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第8話 神格化している!

「ジオ。彼は、私が作った薬で妹君が助かったと礼を言われただけだ」


 私は端的に状況を説明した。しかし、ジオが私を見下ろしてくる態度に変わりはない。

 ん?そう言えば……


「ジオ。その私が作ったアランカラエラの薬はどうしたわけ?」


 リオールがおかしな言葉で説明してくれたヤツだ。布教とかという怪しい言葉で。


 するとジオは私を見下ろしながら、朗らかな笑みを浮かべた。何? その笑顔?


「もちろん、女神イーリアの施しだと言って民たちに配った」


 神格化している! どこから女神っていうのが出てきたのだ!


「どこの女神だ!」

「もちろん俺のイーリアだ!」


 何が『俺のイーリア』だ! 電波系よりもっと酷いことになっている。……こんなことを広めたジオには仕返しをしてやろう。


「女神だと人とは婚姻できないね」

「はっ! なんてことだ!……いや、イーリアは人だから、半年後に結婚式を挙げるからな」


 そこは真顔になって普通に答えるのか。面白くないな。

 しかし、ジオの機嫌が戻ったかと思ったら、また不機嫌な顔に戻ってしまった。


「イーリア。話を変えても無駄だ。そいつと仲良く話をしていたことに、変わりないよな」


 ちっ! 話をスルーできなかったか。

 こうなってしまったジオは、とても面倒くさい。


 私が男性と表面上の付き合いで話をしているだけでも、グチグチと言ってくる。実に面倒くさい。


「俺が居ないからと、仲良く話をしていたのだよな」

「違うって言っているし」

「あんなひょろひょろのヤツがいいのか?」

「あれはただ単に、食費を削って仕送りしているだけだろう」

「そうやって、かばうぐらい好きなのだろう!」

「面倒くさい!」


 ジオの斜め後ろから、アルベルトとリオールが身振り手振りで何かを訴えてきている。


 またか! またそんなことを私が言うのか!

 しかし、ここで騒いで人が集まってくるともっと面倒くさい。はぁ……仕方がない。


「ジオ。私の婚約者はジオだよね」

「当たり前だ」

「ジオと一緒にいると楽しいから、私はジオのことが好きだぞ」


挿絵(By みてみん)


 ジオが機嫌が悪くなると、こう言わないと絶対に機嫌が戻らない。


 すると全身を締められて圧迫死させられそうになる。いや、ジオが私を抱き締めてきた。

 ギリギリと軋む音が私の内側から聞こえ来る。だから、こんなことを言うのは嫌だったのだ! 力加減をしろ! 力加減を!


「いつも見ていて思うのだが、子どもの頃と変わっていないように思うのは気の所為か?」


 アルベルト。全く気の所為ではない。私を絞め殺そうとしてくるジオは、最初に婚約解消を目論んで失敗してから、何も変わっていない。


「私も同意見ですね」


 そのとおりだリオール。何も変わっていない。いや、筋肉量が増えたお陰で、私の圧迫死の確率が増えてきている。っていうか、しゃべっていないで、護衛なのだから私のことを助けろ!


「お嬢様の好きは、子どもの好きですよね」

「そうだよなぁ。これで結婚して上手くいくのか?」

「さぁ?」


 護衛の二人よ。何が私の好きが子どもの好きってどういうことだ!

 前世では結婚して子供を三人育て上げた母親だぞ!


「って私を殺す気か! 苦しいし、痛いわ!」


 私はジオの足を蹴って離れるように促す。なぜ、護衛のくせに、ジオが暴走しているときには対処してくれない。

 普通は節度を持ってとか言って、ジオと私を引きはがすのが、護衛の役目ではないのか!


