第陸鬼:来訪者・亀裂
『あれ~~~? まだ“こんな死骸〟に棲んでたんだ~★』
「──フフフ。皆さん、ご機嫌麗しゅう」
アルトが聴き馴染んだ声と、聴き覚えの無い声が、何処とも無く聴こえてくる。
許可無き侵入者の立ち入りを拒絶する為の結界が張られた第壱王都では、異例の事態だった。
中庭に居たメイド達の動揺が、空気に乗って伝わる。
「何処から入ったんだい?
この国は“天極の結界〟が張られている筈だけど」
『天極の結界~? そんなの“葦原の中つ国用〟に、
"ヘイアンジダイのボクが創った〟最下級結界じゃん★
変なアレンジが加えられてたから依り代を破壊するのに、ちょーっと手間取っちゃったけどネッ★』
大きなキツネフードがついた、薄藤色の狩衣を身に纏う謎の少年が言う。
フードにはギョロっとした不気味な赤眼が付いており、額部には紫色の六華(六枚の花弁)が刻まれ、袖からは水色の数珠が垂れ下がる。
「天極の結界を創った? 君……誰だい?」
羅刹の形相で殺気立つゼクトに、一同は立ち竦み、呼吸さえも忘れる。
唯一人、“狐狩衣の少年〟を除いては──
『ん~~。誰と言われても困るなぁ。
この世界では“黒廼 蘇汪〟と名乗っているよッ★』
「この世界では? また可笑しな事を言うね。
まるで他の世界を行き来してるみたいじゃないか。まさか魘──」
『あーっと、違う違う。そういう意味じゃないよ☆
ボクはね、キミたちが“知り得ない世界〟から来たんだ★』
──息を吞むゼクト。
「ふぅ……。どうやら、この暑さにやられたらしい」
『あっれ~? 通じなかった? まぁいいや。目的は果たしたし帰ろ、レイル』
「かしこまりま──」
「待てよ、狐野郎ッ!」
我慢の限界のアクトが食い気味に叫ぶ。
「お前だな……? お前があの捩れた槍を魘獄に堕とし“オレのサクヤ〟を貫いたんだなッ!?」
「おやおや……」
『ひゅ~~★☆』
「莫迦にするのも……大概にしやがれェッ!!」
アクトが斬りかかろうとした、その刹那──
『やめといた方が良いと思うよ~? 君の“魂魄〟もう限界みたいだよ?』
「こん……ぱく……?」
崩れ落ちるアクト。
『サクヤ』の顕現に因り、相当量のライフソルトが摩耗し『骸刀・朔夜』は元の貌に戻っていた。
『あー、この世界ではライフソルトって言うんだっけ?
それ以上動くと惨たらしい最期を迎える事になるよ~★じゃあねぇ~~★☆』
「まッ、待てッ……」
力尽き、倒れるアクト。
「アクトっ!!」
「アックンっ!!」
アルト、アルマが倒れたアクトに駆け寄る──
しかし、そんな中ゼクトは一人、天に或る“天極の結界の核〟を見つめていた。
「まさか──ね」
「いやぁ~、危なかったですね~」
『なにが~?』
「何がって、ゼクト王が咄嗟に放った、無限に近い斬撃の事ですよ!」
『ああ、あれね~。“このコ〟が全部食べちゃった★
全くもう~~……食いしん坊めっ!』
ゼクトが本気の奇襲を仕掛けるが『黒廼 蘇汪』の魂貌、『暴食錨』が斬撃を喰らい尽くしていた。
伸縮自在の紫黒の巨大な錨。意志を持つ稀有な魂貌。
目当てのものを、その大口で喰らい尽くすまで止まる事は無い──
「あ、相変わらず恐ろしい錨ですね……」
『君も“用済み〟になったら、食べられちゃうかもね~★』
「じょ、冗談は止めてください! シャレになりませんよ!」
「レイル……。お前は一体何を──」
友人だったレイルの変わり身に、アルトが深い溜息をつく。
──大きな成果と引き換えに、大きな亀裂が生じた一日となった。
破られた、この世界で最も強固とされる『天極の結界』
レイルの計画と、謎の狐狩衣の少年『黒廼 蘇汪』の目的。
新たな課題が、その場に居た全員に突き付けられた──
【新規登場キャラクター】
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≪黒廼 蘇汪≫ 声のイメージ:戸松遥さん、高山みなみさんvoice(少年期)
■概要■謎に包まれた存在。
利き手:両利き
§性別§不明
〇年齢〇肉体年齢/精神年齢を自在に変化させる事が可能。邂逅時は12歳。
△身長△138cm
▽肌色▽美白寄りの肌色
● 眼 ●白に近い灰色。全ての概念を視る事が出来る神眼。【邪神ヨグソトス】から奪い取る。
▲髪形▲白髪ベース、毛先が天色。セミロングヘアのお下げ髪で、胸の上で束ねている。
┫体型┣やや痩せ型、小柄。
◆服装◆薄藤色の狐狩衣、キツネフード付き(不気味な紅眼がついている)。腕に天色の数珠。
龍神眼のペンダント(紫系の宝玉、怪しい光を放つ。角膜に六華の模様が刻まれている)。
▼武具▼【暴食の錨:グラトニーアンカー】
顔が付いた紫色の巨大な錨。意志を持つ。
伸縮自在で、対象を喰らい尽くすまで止まらない。
★趣味★天体観測。魔術創造。裁縫。式神創り。
アウターネット。(インターネットの様なもので、ライフソルトに刻まれた“世界の記憶〟を閲覧出来る)
マカイフレンズでは『トラゴン』『ドラトラ』が好き。
補足:『トラゴン』は二頭身、二足歩行の淡藤色の虎で尻尾が龍になっており、
龍の鬣と龍の角が生えている。
『ドラトラ』は二頭身、二足歩行の緑青色の龍で、手足と耳が虎になっている。