フィルムカメラにまつわるストーリーその7
サトシは事務機器会社で外回りのセールスエンジニアとして働く30才。
彼はカメラ店やリサイクル店で中古のフィルムカメラを収集していた。
写真撮影はスマホやデジタルが主流の中、古いフィルムカメラに格別な魅力を感じていた。
彼の部屋の押し入はフィルムカメラ博物館のように数百個を超えるカメラで溢れかえっている。
ただ、彼の日常は徐々に変わり始める、休日だけにしていたフィルムカメラ収集を、
勤務時間にもするようになり、彼はセールス先への訪問よりも、
次の掘り出し物を見つけることに心を奪われ、
「今日はどんなカメラが見つかるのか」という期待と焦りでいっぱいになった。
この情熱が次第に彼の仕事に影を落とし始め、勤務先の信頼を失い始めていた。
やがて勤務先から内勤への異動か退社の選択を迫られることになり、
サトシは退社を選んだ。
それは冷静な判断からではなく、狂気じみた情熱からだった。
しかし、収入がない中での無計画な収集で、あっという間に貯金が底をつく。
彼は集めたフィルムカメラをネットで売り始めることになるが、
フィルムの高騰や現像が可能な写真店は激減し、
気軽に撮影出来なくなったフィルムカメラの価値は下がる一方で、
押し入れ博物館は空虚な空間へと変わっていった。
ある夜、サトシは夢にうなされた。
夢の中で売り払ったカメラたちが彼に詰め寄り
「我々はこんなに安く売られるために集められたのか!」と怒りを爆発させた。
目覚めたサトシは自らの行動を深く後悔するが、その後も彼を苦しめる夢が続いた。
やがてサトシは手元に残った数少ないフィルムカメラにフィルムを装填して撮影を始めた。
彼がSNSにアップした写真は無計画な狂気が感じられた。意外にも多くの反響があり、
彼は徐々にカメラ収集家から写真家へと変貌を遂げていった。
夢に現れたカメラたちの抗議が、新たな創造の道につながっていったようだ。