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第玖鬼:死法術師ザナドゥール・桜色の子龍

 ──静寂に包まれる深夜のノース・アルス。

この街では夜になると、誰も出歩かない。

喋る事も、家に明かりをつける事さえしない。

何故なら、日が昇るまで『死神』が徘徊しているからだ。

黒衣のローブを身に纏い「コツッ……コツッ……」という足音だけが不気味に鳴り響く──


 二人が追い求める『死法術師 ザナドゥール』は「楽土・死神地獄」送りにされ、肉体を剥奪された術法師じゅっぽうしの霊魂。

絵に描いた様な死神の姿をしており、ローブの下からは骨がチラチラと見えていた。

夜明けまで、何かを捜す様に街中を歩き回る。


 無知な冒険者以外は決して近付く事の無い、不気味な死神。

そんな闇の領域に、二人は手を掛ける。


「おッ、おいッ!」


スゥ──


「あ、あれッ!? 触れないッ!?」


『──私は死者の魂だ。この世の者では、触れる事は叶わぬ』

ザナドゥールは、ゆっくりと無気力に語る。


「た、頼むッ! アンタの秘術、死法術を伝授してくれッ! この通りだッッ!!」

アクトが深々と頭を下げる。


『そんなもの──存在……しない』


「「えっッ!?」」


『民が勝手に名付けた名だ……私は……もう……逝く──』

「あっ……おいっ!」


 アルトが手を掛け、引き留め様とするが、虚しく空を掴むアルト。

そして、ザナドゥールは闇に溶ける様にして消えた──


「なっ、何だったんだ一体……」

「くッ……くそおおおおおおおッッ!!」


サクヤにもう一度会う為の手がかりを逃した悲痛な叫びが、街中に反響する。


 それ以来、死神の足音は聴こえなくなった──

朝日に照らされたスノゥソルトが、目も眩む程の輝きを放つ。


「うっ……まぶしっ! もう朝か──」

「くぁ~~~~ッ……ねみぃ~~……」

大きな口で欠伸をするアクトと、背伸びをして身体を解すアルト。


「今日は何処に向かうんだ~?」

眠い目を擦りながら、アクトが問いかける。


「今日は……中央広場の“雪水晶〟の方へ行ってみよう」

「雪水晶~? 何だそれ?」

「空色に輝く、巨大な水晶の塊さ。この王都の“核〟だな」

「“核〟って……お前の父ちゃんが言ってた、結界の?」

「ああ。それが全て失われると“天極てんごくの結界〟は消滅する。

 すると、隣り合わせの人世と魘獄えんごくがぶつかり、対消滅する……らしい」

「また“らしい〟……か?」

「しょうがないだろっ! 見た事無いんだからっ!

 何でも知ってる父様が言ってたんだ! 間違い……ないさ」


 アルトは自身無さげに語る。

千年以上も生きてきた父ゼクトの話は壮大過ぎて、現実感が感じられなかったからだ。


「ふ~~~ん。まぁいいや。それよりさッ! 飯食おうぜ、飯ッ!」

「あ、ああ……」

「今日は何喰おっかなぁ~。マカイシャークの照り焼き?

