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第1話 私が悪役令嬢?

この作品を見つけていただき、ありがとうございます。

この作品はAI絵で作成した風景画を入れています。その旨をご了承いただうえで、お進みください。

「ジオルド様を解放してください」


 解放? 何の話? それに、これは誰?……全然知らない子だけど?

 ふわふわしたレモン色の髪に大きな青い瞳の女の子。誰?


「貴女、ジオルド様に嫌われているのよ?」


 嫌われている? うーん? これは何を言われているのかな? ほら、周りがザワザワとざわめき出しているじゃない。


「貴女がジオルド様につきまとっていることが、迷惑になっていると言っているのよ」


 つきまとっているというか、そもそもジオルド様と呼ばれている奴は、私の婚約者だ。つきまとっていると言うか、婚約者以外の男性と一緒にいることの方が問題だと思う。


「聞いているの!」

「聞いている……いますが、ジオルド様とは婚約関係にありますので、つきまとっているとは言わないと思います」

「それはジオルド様がお優しいからよ」


 うーん。何か変なのに絡まれてしまった。

 やっぱり第二王子とかいう立場の婚約者って面倒だよね。

 ジオルドには第二王子という肩書がついてくる。だから、婚約解消しようとしたことが五度ほどあったけど、全部失敗したからなぁ。


 私はちらりと見覚えがない彼女のここでの立場を確認する。

 彼女の胸元についている学年を示す校章が青色なので、四年生と思われる。

 それから青色の校章の縁取りが銀色なので、子爵位以下の家の者と窺える。

 上位貴族と下位貴族のクラスはほぼ接点がない。私の一つ下の四年生でも全く知らないというのもあり得るということだ。


「そもそもなぜ貴女が、ここにいるのよ」


 ここにいる理由。来るように言われたからだ。そのジオにだ。


 今日は年に二回ある剣術の授業の大会だ。全学年が剣の腕を競い合い、学園の一位を目指す剣術大会。

 その大会にジオが出ているため、応援に来るようにしつこいぐらい言われたから、私は会場となる闘技場の観覧席にいる。


「なぜと聞かれましても、私はジオルド様の婚約者ですので」


 それ以外の答えはない。


「やっぱり、悪役令嬢って自分が愛されているって疑わないのね。私は親切に教えてあげているのに」


 ん? 悪役令嬢? 私のことを言っている?

 これはもしかして、よくある物語の世界とか乙女ゲームの世界とかに転生したってやつだった?

 しかし私が悪役令嬢? 今更言われても残念令嬢にしかなれない。


「貴女が出ていきやすいようにしてあげるわ」


 そう言われて頭上に水球を魔術で作られ、水を頭からかけられた。私は何かうらみでも買ったのだろうか。知らない子だけれど。


 横に流していた黒い前髪が顔に貼り付いて、片目をおおってしまったので、水を切りながら、横に流す。

 学園指定の臙脂色の制服からも水が滴っている。本当に全身水浸しだ。


「はぁ。面倒くさい」


 私はため息を吐きながら、横に手を差し出す。


「ひっ!」


 私の後ろから突き出された剣を持つ手を掴んだ。その剣はレモン色の髪の女生徒の首に突きつけられていた。

 周りのざわめきに悲鳴が混じって聞こえてくる。


「ここは闘技場内ではないので、剣は収めてください」


 今にも女生徒の首を切ろうとしている剣を収めるように言うも、剣が突き出そうとしている動き以外する様子がない。


「はぁ。今、試合中でしたよね。場外に出たため失格ですよ」


 私は斜め後ろを見ながら、フルプレートアーマーに声をかけた。そう、このフルプレートアーマーはさっきまで、下の円状の闘技場で対戦相手と試合をしており、その対戦相手は、呆然としてこちらの観覧席を見上げている。

 そうだよね。防戦一方の戦いだったのに、相手が勝手に場外に出ていってしまったから、何が起こったのかと思っているだろう。


挿絵(By みてみん)


「くしゅん!」


 ああ、春の日差しが暖かくなったとはいえ、流石に水浸しは寒いな。乾かしていいかな? でも手を離すと目の前のガタガタ震えている子の胴と首が離れていくよね。


 私が掴んでいた手が下ろされ、剣を鞘に収めだしたので、私は手を離す。

 人も集まって来たし、色々面倒になってきたから、よくわからない子の言う通り退場するか。

 私が一歩下って、ここを立ち去ろうとしたところで、私は横に引っ張られて、ガツンと硬い身体にぶつかった。痛い。今試合中で、鎧を着けていることを忘れているだろう!

