絶対絶命
部屋を出て、今度は奥が見えない道を進んだ。数分進んだ後広い空間に出た。中は殺風景で何もないが3つの道に分かれていた。3つの道は奥にいくにつれそれぞれ壁の材質が変わっていく。
まるで『ルート選択』だ。先程のような部屋だと良いがゲーム的な感覚で推測すると……『モンスター』が異なるのかもしれない。『モンスター』脳内に湧いて出たその言葉に僕の身体を少しだけ震えたが無視した。
「左から入ってみようか」
今まで周りは石壁に包まれていたが、それでも加工されていて薄っすら文明を感じさせた。しかし、この道は進んでいくにつれ地面や壁が凸凹になり洞穴らしくなっていく。そして道は終わる。
そこは先程の空間すら比べ物にならないほど広大な空間だった。東京ドーム? いや、それ以上かもしれない。中は大小様々な岩が転がっており、壁にはいくつもの横穴が空いている。まるでアリの巣の中のようだ。
少しの時間その光景に浸った。どうしようか。戻ってもいいんだけど一度もモンスターに会わないのはちょっと臆病すぎかな。もうちょっと先に進んでみよう。適当な穴を探しその中へ入っていった。しかし、穴に入る瞬間ふと疑問を覚えた『僕はこのまま先に進んでいいのだろうか』? なぜそんな疑問を覚えたんだろう? 不思議に思いながらそれを無視した。
進んでみたが何も起こらず、さっきに比べるとかなり小さい空間に出た。何もない事にがっかりすると、来た道から何かが動くような音が聞こえた。
………ゴゴゴゴゴゴゴ。
その音になぜか嫌な予感がした。そして、追い打ちをかけるように前から『モンスター』達が現れる。それは緑色の肌をした小人で、まさしく『ゴブリン』というべき存在。しかし、探していた『モンスター』を見つけても喜びなんかなかった。
ゴブリン達は鎧を着て、片手に剣を持ち、もう片方に盾を構えていた。武器には使い込まれた跡がありこれまで潜ってきた闘争を証明していた……何より違うのが目、彼らの目にはこれまで味わったことのない殺意が含まれていた。その目を見て急に夢から覚めたような気持ちになった。ここはゲームでも、一方的に獲物を狩る場所でもない、ただお互いに殺しあう戦場なのだと。
死ぬ?……僕が死ぬ……
「ハハ…ハハ………ハハッ」
膝が止まらない、死ぬことを意識した瞬間何もかもが怖くなって壊れたように笑った。そんなことを気に留めずゴブリンは襲い掛かってきた。どうやら、ぼやけた頭でもここにいたら死ぬということは分かったみたいだ。全力で来た道に戻ろうと走った。後ろから追ってきたが振り返らずただ走った。最初の広大な空間に戻ってきた。さらに、3つに枝分かれする部屋に戻ろうと入口に目を向けると……膝から倒れこんだ。
「入口塞ぐとかありかよ…」
入口は大きな岩で塞がれてあり出られなかった。逃げてきた穴からだけではなく、他の穴からもぞろぞろとゴブリン達が出てきた。絶望的な気持ちで見ると周りが全部囲まれていて逃げ場がないようだった。笑うしかなかった。獲物だと思っていたものが実は俺こそが罠にはまった獲物だと気づいて。ゴブリン達は一歩一歩ずつ逃がさないように近づいてきた。
絶体絶命の危機を前にして、もはや動く気力はなかった。囲まれていて逃げ場などない。いや、もし突破口があったとしても動かなかっただろう。希望から絶望へ落されたことにより、心が折れてしまったのだ。だから、ゴブリン達が近づいて来ても黙って見ていた。目の前にいるゴブリンが剣を振り下ろした。ああ、これで死ぬのかと静かな気分で見ていると……これでいいのか? とどこからか声がした。答える暇もなく。剣が近くにある。
ゴブリンに何かが張り付いた。