#5
「じー」
さて、遊にはああ言ったもののどうやって鈴凪との距離を縮めれば良いものか。
とりあえず鈴凪を観察してみよう。
「凛凪ちゃん?お腹空いた?」
お米を研いでいる。
「いーや、ただの観察」
「ひょっとして、お料理の特訓する気になった?」
うーん、やっぱ違うな。
見た目はそんなに違わないのに私とはまるで違う。
何がそこまで男を惹きつけるのやら。
「ただいまー」
「あっ、おかえりなさい」
ささっと手を拭い、玄関へ向かう鈴凪。
声からして晃にーだ。
「なるほど」
夕飯の支度中なのに、ちゃんとお迎えする。
これはポイント高い。
「おー凛凪」
「おかえり晃にー」
晃にーの後ろからひょこっと鈴凪が現れて、夕飯の支度に戻る。
「さー凛凪、鈴凪の邪魔になるからあっち行ってようなー」
私は幼児か。
同じ姉妹で何故ここまで扱いが違うのだろう。
「ふふふ、鈴凪ちゃんお料理の特訓するんだよ」
にこっと微笑む鈴凪、一方晃にーはこの世の終わりみたいな顔をしている。
「凛、凪が……料理?」
すぐさま私の両肩を掴み、真っ直ぐ見つめる。
「?」
「頼む凛凪、俺は上手い晩飯が食いたい」
……。
いや私もそうですよ。
鈴凪が説得に乗り出すも晃にーは涙ながらにこれを拒否。
結局自分の弁当から始めることで折り合いがついた。
いや別に料理する気なんてなかったんだけど。
晃にーは手を引き私を居間へ連れていき、向かいへ座らせる。
「おい凛凪、何でいきなり料理なんて」
いやいや鈴凪の勘違いだから。
といってしまえばそれまでなんだけど、面白いので付き合おう。
「観察してた。」
「何を」
「鈴凪と私の違い」
晃にーはうーんと考え込む。
しばらくして、私の頭を撫でる。
「凛凪、そんなことしなくても……お前は大事な妹だ」
「はあ」
(撫で撫で……)
「そろそろやめて」
「も、もう少し……」
晃にーはしかめ面の私を撫で続ける。
「あー可愛い可愛い」
「晃にーそんなんで私と鈴凪に彼氏が出来たらどうするの?」
晃にーの手がぴたりと止まる。
そして握り拳を膝の上でぷるぷると振るわせた。
「いるのか、そんな奴が」
「今はいないよ?」
「何だー」
晃にーはテーブルに突っ伏したと思うと、私に向かって身を乗り出した。
「凛凪、頼むから兄ちゃんを心配させないでくれ」
「心配?」
「ああ。鈴凪はしっかりしてるから男と必要以上に仲良くするとかはないだろうけど……凛凪は危ない」
私はしっかりしてないと。
……してないな。
「だだいまーってあれ?晃何してんの、凛ちゃんつかまえて」
凌にー帰宅。
シスコンが二人に増えた。
「いや、凛凪が料理するとか言い出したから……つい」
またまずいもの作るなって説教されるのか……と思っていると、凌にーは意外な反応をする。
「凛ちゃんが料理?いいじゃんやってみなよー」
「おい、兄貴」
晃にーを右手で制すと、隣にやってきた凌にーは私の頭を撫でる。
「凛ちゃんだって女の子なんだし、料理する姿とか可愛いじゃん」
「凛凪は可愛い、それはそうなんだけど……いいのか?その、晩飯」
「可愛い妹が作ったものなら消し炭でも何でも食べれるでしょー晃は」
凌にー。
そこまで言ってくれるなら、作ろうかな……。
うん?
晃は?
「じゃあ、兄貴は?」
「俺?俺は鈴ちゃんの料理食べるよ?」
一瞬でも兄弟愛に感動した自分を殴りつけたい。
「だったら言うなよ……」
「ちぇー合法的に凛ちゃんのお尻叩けると思ったのに。で、それだけ?」
またお尻……鈴凪にあんだけ怒られたのに。
って鈴凪だ鈴凪。
「凌にーは、鈴凪に彼氏が出来たらどうする?」
話が逸れたがどうすれば遊と鈴凪を近付けられるかを考えなくては。
凌にーのことだ、晃にー以上に荒れ狂うかもしれない……。
そう思ったが。
「鈴ちゃんに彼氏?ないない、鈴ちゃんに告ってOK貰える人間はこの世に凛ちゃんだけだから」
余裕な表情で答える凌にーの言葉に、晃にーもうんうんと頷いている。
え?なに、この前の話?
「凛ちゃん、誰のことを言ってるのかはこの際聞かないよ?ただ、鈴ちゃんが落ちることは100%ない」
どゆこと?
その自信はどこから。
何て考えていると、凌にーの表情がガラッと変わり私に迫る。
「ただ凛ちゃん、君が危ないんだよ」
だから何故私の話になる。