 顔を上げて睨みつけると、そこにはフルフェイスを被ったヤツがいた。ちっ!


 すると私はフルプレートアーマーに抱えられてしまう。

 周りからキャーキャーと悲鳴が聞こえる。君たち、うるさいから黙ってて欲しい。


 そして、フルプレートアーマーは重い鎧を身にまとっているとは思われないほど身軽に跳躍し、観覧席から闘技場内の広い地面に着地した。

 ちょっと待て! 私をどこに連れて行く気だ!


「場外に出たので、負けで良いですよね」


 フルプレートアーマーはこの二回戦の審判をしていた先生に試合は負けという結果であることを確認している。しかし、その言葉に焦ったのは審判の先生だ。


「殿下。再戦をいたしましょう」


 まぁ先生がそう言うのも理解できる。このフルプレートアーマーは今回の優勝の最有力候補だ。それに……


「王妃殿下が四回戦から観戦される予定もありますので、再戦をいたしましょう」


 そう、観戦に王妃様が来られる予定だ。これは権力というものを振りかざして、普通なら行われない再戦を行った方が色々丸く収まる。


「イーリアがこのような状態になってしまったので、再戦どころではありません。風邪を引いてしまっていますので」

「いや、くしゃみが出ただけだ……ですよ」


 その間に私は掛けられた水を飛ばすように、乾燥の魔術を使って乾かしている。だから、なにも問題はない。


「では第二回戦の一番最後に、再戦をまわすことでよろしいでしょうか?」


 審判の先生はどうしても再戦をしてもらいたいらしい。後ろでガッツポーズしていた対戦相手が段々と萎れていっている姿は見えていないのだろう。いや、第二王子とあろう者が二回戦敗退という事態を避けたい雰囲気がありありと感じる。


「では、棄権ということでお願いします」


 フルプレートアーマーは頑として再戦は望まないと踵を返して、闘技場の出入り口の方に向かっていく。


 萎れていた対戦相手が再び両手を上げてガッツポーズしているのに対して、審判の先生が頭を抱えて萎れていっている。

 これは王妃様が、わざわざ息子である第二王子の観戦に来られるのに、どうしようという感じなのだろう。

 頭を抱えながら私の方をチラチラ見てきた。


 私に説得しろと? 最善は尽くすが、フルプレートアーマーの異常さを知っているため、私はその視線には何も返さなかった。

 それよりも、私に水をかけた女生徒の身の確保をしておいた方が良いと思うぞ。


 私は闘技場の中を抱えられて移動し、地下にある一室に連れて行かれた。


 扉の中に入ると誰もいないにも関わらず煌々と魔道灯の光が満たされている。扉が閉まった瞬間に、私は鉄板にプレスされた。

 いやフルプレートアーマーに絞め殺されている。


「イーリア! 怪我はないか? 部屋の温度をもっと上げよう。このままじゃイーリアが熱を出す!」


 ギリギリと硬い金属に挟まれ、プレスされる私。絶対に自分が鎧をまとっていることを忘れているよな。


 私はフルプレートアーマーの横腹をガツンと叩く。


「痛いわ! 私を殺す気か!」


 私の手も痛いわ!