 いやいや待て待て……。今日は気分を変えて、マカイウツボカズラの刺身にするかッ!」

「お前……ほんと、食い意地張ってるよな……」

「いいだろッ、別にッ!」


──朝食を済ませた二人は、宿を後にする。



「んぐんぐんぐッ! んぐぐぐぐぐッ!」

「食べ物頬張りながら喋るな! てか、さっきあんなに食べてたじゃないか!」

「食べ歩きは別腹だって、よく言うだろ? もぐもぐ……」

「言わんっ!」


 アルトは怪しげな露天商に呼び止められる。

石畳に古びた布を広げ、様々なアクセサリーや、小さな武具を販売していた。


「お兄さん、お兄さんっ!」

「えっ? 俺ですか?」

「そう、そこの真っ白いお兄さん! お一つどうだい? 彼女さんに!」


 見た事もない、珍しい造形物に、アルトは興味を惹かれる。

脳裏にあったのは、ワールズ城に残してきたカンナの事だった。

別れの挨拶すら済ませずに出立してしまった事を、アルトは日々後悔していた。


「へぇー、手作りのアクセサリーですか?」

「そうだよ~。おじさんの努力の結晶だよ~」

「ん~……あっ、この水色の雫型ペンダント……カンナに買って帰ろう」

「お兄さんっ! 目利きだねぇ~」

「えっ?」

「それは宝玉『月のなみだ』のペンダントだよ。ここだけの話、オカリナになっているんだ」

「へぇ~。緻密な造形ですね。じゃあ、一つ下さい」

「はい、毎度あり~!」


少し離れた所から、食べ物を口いっぱいに頬張る少年の声が聴こえてくる。


「おーい、アルト~。まだか~? もぐもぐ……」

「お待たせっ!」

「何買ったんだ~? 食いモンか? もぐもぐ……」

「お前と一緒にするなっ!」


 二人は、あれ以来『死法術』に関する話は口にしなくなった。

何処に向ければ良いか解らない苛立ちを、食べる事で発散するアクト。

それとは対照的に、アルトは内なる怒りに苛まれていた。


 存在し得ない死法術に踊らされ、命を失ったミーヤの父。

アルトは、そこに陰謀めいたものを感じていた。

最初に噂を流したのは誰か、何の為に流布したのか──様々な思惑が入り混じる。

考え事をしている内に、中央広場へと辿り着いたアルト達。


「──ふぅ~。やっと着いた……」

「でっけぇ……。これが雪水晶か。サクヤの奴にも、見せてやりたかったな──」

「アクト……ちょっと触ってみろよ」

「ん? 何かあるのか?」

「良いから良いから!」

アルトがイタズラな笑顔を見せる。


「──つめてぇッッ!! 何だよこれ、熱いくらい冷たいじゃねーかッ!」

「はははっ! 俺も子供の頃に触ったら、驚いて腰抜かしたよ」


カラン、コロン、カラン、コロン──

慌てた様子の下駄の音が近付いて来る。


「はぁ……はぁ……。やっと……追いついた……」

「カンナ!? お前、どうしてここに!?」


 あの日、城に残してきた筈のカンナの姿がそこにはあった。

長い道のりを、護衛も付けずに独り走って来たカンナ。

息も絶え絶えに、アルトへ懇願した。


「えへへ、来ちゃった……。私も……私も一緒に行く!」

「な……っ!? だ、駄目だっ! 危険な旅になるかも知れないんだ!」

「でも──」

「それに、父様達は許してくれたのかよ?」

「うんっ! 『行って来なさい──』って!」

「そ、そうなのか?」

「良いじゃねぇか。嫁は道連れって言うだろ?」

「言わんっ!」


「これから宜しくね、二人とも!」

「──はぁ。その代わり、無茶はするなよ?」

「はぁーい」


「しかし、お前、そんな格好で寒くないのか?」

「だいじょぶだよ?」


 二人が先に出立し、慌てたカンナは薄い神子装束のまま、城を飛び出した。

白に近い空色の着物で、丈に向かって桜色のグラデーションが施してある。

身丈が「金魚の尾鰭おびれ」の様な形状で層になっており、斜めに切られている。

(右が膝上3cm、左が股上5cm)


