#1
「おはよー鈴凪ー」
朝7:00、眠い目を擦りながら居間にいくと既に制服に着替えた双子の妹が朝食の支度をしていた。
「おはよ、凛凪ちゃん。もう少しで出来るから」
「りょーかーい……顔洗ってくるー」
今日は金曜日、あと一日乗り切ればお休みなので夜更かしし過ぎた事を反省しながら洗面所に向かうと先客がいた。
「おー凛凪ー」
うちの次男、晃。
現在中学三年の私と鈴凪の二つ上で現在高二。
「晃にー今日朝練はー?」
「今テスト前でやってねー」
ふーんと相槌を打ち二人並んで歯を磨く。
私は鈴凪と違い成績が良くないので頑張らないとなーと思う。
着替えを済ませ居間に戻ると鈴凪と私より三つ上で我が家の長男、凌が並んで待っていた。
「ごめん、遅くなった」
現在7:30、鈴凪と挨拶して三十分経っているのでかなり待たせてしまった事を詫びる。
「そうだねー俺も鈴ちゃんも忙しいのにーさて、どうしようか……」
笑顔のままにじり寄る凌にー、恐ろしや。
昔なら泣き真似とかして許してもらってたんだけど……流石にこの歳では通用しない。
「そ、それより凌お兄ちゃん!早くしないと遅れちゃうよ?」
ちらっと時計を見た凌にーは慌てて朝食を片付ける。
お尻叩きくらいは覚悟していたけど鈴凪の助け船のお陰で事なきを得た。
「行ってきます、鈴ちゃん。凛ちゃんは帰ったらお尻叩きだからねー」
……わけではなかった。
「俺は無視かー」
晃にーの言葉は虚しく空を切った。
凌にーがうちを出てから暫く後、入れ替わるように来訪者が現れた。
「おーい凛凪ー学校行こうぜー」
近所に住む遊助、私たちとは幼稚園から同じで私とはクラスまで同じな長腐れ縁幼馴染だ。
ちなみに鈴凪とは別クラスである。
「おい遊ーお前まだ毎日うち来てたのかー」
晃にーの存在に気付き私に耳打ちする。
(晃さんなんでいんの?)
(テスト期間で朝練休みなんだってー)
もちろんご近所さんなので遊助は凌にーや晃にーと面識はあるのだが、二人は私たち(特に鈴凪に対して)に溺愛してる節があるので昔から男友達には当たりが強いのである。
さらに晃にーは同じ野球部出身なのでそれも一入である。
「まーいいけど、妹に変な気起こすなよー」
そう告げると晃にーは出て行った。
遊助としては凌にーが出て行ったのを見計らってのタイミングで鈴凪に会いにきただろうに、晃にーがいて朝から生きた心地しなかったろう。
ご愁傷様と心の中で手を合わせる。
「凛凪ちゃん、お待たせ。はいお弁当……」
鈴凪は私の隣にいる遊助に気付いた様子。
「よ、よー学校行こ」
「伊東くん、今日も凛凪ちゃんのお迎え?」
「「…………」」
ご愁傷様。
♢
「はああぁ……」
現在12:30、午前の授業が終わりお昼休みとなる。
おそらく今朝の鈴凪とのやりとりに撃沈する遊助を前の席の私と隣の遥がよしよしと慰めている。
「伊東くんも懲りないねーよしよし」
「ほらほら遊助ー鈴凪の手作り卵焼き食べるー?」
一口大に割った鈴凪特製甘い卵焼きをむくりと顔を上げた遊助は目にも止まらぬ速さで頬張る。
「甘くてうめー」
ホント?と相槌を打ち残りは私が頂く。
「んー甘ーい」
お箸に残る甘い余胤を楽しんでいると何故か遥に白い目で見られた。
「あんたら……そりゃ鈴凪もそういうわ……」
ぽかーんとした表情で遥を見つめると、深いため息をついた。
「それより二人とも期末大丈夫?授業中ずっと寝てるけど」
「「はああぁ……」」
振り出しに戻る。
♢
「椎葉さんいるー?」
HRも終わりただいま15:50、帰り支度をしていると名前を呼ばれた。
その主は松倉さん、野球部のマネージャーである。
「あれ?松倉なにしてんの?」
私より先に遊助が反応する。
「あ、伊東くん二組だったんだ。今日から部活休みだよー」
「じゃなく!」
間髪入れず私に向き直る。
「椎葉さん、今日って晃先輩おうちいるかな?」
はい?晃にー?
いやいやそんなこと聞かれましても……。
「うーん」
考えても仕方ないので晃にーに電話してみた。
晃にー晃にーっと。
(呼び出し音……)
「どしたー凛凪」
「晃にー今日ひまー?」
えっなんでという晃にーだったが私も何故だかわからない。
松倉さんの方を伺うと「ファミレスあたりに呼び出して!」とノートに書いている。
「ファミレスいこ」
「しゃーねーなー」
松倉さんにおっけーサインをするときゃーきゃー飛び跳ねてる。
ちょいちょいと遊助を手招きし耳打ちする。
(なにこれ)
(松倉晃さんガチ恋勢なんだよ)
なんと。
晃にーにも春が。
年中ストーカーされる級にモテる凌にーではなく晃にーとは。
「じゃあいこ!椎葉さん!」
手を引かれながら松倉さんという子を思い出してみる。
同じクラスになったことないなあ、というか鈴凪ともないなあ。
去年体育委員一緒で前でお手本やったのと野球部の練習試合見に行ったときにいたことくらいしか印象ないなあ。
「ちょい凛凪!」
「いった!」
両側から引かないで。
何故遥が引っ張るの。
「凛凪、凌さんも呼んで欲しい」
そうだ、遥は小学校からの凌にー信者だった……。
「私にはむーりー」
手をひらひらして松倉さんにドナドナされていると、扉が開いた。
「きゃっ!」
突き飛ばされた鈴凪がひっくり返った。
「ごめん!大丈夫?妹さん」
「だ、大丈夫。私こそ不注意で……」
松倉さんが後ろからフォロー入るもんだから鈴凪めっちゃパンツ見えてるんだけど。
「鈴凪見えてる見えてる」
遥が隠すまでの間、遊助めっちゃ見よる。
「もしもし凌にー鈴凪がねー」
「ちょ!?たんま!」
「やーりー」
と喜ぶ遥。