「鎧を着ているのを忘れているだろう!」

「忘れてはいないけど、イーリアに何かあったと思うと心配で心配で」


 私は大きくため息を吐き出す。そして、私を離すように促した。


「離せ。ジオが私を鎧にぶつけるから、頭がいたいわ! 鎧は凶器だということは認識しておくといい」


 そう言うと渋々という感じで、私を毛足の長い絨毯の上に立たせてくれた。

 フルプレートアーマーから解放された私は、部屋の奥にある長椅子のところまで行き、ドカリと座り、足を組んでフルプレートアーマーを見上げる。


 ここは恐らく王族専用の控室なのだろう。

 誰も居ないと言ったが、壁際にジオの侍従が控えていた。


「二回戦は出ろよ」


 わざわざ再戦を先生が申し出てくれたのだ。


「母上には昨日のバトルロイヤル戦を勝ち抜いた時点で、二回戦までだと宣言していたから大丈夫だ。ザイル、脱ぐのを手伝ってくれ」


 私は出場するように言ったにも関わらず、二回戦は出ないと宣言して、侍従と共に奥の部屋に消えて行くフルプレートアーマー。

 あれ、絶対に馬鹿だろう。


 今回のトーナメント戦は学年での成績に加算されるのだから、上位に入った方がいいに決まっている。

 一回戦はグループに分かれてバトルロイヤル方式で戦い、そこで勝ち残った者がトーナメントに出ることになっている。確かに一回戦のバトルロイヤルを勝ち残った時点で、それなりの剣の腕は証明されていると言っていい。

 だからと言って、事前に二回戦敗退を宣言するのもどうかと思う。


 第二王子という立場は微妙だ。

 王太子殿下のスペアという意味合いの方が強いから、次期国王を支えるという立場を崩してはならない。

 私のサルヴァール公爵家の一人娘という立場が王家にとって都合が良かったのだろう。ジオをサルヴァール公爵家に婿入りさせて、王家に仕えるという立場を示すのにだ。

 だから私がジオの婚約者に収まったというのもある。


 だが、問題はここだ。


 はぁ、私の噂が良くないのだ。

 ジオぐらいできがいいと見せつければいいのに。過保護かというぐらいに私に構ってくる。


 ここは貴族社会の縮図を表していると言われるエルビスラーク学園。貴族の子女が通う学び舎だ。

 そんなところで、噂が良くない公爵令嬢と異常に過保護な第二王子の婚約関係は、皆から距離を取られてるという結果になってしまっている。


 貴族社会は辛辣だ。ちょっとのことで、噂が一気に広がり、身を滅ぼすことになってしまう。

 にも関わらず、噂が良くない公爵令嬢の婚約者に収まり続ける第二王子。

 五回ほど婚約解消に持っていったのになぁ。全部婚約解消の破談に持って行かれてしまったのだ。


 第二王子であるジオルドラファール・リュディアールにだ。


 これは最初の婚約解消に持って行こうとしてたのが失敗したからだと、私は思っている。




 あれは私が五歳の頃、めったに会わない父親から婚約者に会うために、王都に来るように言われたことだ。


「明日、領地を立つから用意をしておくように」


 黒髪の二十四歳ほどの若造に偉そうにいわれたのだ。それも金色の冷たい視線を向けられてだ。

 それは『はぁ?』ともなるだろう?


 あ、いや私は五歳児だったので、私の方がガキなのだが、子供を三人育てたOLの記憶を持つ私からすれば……お前、今まで子供を放置していて何を言っているんだ? という感じになるのは仕方がない。


 それも自分は用件を言い終えたら、そのまま王都に戻ろうとする始末。そんな若造もとい、父親の手を掴んだ私は勿論引き止める。


「お父様。王都に行かれるのでしたら、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


 五歳児にしては流暢に喋る子供に驚いたのか、手を掴んで引き止めた所為か、私が掴んだ手を振り払われ、子供でしかない私は勢いのまま吹き飛んでしまったのだ。


 しかし、そんなことで諦める私ではない。床に転がって勢いを殺し、立ち上がって再び父親に突撃する。


「お父様。ご一緒していいですよね」


 今度は父に首根っこを掴まれて、護衛の方に投げられる。護衛に捕まると逃げられないのはわかっていたので、空中で体勢を変えて着地し、父親に突撃する。

 いや、床を蹴って背後に張り付いた。


「てめぇ。ふざけているのか? 今まで放置していて、婚約者に会うために王都に来いだぁ?」

「これは何だ?」


 私の変貌に、流石の父もおかしいと思ったのだろう? 領地の屋敷を任せている執事に尋ねている。


「お父様。イーリアには婚約者は必要ありません。養子でも取って、跡継ぎにしてくださいませ」


 執事が答える前に、私は父に婚約者は必要ないことを言う。父の耳元で呪いを呟くようにだ。

 その執事はというとなんとも言えない表情をして固まっていた。


「王家からの打診だ。断る権利はない」

「ちっ!」

「だから、これは何だ?」


 私の舌打ちに、父は再び執事に確認している。


「奥様の……家系……の血かと……」



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