頭には薄柿色のカチューシャを付け、白足袋に濃紺色の下駄を履いていた。

はかまの代わりに紺色のスパッツを着用し、左腿に栗茶色のバンドを巻き、

そこに『神在月かみありづきの扇子』を装着している。


神子装束は癒龍ゆりゅうの尾鰭で出来ており、燃え尽きない限りは破れても再生する。

癒龍は「吹き出しフナ尾」の金魚の様な、美しい白龍。

癒龍から尾鰭を受け賜り、代々編まれてきたのが神子装束である。


「それで、何処に向かってるの?」

「お前……知らないで付いてきたのか……」

「だって──」

「まぁいいや。そうだ、これ……お前にやるよ」

「何これ? 綺麗……」

「『月の泪』のペンダントだ。オカリナになってるらしい。さっき露店で──」

「ありがとっ! 一生大事にするね!」

「お、おう──」


 アルトに抱き着くカンナ。困惑するアルト。

そして、ニヤニヤとその光景を見つめるアクト。


「かぁ~! スノゥソルトも溶けちまう、アツアツっぷりだなぁ! よっ、ご両人っ!」

「オヤジっぽいぞ、アクト……」

「んな事より、早く行こうぜ、次の王都!」


「次は……“第肆王都 ムエルト=モルテ〟だな」

「ムエルト=モルテ? どんな都なんだ?」

「別名、死の都……死都しとと呼ばれている。闇に包まれた王都だ」

「へぇ~、何だか面白そうだなッ!」

「そんな面白い場所じゃ──」

「ねー、置いてくよー!」

「あっ、待てよ、カンナ!」

「オレを置いてくな~ッ!!」


 一足先にカンナは歩き出していた。

アルトは一人、物思いにふける。


「──第肆王都……か」

「どうしたの、アルト?」

「いや──そう言えば、あそこにはレイルの家があったなって──」

「マーダー……レイル──ッ」

その名を聞いた途端、アクトの憎悪が紫炎のライフソルトと成り、立ち昇る。


「寄ってみるか……アクト」

「……ああ」


「そのお家には、他に誰か居るの?」

「確か、娘さんが一人居るって言ってたな。奥さんは既に亡くなってるって──」

「そっか……悲しいね」

「とりあえず、娘さんにレイルの話を聞いてみるか」

「──そうだな」


 「第肆王都 ムエルト=モルテ」へ向け、三人は重い足取りで歩き出す。

そんな道中、思わぬ出逢いと、思わぬ再会が待ち受けていた。


 ──桜色の小さな子龍が、ふわふわと空から舞い降り、人の子へと姿を変える。

アルトの母アルマと同じ桜色の髪。セミロングヘアで、二つのおさげ髪。前髪はパッツン。

サイド(もみあげの上層)は胸くらいまでの長さがあった。


 白の着物に桜の花弁の刺繍が施してある巫女服を着ていた。

下は桜色の短い袴。白足袋に黒い下駄──

そしてアルトと同じ、澄んだ天色の眼をしている。

歳は、五歳児程の容姿に見えた。


「ん-しょっと……」


「ね、ねぇ! 今の見た!?」

アルトを激しく揺さぶるカンナ。


「見た! 見たから落ち着け、カンナっ!」

「アクトくんも見たよねっ!? ねっ!?」

「あががががッ」

今度はアクトを揺さぶる。アクトは軽い脳震盪を起こした。


「ね、ねぇっ! あなた何者っ!?」

「わぁっ! びっくりしたぁ……。

 ミコは、ミコ──『零埜ぜろのミコ』だよ」


「可愛い名前だねっ! 私はカンナっ!