「イーリアが可愛い。俺のこと好きって……」


 いや、言わされた感が酷い。

 ものすごいいい笑顔で、私を見下ろすな。機嫌が良くなったのはいいのだが、ジオに『好き』という言葉を言うと毎回死にかけるから、なるべく言いたくないのだ。


 因みに、この食べ物が『好き』というのも危険だ。食べきれないほど、私が好きだと言った食べ物を贈りつけてくる。


 加減というものを知らないのかと毎回怒るのだが、絶対に理解していないと思う。


「機嫌が治ったのなら、私をここに呼んだ理由を言え、あまり王城は好きじゃない」

「うん。俺の離宮に行こう」


 ジオは私の手を握って、歩き出した。

 その後ろから私の二人の護衛がついてくる。

 そのまた後ろの方から、黄色い悲鳴が聞こえてきた。


 え?


 思わず後ろに視線を向けると、角になっている廊下の壁から数人の使用人の顔が出ていた。

 み……見られていた! 私……またジオに対して無礼な感じで対応しているところを、使用人たちに見られていた!


 はぁ、私の悪い噂が流されるのだろうな。


 王城の使用人からは奇異的な視線をよく向けられてくる。そして、柱の影で私のことをチラチラ見ながらコソコソ話している姿も見かける。


 絶対に私の駄目な噂が流れているのだと思う。


 こうなってくると馬車でそのままジオの離宮に乗り付けたほうがいいのだろうが、ジオの離宮は王城の北側に隣接している。となると西側ルートを通ろうが、東側ルートを通ろうが、同じ時間だ。そして王城の敷地内だというのに、馬車で1時間もかかるのだ。

 はっきり言って時間の無駄だ。


 なので私は王城の中をつっきるというルートを選択したのだが……私のおかしな噂の所為で、人からの視線がとても痛い。

 最近、特に痛い視線を感じると思っていたら、神格化しているというイタい人設定を、ジオが勝手に噂を流していたからだ。


 離宮についたら滾々と説教をしてやる!


「半年後の婚姻式。楽しみだなぁ。婚姻式のために作ったドレスを着たイーリアは、絶対に女神だと思う」

「その女神設定をやめろ」


 ジオと手を繋いで歩いていると、ジオが突然妄想を口に出した。

 いや結婚式のために一年かけて作っているドレスがあるのは事実だし、半年後に結婚するのも事実だ。しかし、ドレスを着た私を妄想して女神設定を貼り付けないで欲しい。


「何を言っているんだ? イーリアが聖女は嫌だと言ったから、女神として称えるしかない」

「そもそも称えなくていい! 私は普通の人だ! 普通の公爵令嬢だ!」


 そこ! 背後で『普通ってなんだろうな』って言わない! 『普通の公爵令嬢は庭で焼き肉パーティーだと言って肉は焼きませんよ』とか言わない! 焼き肉は炭火で脂を落としながら食べるのが美味しいのだ! 護衛の君たちも美味しいと言って、先週の休日に一緒に食べていたじゃないか!


 私が反論すると、ジオはピタリと足を止めて、私を見下ろしてきた。どうした?


「イーリアが普通の公爵令嬢だったら、俺は公爵の地位を得るための道具としてしか、イーリアを見れなかっただろう」


 ああ、笑っていない綺麗な笑顔を貼り付けていた第二王子様ね。氷の王子とかあだ名がついていそうな感じだったよね。


「イーリアが俺を変えてくれたのだ。俺に普通に笑っていいと言ってくれたのはイーリアだけだ。遊んでいいと言ってくれたのもイーリアだけだ」


 言ったね。私が勉強をしたくなかったからだね。


「非常識を装っていたのはワザとだったのだろう?」

「何のこと?」

「子どもの頃、非常識なことをしていても、絶対にサルヴァール公爵家の敷地内から出なかったのは何故かな?」

「王都の屋敷は探検し放題だからね」

「イーリアは一度も王都の街の方に行こうとは言わなかったのは何故かな?」


 曖昧に濁した私の答えは、ジオの求める答えでは無かったのだろう。別の聞き方をしてきた。

 好奇心旺盛な子供なら、大人に黙って街の中に行ってみようとするだろうと。


「興味がなかったからだね」

「嘘だね。俺がサルヴァール公爵邸に行けない日は、露店で買い食いしていたと報告を受けていた」

「ぐっ!」


 私の買い食いをジオにチクったであろう背後の護衛の二人を横目で見ると、二人共あらぬ方向に視線を向けている。


 私と一緒に買い食いしていた君たち以外、チクるやつはいないのだよ!


