第伍鬼:アクトの覚悟・覚醒、ゼクトの過去
宴から一夜明け、共に同じ大型ベッドで就寝したアルト、アクト、アルマ。
その間やはりゼクトは、すみっコで“マカイネコ〟の如く丸まってイジけていた。
一方アクトはと言うと──
桜色に透けたネグリジェ姿のアルマに抱き着かれ、ドギマギしていた──
「んぅ~~~~ッ……良い朝~。あらっ? アックン、起きてたの? おはよっ♪」
朝も早くから、アルマがイタズラな笑顔を見せる。
「あっ、はい……おはよござマッ……」
ガリッ──
「ぐぅ──ッ!!」
またも悶絶するアクト。
「(舌を噛むのが好きな子なのかしら?)」
「スピー……スピー……」
「んぅ……ルエノ……ハムカツ……むにゃ……」
眠りが深いアルトは、好きな電脳アイドルの夢を見ていた。
迫害に因り荒んだ心を癒してくれた、天使のアバターを身に纏うアイドル「蒼空ルエノ」
と、その従者の子豚であるハムカツの夢を──
────朝食後。
「さぁーてとっ! いっちょやりますかっ!」
ゼクトが刀で一閃、空を切る。
「え~と……アックン?」
「アックンは止めてください……」
「じゃあアクト! 刀を抜いてみろっ!」
「は、はいッ!」
『骸刀・朔夜』を、腰の後ろから徐に抜く。
アルトとの邂逅時は、身に着けていなかった刀──
その刀身は色鮮やかな紫色に透けており、人魂の様な鍔、
そして刀身には無数の“亡者の嘆き〟が浮かび上がっていた──
「アクト……、その刀……どうした?」
神妙な面持ちで、ゼクトが問いかける。
「これは──契りを結んだ恋人の遺骸で造りました……」
「──アクト、お前っ!」
近くで見ていたアルトが、興奮して立ち上がる。
「アルト。向こうへ行ってなさい」
氷の様な目で、アルトを睨みつけるゼクト。
「っ!!」
父の意を汲んだアルトは、何も言わずにその場を立ち去る。
「フゥ──まさか“アイツ〟以外にも、そんな真似をする奴がいたとはな……。
当時は肝を冷やしたよ……。アクト、お前の父の名は?」
「スルト・レヴェル……です」
「やっぱり……か。面影は感じていたさ。
そのボロボロの黒衣、緋色の角、紅色の右眼、灰色の髪……そして、その妖刀だ」
「あのっ、親父……、父とは──」
「話は終わりだアクト。ここからは少し本気で行くぞ……死ぬなよ?」
会話が終わった刹那、ゼクトの姿が消える。
キィィィイン──────
鼓膜に突き刺さる金属音が、中庭一帯に鳴り響き、庭仕事をしていたメイド達は耳を塞ぐ。
「ぐッ……!!」
天性の危機察知能力で咄嗟に防いだが、アクトは弾き飛ばされた。
「ほう──良い眼をしている……ならば!」
四方八方から飛んでくる高速の斬撃に加え、視認出来ない“空気の刃〟がアクトを惑わせる。
「まだまだ行くぞ、アクト!!」
あまりの速さに抵抗できず、血塗れになっていく。
霞んでいく意識の中、誰かがアクトを呼ぶ。どこか懐かしい声──
『アクト……アクト……四魂を──ッ』
「アクトーーーーっ!!」
「行っちゃダメよ、アル君っ!」
アルマが、アルトを必死に静止する。
「立てーーー!! アクトーーーーー!!」
『立って────アクトッ!!』
その刹那、焼けた竹が爆ぜるが如く、アクトが立ち上がった。
火花と閃光が舞い散り、アクトの身体が紫炎に包まれ『骸刀・朔夜』が貌を変える。
刀身からは亡者が浄化され、鍔は四つの霊魂『四魂』と成り、
まるで蕾が開花するかの様な変貌を遂げる。