 で、こっちがアルアクっ!」


「「略すなっッ!!」」


「ミコちゃんは一体──」


「待ってくださぁ~~~い」


 彼方からマーダー・レイルが走って来る。

和やかだった空気が、急激に張り詰める──


「レイル──こんなところで、何してるんだ?」

「……ッ!」

「はぁっ……皆さんっ……奇遇……ですねっ……はぁっ……。

 そ、それより、桜色の子龍を見かけませんでしたか?」


「……あっ!」

「あっ! ば、ばいばぁ~~~い!」


 レイルと目が合った「零埜 ミコ」が子龍に変化し、ふわふわと飛んでいく。

辛そうに息を切らしながら、レイルは子龍を追いかける。


「ま、待てぇ~……」

「あッ、おいッ!」

アクトが呼び止める暇もなく、レイルは走り去った。


「また何か企んでいる様だな、レイルの奴……。少し泳がせてみるか……」

「──ッ!! そんな呑気なッ!!」

「焦るな、アクト。急いては事を仕損じる」

「くそッ!!」


「ねぇ、アルト──」

「ああ……カンナも違和感を感じたか」

「うん。ミコちゃんの格好……どう見ても神子装束だった」

「母様が神子の力を失ったのと、何か関係があるかも知れない」

「それって──」


 マーダー・レイルを泳がせる事に決めたアルトとアクト。

そして、謎の少女「零埜 ミコ」の存在に疑念を抱くアルトとカンナ。


 ライフィールドでは「神子」は同時に二人までしか存在出来ない絶対法則が存在する。

この先に待つ、大きな運命の流れを知る者は、誰一人として居なかった──



「──ハァッ! そっちに行ったぞ、アクト!」

「わかってらァッ! 『朔ノ太刀』ッ!!」

アクトが『骸刀・朔夜』を振るい、2mのマカイオオネズミに連撃を浴びせる。


「グギャアアアアアア!!」

「しまったッ! カンナー! 逃げろーーッ!!」

「キャアアアアアア!!」


「『ラピッド・リーシュ』──」

アルトが瞬時に動いた。

『幻獣 グリフェン』の羽で創られし白刀「白羽しろはねリーシュ」を抜き、音速の連続斬りを放つ。


「グギ……ギギ……」

マカイオオネズミは倒れ、ライフソルトと成り、世界へと還元された。


「す、すげぇ……。まるで刀に重さが無い様な動きだったぞ……」

「そりゃそうさ。リーシュには重量が存在しない」

「ハァッ!? 何だよ、それ!?」

「素材となったグリフェンの羽に、重さと言う概念が無いんだ」

「へぇー。人世には、そんな珍しい生物が居るのか」


「まぁ、俺も図鑑でしか──」

「うえぇぇぇぇぇん!!」

「か、カンナっ!?」

「怖かったよぉ~!」

「わかった、わかったから、抱き着くなって!」

「うぅ……ぐすん……」


「やぁねぇ、お二人さん。おアツイこって。むふふ……」

「茶化すな、アクトっ! なぁ、カンナ。今からでも城に──」

「帰らないっ!」

「カンナ──」


「私、もっと強くなるから……だから──アルトの傍に居させてよ……お願い……」

「──わかったよ。俺も、もっと強くなる。カンナを護ってやれるくらいに」

「うん……ぐすっ……」


まるで小さな恋人の様なやり取りをよそに、アクトは前方を見つめていた。


「──何だ、この真っ黒な壁ッ!?」

「ど、どうした、アクト!? 急に──」

「見てみろよ、あれッ!」


 アクトが指さす方には、視界を埋め尽くす程の、巨大な闇の壁が広がっていた。

一見すると、只の壁にしか見えない。

それこそが──


「第肆王都 ムエルト=モルテ──」

「えっ……こ、この壁がッ!?」

「こ、恐い……」

第肆王都へ初めて訪れるカンナの身体が、小刻みに震え始める。


「大丈夫だ、カンナ。逸れない様に、三人で手を繋いで入るぞ」

「うんっ!」

「えッ……オレも?」

「アクトくん……手、繋ごっ!」

「お……おう」

アクトが照れながらカンナを真ん中にして、手を繋ぐ。

まるで、仲の良い三兄弟の様に──


「よしっ、入るぞ。せー……のっ!」

「キャッ!」

「うわッ!? 本当に何も見えねぇッ!」

「絶対に手を離すなよ! 逸れるぞ!」


「お前さん達──」

「「「わああああああああっっ!!」」」


「お、落ち着きなさい!」

「えっ……?」

「お前さん達“蛍石〟も持たずに、危ないじゃないか」

「「「ほたるいし……?」」」

「ほら、これじゃよ」

「わぁ……きれい……」