「俺の安全の保証が出来ないから、一度も言わなかったのだろう?」


 その通りだ。サルヴァール公爵家の護衛を繰り出せばいいのだが、何か遭った場合の責任の所在は父になる。

 王子が事件に巻き込まれて、命を落としたとなると、父の首が飛ぶことになるかもしれない。私が責任を取れないことはしたくなかった。


「俺が遺跡に行きたいと言うまで一度も、サルヴァール公爵邸の敷地から出なかった。それに気がついたのは、イーリアがサルヴァール公爵領に帰って、会えなくなってしまってからだ」


 ああ、私が婚約解消のため偽装工作をした件だね。


「イーリアは第二王子の俺ではなく、六歳のジオルドという子供に手を差し出してくれたと気がついたのだ。普通の子供の遊び場は屋敷の中や周辺ぐらいなものだ。王子として権力を使って、出かけるのは違うと考えさせられた」


 ……めっちゃその後、ダンジョンに行っていたけどな。ここで侍従候補が脱落していって、結局のところ護衛騎士しか残らなかったという現実。


「そんな俺を変えてくれたイーリアは聖女じゃないと言うのなら、女神しかないだろう」

「結局そこに戻るのか!」

「神の知識を持つイーリアは女神と言っていい」

「ん?知識?」


 また変なことを言い出しだぞ。


「声無き神の声を聞くイーリアは神の知を持っているのだろう? だから、いろんなことを知っている。俺の愛するイーリアを害する者は俺が始末してやるからな」

「結局電波系と言っているじゃないか! それから物騒なことを言うな!」


 始末って何をどう始末する気だ。

 私が文句を言っているのに、私を抱き寄せて、ジオが私の額に唇を落としてきた。


「俺の愛しのイーリアに見て欲しいものがあるのだ」


 そう言って、ジオは再び私の手を引っ張って歩き出した。

 いきなりキスをしてくるな。思わず額を左手の甲で拭う。


 ようやく今回、私を王城に呼び出した物を見せてくれるらしい。





 その私の額に青筋が立っている。


「お嬢様。落ち着きましょう」

「お嬢様。大きく呼吸をするんだ。ひっひっふー……ひっひっふーだ!」


 私は両側から護衛二人に腕を押さえられ、声を掛けられている。アルベルト、それは出産するときの呼吸方法だ。


 そんな私達の前で、ジオは嬉しそうに見せたいものをお披露目していた。


 ジオの横には人の背の高さぐらいの絵がイーゼルの上に乗せられている。この大きさだと部屋の端にいてもよく分かるだろうというぐらいだ。


 そんな大きなキャンパスに一人の女性の絵が描かれている。黒髪に金眼の女性があらぬ方向を見ている。着ているドレスはジオの瞳に合わせた紫色の上品な仕立てに見える。

 そして怪しげに、薄手の白い布地を手に持ち頭の上で掲げている。白いベールをかぶるようだ。それはまるで神聖さを表している感じに見える。


挿絵(By みてみん)


「女神イーリアだ!」

「だから人を神格化するな!」

「お嬢様。魔力が漏れ出ていますよ」

「お嬢様。深呼吸だ。深呼吸!」


 ジオは堂々と私を描いたらしい絵を神格化した物にしていた。こいつ本当にヤバイな。


 私は握った右手をふるふると震わせながら、魔力を手のひらの内側に練っていく。


「お嬢様。絵の破壊はやめましょうね」

「リオール。あれはこの世から抹消するべきものだ。何だあれは、私を三倍ぐらい美化して描いているだろう」

「何を言っている。そっくりじゃないか。イーリア」


 駄目だ。ジオの目は腐っている。あの絵と私が同じように見えているなんて、一度医者に見てもらった方がいいな。


「お嬢様。そうやって絵を壊して、殿下を泣かせたことが何度ありましたか?」

「……10回ぐらい」

「11回です」


 細かいなリオール。10回も11回も変わらないだろう。


「いや、毎年と言うべきだと俺は思うが?」


 アルベルト。それも正解だが、毎年こういうおかしな絵を絵師に描かすジオに問題があると思う。私は悪くはない!