そして、アクトの背後には亡き『サクヤ』の姿が紫炎と成り、顕現していた。
『アクトッ! まだやれるでしょッ!』
「──久し振りだってのに、相変わらず無茶を言う女だ……」
『アタシも妖刀・鬼月で戦うよッ!』
「腕は衰えてないだろうな……?」
『幽霊だから、衰えませ~~ん!』
「減らず口を──」
「ほう──」
温かな空気と、冷たい空気が張り詰める――
「──行くぞッ!!」
『──行くよッ!!』
ゼクトに匹敵する速度で、縦横無尽に駆け回るアクト・サクヤ。
「速っ──」
ゼクトが気圧される。
『骸刀・朔夜』と『妖刀・鬼月』の斬撃が、激しく乱れ咲く。
紫炎と紅炎が入り混じる斬撃の美しさはまるで、朝焼けに咲く大輪の蓮の華だった。
「──くっ!」
ゼクトが中庭の芝生に、片膝をつく。
「まだ──」
『やりますか?』
互いの切っ先をゼクトへ向けるアクト・サクヤ。
「ま、参った参った! 降参~!」
一瞬の静寂の後、二人は歓喜する。
「「『やったぁーー!!』」」
傍観していたアルト、アルマがアクトの下へと駆け寄る。
「やったな、アクト!」
「アックンすご~い! ご褒美のチューー♥」
『ちょっと待ったー! 誰よ、おばさんッ!』
「お・ね・え・さ・ん……でしょ?♥」
その刹那、深紅の鬼神が見えたと、その場に居た誰もが証言した。
「お、俺の心配は~~!?」
立ち上がった瞬間に再び膝から崩れ落ち、大地と手押し相撲をする唯一王。
「──お前さん達、まだまだ強くなるぞ」
「ほんとですかッ!?」
「本当だとも。潜在能力は、スルト──親父さん以上だ」
『やったね、アクトッ! 成長期だもんねッ!』
「そういう意味じゃ──あれ、サクヤ?」
紫炎として顕現していたサクヤの姿は、もう其処には無かった。
「──まぁ、なんだ。もっと強くなれば、いつかまた会えるさ……きっと」
「そう……ですね。オレ、もっと強くなりますッ!」
「その意気だ!」
アクトの髪を、左腕でぐしゃぐしゃに撫でるゼクト。
十三年前に鬼へと変貌した左腕を通し、スルトとの旅の記憶がゼクトの脳裏に浮かぶ。
それと同時に、アクトには父スルトに撫でられた幼き日の記憶が蘇った──
「親父……?」
「おっ、なんだ? 俺の事、パパって呼んでくれるのか?」
「よ、呼びませんッ!」
「がははははっ!!」
十四年前のあの日『黒鱗のアヴァロン』の封印を解いた際に鬼の腕へと変貌を遂げたゼクトの左腕。
それと同時に、魘獄に居た鬼人スルトの左腕は、馴染み深い人間の腕へと変貌していた。
左の角も、綺麗に消え去り──
「ゼクト────」
魘獄の赤き空を見上げ独り憂う、アクトの父スルトの姿があった。
大きな哀しみに満ちた面持ちで、スルトは歩き出す。魘獄の最果てへと──
アクトはゼクトの鬼の腕を見つめながら問いかけた。
「ゼクトさん……その左腕って──」
「ん? ああ、これか」
「その緋色の紋様……親父の右腕にそっくりです」
「こいつは“黒鱗のアヴァロン〟の封印を解いた際に受けた呪いだ」
「親父の左腕は人間のものだった……。もしかして、入れ替わって──」
ゼクトは深く溜息をつき、昔の出来事を語る決意をする。
「あれは十四年前の事だ────」
──時は十四年前、ワールズ城の最下層。
魘獄に最も近い場所と云われる封印の間。そこにゼクトは居た。
「ゼクト王! おやめくださいっ!」
銀髪の神官、ルイネル・アルクが顔を真っ青にして叫ぶ。
「なぁに、ちょいとばかり魘獄へ堕ちるだけさ」
ライフィールドの唯一王、ゼクト・ワールズが微笑む。
