驕り
暗闇に包まれた通路をゆっくり進む。片手に持つキャンドルの光が心細い。何かに襲いかかられた時、キャンドルに意識は向けられない。そして、光が消えたら一貫の終わりだ。僕は異常な現状に恐怖に駆られながら暗闇を進んでいくと先に分かれ道が見えた。右の道にはまだまだ先があるが、左の道には少し先に扉がある。どちらにいくか。
左に行くことにした。スタート地点から離れすぎるのも怖い。それにゲームならスタート地点の近くの部屋は安全で冒険の助けになる部屋になることが多い。
扉の前まで来た。見たところ普通の木製の扉だ。扉の目の前まで来てから急に怖くなってきた。中に何か隠れていて、扉を開けた瞬間に襲ってくるんじゃないか? 罠なんじゃないのか? 戻ったほうがいいんじゃないか?
……黙殺する。探索しなければ出口はみつからない。何か来ないか注意しながらゆっくりと扉を開ける。
扉を開けると、そこには『部屋』が広がっていた。ベッド。水が出る蛇口。トイレ。バスケットに入ったパン。長い間暮らすには不十分だが、体を休めるには十分すぎる『部屋』だった。スタート地点の近くにある部屋は安全な部屋という読みが当たったんだ! この異常な空間で自分の思考によって先を予測できたことは抑えられないほどの高揚感を抱かせた。僕ならやれるかもしれない。
詳しく調べた結果。何か出口に繋がる物は見つからなかったが、罠も見つからず安心できる場所だと確認できた。少し気が抜けたが、迷宮の中で緊張感をなくすのは良くない。緊張感が抜ける前に右の道調べよう。
しかし、僕は気づいていなかった。もう緊張感なんてものは失われていることに、最初の頃は『迷宮』、『スタート地点』などゲーム的意識だったが最低限警戒していた。だが、部屋に入り自分の読みが当たった瞬間から平常心は失われていてそんな状態では外に出るべきではないということに。
なにより、地形や状況がゲーム的でも、生きている相手までそうだとは限らないことに……意気揚々と部屋から出て行った、根拠のない自信に満ち溢れて。