「はぁ。ジオ。毎年同じことを言うが、私の絵を描かす必要もないし、異様に美化しなくてもいい」

「何を言っている。今回の絵は背中に翼も生えていないし、光をまとってもいないし、空を飛んでもいない。至って普通の絵だぞ」


 言われてみると、今回の絵はそんなデフォルメはされていない。一番マシだと言えば、ここ最近で一番まともだ。


「確かに……で、この絵をどこに飾るつもり?」


 私が絵のことを少し認めたと感じたのか、護衛の二人は私から一歩下って、離れていく。


「イーリアが作った品種改良の野菜の種を配るときに、誰の施しなのか見せつけるように……」


 私が学園で野菜を栽培しているのは、多く実をつける品種だとか、寒さに強い品種だとか、乾燥に強い品種だとかに改良をするためだ。

 その野菜の種が欲しいという人が時々現れるので、一年に数回野菜の種を配布するというイベントを開いている。配布するのは勿論私ではなく、サルヴァール公爵家の者だ。


 そんなイベントにこの絵を飾るだって?


 こんな絵は欠片も残さないほど燃やし尽くすべきだ。


 ジオが説明している中、私は毛足の長い絨毯を蹴って、瞬間的に絵の前に行き、今まで魔力を練っていた右手を思いっきり振るう。

 私の右手に当たった絵は爆発するように発火し、灰と化した。


「うわぁぁぁぁぁぁ! イーリアの絵が!」


 空中に舞う黒い残骸をかき集めるジオ。毎年、私に絵を燃やされているのに、懲りないよな。


「ジオ。私がいるのに絵が必要なのか?」


 いい加減に絵を描かすのをやめろよ。


「今のイーリアは今しか居ない。それを描いて残しておくのが俺の趣味だ」

「おかしな趣味を、人に見せびらかすようなことをするな」

「俺のイーリアは天使であり、聖女であり、女神なのだ。それは人々はかしずいて、平伏すべきだ」


 何か増えている! 平伏っていくら何でも駄目だろう! ただの公爵令嬢だぞ。

 それを涙目で言うな。


「神の声を聞くイーリアは俺だけのイーリアだが、イーリアの施しを受けるものは、それだけの敬意を示すべきだ」


 ……いい加減に私を電波系で定着されるのをやめろ。それからいい加減に涙を拭け……何故にリオールからハンカチを渡されたのだ?

 私がジオの涙を拭えと?


 何故ジオも期待した目で見てくるのだ。


 はぁ、仕方がない。私はリオールに渡された白いハンカチでジオの涙を拭うのだった。

 これが毎回の流れになってしまっているのだが、この涙って私に拭かすための偽物じゃないよな。




ここまで読んでいただきましてありがとうございます。


追加で二話を書かせていただきました。


今回はAI絵の挿絵の挑戦という意味合いもあり、6話の挿絵が思っていた以上に閲覧されていたので、良かったのかなぁと思っています。

しかし、まだまだ低級の呪文使いのため、中々上手くいかないことも。


"いいね”で応援ありがとうございます。

ブックマークしていただきありがとうございます。

☆評価していただきましてありがとうございます。。嬉しいです。


誤字脱字報告、毎回ありがとうございます。助かっています。


感想ありがとうございます。

とても励みになります。


この作品を見つけて読んでいただきましてありがとうございました。


追記。

夕方に投稿したのに『女神イーリア』(笑)の絵の閲覧が思っていたより多い!驚きです!

気に入っていただけたのであれば、8話と同時に活動報告に使えなかったAI絵集をアップしているので、宜しければどうぞ。

低級呪文使いの苦悩の成れの果てを載せています。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本人にはその気がない無自覚チートといいますか、周囲の評価とイーリアの温度差にくすっときました。笑 [一言] 本当に個人的にはなんですけれど、挿絵が多いとちょっと没入感が薄れるな…と思いまし…
[一言] これ、描いた人、女神絵師とよばれそう。 布教活動がヤバそうだね。( *´艸)
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