 三人に近付いてきたのは、長い白髭を生やした炭鉱夫の様な老人。

手に持っていたのは、まるで蛍の光が結晶化したような魔石「蛍石」だった。

その正体は『光の精霊 リュミエール』の涙が結晶化したものである。


「沢山あるから、一人一つずつ持って行きなさい」

「あ、ありがとうございます!」

「さんきゅー、じっちゃん!」

「こら、アクトっ! 失礼だぞ!」

「はっはっは。元気があって、よろしい。じゃあ、気を付けて──」

「お爺さんも、お気をつけて!」

三人は老人を見送り、レイル邸を探す。


「なぁ、何でここって、闇に覆われてるんだ?」

「ああ、それは──」

「『闇の精霊オプスキュリテ』が住み着いたから、でしょ?」

「あ、ああ……(俺の専売特許が──)」

「へぇ~。その精霊は何処に居るんだよ?」

「何言ってるんだよ、アクト。ずっと居るじゃないか、ここに」

「ここって……何処だよ?」

「いや……だから、ここだよ。この闇自体がオプスキュリテなんだ」

「こ、これ全部ッ!? 人世には色んなモンが棲んでんだなぁ……」

「空から見てみると“気怠そうな眼〟が二つ、見えるらしいぞ」

「ははッ! そいつは是非見てみたいモンだ!」


──談笑している間に、第肆王都のはずれにあるレイル邸に到着していた。

古びた研究所の様な屋敷に、三人は息を呑む。


「ここが──ッ!」

「レイル邸だ」

「何だろう、この感じ……闇よりも、もっと黒い何かが──」

「カンナ、どうした?」


 カンナは『神在月の神子』の力で、よどんだ何かを感じ取っていた。

どす黒い、禍々しい何かを──


「わかんない……。でも、何か……凄く、苦しくなる……」

「大丈夫か? 無理はするなよ。じゃあ……開けるぞ」


「ゴクッ──」


「お邪魔しまーす……」


 三人の視界に飛び込んできたもの、それは床一面、壁一面、

天上までも埋め尽くす、おびただしい量のメモで埋め尽くされた、異様な光景だった。


「な、何だよ……これ!?」

「何かの……術式? まるで、焦って殴り書きした様な──」

「…………ッ!」


 奥への部屋に足を踏み入れた三人は、更に異質で不可解な光景を目にする。

小さな子供用ベッドに人型の窪みがあり、真っ黒な粒子が溜まっていた──


「な、なんだこれ……!? 人型の……灰?」

「いや……、これはライフソルトだ」

「バカなッ! ライフソルトがこんな真っ黒なワケ──」

「“ライフソルト欠乏症〟だ──」

「ライフソルト欠乏症……? 何だそりゃ?」


「生命体には通常、ライフソルトを取り込む為の器官が備わっている。

 だが、ライフソルト欠乏症患者の器官は、遺伝子配列が滅茶苦茶になっている──

 と、王家の医学書には書いてあった」

「ふーん…?」


「ライフソルトはエネルギーを消費したり、生命が終わった時に光の粒子となり、

 世界へ還元される。具現化、具象化でもしない限りは見えないけどな。」

「な、なるほど……?」

アクトの頭はパンク寸前だった。


「だが──この病に侵されたライフソルトは別だ。

 肉体が黒いライフソルトと成り、目視可能となる上、世界に還れない……」

「……悲しい話だな」

「ああ……」


「大きさからして、子供……か?」

「娘さんの遺骸だろう……。確か名前は──“アルバ〟」

「アルバ……か。夜明けを意味する言葉だな」

「──ここにはこれ以上何も無い。先を急ごう」

「ああ……そうだな」


三人はベッドに向かい手を合わせ、黙祷をした後、レイル邸を後にした。



「──やれやれ。見られてしまいましたか……」

物陰から、何者かが囁く。



「なぁ──レイルのヤロウは、一体何をしようとしてるんだ?」

「分からない。だが、もしかしたら娘さんを──いや……不可能だ」

「何だよ?」

「蘇生を試みたんじゃないかと思ったんだが──」



「──遠からずも、近からず……ですね。アルト様」

レイルは、その一言を残し、第肆王都を後にする──



「……誰だッ!!」

「わっ!? 急に何だよ、アクト?」

「いや、誰か居たと思ったんだが」

「空耳だろ? そんな事より、第伍王都へ行ってみよう。何か手掛かりがあるかも知れない」

「そうだな……」

「アルバちゃん……会ってみたかったな──」

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