1-6 (グレース視点)
信じられない事が起こった、
私はグレース。
いや、ついさっき、侯爵の養女となって、
グレース・ラーグとなった。
私は平民の出身だ。
そこそこ裕福な家庭で、本を読む事が好きだった私に、
両親は惜しみなく本を与えてくれた。
知識を求め、高等教育が受けらる国に留学、
奨学金をもらい、学費は無料、寮と学食があると言う、
破格の待遇を受け、勉学に励んだ。
もちろん、奨学金をもらうには試験がある、
少しでも学力が落ちれば勉強を続ける事はできない、
親は甘えてもいいと言ってくれたが、
私はそれを許すつもりはなく、
自分の力だけで学園を卒業した。
そしてその事は私に誇りを与えた。
平民とはいえ、学園をトップクラスで出たとあれば、
職に困る事はない、
とある公爵令嬢の家庭教師をした後、
公爵の推薦を受け、王宮に勤める事ができた。
王宮で働けるのは、この上ない名誉。
しかし、公爵の推薦があったとは言え、
王宮は貴族社会。
平民はそれだけで、肩身の狭い思いをしないといけなかった。
特に王族の機嫌を損ねると、それだけで、
全てを失いかねない・・・
そんな危うさの中、フローティア様の教育係となった。
フローティア様の周りには、平民を見下す者しかいず、
いずれ、フレルラ王国に嫁がれるフローティア様は、
将来苦労される未来しか見えなかった。
フレルラ王国は民があっての王族という考えが強い、
そんな国へ行けば、反感を買い、
フローティア様が孤立してしまう恐れがあったからだ。
それとなく、平民の話を振ってみたが、
あまり反応は良くなかった。
がっかりすると同時に、何とか興味を持ってもらえないか、
奮闘する日々を過ごす。
ある時、フローティア様がいきなり疲れたと言いだし、
勉強はおしまいになった。
侍女に任せ、私はフローティア様の元を去る。
すると、その日の夕方、
いきなり兵士に捕らえられた。
苦しむフローティア様に無理やり勉強をさせたと言う事だ。
体調管理は侍女の仕事、
私はすぐに勉強を辞めたし、何の落ち度もない。
そして、連行される私をにやにや見る侍女達を見て、
罪をなすりつけられたと知った。
彼女達は貴族。
平民の私が勉強を教えているのが気に入らず、
しかも平民を見下さない事に、不満があったのだろう。
仕方ないと思う。
正義が勝つ世界でない事は十分に知っていた、
ただ両親に申し訳ないなと思う。
あれほど王宮で働く事を喜んでくれていたのに。
裁判が行われて、私は判決をまった。
逆らっても仕方がない、しょせん使い捨ての平民なのだ。
しかし、フローティア様は私をかばってくださった。
しかも、上級侍女なら、平民はまずいと、
侯爵の養女にまでしてもらえた。
世界は一変した。
今まで平民だと軽く扱われていたのが、
上級貴族として、礼をもって丁寧に対応される。
私を陥れた王女付の侍女達は入れ替えられ、
王宮の侍女を束ねる侍女頭長と交流が持てた。