魘獄──それは、人の世界である人世と隣り合わせの鬼の世界。
罪を犯した者が堕ち、鬼へと変貌する。
ゼクトは黒き霊獣「黒鱗のアヴァロン」の封印の鎖を砕こうとしていた。
アヴァロンは魘獄の黒き獅子と、人世の黒き龍との間に生まれた“災禍の霊獣〟とされ、生後間もなく最下層に封印された。
封印の鎖は且つて、疫病と飢餓、そして全ての源である『ライフソルト』の枯渇に因り、我を失った人間達が妄信的に繋いだものである。
人々の怨念を織り込んで創り上げた、怨嗟の鎖──
触れた者は魘獄に堕ちるとされ、誰も近付くことはなかった。
長い時間、苦しみ抜いた人々は“原因〟を創らずには居られなかったのである。
「人間よ……。なにゆえにその身を犠牲とし、我が戒めの鎖を断ち切ろうと言うのか」
「──昔、神殺しを謀ったばかりに魘獄に堕とされた知り合いがいたんだ」
鎖を固く握りしめたゼクトが思いつめた表情で俯く。
「──その者は、どうなったのです?」
張り詰めた空気の中、神官ルイネルが恐る恐る問いかける。
「魘獄に堕ちた者は鬼人と化す。“流れ〟に逆らい、地上へ這い出る事は叶わないと聞く」
「流れ……とは?」
話を断ち切る様に、アヴァロンが口を開いた。
「──もうよせ。其方、既に腕が人のものではないぞ」
「ゼゼ、ゼクト王……つ、角が! 腕がっ!!」
ゼクトの左腕が赤混じりの灰色へと変色し、緋色の紋様が流れる様に腕全体に刻まれていく。
そして、左の額からは20cm程の赤黒い角が生え、腕と同様に紋様が刻まれた。
黒炎を辺りに撒き散らし、アヴァロンを繋ぐ封印の鎖が砕け散る。
ゼクトの、魂の半分を犠牲にして──
「何が望みだ、人間……いや、ゼクト王よ」
「お前さん、この世で唯一、人世と魘獄を自由に行き来できるんだろ?」
「……それを知って何を望む?」
「ちょいとばかし、魘獄の知り合いに言伝を頼みたい」
真剣な眼差しで、黒い金剛石の様に輝くアヴァロンの眼を見つめる。
「魘獄に堕ちた知人か?」
「ああ。名をスルトと言う。腐れ縁でね。
奴に“流れ〟の根源に“鍵〟を挿せ、と伝えてほしい」
「──望みとあらば、叶えよう」
「ありがとう、アヴァロン」
「王よ……貴様、もしや──」
「なんだ?」
「いや──」
──石畳の冷たい空気と、渇いた静寂が流れる。
神官ルイネルは重々しい空気に、ゴクリと息を呑み、静寂を打ち破った。
「ゼクト王、貴方は一体何を……」
「さぁて。帰るぞ、ルイネル! 今頃、城ではアルマが鬼になっている頃だ」
「鬼なっているのはア・ナ・タ ですよ! ゼクト王!!」
「はっはっは。面白い事を言う」
「笑い事じゃなぁーーいっ!!」
部屋いっぱいに口煩いメガネの絶叫が反響する──
──それから一年の月日が流れ、ゼクトと妻アルマの間にアルトが誕生したのである。
「──十四年前……。オレが生まれる一年前か……」
「ま、そんなこんなで俺の左腕は見知った腕になったんだな。はっはっは」
「その呪いは解けないんですか?」
「こいつは永劫回帰の呪い、呪禍だ。決して解ける事は無い。この世の魔術では──」
その時である。突如として上空の空間にヒビが入った。
中からは悍ましい気配が漂っていた────
【新規登場キャラクター】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
≪サクヤ・レヴェル≫ 声のイメージ:佐倉綾音さんvoice
■概要■≪アクト≫の幼馴染で、今は亡き恋人。
