脱出
まだ幼い頃、僕は不思議に思っていた。なんで皆疑問に思わないんだろう? 僕たちは他人なのにどうして害をなさないと思うんだろう? どうして、こんなぬるま湯のような世界でいいんだろう? 幼い頃僕はそう思っていた。知恵がつくにつれて僕は知った。それが危険を遠ざけるための方法だと。だから僕は───。
スライム一体一体は弱いが強力な不死性と剣をも溶かす酸性を持つ怪物である。倒し切ることは不可能だ。どうにか避けて通り抜けられないか。そんな事を考えているうちに一斉に襲い掛かってきた。今まで通り意思が読み取れないが、行動は雄弁だな。奥にいる大きいスライムは動いてはいない。俺を逃がさないように通路を塞いでいる。そして、それは僕が一番困る選択だ。
「はぁっはあっ」
動き動き時には剣を振るい走り回る。動く事に身体から血がブチュと流れ出る。視界が揺らいて来た。そろそろ血が足りなくなってきたようだ……まだまだ、スライムは数え切れないの程いる。絶体絶命の危機だ。でも──
「楽しいな」
こんな、血まみれでよくわからない生物に囲まれている状況だってのになぜかな。笑ってしまうんだ。
それに、僕も何も適当にやっていたわけじゃない。こうやって戦っている内にこいつらについて分かってきた。奴らは思ったより脆い。少し前、剣が間に合わず一回足を使って蹴飛ばしたがスライムは破裂して動かなくなった。どうやら斬撃ではなく打撃だと効きやすいらしい。まあ、足は少し溶けたが。
それからは剣を刃ではなく側面を使って鈍器のように使うことにした。これで、対処はしやすくなったが……不死性に対処できても酸には対処できない。剣はすでにボロボロになってきている。あと少しで使い物にならなくなるだろう……だからもう一つの発見を使おうと思う。
僕は服を脱いでそれで血をぬぐった。そしてそれをスライムの近くに投げた。奴らは飢えている獣が肉に貪りつくように血濡れた服に殺到する。これがもう一つの発見。奴らはどうやら血に惹かれているらしい。だからそれを囮にした。と言っても気休めに近い。なぜならすぐに服は溶けるだろうし、そもそも僕自身が血だらけだ。服でぬぐったがあまり拭けた気はしないし、動いたらまた血が出るだから速攻だ。
僕は出口に向かって全力で走った。足の力も無くなってきていたが歯を食いしばって我慢した。出口の前にたどり着いた、そこには出口を全部塞ぐような大きなスライムがいた。そして、僕の服を吸い尽くしたスライム軍団が後ろから迫ってきている。時間をかける余裕はない。
門番に向けて最後の力を振り絞って剣を振りぬく! ……そして、ポキッと折れた。ここまで来る内に使い物にならなくなっていたようだ。一片の可能性も許さないように通路の前から動くことはない、後ろからスライムたちが追いかけてきている。
……これが絶望か。でも、なんでだろう? こんな時なのに昔の記憶が湧き上がってくる。あの後、僕は何を思ったんだっけ…………足に力が戻る。そうだ僕は────僕は笑った。そう、僕はこんな極限の状況に憧れていたんだ。世間的には間違っているとしても僕は確かにそれを望んだんだ。
僕は全力で出口の前のスライムに突っ込んだ。まず感じたのは熱さだった。続いて極限の痛み。時間と空間の感覚も無くなって。ただ何かを忘れないように進み続けて、削れて、削れて、無限の時間が去ったような後、何かから抜けたような感覚がした。そこで止まるはずだった僕の身体を何かが動かし続けた。
彼は死んでもおかしくない状況で走り続ける。それは強靭な精神と呼ばれるものだろうか? ……酸で爛れてしまった彼の表情がゆっくりと形を変える。すでに何も感じず闇の中に沈み、1秒後に動かなくなってもおかしくない状況で浮かべる彼の表情は……微かに微かにだがそれは笑みだった。




