したらわかるはずだよ」

「いやぁ…遠慮しときます…」

下町の小さな食堂。常連客がよく来るが、大繁盛することは少ない。店員もスズさんと悠帆の2人しかおらず、回転率も少し悪い。けれど、皆から愛されている食堂だ。店内はいつも閑散としている。店内には、テレビと換気扇、そしてスズさんとお客さんが話す声しか聞こえない。

「はい、お待ちどうさん。カレーとアイスコーヒー」

「ありがとさん。悠帆くんの作るカレーが一番美味し…あれ、福神漬と浅漬と梅干し全部なくなってるじゃん…」

「ん…あぁ、補充し忘れてました。すぐ使いします。にしても、その3つが好きなんて、相変わらず舌が完全にばあさんですね」

「うるせー、こちとらまだピチピチの26だっつーの」

そんな他愛もない会話をいつも響かせ、食堂の日常は終わる。


「ありがとうございました~」

夜になり、スズさんが最後のお客さんを見送り、店を閉める。スチームパンクな街並みに浮かんだ月を見て、変わらない日常を安心しているスズさん。それを見ながらお客さんのお皿を片付ける悠帆。相変わらずの日常だなと、悠帆も思っていた。

「さぁ、後片付けするよ」

「はいよー」

スズさんの元気な声とは対照的に、悠帆は気怠げだった。

『次のニュースです』

悠帆がカウンターを拭いているとテレビのニュースが耳に入った。

『先月のハホ大陸での、世界政府による"魔女狩り"により、拘束された統計の人数は26人でした。これは魔女狩りを実施している15年間の中で大陸内最多となりました。他の大陸では、ネオス大陸で11人。独龍大陸で35人。鸞孕大陸(らんはらたいりくで6人。硫黄大陸で14人。クリプト大陸で0人でした。』

「最近多いわね…」

そのニュースを聞いて、悠帆は苦い顔をしていた。

「スズ姉、そろそろ出てってもいいか?…」

「!…なんで!?」

「前から言ってただろ。オレが出ていくときはそういうときって言ってあったでしょ?」

「そーかー、悠帆もついに家出か〜」

スズさんはやけにニコニコしながら言った。

「やけにニコニコだな…」

「いやー、ついに悠帆も巣立つのか〜って。お姉さん、ワクワクしちゃうわ〜。日常が変わっちゃうのは嫌だけど」

スズさんは牛乳を飲み、笑いながら、楽しそうにそういった。

「ノリが軽すぎるだろ…俺が何しようとしてるかわかってるの…?」

「あぁ…もちろん。『革命』…だろ?しかも、地区政府でも、大陸政府でもない…世界政府に対してだろ?」

「そうだ、世界を潰しに行くんだ…」

悠帆はスズさんとは対照的に、真剣な眼差しでそういった。

「まぁ、お客さんもよく言ってるしねぇ、今の世界政府のやり方には、いろいろ文句があるって。私自身も、今のやり方は正直、よくないとは、思う」

「そんな感じだから、明日の朝には出て行くから、よろしく」

悠帆はそっけなくそう言った。

「ちなみに、行き先は決めてるの?」

「あぁ、独龍大陸だ。そこで"半減軍"に協力者契約を結んでもらう」

「いやー、とんでもない子を育てちゃったねぇ。わかったよ、頑張るんだよ、駆け上がるなら全力でだよ、頂点まで」


ーへリアム沿岸部の港ー

「じゃあいってらっしゃい、頑張るんだよ」

「見送りに来なくてもいいって言ったはずなのに…」

「あんたもいうようになったねぇw。昔はゴミ出しに行くだけでも、一緒に行くってわがまま言ってたくせに。私を一人にしたくないってねぇ」

スズさんは、茶化すようにニヤつきながらそう言った。

「やめろそんな昔の話をするのは…恥ずかしいだろ…」

「そんなこと言っちゃってぇ…悠帆が出ていったら、守ってくれる人がいないから私すぐ狩られちゃうかもぉ…私…か弱い乙女だしぃ…」

「はいはい、すごいすごーい」

悠帆はすごく棒読みでそう言った。

「いやぁだ〜悠帆ったら、つ・め・

・た・い☆」

「だいたい、一緒に生活していた13年間、魔女狩りに1回も遭遇しなかっただろ…」

「まぁ、そもそも私は"能力者"じゃないし」

「それは…」

悠帆の顔が少し暗くなった。まるで、何かつらいことを思い出したかのような顔をしていた。

「あれっ?やっぱり悲しくなってきた?」

「うるさい!」

悠帆は大きく否定するように言い放った。

(あれぇ…なんか気に障っちゃったかなぁ…?)

スズさんは少し申し訳なさそうな顔をした。

「あ!そうだ、悠帆、渡しておきたい物があるの忘れてた」

「ん…?何…?」

スズさんは悠帆の手のひらにポンと何かを置いた。それを見て、悠帆は驚いてすぐさまそれを隠した。

「おい!これ、銃じゃねぇか!」

悠帆は、焦りながら小声でそう言った。

「残念!自動拳銃で〜す!!」

「そういう問題じゃねぇだろ!てか、そもそもどこから手に入れた!…この大陸で銃なんて容易に手に入れれるものじゃねぇだろ…」

悠帆は、呆れたように言った。

「入手ルートはヒ・ミ・ツでーす。隠し事は女のアクセサーってよく言うでしょ?」

「何言ってんだこの人…そもそも、銃なんて扱ったこと無いもの…急に渡されだってどうすりゃいいのか…」

「悠帆、」

スズさんは悠帆の言葉を遮るように言った。悠帆は、言葉を止めた。

「ある人がこんな言葉を残した。『理念なくして闘争力なし』って。逆に、理念や理由があれば必然的に闘争力や闘争心が生まれる。しかも、あんたがその闘争心を向けているのは、世界政府という大きな壁だ。そんじょそこらの路傍の石じゃないんだ。そんな大きな壁を破るには、道具を持たずに、そして、血をみないなんて、甘い考えは通用しない。もし、そんな考えなら、革命なんて今すぐに志すのをやめるんだよ」

スズさんは、さっきとは全く違う真剣な眼差しで悠帆に語りかけた。

「…わかったよ…」

「これは、その壁を破るための道具だから、大切にするんだよ」

「…ありがとう」

悠帆は、その拳銃をそっと鞄の中にしまった。

「ちなみに、その言葉残した人は誰なの?」

悠帆は、好奇心からそう聞いた。

「それは行ってもわからないと思うから言わな〜い」

「なんでし…」

悠帆は、呆れ顔でそう言った。

「まぁまぁいいじゃないのよ、さあ言ってきなさい。あの世界の頂点を打ち落としてね。頑張って、気をつけるんだよ」

「ああ、行ってくる」

そう言って、悠帆は、自信あふれる顔で船に乗っていった。

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