紫黒の5cm程の小さな角が2本生えている。
利き手:右利き
§性別§女性
〇年齢〇13歳
△身長△153㎝
● 眼 ●鮮やかな鬼灯色の眼
▽肌色▽肌色寄りの褐色
▲髪形▲
色鮮やかな紫色のセミロング、二つのおさげを両肩から正面に置いている。
┫体型┣
中肉。Dカップ。細いくびれ。若干太目の太腿。中くらいのヒップ。
◆服装◆
裾に紫のアクセントがある、黒紫のミニ丈の着物+深紅のレギンス。
履物は白足袋+赤い花尾の黒下駄(表裏に鬼灯模様があり、蹴りの際に目視出来る)。
ぼんやりと光る鬼灯のイヤリングをしている。アクトのプレゼント。
▼武具▼
【鬼月〗
切り口を発火させる、鬼灯色の妖刀。先祖代々の遺物。
右腿に茶色のバンドを巻いており、普段はそこに収納している。
★趣味★
マカイフレンズの「うっぱ・るっぱ」がお気に入り。
補足:「うっぱ・るっぱ」は二足歩行で空色のウーパールーパー。
腹巻を巻いており、ドスをさしている。
口癖は「てやんでぃべらぼうめぃ」。
仲間の前では『オウ・サンショウ王』と争ってはいるが、
裏では酒飲みフレンズ。メタボ。モデルは『マカイウーパー』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
≪スルト・レヴェル≫
声のイメージ:羽多野渉さんvoice 少年時代:永塚拓馬さんvoice
■概要■
魘獄に堕ちたゼクトの友。トンガリ耳。無気力系。
傷口を腐食させる黒紫炎を纏った剣技を得意とする。
激昂すると全身が紅く発光し、髪が束状にフワフワと浮かび、毛先が紫炎に変化する。
強めに息を吐く度に、口の両端から紫炎が噴き出す。
十三歳の時にゼクトと共に“流転の儀〟を発動。
その際“不死者の呪禍〟を受け、不死と成る。
魘獄へ堕ちた当初は二本の黒い角が生えていたが、
ゼクトがアヴァロンの鎖を千切った際に左半身が人間に成り、左の角が消失する。
魘獄では「人混じり」と蔑まれ、迫害を受ける様になった。
その際、反逆者の緋色の烙印を全身に刻まれる。
妻カグヤと出逢い、アクトが生まれ、それから間もなくしてカグヤが処刑された
殺戮の限りを尽くし“不老の呪禍〟を受ける。
利き手:両利き
§性別§男性
〇年齢〇年齢不明。容姿的には30代半ば。
△身長△181cm
▽肌色▽紅黒い灰色
▲髪形▲紅色の長髪、前髪で片目を隠している。
● 眼 ●紅眼
◆服装◆
黒衣の着物で右半身を露出しており、血色の帯が無造作に絡んでいる。
また、妻カグヤの背骨と肋骨(黒に近い灰色)が着物を優しく包み込んでいる。
▼武具▼
【骸刀・耀夜】
激昂し、黒紫炎を纏うと漆黒の刀身が紫色に変色し輝く。
形状も変化し、鍔の霊魂が一つから四つに増える。
若干透けており、刀身には無数の亡者の顔が浮かび上がる。
スルトがカグヤの亡骸に、強い怨念を込めて創った刀。
【乖離鍵・ジゼロ】
【アニマソルト〗を100体祓った際に得た魂貌。
異様に巨大な太刀。実体が無く紫色に透けており、刀身の先端部に六華が刻まれている。
【骸刀・耀夜】が昇華した姿。
◇異能◇
【鬼神解放】
黒炎のライフソルトを取り込み、黒き鬼神へと変貌する。
ゼクトへと渡り、失われた左の角が生え、真の鬼の力を開放する。
【羅刹駆動・千獄修羅】
千の地獄へ放った斬撃を召喚する。
貯蔵に費やした年月が永い程、絶大な威力を発揮する。
★趣味★
若い頃は刀集めに没頭していた。自他共に認める刀マニア。